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囁きが聞こえる



 新たに施工したらしい壁がそっくり吹き飛んで、かび臭い場所で3人は立ち上がった。一番最後に気がついたらしく、シンは負けん気を刺激された。オレンジ頭の彼はともかく、アレックスにも遅れを取ったのだ。
 現状を確認するために周囲を見回せば、通路が前方に伸びている。
「アンタがアレックス?」
「ええ、はい。あっ、と、彼はシン」
 せっかくやる気になっているのに、二人はぎこちない自己紹介をしていた。ついでのようにシンのことを紹介するアレックス。
「ふ~ん。俺はハイネ。よろしく」
 さすがに握手を交わすことはなかったが、どこか蚊帳の外に置かれた気分で、シンは二人を置いて通路に足を踏み出した。アレックスが慌てて『どこに行くんだ』と言っているがこの際お構いなしだ。
「どうせなら少し探検していきましょうよ。階段落ちちゃったんだから、上に戻れないし」
「確かに、そうだな」
 シンはハイネという賛同者を得て、意気揚揚と進むが、その道はすぐに行き止まりになってしまった。ロックされたドアにぶち当たってしまったのだ。
 パネルにうっすらと残された文字は『サブコントール』。押そうが引こうがびくともしない。
「認証が必要だな」
「認証・・・ええっと、パスワードとか?」
 シンの問いかけにハイネは首を傾げ腕を組む。何かを考えている様子だったが、答えはない。アレックスに至っては完全に仕方ないからついて来たと謂わんばかりの非協力的態度。
「死んでいる?・・・いや、電気が来ているじゃねえか」
「何か心当たりはないか、アレックス」
 一歩離れた所に立っているアレックスに唐突に問い掛けるハイネ。余所見をしていた彼がビックリして振り返る。
「さあ、俺には・・・」
 そりゃ、俺はこういうの強そうに見えないかも知れないけど、何も知らん振りのアレックスに聞くことないだろ。シンは少しすねて口を尖らせる。答えのないアレックスに意味もなく胸を撫で下ろし、ここぞとばかりに、適当にパネルに手を置いたり、テンキーを押してみるが反応した様子はない。お手上げ状態に3人はすごすごと引き下がるはめになった。短い通路でアレックスの説教が『ほら見ろ!』とシンの脳天に落ちる。


 爆発現場では既に復旧作業が始められていて、コーディネータ達は一箇所に集められて機械化兵に囲まれて見張られていた。残骸の陰からこっそりその中の最後尾に加わる。
「何が起こったんだ?」
「詰め替え時の爆発事故だってよ」
 こそこそと噂ばかりが飛び交っている。
「それにしては警備厳しすぎやしないか?」
 盗み聞きしているシンも確かにそう思ったこと・・・。爆破事故にしては、一箇所に集めて身動きが取れないようにしているのが異様だった。搬出は出来なくても、メタンハイドレートを詰めることは出来るのだ。出口で流れが止まってしまって、最下層の採掘はどうなっているのだろうか。
 シンの疑問はアレックスも同じだったらしい。
「厳重ですね」 
「ここ最近、なんだか慌しいのさ。なんでも護送船が1隻減ったせいで、上もぴりぴりしてる」
「それって・・・」
 俺達のせいじゃん。
 言いかけたところで口を噤む。バレたら何が起こるか分からない。このまま搬出作業に従事するならまだしも、もっと最悪な場合もあり得るではないか。
「当分このままかもな」
 それはご免被りたいとシンは思ったが、一人でどうにかできる問題ではない。周りを一通り観察してしまえば、すぐにやることがなくなった。とっくに就寝時間になっているのに、一向に動きはなく、仲間内での雑談も大分と声を潜めた小さなものになっている。眠っている者も多い。
「さっきの部屋なんだったんでしょうね」
「名前からして何かのコントロール室なんだろうな」
 ごそりと動いたハイネがシンの独り言に付き合ってくれる気になったようだ。案の定、アレックスはすっかり眠り込んでいる。本当にいい根性をしていると思う。
「ここはもともとコロニーだったわけし、そういう場所があってもおかしくない」
「コロニー・・・」
 生まれてこの方、シンは地上を離れたことがない。コロニーと言われてもそれが地上にあることがどういうことなのか、実感は殆ど湧かなかった。


