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要塞の攻防





 アプリリウスは交通の要衝にあり、砂漠に囲まれているとは言え大きな都市だ。地下水を汲み上げて都市に水路を巡らし、広場には噴水がある。元王宮を改造した帝国執政官府からも、外へ通じるゲートへと繋がる大きな広場の噴水が見えた。

「それで、行方は分かったのか。ディアッカ」

 机をはさんで男が二人。
 一人は軽装備の鎧の上に白いケープ。
 もう一人は全身を鎧で包みマントを羽織っていた。

「それが、フェイスの話を総合するとだな、おそらく要塞につれていかれた」
「何も言わなかったのか、あいつは」
「言った所で本当のことだとは、思われないんじゃね?」

 噴水の周りで遊ぶ子供達から目を逸らして、銀の髪をした男が窓の前にある大きなデスクに手を付く。その中から一つの書類を拾い上げる。

「ラクーナとか言うレジスタンスの女リーダーは何か吐いたのか」
「それについてはさっぱり。けどまあ、どう見たって死んだはずの王女だけどな」
「厄介な事だ」

 指で書類を弾いて腕を組む。
 ため息をついてまた窓の外を見つめるのは、言わずもがな、この執政官府で最も位の高い執政官。

「帝都はなんて言ってきたんだ?」
「つれて来いと言ってきた」
「へえ、真贋はっきりしないレジスタンスの女リーダーにしちゃ大した扱いじゃないか」

「どうする、イザーク?」

 就任早々、レジスタンスの襲撃に遭うは、死んだはずのアプリル王女が生きているかも知れないは、その上、帝都では弟が行方不明だと大騒ぎ。どうせ飛ばすなら、もう少し楽な左遷先を用意してくれればいいものを。
 イザークはそれは無理な話か、と肩の力を抜いた。この度の執政官就任は嵌められたようなものだからだ。

 アプリリウスを見事、治めて見せよ。

 とは言ったものの、体よい厄介払いであり、帝都から遠ざけ、あわよくばレジスタンスにどうにかされてしまえと言う目論見が透けて見えた。

 随分と嫌われたものだ。元老院にも、兄にも。

 ふふ、と笑ってまた窓の外を一瞥する。
 巨大な建物の向こうに壮麗な王宮が聳え、建物と建物の間を小型飛空挺や乗り合い飛空挺が行きかう帝都とは大違いののどかな風景。

「確か要塞には今、フェイス・カガリが向かっていたな」
「・・・・・・そっちかよ」




 2年前、バナディーヤ要塞での攻防戦の折に、ここアプリル王国とプラント帝国との間で停戦条約を結ぶと言う計画が進んでいた。勝ち目がないと悟ったクライン12世が帝国との和平交渉を進め、帝国が出した条件を飲む形で停戦条約が結ばれるはずだった。

 ところが、条約直前にしてクライン12世は帝国に下るを良しとしない王国の徹底交戦派に暗殺され、最終的に王国は帝国に飲み込まれた。

 その後、この悲劇の要塞は堅牢な作りを利用して極悪な囚人の牢獄として再利用されることになる。篭城を見越した造りは外からの侵入を許さない代わりに、中からの脱出も容易ではないからだ。攻防戦で損傷した地上部分を崩し、地下から地上へと出る通路を塞いでしまえば地下牢獄の出来上がりと言うわけだ。

 明り取りの窓から光が入るが頑丈な鉄策で覆われ、絶えず帝国兵が見張っている。
 乾いた砂と地下独特のかび臭い匂いに、シンは目を覚ました。

「ようやく気が付いたか」
「ここは・・・」

 シンの視界には石作りの壁にもたれて横たわるアレックスだけ。

「バナディーヤ要塞だ」
「ここが・・・」

 立ち上がって部屋を出る。何かの貯蔵庫だったろう部屋が幾つも並び、それぞれに囚人がいるが、部屋の鉄策は空いていた。だから囚人達は自由に地下の牢獄をうろついていた。一周して戻って来ると、アレックスが出て行ったときと同じ格好で壁にもたれていた。

「ミーアは?」
「出口を探してくるらしい」
「じゃ、俺も」

「うろうろするな。無駄な体力を消耗するだけだぞ」

 腰をお下ろしたまま、偉そうに説教される。

「!・・・なんだよ。俺の勝手だろ」

 シンは牢獄に収監されてしまったと言うのに、妙に余裕のある態度が気に入らなくてズンズンと部屋を出て行く。

 俺だけでも出口を探し出して、こんな所抜け出してやる。
 あんな奴、銃がなけりゃ何もできないじゃないか。
 意気込みだけは一人前のシンだった。



 改めてこのバナディーヤ牢獄の探索を開始してみると、色々なことが分かってくる。ここに収監されているのは極悪人ばかりでなく、単純に騙されて連れて来られた者や、未だに王国復興願う政治犯もいた。
 とにかくぶち込んでおけ! と言った感じである。
 基本的に囚人の動向にはノータッチで、その上、水も食料も配給されないと知って、この牢獄から出た者の話を聞かないのか、その理由を知った。
 井戸は枯れていたので、雨水を溜める貯水槽が唯一の水源だが、雨などこの砂漠の真ん中でいつ降るというのだろう。
 雨季の一時期の水が残っていたが、とても飲めそうな色をしていなかった。

