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すれ違い





「帝国兵が多いな」
「そりゃ、反乱騒ぎがあったばかりだからな」

 街角に立つ警備の帝国兵を見つけてはシンは「あっ、帝国兵」「また帝国兵だ」と口に出していた。

「街の人は何とも思わないのか」
「イヤに決まっているだろ? でも、結構評判いいんだぜ、今度の執政官」
「主要街道の警備に帝国軍を配置したりさー」
「そ、そうなのか?」

 評判がいいと聞いて、シンの声が上ずる。

「なんつったっけ、そいつ」
「イザークだろ。すっげー銀髪の」

彼らについて行くと、バザールの一角で小物を払拭しているステラを見つけた。

「ステラえらいえらい。ちゃんと迷子にならなかったじゃん!」
「もう一人で買い物できるもん」

 アウルがステラの頭をなでなでして、ステラは嬉しそうにけれど、子ども扱いに反発して頬を膨らましていた。猥雑としたバザールでは子供は珍しくないが、そうそう多いわけでもない。店の大人たちから二人は、暖かい視線を向けられていた。

「特に変わった事もないし、辣腕だか皇帝の息子だろうか知らんが、急に何かが変わる事ないってことさ」
「そうだよな」

 バザールの活気はシンが始めてこの街に来た時と何も替わらない。景気の良い呼び込みがあり、店先には品物が溢れている。ぐるりと頭を巡らせて、はたと果物屋のおばちゃんと目があった。

「あっ・・・!?」

「あん時の坊!」

 うわ、やべと思ったが時既に遅し。アウルとステラに逃げ道を邪魔されてその場を動けず、ずいと恰幅のいい女性に詰め寄られていた。

「何、お前、おばちゃんの屋台でただ食いしたの?」
「俺アプリリウスについたばかりで金なかったから」

 アウルに散々冷やかされて「やっぱ金ねえーんじゃん!」とバカにされる間に、スティングがササッと代金を払っていた。

「いいのかよ?」
「王宮でステラを逃がしてくれた礼さ」

 そう言えば、そんな事もあった。
 いろんなことがあって、未だ頭の中の整理が付いていないシン。

「反乱みたいなのが起こったけど、お宝は手に入ったのか?」
「お宝? ・・・ああ、一応、俺達の目的は達成できたらしいぜ」
「らしいって、随分といい加減だな」

 スティングはおばちゃんに多く払って、アウルとステラの分の果物を買っていた。

「作戦はネオが立てるからなー」
「空賊といい、盗賊といい、大変だな」

 スティング達の作戦はうまく行ったらしいが、空賊であるアレックスの方はシンに先取りされて作戦失敗に終わっている。今になって思ったが、それだってきっと相当準備してきたに違いない。

「別に俺達、盗賊ってんじゃないぜ。本業はここでバザールやってる奴らに品物を届ける商人ってやつだ」
「へぇーー」

「驚いたか、田舎もん。遠くはコスモス連邦にも足を伸ばすんだぜ」

 コスモス連邦は帝国と覇を競う西の大国。
 幾つも砂漠や海を越えて運ばれてきた品がこのバザールに並んでいる。

 アウルがその中のいくつかを取り上げて、どこの国の物かを聞く。

「こら、アウル。俺達は次の仕事の準備の途中だろ」
「忘れてた、その為の買出しだった」

 ステラを連れて、スティングとアウルが仕事に戻っていった後、シンの耳にバザールのざわめきが届く。
 すぐそこの屋台の織物や薬も、もしかしたら遠い異国のものかも知れない。
 昔、そんな遠くの世界への想いを聞き、空を見上げたことがある。

『いつか行って見たい』
『この青い空の続く所までさ、自由に飛べたらいいのにな』

 シンはどこか遠く、懐かしい声を聞きながら空を見上げる。
 バザールの屋根代わりの布、両脇のレンガの建物の向こうに青い空がある。

 空賊か・・・。

 思い起こせば、地下水道に落ちてからアプリリウスに戻るまで、シンはただ彼らの後を付いていくばかりだった。とにかく知らないことだらけで、街道を旅するのとは違ってよく無事だったと思う。

 俺よりいろんな事を知っていて、いろんな場所に行った事があるんだろうな。
 自由に飛空挺で空を飛ぶ奴ら。

 まだ日は西に傾きかけたばかりだったから、シンはもう少し街の様子を探索してから執政官府へ向かうことにした。土産話ならもう余る程ある、どれから話そうかと頭の中で順序を組み立てながら。




 建物が黒く長い影を落とす時刻。
 バザールを抜けるとちゃんとした店構えの商店街に入り、武器や防具の店、技を取り扱う店々が立ち並ぶ。魔法を扱う店もあって興味本位で覗いてみたが、さっぱり分からなかった。
 仕方なくシンは自分でもまだそこそこ知識があると思う武器や防具の店へと足を向ける。

「あー、やっと見つけたお前!」

 通りの向こうから息せき切って走ってくるのはアウル。

「あれ、どうしたんだ?」
「お前さ、ステラ見なかったか?」

 ステラ?