 進化した人類。コーディネーターは宇宙空間でこそ、その能力を発揮すると言われていた。ゆえに宇宙種とも言われ、宇宙に進出した人類の輝かしい未来を当時は体現していた。そう、地球人類と宇宙種の間に対立が生まれるまでは。
 宇宙で生を営むコーディネーター達のコロニーへの一発が戦乱の火蓋を切る。独立を許さない宗主国とコロニーに住むコーディネーター達。地球上の国家も宗主国側とコーディネーター側の陣営に分かれて戦火を広げた。
 戦争は長きに渡り、戦況を打破せんとコーディネーター達の技術の粋を集めて作成された巨大兵器「ジェネシス」の威力にコーディネーター側が勝利するかに見えた。しかし、終盤になって戦局は荒れ、独自平和を目指して陣営が割れもした。最後は、ジェネシス破壊が引き金になった、コロニー「プラント」の崩壊による宗主国の勝利で幕を閉じる。
「ああ、敵味方が入り混じってな、プラント防衛戦はすごかった」
「軍人、だったのですか」
 それならハイネの身のこなしも納得できると言うものだ。それにしては若いと思ったが、シンよりも素早く動く体術は民間人のものではない。
「まあな。大勢死んだ。プラント防衛戦には殆どの部隊が駆り出されて、あの時はまだジェネシスがあったから、俺達は勝利を確信していたね。プラント崩壊後は両陣営から離反した終戦を呼びかける勢力のおかげで戦争は終わったが」
 シンの知らない宇宙での話。シンの家族が無残に焼き払われ、もてあました感情に翻弄されている時に、世界で起こっていた事。空の向こうで起こっていた出来事を想像する事はできなかった。
 だから、その事実を少し残念だと思ったのだ。
 最後の最後でコーディネーター側が勝っていたら、世界はもう少しマシだったかも知れないと。
「結果はこの通りだけどな。最もその後の惨状を見れば勝ちも負けもなかった」
 ハイネが一息ついて、眠るアレックスを見る。
「俺も休むとするよ。シンお前も休んどけ」
 気が付けば、起きているのは極少数。
 シンは一人、目を閉じた頭で、今自分がいるコロニーの顛末を反芻していた。


 そう時間が経っていない頃、シンは一人眠い頭で、目を覚ます。目を閉じる前と何も変わらない搬出セクションの終端。崩れ落ちた穴倉の壁と段差のなくなった階段はまだ復旧していない。警備の機械化兵に連れられて、集められたコーディネータは採掘セクションの食堂に行くことになった。
 どうやら、復旧作業にかりだす前に餌を与える気になったらしい。
 動機はともかく、じっとしているよりかはずっといい。知らず表情や動作に出てしまい、アレックスに笑われる。
「良かったじゃないか」
「どうせまた同じですよ。すっげえまずいの」
 予想通りの食事にやけくそで流し込むシン。食堂から出て穴倉の底に戻る途中、シン達は最深部で採掘をするコーディネーター達とすれ違った。その中に見覚えのある色を見つけて、シンはじっと目を凝らす。
「レイ・・・?!」
 相手がゆっくりとシンを見る。アクアブルーの瞳は間違いなく彼の、レイのものだった。再会を喜ぶわけにもいかず、警備の目を盗んで集団から離れる二人。
 そのレイの口から語られる計画にシンは絶句した。


 俺達はここを脱出する。
 シン。お前にも協力して欲しい。


「おい、シン。そろそろまずい」
 心配したアレックスがシンを探しに来た。
「彼は?」
 レイが伺うように尋ねる。こう見えてもレイはレジスタンスのメンバーだし、脱出計画を練っている最中なら見知らぬ他人に警戒するのは当然だ。
「アレックスって言って、監視官に捕まりそうになった時、助けてもらったんだ。その後は・・・いろいろあってこうなっちゃったけど」
 シンはばつが悪そうに、アレックスのことを紹介した。
 シンとレイを見つけたアレックスが急に後を振り返る。シンの耳にも機械化兵の機動音が聞こえ、レイに別れを告げるとレイが答える。
「返事を期待している」


 シンがレイの誘いについて考える間もないまま、コーディネーターの力を使って上への階段は復旧する。その後、レイに合うことができず、シン達は久しぶりに搬出セクションの不味い飯と固い二段ベッドに対面した。

21と22で本当は一話分の予定だったけど、内容的に無理だった模様。なんか当初と設定変わっているって?気にしない気にしない。設定なんて未定さ。