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出会い




 お腹がすいているから、なんでもかんでもおいしそうに見えた。故郷を出て数週間、ようやくたどり着いた旧アプリリウス王都はそれはそれは活気のある街だった。

「とても帝国に負けた国とは思えないよなー」

 ついぽろっと口に出してしまったら、バザールのおばちゃんにジロリとにらまれてしまった。砂で汚れた少年が愛想笑いをしながら、品物の果物に手を伸ばす。

「こ、これいくら?」
「30エンだよ!」

 背負ったリュックから財布を取り出してエン通貨を探すが見つからない。少年は慌てて、服のポケットや別の袋を探すが。・・・・・・バザーで流通しているのが、旧アプリル通貨だということを知らなかったから持ち合わせなどあるわけがなかった。

 その上、一口齧ってしまっていた。

「なんだい、払えないのかい!?」
「あっ、いや、そうじゃなくて・・・」

 良く見ると随分と体格よさそうな女性だ。
 少年の3倍の容量がありそうなボリュームの女性がずいと身を乗り出してくると、結構な迫力になる。たかが30エンくらいで何をもたつくんだ、俺! と奮起させても、脳裏に浮かんだのは古くからのことわざ。

 三十六計逃げるに如かず。

 自然とその場をもうダッシュで駆け出していた。
 背中に当たるのはバザールのおばちゃんの叫び声とそれに呼応した男達の手だったけれど、足には自信があったからなんとかバザールを抜け出すことができた。

 おかげで、完全に初めての街で迷子になってしまっていた。

 仕方ないから少年は食べかけの果物を手に、街の様子を見て回る。小さな子供が路地を駆けて行き、ポスッとぶつかる。
「こらっ!?」
 怒った時にはもうずっと後ろを駆けていた。
 本当に、帝国に屈した国とは思えない。

 照りつける太陽の日差しが街を流れる水路に反射してまぶしく手をかざす。すると、帝国の紋章が入った赤い垂れ幕が視界の片隅にちらついた。
 門や大きな建物には必ずと言っていいほどぶら下がっている。

「盗むなら帝国軍人からにしろよなー」
「バザールのおばちゃんからくすねるなんて不貞ぇ野郎だ」

 行く手を塞ぐ少年二人組み。
 街の子供だろうか。

「別に・・・最初から盗むつもりじゃなかったんだよ。ちょうど今、エン持ってなかっただけ」
「あーあー、こそ泥はいつも同じこと言うんだよねえ」
「お前、他所者だろ?」

 格好を見れば一目瞭然。
 反対に相手は、この街にマッチした涼しげな格好をしていた。

「この街の奴らと言葉が微妙に違うもんな。どこの田舎から出てきたんだよ」
「どこか行きたいところはあるか? おのぼりさん」

 間違いじゃない。
 この街は初めてで、実を言えば迷っている。
 けれど、少年にとってそれを素直に認めるのはしゃくだった。

 どこに行きたいかだって?
 そんなの決まっている。
 あの噴水の向こうに見える馬鹿でかい建物に行きたいんだよ。けれど、見えているばかりで一向にたどり着けないのだ。まっすぐ進むには建物や路地が邪魔をする。

「まずは宿屋ってとこか?」
「あっ、でもこいつ金持ってないじゃん」

 完全に馬鹿にした態度に頭にくる。
 手持ちのエンがないだけで、帝国領内で流通しているゴールドならあるのだ。

「金ならあるっ!」

「へぇ~、どこに?」
「ほらっ・・・って、あ・・・」

 あるはずの財布がない。
 バザールで出した時はちゃんとあったのに。
 あれからどうしたと記憶を辿れば、ちゃんとリュックにしまった記憶がない。ポケットを探した時に突っ込んだままだったのか。

 盗まれたのだ。おそらく、路地でぶつかった子供。
 背中を冷や汗が流れ、目の前のふんぞり返っているこの街の子供に一矢報いるどころか代えって窮地に追い込まれてしまったのだと悟る。
 さて、どうやって挽回するか。
 ふと目に入るは一際大きな建物。

