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ファンタジード 2
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匿名ユーザー
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逃走、地下水路
呼び起こされる記憶。
「アス兄・・・」
遅くに生まれた子だったから大人達に囲まれて、難しい話ばかりを聞いて退屈だった。そんな時に構ってくれたのが、4つ上の3番目の兄。こっそり街に連れて行ってくれて珍しいものを一杯見せてくれた。
その兄が死んだと聞かされたのが7年前。
幼い頃の記憶は風化して思い出そうとしても上手くいかないけれど、忘れられないのはきれいな宝石のような緑の瞳。
幼い頃の記憶は風化して思い出そうとしても上手くいかないけれど、忘れられないのはきれいな宝石のような緑の瞳。
なぜだろう。
久しぶりに会った兄を見て、懐かしい記憶が蘇ってしまったのか。
それとも、目の前の男が記憶に残る緑の瞳をしていたからだろうか。
死んだはずの兄だと思ってしまった。
久しぶりに会った兄を見て、懐かしい記憶が蘇ってしまったのか。
それとも、目の前の男が記憶に残る緑の瞳をしていたからだろうか。
死んだはずの兄だと思ってしまった。
「・・・は?」
男の声に我に返る。人違い・・・?
彼が一歩踏み出して、手の平を差し出した。
ゆったりとした白いシャツと刺繍がされた皮のベストに黒のパンツ。
ゆったりとした白いシャツと刺繍がされた皮のベストに黒のパンツ。
「あんた、誰だ・・・?」
目の前の男はゆっくり唇の端を上げて笑った。
「この物語の主人公さ」
そんなことを堂々とのたまう相手に、なぜ、せっかく手に入れたお宝を渡さなければならない。シンは渡すものかと手にした石を懐にしまいこんで一歩下がるが、カツーンと硬い音を立てた。
そこには触れたばかりの女神像。
追い詰める男が反対の手に銃を持つ。
逃げ場はない。
カチャリと撃鉄が起こされる。
追い詰める男が反対の手に銃を持つ。
逃げ場はない。
カチャリと撃鉄が起こされる。
シンが動かない頭を必死に回しているとき、ドアの向こうで鎧の音が響いた。
目の前の男が舌打ちしてシンを見た。
目の前の男が舌打ちしてシンを見た。
「ほら、行くぞ」
そんな仕草が記憶とダブる。
手招いて背中を見せるが、シンはその場を動かなかった。なんとかして、ごちゃごちゃになった頭の中で整理をつける。
そう易々と付いていくものか。知らない人についていっちゃあイケマセンと言われているのを知らないのかとばかりに、上目遣いに睨みつける。
「何やってんだ。早くしろ。捕まりたいのか?」
それはごめんだ。けれど。
シンの逡巡はすぐそこまで迫った足音が強制終了されてしまった。格好悪くお縄になったところを、兄に見つかるのはまずい。ここは上手く逃げおおせなければならないのだ。
シンの逡巡はすぐそこまで迫った足音が強制終了されてしまった。格好悪くお縄になったところを、兄に見つかるのはまずい。ここは上手く逃げおおせなければならないのだ。
なんだか、俺さっきから同じことばかり考えているような気がする。
シンは気のせいだと頭を振って、後を付いていった。
シンは気のせいだと頭を振って、後を付いていった。
「って、こっから飛び降りるのかよ!?」
「大丈夫だ。よし、飛べっ!」
「ちょ、おいっ、まじかよっ!」
「ちょ、おいっ、まじかよっ!」
手首をつかまれたまま、宝物庫の月明かりの窓から飛び降りた。
剣の打ち鳴らされる音が夜空に響き、上空には飛空挺の飛空石の青い光。
窓の外は戦場だった。
窓の外は戦場だった。
王宮の塔の向こうから、小型飛空艇の青い光が急激に接近してきた。落下する二人に為す術はないのだが、シンが掴まれた手首に力が入ったのを感じた時、ぐわんと身体に衝撃が来た。
落ちるのではなく、空中を滑っている。
自分の手を掴んでいるのは宝物庫で鉢合わせた男で、彼は危うくぶつかる所の小型飛空挺に乗っかっていた。
落ちるのではなく、空中を滑っている。
自分の手を掴んでいるのは宝物庫で鉢合わせた男で、彼は危うくぶつかる所の小型飛空挺に乗っかっていた。
足元は地上から遠く、下には戦う帝国軍と鎧を着た男達。
何が起こっているのか視線をめぐらせた時、ガクンと傾いた。
何が起こっているのか視線をめぐらせた時、ガクンと傾いた。
「どうした、ミーア!?」
「分かんない。制御が効かないの」
「分かんない。制御が効かないの」