「いや、全然。見てないけど」
「あいつ、またふらふらどっか行きやがってさ、見つけたらさっさと帰って来いって伝えておいてくれよ!」

 言うだけ言ってまた、だーっと走り去ってしまった。
 少しだけ後姿を追っていると、街の顔見知りに全員に声を掛けているようだ。間違えて帝国兵にまで話しかけて追い払われている。

 迷子か。
 俺も昔やらかして、後で大目玉食らったもんな、あ~あ、ステアかわいそうに。おやつ抜きとかされちゃうんだろうな。シンが何とも子供の回想に浸っていると、今度はスティングがやって来た。

「ステラなら、見てないぞ」

 今度は先回りして答えてやると、さもがっかりした表情をされてしまって、少し悪い気がする。

「まだ見つかってないのか?」
「ああ、ネオが『空賊がっ!』って血相変えて出てってさ。お前、何か知ってないか? 空賊がいそうな場所とか」

 スティングも同じように街の知り合いに声を掛けながらステラを探している。アウルとスティングの甲斐あって、シンも街中でステラを探し始めていた。

 空賊が居そうな場所ってったってなあ。
 シンが知るはずがない。何せ空賊そのものだって、アレックスとミーアしか知らないのだ。飯だ酒だとこぼしていたから、彼らはおそらく居酒屋かどこかにでも居るのだろう。

「あんなでも一応空賊だし、何か知っているかもな」

 さして深く考えずに、繁華街へと足を伸ばした。
 一番の外れの居酒屋で金髪の男とすれ違った。どこかで会ったことがあるようなと思ったら、ステラやスティング達一団のリーダーだ。

「こんな所にはまだ早いんじゃないのか? 坊主」

 ステラを探しているネオが、乱暴に居酒屋から出てきた所だった。

「アンタ、ネオ!? ステラは見つかったのか?」
「君は気にするな。早く家に帰って寝ろ、いいな」

 家に帰って・・・って、それきついんだけど。

 言い置いて走ってどこかへ行ってしまう。ステラのことで何か情報がないかとアレックスとミーアを探してここまで来たのに、一番ステラを探しているネオがここから出てきたのでは不発も不発なのだろう。しかし、既に扉に手をかけてしまっている手前、シンは店の中に入る。

「うわっ、酒くさ」

 天井で羽根車が回っていたが、薄暗い店内はアルコールの臭いと鼻をくすぐる香ばしい匂いで満ちていた。ぐるりと見回して見つけたものに、シンはにやりと笑う。

 キャンベラの耳って目立つよな。

 二階席に上がり、奥のテーブルに陣取っているアレックスとミーアを見つける。
 くるりとミーアが振り向いてにっこり笑う。

「どうしたの、シン?」
「あのさ、ミーア。ステラって子のこと、何か知らないかな」

「なんだ・・・お前もターミナルへ行けって口か」

 ミーアがシンに手招きして、シンの問いに答えたのはアレックスだった。ナプキンで口を拭き(空賊の癖に!)、さっきまでここでうるさく少女を助けてくれという男と問答していたと教えてくれた。

 ネオの元に、返して欲しくばターミナルの鉱山まで来いと投げ文があったのだという。手紙の差出人の名前はないが、投げ込んだはオレンジ色の頭の男で、手紙はオレンジ色の紙にオレンジ色のインクで書かれていたとか。