「あそこに、さっ!」

 指差す先はかつてこの地を収めていたアプリル王国の王宮。

 覇王の末裔のクライン家が歴代住んでいた宮殿にはそれは目もくらむお宝が眠っているのだろう。持ち主がクライン家から帝国に替わっただけで、今も莫大な財宝があるに違いない。たとてその大部分は帝都に持ち去られた後だとしても、一市民が一生遊んで暮らせるお宝の一つや二つは残っているはずだ。

 スリと勘違いして少年にちょっかいをかけてきた奴らだ。何か思うところがあるだろうと睨んだがそれは正解だったようだ。

「お前・・・本気か?」

 相手の少年の目が急に鋭くなる。

「ああ」

「なんだやっぱり金持ってねーじゃん」
「これから稼がせてもらうんだよ」

 稼がせてもらうというのとは少し違うのだが、強ち間違ってはいないだろう。
 何も何の当てもなく、アプリリウスくんだりまで来たわけではない。王宮勤めになると聞いた兄に会いに来たのだ。その時に少し金子を工面してもらおうと思う。

 ところが戯言だと笑って済ますどころか、目の前の少年達はさらに厳しい顔つきになる。

「このままおとなしく返すわけには行かないな」
「ついてきな。っと、その前に、お前の名前は?」

「俺は、シン」

「じゃあ、シン。俺はスティング、こいつはアウル」
「はぐれるなよ、田舎モン」
「シンだ!」

 シンが連れて行かれたのは、路地裏の小さな商店だった。
 売っている物はちょっとした小物や服、薬で街の何でも屋といった風で、その店のさらに置くに子供から大人まで数人が集まっていた。

「こいつが、王宮に忍びこもうっていうバカか」
「バカってどういう意味だよ」

 シンはついくせですぐに言い返してしまったが、代えって連中の笑いを誘うことになった。連中の一人が口を開く。

「どうやって王宮に忍び込む気だったのかねぇ」
「唯でさえ、新しい執政官が就任して警備が厳しいってのにさ」

「それとも誰か伝でもあるのかい?」

 何人もの目に囲まれて言葉に詰まる。
 困った展開だなと思っても、抜けだすタイミングがない。できれば係わり合いになりたくない連中だけれども、まてよ・・・とシンは考え直す。

 逆にこっちが利用してやればいいんだ。
 まんまとお宝をせしめて兄をびっくりさせてやろう。

「そっちこそ、俺にお宝を独り占めされるのが怖いんだろ」
「バーカ」

 口を尖らせるアウルとは反対に、ニヤニヤと笑う男達。

「ああ、それは困るな。俺達のお宝を狙っているんでね」

 思ったとおりだ。シンは内心ほくそ笑む。

「そこでものは相談だ」

 ほら来た。

「俺達と手を組まないか?」






 日が暮れるのを待ってシンを含めた盗賊団は行動を開始する。

 王宮周辺の警備は盗賊団の男が言ったとおり、確かに物々しい警備だった。至る所に鎧を着た警備兵が立っており、一般の通行人の往来を妨げていた。聞けばアプリリウスに入る各門も制限しているらしく、間一髪だと胸を撫で下ろした。

 正面から忍び込むのは危険すぎると、地下水道から王宮へと忍び込む。当時の技師を調べ上げて、地下水道から王宮へと繋がる道を探し当てていたのだから、意外と頭の回る連中なのかも知れない。

 王宮内に忍び込んでからは二手に分かれた。
 ところが。

「大丈夫か?」

 シンは金髪の少女とペアを組んで宝物庫を目指すことになった。・・・なったのだが、盗賊にあるまじきのんびりさ加減に驚いた。
 ステラと名乗った少女は、帝国兵がうろうろしている通路を平気で進んで行くのだ。シンがせっかく見つからないように遠回りしているのに、実に暢気にじゅうたんの上を歩いていく。