なんだ、仲間なのかと思ったのもつかの間、眼前に迫るのは王宮の古い塔。
今度こそ衝撃と轟音に包まれて、身体中に痛みを感じた。
気がつけは、独特の匂いが鼻をつく。
それは、かび臭い、地下の、古い水の匂い。
今度こそ衝撃と轟音に包まれて、身体中に痛みを感じた。
気がつけは、独特の匂いが鼻をつく。
それは、かび臭い、地下の、古い水の匂い。
月明かりも届かないそこは、王都の地下に張り巡らされた地下水道だった。
「これはもう使えないな」
「歩いて出るしかなさそうね」
「歩くだけで住めばいいけどな」
「歩いて出るしかなさそうね」
「歩くだけで住めばいいけどな」
声が微妙に反響して、地下だと言うことを再認識させられた。一人は宝物庫であった男。そしてもう一人は、長い耳をした抜群のプロポーションをしたキャンベラだった。長い手足、ふさふさの長い耳。風吹く大地で山々に囲まれて、大地と共に詩を歌って生きると言われる神秘の種族が目の前にいる。
初めて見たわけじゃないけれど、シンが持っている知識と目の前のキャンベラは幾分違っていた。風誘う詩乙女と言うには過激な服装で、むしろ戦乙女のようないでたちであった。
初めて見たわけじゃないけれど、シンが持っている知識と目の前のキャンベラは幾分違っていた。風誘う詩乙女と言うには過激な服装で、むしろ戦乙女のようないでたちであった。
「なんだ、キャンベラが珍しいのか」
シンがじいっと見ていると男の方に気がつかれたようだ。子ども扱いの言い方にムッと来る。
「人間とつるんでいるキャンベラが珍しかっただけだ」
こんな奴。兄さんなわけあるもんか。
他人の空似ってやつだ。
他人の空似ってやつだ。
「ふぅん。まあ、いいさ。俺はアレックス、こいつはミーア。空賊だ」
大人二人に囲まれてはシンに分が悪い。上から2対の瞳が見下ろしている。
「女神像の石は・・・」
「これは渡さない。俺が見つけたんだ、俺のものだ」
「これは渡さない。俺が見つけたんだ、俺のものだ」
肩を竦めて、アレックスと名乗った男はため息を付いた。反対にミーアというキャンベラはくすりと笑う。
「それはまた話をするとして、今はここを出るのが先決だ」
「そうね。城内で反乱が起こっているようだもの。いつここも探索されてもおかしくないわ」
「そうね。城内で反乱が起こっているようだもの。いつここも探索されてもおかしくないわ」
シンの耳が聞き捨てならない言葉を拾う。
「反乱!?」
「おおかた、アプリル復興レジスタンスの奴らだろうな」
「急ぎましょ」
「急ぎましょ」
二人がさっさと地下水道を進んでいくから、シンは否応なしに後を付いていくことになった。着いたばかりの街の地下を、西へ東へ進む。
水路に巣食う野良動物を相手に、シンが腰に下げた剣で払い、アレックスが銃で仕留める。ミーアがどこに隠し持っていたのか弓で蝙蝠達を落としていった。
壊れた金網をこじ開け、水路を飛び、レンガの天井から漏れる水を避けて、ゆうに数十分は進んだ頃だろうか。
水路に巣食う野良動物を相手に、シンが腰に下げた剣で払い、アレックスが銃で仕留める。ミーアがどこに隠し持っていたのか弓で蝙蝠達を落としていった。
壊れた金網をこじ開け、水路を飛び、レンガの天井から漏れる水を避けて、ゆうに数十分は進んだ頃だろうか。
「ねえ、アレックス」
「・・・なんだ」
「この道であってるの?」
「・・・なんだ」
「この道であってるの?」
前も後ろも延々と水が流れる地下水道が続いている。
「・・・信ずれば通ず、だ」
地図もなく、3人ともはじめての場所。
シンは今まで地下水道を徘徊してきた道のりを振り返った。出合った数々の強敵達、幾度視線を潜り抜けただろうか、と一人回想に耽り、自分の勇姿を思い返して、目の前にある水路を見た。
シンは今まで地下水道を徘徊してきた道のりを振り返った。出合った数々の強敵達、幾度視線を潜り抜けただろうか、と一人回想に耽り、自分の勇姿を思い返して、目の前にある水路を見た。
「なんだよ行き当たりばったりかよ。そんなんで出られると思ってんのか!」
「俺は空賊なんだ。地下は守備範囲外だ!」
「俺は空賊なんだ。地下は守備範囲外だ!」
青年と少年が喚きののしり合いながら、右だ左だと迷走すること小一時間。
いくつもの水路が合流する地点に出た。
いくつもの水路が合流する地点に出た。
一段、上から流れ落ちる水路の奥で剣の打ち鳴らされる音がした。
鎧の音、足跡、男達の声が響き、突如、女の声。
鎧の音、足跡、男達の声が響き、突如、女の声。
「次はどなたですのっ!」