 ちらっと、アレックスの言葉が頭をよぎるが、シンは又すぐに出口の探索を始めた。体力を温存するよりは、体力のあるうちになんとしてしまおう派だったのだ。精力的に聞き込み調査をした結果、ある糸口を掴む。

 一見無秩序に見える牢獄だが、確かに囚人達を暴力で押さえつけ、帝国兵に媚を売る囚人がいるのだ。

「この先は奴らの縄張りだ」

 静止を振り切って足を踏み入れる。薄暗い地下で囚人達がたむろしている所は同じだった。シンが2・3歩進んだ所で上からものすごい音がして、頭上から囚人が振って来た。

「な、おい、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄るが、他の誰一人として手を差し出そうとするものがいなかった。彼らが一斉にシンの後ろに視線をくべる。

「おい、小僧・・・そいつは俺様に楯突いた」

 巨大を揺らすのは人間とはまた違った種族。

「だからって、殺すことないだろ!!」
「親分、このガキも楯突く気らしいぜ」

 仲間が2人現れる。親分には子分が付物。
 3人に囲まれて、シンは腰に手をやったのだが。

 剣がない!
 そう、荷物は全部取り上げられてしまっていたのだ。
 シンはとんでもないピンチと共に、彼らの闘技場へと引っ張り出されることになった。

「ああ、臭い。人間の匂いがぷんぷんする。俺様はこの匂いが大嫌いなんだよ」

 しかも相手は木の棒に石を括りつけた斧を取り出してきて、ギリリと歯を食いしばって構えた、その時。じゃりと砂を踏みしめる音がした。

「ああ、確かに臭いな」

 声はシンの後ろからした。地下の牢獄で暇しているはずのアレックス。

「何だと!?」
「お前の方が臭いって言っているんだ」

 挑発してどうする。シンはアレックスに文句を言ってやろうと思ったけれど、何か考えがあるのかと静観したが予想は大きく外れた。

 さらに手を差し出して、「さっさと来い」とばかりにくいっくいっと指で相手を招く。

「人間の分際でっ!」
「お前は豚野郎の分際だろう」

 円形の闘技場になだれ込む親分子分3人とシン・アレックス組の乱闘が始まった。




 ぶよん。

 脂肪の感触に鳥肌が立つも何とか子分の一人を殴り倒す。闘技場の周りには野次馬が集まって来ていて、やんややんやの騒ぎに発展していた。普段は剣でやっつけるところを全くの無手で殴る蹴るの戦いに息切れする。同じく素手で戦っているはずのアレックスを気にする余裕もなかった。

 突如、視界に子分が入ってくる。
 間髪いれずに右ストレートが入り、倒れる前に回し蹴りで闘技場の壁まで吹っ飛んでいた。子分が一人、びくともせずにドサリと伏す。

 空賊って・・・野蛮だ。

 フッと鼻で笑って、今度は親分に向かって手招きをする。

「この野郎がぁ」

 振り回した斧を蹴り上げて、バランス崩したところで足を引っ掛ける。巨体を支えられなくて後ろに倒れる所に、ちょうど良く振ってきた石の斧を掴んで振り下ろす。

 シンは思わず目を瞑っていた。

 惨事を覚悟して目を開ければ、斧は豚親分の頭のすぐ横に突き刺さっていて、アレックスが立ち上がる所だった。

「なあ、アレックス。あいつ・・・」
「ちっ、シン、こっちだっ!」

 いきなり手を引っ張られて驚いていると、闘技場の入り口に鉄策が降ろされようとしていた。何とか滑り込んで間一髪閉じこまれるのを免れたと思ったら、今度はガチャガチャと鎧の音が複数。

 闘技場を取り囲んでいた野次馬達を退けて姿を現したのは、鎧の集団を引き連れた、さらにいかつい鎧を着けた帝国兵だった。帝国兵の前にざっと出てくる男が2人。1人は金髪、もう1人はオレンジ頭だった。
 その姿をみてアレックスが舌打ちする。