「オレンジ頭って、アンタを追っている奴だろ?」
「間違えて攫っていったのは俺には関係ない。奴らが馬鹿なだけで、ステラって少女に運がなかっただけだ」

「きっと、アレックスと一緒に居たシンを見て、シンと仲良くしていたその子があたし達の仲間だと思ったのね」
「相変わらず・・・ノリの軽い奴らだ」

 米神を押さえるように考え込むアレックスに、ミーアがグラスを差し出す。

「助けに行かないのかよ」
「だから、どうして俺が。一銭にもならないのに」

 空賊。少しでも、こんな空賊を見直したのを速攻取り消した。

「女の子の命が掛かっているんだぞ。アンタが行かないのなら、俺が行く!」

 ミーアが笑っている。

「どうやって? ターミナルがどこにあるのか分かっているのか?」
「どんなに遠くたって、いつかたどり着くだろ!」

 アレックスとミーアが顔を見合わせて肩を竦めた時、2階席に新たな人影が増えた。

「僕からも頼むよ、空中都市ターミナルへ行きたいんだ」

 シンは声の主よりも『空中都市』と言う言葉にびっくりして振り向く。
 バナディーヤで会った時よりも身なりを整えたキラがそこにいて、シンを飛び越してアレックスに話しかけていた。

「報酬は?」
「・・・報酬ね」
「言っておくが、空賊を足代わりに使おうなんてお安いものじゃない」

 シンを相手にするのとは違う、男同士の腹の探り合いにシンはハラハラするが、あっと懐のお宝を思い出した。

「報酬ならある!」

 いきなりシンが割り込んだところで、アレックスがにやりと笑うから、シンはしまったと思った。初めから狙っていたのだ。

「ほう」
「ステラが無事戻ってから渡す!」

「じゃあ、決まりだね。僕からの依頼で空中都市ターミナルへ向かう。報酬はシンが、えっと、なんだっけ・・・ステラって子の救出成功後に支払うって事で」

 いきなり場を仕切りだしたキラをアレックスがジロリと見上げる。アルコールが入っているせいか、些か目つきが悪い。

「お前・・・・・・ずっと聞いていたな」
「気のせいじゃない?」
「ほら、アレックス、水」

 ミーアがグラスを差し出してアレックスが手を差し伸べたが、グラスを見る目は胡乱で動きが緩慢に止まる。

「・・・眠い」





 アプリリウスの片隅の居酒屋で空賊の1人がテーブルに突っ伏した時、執政官のイザークはちょうどフェイス・ディアッカを帝都へ送り出した所だった。無論、レジスタンスの女リーダーも一緒である。
 夕闇のアプリリウスは砂漠に囲まれているせいか、急激に冷えてきていた。
 その分、美しい夕暮れの中を帝国軍の高速艇が飛び去っていったわけだが、戻ってきた執務室で、入れ替わりにフェイス・カガリが参上したと連絡を受ける。

 出迎えた執務室に入ってきたのはフェイスマスターが1人。

「シンはどうした?」
「既に脱走した後でした」
「脱走?」

 振り向いて、片方の眉を上げて怪訝に聞き返す。
 バナディーヤから脱走した話を聞いた記憶など今まで一度もない。ここ、アプリリウスを表面上良く管理するためにあるような牢獄だと聞いている。

「その通りです、殿下。ご丁寧にヤマト将軍を連れて、空賊と一緒に」

 予定外の名前を聞いたと思った。
 ヤマト将軍。目の前のフェイスマスターの双子の弟ではないか。
 ある意味、テロリストの女リーダーよりも厄介だ。事故か故意か、いずれにしても、これでますますやり難くなったことだけは確かだ。

「ふん。それで、卿の目的は果たせたのか」
「はっ」

 西の空に星が瞬くのを見る。
 帝都から見える星と変わらない。いや、少しはこれでも、見える位置が違うのだろう。イザークはその僅かな誤差を突き止めたくて早急に会話を打ち切った。

「このような辺境まで、ご苦労だったな。下がってよい」

 もとより、目の前のフェイスマスターは帝国の法の番人。
 決して、油断ならない相手なのだ。
 背後に誰が隠れているか、帝国内を艦隊を率いて移動できる彼らがどのような思惑で動いているのか見極める必要があった。
 こうした会話でさえ、もしかしたら、兄、皇帝か元老院に報告されるだろう。

 扉が閉まり、フェイス・カガリが部屋を辞す。
 1人になって、ようやくため息をついた。

「空賊だと?」

 末の弟が家出をして、アプリリウスからバナディーヤに送られた所までは掴んでいたが、まさか脱獄するとは。本来なら、とっくに死んでもらっていなくてはならない危険人物と共に行方をくらましたあげく、空賊も一緒ときた。