水路の端に姿を見せたのは、スタッフを手に戦う女性だった。3人が見守る中、あれよあれと3人を倒していく。細身のレイピアに似たスタッフで上手く鎧の急所を付きひらりと身をかわす。
けれど、次から次へと彼女を狙う帝国兵が現れる。また一人増えて、逃げ場がなくなる。シンは見かねて思わず叫んでいた。
けれど、次から次へと彼女を狙う帝国兵が現れる。また一人増えて、逃げ場がなくなる。シンは見かねて思わず叫んでいた。
「飛び降りろ!」
声に初めて、下に人が居ることに気が付いたのか、一瞬動きが止まり、それがさらに窮地に追い込んだ。戸惑っている暇はなかった。
「早く!」
シンが駆け出し、アレックスとミーアも続く。
迫る帝国兵の手をすり抜けて、彼女が身を躍らせた。ドサリとシンの腕に落ち、支えきれずに後ろに倒れこむところを身体ごと、アレックスに支えられた。
迫る帝国兵の手をすり抜けて、彼女が身を躍らせた。ドサリとシンの腕に落ち、支えきれずに後ろに倒れこむところを身体ごと、アレックスに支えられた。
帝国兵も釣られて飛び降りてきて、わらわらと取り囲む。
「反乱分子の一味か?」
「女は生かして捕らえろとの命令だっ」
「残りはかまわんっ!」
「女は生かして捕らえろとの命令だっ」
「残りはかまわんっ!」
それはないだろと、舌打ちするまもなく帝国兵達は剣を振りかざして向かってきた。シンは夢中で剣を振り回したが、逃げてきた女性はともかく、アレックスやミーアはどこか余裕ありげに帝国兵を倒していく。最後の一人をアレックスが狙撃して崩れ落ちる。
額に浮かぶ汗をぬぐう。
動物とは違って、相手は人間だ。殺しはしていないとは言え、そう思っているのは自分だけかも知れないし、明確な敵意を持って危害を加えたのは初めてだった。
シンは手が震えているのを感じて慌てて、剣を鞘に収める。
動物とは違って、相手は人間だ。殺しはしていないとは言え、そう思っているのは自分だけかも知れないし、明確な敵意を持って危害を加えたのは初めてだった。
シンは手が震えているのを感じて慌てて、剣を鞘に収める。
「大丈夫か?」
「わたくしはこのような所で死ぬわけには」
「俺はシン。アンタは?」
「俺はシン。アンタは?」
「あなたにアンタ呼ばわりされる覚えはありませんわ」
絶句するシンを尻目にアレックスが再び聞く。
「で、名前は?」
「ラクーナ」
「ラクーナ」
頬を膨らませてシンがアレックスを見るが、彼は既に水路の奥を見ていた。
「のんびりしている暇はない。逃げるぞ」
「こっちよ」
「こっちよ」
今度はミーアが先頭に立って、地下水路を進む。
相変わらず野良の小動物は一杯いたが、一人増えたおかげで先程よりもスムーズに進むことができる。巨大なカエルに遭遇した時も、自然とチームを組んでいた。切り込み隊長のシンとラクーナがまず一撃を与え、後ろからアレックスとミーアが確実に仕留めていく。
相変わらず野良の小動物は一杯いたが、一人増えたおかげで先程よりもスムーズに進むことができる。巨大なカエルに遭遇した時も、自然とチームを組んでいた。切り込み隊長のシンとラクーナがまず一撃を与え、後ろからアレックスとミーアが確実に仕留めていく。
それから半時は水路を進み、ミーアが足を止める。
「空気が変わったわ」
「出口が近いってことか!?」
「出口が近いってことか!?」
シンが喜びも露にしたが、ミーアの返事は冷たいものだった。
「さあ、どうかしらね」
一行はその後も水路を進み、水路の分岐点に出た。そこはちょっとした空間になっていて、天井の一角から外の火が漏れていた。
喜んだのもつかの間、鎧の音がして一同は振り返る。
ずらりと並んだ帝国兵の間から、一人の帝国兵が歩み出る。
ずらりと並んだ帝国兵の間から、一人の帝国兵が歩み出る。
「ここまでだな」
水路でやりあった帝国兵の数の10倍は軽くいるだろう。
「ラクーナを捕らえろ。その女は反乱分子のリーダーの女だ。残りの奴らは・・・・・・」
「この方達は関係ありませんわ!」
「この方達は関係ありませんわ!」
ラクーナが弁明を試みるが、つれないものだった。
「なら監獄送りだな」
監獄と聞いてシンは焦る。
ここ、かつてのアプリル王国で監獄と言えば、アプリル侵攻の時に最後の砦となったバナディーヤ要塞しかない。ただし、そのバナディーヤ要塞跡から生きて帰った者の話は聞かないのだ。
ここ、かつてのアプリル王国で監獄と言えば、アプリル侵攻の時に最後の砦となったバナディーヤ要塞しかない。ただし、そのバナディーヤ要塞跡から生きて帰った者の話は聞かないのだ。
「ちょっと待ってくれ、俺はっ!」
シンの叫びも空しくラクーナは捕らえられ、シンを初めとするアレックスとミーアも問答無用で捕らえられた。