「あらー。あいつら性懲りもなくアレックスの尻を追い掛け回しているのね」
「・・・ミーア」

 闘技場の入り口でミーアが待っていた。
 身を潜めて、アレックスがオレンジ頭の男達の背後に居る、一人だけ違う鎧姿の帝国兵を見る。

「フェイスマスターがなぜこんな所に」

 フェイスマスターならシンも良く知っている。
 帝国には各部隊に必ずフェイスと呼ばれる現場監督がいて、現場を取り仕切る権限を持つ。そのフェイスを束ねるのがフェイスマスターであり、帝国の法の番人と呼ばれていた。強大な権限を有し、一人で立法、軍事力の行使を含めた裁定を下すことができる。

「手配中の空賊はいたのか?」
「いや、上手く隠れたみたいで。別を当たりますか」

 金髪頭が答える。

「そうするのだな。私もこのようなくだらない事で時間を無駄にしたくない」

 数人しかいない彼らは皆、特徴的な鎧を身に纏い、およそ法の番人とは程遠い格好をしていた。目の前のフェイスマスターは2本の渦巻く角を持つ兜を被り、マントを翻して去っていく。

「まるで死刑執行人だな」

 アレックスの評通り、フェイスマスターは全土で帝国の力の象徴として恐れられていた。フェイスマスター達が去ってこの場の緊張がほぐれると、ミーアがアレックスに伝える。

「風の流れる先を見つけたわ。でも」
「でも?」
「用心しないと駄目よ」

 少しだけ低く答えたミーアの答えにアレックスも意味深に返す。

「シードを感じる・・・か」

 3人はミーアに連れられて要塞の奥深くへと進んだ。





「封印魔法の扉。シードの発生源はこれか」
「ええ、私では手出しができなかったけれど、さっきのフェイス達が開けてくれたようね」

 全ての魔法の源・シード。
 途中で奪い返した荷物を確認しながら、シンは二人の会話を聞き流す。少ないがシードを使いこなし、魔法を使える人たちがいる。傷を治したり、炎や氷を作ったり、とにかく奇跡を起こすことができる。

 空気中に含まれるシードを集めて魔法を使うのだといわれているが、魔法の使い方を知らないシンには良く理解できない。

 帝国兵との接触を避けて進んだ先から声が聞こえてきて、3人はさっと身体を隠す。

「何て言っているんだ? 聞こえない」
「しっ、黙ってろ」

 突き出したシンの頭を押さえてアレックスが小声で話す。
 3人は出口と睨んでたどり着いた要塞の最深部で、フェイスマスターと遭遇した。重要な囚人を収監しておく特別な場所で、フェイスマスターが鳥かごの中の囚人と話をしているようだった。

「少し痩せたか? キラ」
「君もね」
「知っているか。アプリリウスではまた暴動騒ぎだ。なんと、死んだはずの王女が今度のリーダーらしい」

 ガチャリと鎖が揺れたようだった。

「何もできない自分が、口惜しいか?」
「君こそ、こんな所で油を売っていていいの?」
「フン、何を言おうと、お前には何一つ守ることはできないのだからな。祖国を裏切ったように!」