「だあーー、そっちじゃない!?」

「あっ、ばかっ」

 3度、シンがステラに注意した時についに帝国兵に見つかってしまった。ガチャガチャと鎧を鳴らして数名の帝国兵が駆けてくる。

「ステラはそっから戻れっ! 早く」
「・・・シンは?」

 通路を挟んで小声で話し合うが時間がない。

「もう少しをここをかき回してから追いかける。ステラは早く逃げろ!!」
「うん。シンもすぐ来る?」
「すぐ行くから心配するなっ」

「いたぞーーっ」

 兵士の野太い声が迫っていて、二人はさっと反対方向に走りだした。気が付けば追ってくる兵士の数が倍になっている。

「冗談じゃないぜ」

 お宝を見せびらかすつもりが、窃盗の容疑でとっつかまった所を見られたら何を言われるか分かったものじゃない。シンは行き止まりの壁に埋め込まれていた通風孔を外して無理やりなかに忍び込んだ。

 息を殺して帝国兵が通り過ぎるのを待つが、なかなか追っ手は減りそうもない。
 暗闇に目が慣れてきたから、別の脱出ルートを探し始めた。暗がりで唯のスペースだと思ったそこは、向かいに階段があるようだった。
 四つんばいになってすごすごと階段まで進む。
 通路にまだ帝国軍がいるのを確認して、階段を降りることにした。

「どこだ、ここ」

 たどり着いた部屋は何もなく、巨大な扉があるだけだった。
 かび臭い部屋のじゅうたんは一歩進むごとに、細かい埃が舞い上がって、思わず咽そうになる。

「いいや、開けちゃえ」





 その日は新しい執政官就任のパレードがあったせいか、街はお祭り気分だった。警備は厳しかったが、着任の挨拶に立った執政官が平和を望む演説をしたせいで、噂ほど苛烈な人物ではないのかもしれないという安堵があった。
 新任の執政官は帝都で辣腕を振るっている切れ者だと言う前評判だったのだ。
 きな臭い噂の絶えることのないアプリリウスにそんな男がやって来る。街が色めき立たないわけがなかった。

 思い出す就任のパレード。
 この街にやってきた理由。それは新しい執政官を見るためでもあった。
 遠くの階段からじっと姿を見つめ、太陽の光を反射する銀の髪を見て、周りの評判に耳を澄ます。
 演説の後に拍手が沸き起こった時、一番安堵していたのはシンだったのかも知れない。
 表面上、平和そうに見えるこの街でも反帝国の動きはあって、彼らにとって新しい執政官は絶好の的だからだ。
 パレードも就任演説も無事終わり、差し当たりこの街がどうこうなることはなさそうだ。

 4人兄弟の末っ子に生まれ、年の離れた兄達。
 さして仲が良かったとは言えないが、それでも肉親を亡くす悲しみを何度も味わうのはごめんだった。3人の兄の中で唯一兄弟らしい関係にあった兄はもういない。今は二人の兄のうち、また一人が離れていくと聞いて、居ても立っても居られなかった。

 もう、2度と会えないような気がして。
 帝都から遠く離れたアプリリウスまで来てしまった。

 良かった。兄上、これなら大丈夫そうだ。





 音もなく開いた扉の向こうにあるものを見て、シンは目を見開いた。人一人が遊んで暮らせる量なんてとんでもない。価値が分からないものも多くあるが、一見して高価なものと知れる坪やら甲冑やら宝石箱やらが所狭しと並んでいてる。

 中でも一際目を引くのは中央に置かれた大理石の女神像だった。

 シンの背丈よりも高い女神は残念な事に顔がなく、卵のようにつるんとした頭をしていた。惹かれるように歩み寄り、そのすべすべの肌に触れてみる。
 すると途端にがしゃと卵が割れて中に隠してあったものをさらけ出した。

 なんだこれ?

 宝石とも違うこぶし大の石。しかし、ぼんやり光を放っているようにも見えて、月明かりに照らしてみる。朱や橙の光が浮かんでは消える。珍しいものにシンはその石をかざした。

「そいつを渡してもらおうか」

 ハッとして、声のした方を見ると長い耳をした亜人と白いシャツを着た男が立っていた。
 シンは驚きのあまり呼吸が止まった。







途中までは展開をなぞるので、バレバレですよねぇ。翌日、ちょっぴりラストを修正してます。うわ、1W後にまた修正してますよ、この人。