「まだ追いかけているのか、あいつは」

 空に憧れ、自由に憧れ。
 自分がとっくに諦めたものを、弟は今だに忘れられないらしい。

「大方、空賊という響きに釣られでもしたのだろう。全く・・・手がかかる」

 イザークはデスクを拳で小突き、執務室を後にした。





 大空を行きかう飛空挺の発着場は大抵何処の都市の外れにあって、民間の航路が貿易を支えている。それ故、飛空艇そのものは特に珍しい物ではない。帝都の貴族にでもなればプライベートの飛空挺を所有しているし、スティング達のように地上ではなく、空の道を商売としている商人もいる。

 しかし高価な乗り物であることは事実だ。

 荷馬車より、船より、とにかく飛空挺は高くつく。
 軍の艦隊戦と言えば飛空艦隊のぶつかり合いを指すし、飛空挺を見ればその国の技術が分かると言われるほどだ。

 珍しいのは飛空挺を海賊行為に使う連中なのだ。
 どのような手段で手に入れたのか飛空挺を使って盗みを働く犯罪者なのだが、空を自由に飛びまわる彼ら空賊は、世の少年達に憧れを持って呼ばれることが多い。

「とか何とか言って、空を飛びたいだけだったんじゃないの? アレックスは」
「それは認めるよ。この所ずっと地下ばかりだからな」

 アレックスが首の辺りに手をやって、飛空挺の発着ポートをに入っていくと、向こうから少年二人が走って来た。手にはスパナ、つなぎは油で汚れている。

「アレックス! 整備はばっちりだぜ!」
「ああ。ヨウラン、ヴィーノ、発進準備だ」

「待ってましたっ」

 二人の少年が慌しく引き返し、案内された個人用の発着ポート。係留された飛空挺は天井から射す光に照らされていた。特別大きいわけでもなければ小さいわけでもないが、双発の飛空エンジンと深紅の体躯が目を引く。

「セイバートリィだ」

 アレックスが1人スタスタ歩いていく。シンはその後を小走りに付いていって、立ち止まって見上げた。下から覗き込めばどんな飛空挺だって、視界に収まりきらないくらい大きい。

「飛空挺だ・・・」
「なかなかのもんだろ?」

 手招きするアレックスはシンだけでなく、ミーアやキラに向かって言う。その声はさっきまで居酒屋で管を巻いていた不機嫌さはなく、自慢の息子を紹介する親のようだった。乗り込んだ飛空挺には、旅客便ではないので乗客用のキャビンはなく、アレックスとミーアが座るコックピットのすぐ後ろにいくつか座席シートがあるだけのシンプルな作り。
 荷を運ぶカーゴスペースも定期便のように広くなく、仮眠で1人横になってしまえば、大して荷物が乗らなさそうな・・・つまり、空賊業以外では使えそうにない飛空挺だった。

「お客さんなんて、めずらしい」
「今度は何やらかしたんだよ、アレックス・・・」

 発進前にヨウランとヴィーノがこっそりミーアに尋ねる。

「お宝取り損ねちゃった。それでね・・・」

 同じようにこっそり耳打ちするミーアの耳が小刻みに揺れている。必死に笑いをこらえているのか、同じように肩も揺れている。

「聞こえているぞお前達。しゃべってないで、ミーア管制に繋げ。ヨウラン、ヴィーノ、シートに付け」

 馴れた感じにサイドの計器の前にシートに腰を下ろす二人が、シン達に後ろのシートに座るよう言う。

「豪華客船じゃないから座り心地は保障できないけど、そこ、座れよ」
「・・・ああ」

 いそいそと座席の背に手をかけた時、飛空エンジンの振動が全身を包んだ。目の前で計器の確認するアレックスの手がたゆまなくパネルの上を滑り、その長い指から目が離せなかった。

 パッとコックピットに光が射し、みるみるうちに溢れて覆われる。
 発着ポートの天井ドームが開いたのだった。
 まぶしさで目を閉じた時には、セイバートリィは浮き上がり、シンはポートの天井ドームを横目で見て、座席にも着かずに立ったまま、アプリリウスの街を見下ろしていた。

 それも一瞬、セイバートリィは飛空エンジンから青い光を煌かせて、アプリリウスを飛び立っていた。




直前までセイバーイージスでした。セイバーフィッシュ、セイバーホエール、セイバーフェニックス、セイバードとか、散々悩んで、結局「セイバートリィ」真っ赤なトリィですよ、可変翼ですよ。今回長くなりそうだったので、もう、途中で切っちゃいました。