 ガチャリと鎧がこすれあう音がして一団が去っていく。

「帰るみたいよ」
「風の出口は、あの鳥かごの下か?」

 鳥かごの下?
 見た所大きな井戸の上にぶら下げてあるようにしか見えないから、シンは首を傾げる。

「うわ、戻ってきた」
「急ぐぞ」

 急ぐって何処にだよ!
 走り出したアレックスとミーアについていくが、鳥かごの中の囚人に声をかけられた。

「君達、ここから脱出するの?」
「だったら何だと言うんだ」

 シンが答えるより早く、アレックスが答えていた。今までになく機嫌が悪い感じだ。

「待って。僕も連れっていって」
「じゃあ、こうしようか」

 そう言ってアレックスが鳥かごの杭を蹴り倒した。
 鎖の音と共に鳥かごが落下し、シン達3人は慌てて鳥かごに飛び乗った。

「またこのパターンかよーーーっ!」

 シンの叫び声が小さく木霊して、鳥かごもろとも要塞の最深部から姿を消した。





 いてて。
 肩や足がジンジンと痺れていて、身体中の痺れで目が覚めたようなものだった。シンは身を起こすと崩れた岩肌とひしゃげた鳥かごを見つけた。

 うわ、中の奴大丈夫かよ。
 思わず心配してしまうほどの壊れようだったが、当の囚人は何事もなく逃げ出してシンよりも早く気がついていたようだった。

「風はあっちに流れていくわね」
「また、だいぶ遠そうだな」
「もうアレックスには道案内を頼まないわよ」
「分かっているさ」

 うんざりした声音のアレックスが立ち上がると、ミーアが地下道の先へと目を凝らした。

「坑道かしら。電気配線があるわ」

「要塞の地下は坑道に繋がっていてアプリル砂漠に出ることができる」

 3人が一斉に囚人を見た。

「詳しいんだな。確かお前、あのフェイスにキラと呼ばれていたな。どういう知り合いだか・・・」

 アレックスの独り言を制して、名乗りを上げたその名。

「僕はキラ・ヤマト」

 アプリル滅亡を作った男。

「キラ・ヤマトって!」
「ああ・・・お前が裏切り者のヤマト将軍とはね」

 2年前、和平を模索した国王を弑逆した将軍ではないか。
 徹底抗戦を唱えたタカ派のトップ。噂に悪名高い将軍にこんな所でお目にかかれるとは思ってもみず、シンはまじまじとそのキラという男を見てしまう。驚いたのは皆同じだったのか、ミーアは思いっきり口に出してしまっていた。

「生きていたのねえ」
「あれは僕じゃない」

「男の言い訳はみっともないな。本当に将軍なのか?」

「じゃあ、誰だって言うんだよ」
「それなら、2年前の真実を話せば信じてくれるかな」

 シンの好奇心は頭を擡げて、脳裏で2年前の歴史を思い浮かべていた。
 和平への道を絶たれたアプリル王国は、要塞攻防戦後に砂漠で玉砕し、無条件降伏となったはず。その際、将軍は討ち死にしたと伝えられていたが。

 嘘だったのだろうか。
 目の前の男は本当に、本物なのだろうか。

 キラ・ヤマトと名乗る男の口から語られた真実にシンは絶句し、ミーアは息を呑む。そして、アレックスは眉をひそめた。

「双子の姉が将軍に化けて国王を暗殺。その罪を擦り付けた・・・そんな話、誰が信じる」

 嘘も休み休み言えという内容だが、シンにはなぜかそれが全くの作り話とは思えなかった。

「信じてもらえなくてもいい」
「じゃあ、なんで話したんだよ」

 シンの突っ込みにキラはなぜか謝る。

「ごめん」

「いい年した男が『ごめん』とか言うな。気持ち悪い」

 やってられないとアレックスが歩き出し、ミーアが苦笑して後に続く。残されたシンがキラを即して立ち上がらせた。

「彼は・・・?」
「あいつはアレックスって言って空賊。口は悪いし、手も悪いし、手配中だし、絶対、あーゆう空賊にはなりたくないね」
「ふぅん」

 キラの伺うような視線を知らずに、シンは手招きした。並んで歩き出すと、相手のほうが少しだけ背が高かったが、身体はずっとがっしりしていた。

「で、君は誰なんだい?」
「俺は。シン」

 坑道にも巣食った野良動物や、仕掛けられた様々なトラップがあったが、将軍を騙るだけのことはあって、キラ・ヤマトがめっぽう強かった。意外と早く、大した支障もなく砂漠に出ることができた。

 久しぶりの地上に、シンは大きく息を吸った。

「ぶはっ、げほげほ」

 砂交じりの熱い空気は冷たい地下の空気に慣れたシンの肺には少し刺激的だったようだ。咳き込んで涙目になったシンを、アレックスとミーア、そしてキラまでもが笑いながら見る。

 それからアプリリウスへと戻る道中は、意外にも和気藹々と進んだ。
 アプリリウスの噴水の前で別れるのが少し寂しいくらい。

「とにかく上手い物。冷たい酒」
「やだアレックス、まるっきり酒場の親父じゃない」
「じゃあな、シン。あれについては、いつか貰いに行くから」

 ミーアと歩いていく先は酒場が集まった界隈で、このままさよならすればもう二度と会うこともないだろうと思ったのに。

「覚えていたのかよ」

 そうは問屋が卸さなかった。

「僕もこの辺で」
「アンタも気をつけてな。すっげえ重要参考人なんだから」

「そうだね。じゃ」

 南のダウンタウンへと歩いていく元将軍も街の人ごみに紛れてしまえば、とてもそうは見えなかった。
 シンは今一度大きく息を吸い込んで、噴水の水で口の中をすすいだ。
 袖口で顔を拭いてて、噴水の向こうに見える元王宮を見上げる。

 兄上、びっくりするだろうなあ。

 あっ、でも昼間っから会いに行っても仕事の邪魔になるか。
 シンが思案していると噴水の向こうに、シンを王宮へと誘ったスティングとアウルがいた。

「そういや、ステラ・・・無事だったかな」

 金髪の少女を思い出して、彼らのほうに回り込む。
 その様子を金髪頭とオレンジ頭のコンビが見ているとも知らずに、シンはスティングとアウルを呼び止めた。







ああ、段々長くなる・・・すんません、オレンジ団一人減りました。