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ドリーミンデイ



「艦長のタリア・グラディスよ。こっちは一応、副長のアーサー」
「シンといいます。シン・アスカ」
「アレックスです」
 水面ギリギリを飛ぶこの船の名はミネルバ。外面はとんでもなくボロボロだったが、中はなかなかどうして意外ときれいで設備も整っていた。アークエンジェルとはその大きさは比べるべくもないが、これならたった1隻でも海を渡ることも可能だろう。
 3人はミネルバに収容されて、今までのいきさつを説明した。海上の監獄プラントが崩壊した事、ハイネがもう帰らぬ人である事もアスランが説明する。
「俺たちはプラントでハイネと知り合って、このエマージェンシーを渡されました」
 簡単な自己紹介で、なおもアスランがアレックスを名乗ろうとするから、シンはこそっと『往生際が悪いですよ、アスランさん』と吐き捨てる。
「アスランって・・・」
 それを耳ざとく捕らえたのが身を乗り出して手を振っていた男、副長のアーサー。
「そのまさかのアスランです」
「シンっ」
 先手を打たれる前にシンがいやみっぽく暴露する。
「ええぇ~! アスランって、あのアスラン・ザラ?!」
 ワンテンポ遅れて派手に驚く副長のおかげで、問いただす雰囲気にはならなかったが、アスランがシンをこっそり睨みつけるから、なぜだか小気味よくて、シンはステラと顔を見合わせて笑った。


「いやーそれにしてもびっくりしました。まさか落ちたコロニーの一部が宇宙船になっているなんて、驚きですよ。しかも、海上で拾った相手が子連れの伝説の英雄なんてね」
 宇宙船とは違うのではないかと内心シンは突っ込んでみるが、では何だと言われてもシンにも答えられない。
 艦内を一通り案内された3人は当面の生活空間である居住区に案内される。珍しいのかきょろきょろするステラとは対照的に終始無言だったアスランがアーサーに質問する。シンとステラを挟んだ頭上での会話。
「この艦はもしかして」
「ああ、やっぱり分かります? ミネルバは今、ヘラクレスの柱に向かっているんですよ」
 疑問符を浮かべるシンが2・3歩進んで歩みが止まる。どうやら目的地についたようだ。まず先に通された部屋には誰もいず、副長のアーサーがステラに説明をする。そこからブロックを挟んだ反対側の部屋がシンとアスランの新しい部屋だった。同じような4人部屋だがここも一人もいない。
「他は満員だから二人だけ、君達本当にラッキーだなあ。今日はゆっくり休むといい、じゃ、また明日な」
 艦内のベットとは言え、久しぶりにゆっくり眠れる誘惑にシンはすぐに取り付かれてしまった。窓から夜空を見上げるアスランを横目で盗み見しつつ、いつのまにかシンは眠りについていた。


 通路を打つ靴音。遠くで鳴り響く発砲音と振動。まだ空も明けやらぬ頃、シンは目を覚ました。隣の2段ベッドにアスランの姿はなく、二度目の砲撃音でシンは飛び起きた。
 近い・・・でもない?
 かけて置いた上着に手を通している時、アスランが飛び込んでくる。
「シン! 起きろっ」
「もう起きてます!」
 二人連れ立って通路に飛び出す。窓から覗く景色は朝もやの中に埋もれ、戦闘の気配はない。それでも、砲撃音が伝わってくる。通路の標識のコンディションを表すカラーはイエローだった。つまり警戒態勢。すれ違ったクルーに聞けば、偵察機と接触したのだとか。
「こんな所で戦闘!?」
「プラント崩壊と宇宙への脱出で情勢が動いたんだろう」
 シンはアスランの後をついてブリッジに向かう。勝手の分からない艦内で二人は遠回りのような近道のような順路を辿ってようやく艦内エレベータに辿り着く。中から飛び出してきたのは、整備のつなぎを着た男達。
「うわっ」
「何があったんですっ!」
 避けるシンの前を血を滴らせた男を担ぐ男が通り過ぎ、それを見送る中年の男性が二人に気がついたようだった。
「偵察機と接触したんだ。運悪く甲板で作業中だった奴がやられた」
 シンには分からなかったが、腕の徽章から責任者と知れる。
「墜落した偵察機が今も炎上中だ。君達、手が空いているなら手伝ってくれないか? 人手が足りないんだ」
 見た目はインテリのような仏頂面の男でも、言っていることもあって躊躇している時間はなかった。シンは一歩前に出て甲板までの道を教えてくれと言おうとして、先を越される。
「手伝います。主任。シンはブリッジへ行って情況を確認。グラディス艦長に指示を仰げ。いいな」
 急に命令口調。
 少しだけムッとしたけれど、アスランが主任と呼んだ男とさっさと行ってしまったから、シンは記憶を総動員してブリッジへと急いだ。
 ブリッジは今抜けてきた通路ほど混乱してはおらず、なんと言って切り出したらいいのか戸惑う。入り口で立ち止まっていると、副長のアーサーに声を掛けられた。
「えっと、シン! どうした」
「ここに行けって。それで艦長に」
「私?」
 地図を覗き込んでいた女性が顔を上げる。
「情況の確認と指示を仰げって」
 誰に向かっている話しているのかシンはグラディス艦長を視線を合わせずに、殆ど見ることのできない地図に焦点を合わせていた。できれば早くセリフが欲しいと内心願って。
「情況は簡単よ。このあたり一体を守備している地球軍の偵察機に見つかって、交戦・撃墜。今はその後始末中って所ね」
 副長がぽかんと艦長を見ているのが気になって、そうですか、とは言えなかった。肌で感じる空気はそんな優しいものじゃない。
 グラディス艦長もそんなシンの反応を見て、ふいに表情を和らげた。
「まずいことに補給を予定していた都市で戦闘が始まったようなの」
 うむと頷く副長の反応が深刻そうには見えなくて、またもシンは首を傾げそうになる。
「脱出の準備をするとシグナルを受信したのが3時間前。戦力差から言って凌げないわ、それはミネルバが加わっても同じね、陥落は時間の問題よ」
「しかし、艦長、次の補給ポイントまでミネルバは持たないんじゃ」
「そうね」
 まるで生徒と先生の関係だと、シンは思う。学生だった頃なんてもう遠い昔だったけれど。
「補給物資は約束どおり受け渡すと連絡してきたわ。誰に行かせるか決めていたところよ」
「俺が・・・俺が行きます」
 誘導尋問のように、ブリッジの他のクルーから見たら、シンも艦長の生徒の一人に見えたかもしれない。模範解答を引き出した艦長がシンを見つめる。
「大丈夫? 貴方は土地にも慣れていないし、危険よ」
 自信はあった。
 けれど、次の日からシン達は大きく出遅れてしまい、新しい環境で何か役に立ちたいと焦っていた。
「大丈夫です」
 頷いたシンの後で、ブリッジのドアが開く。皆の視線が注がれる中に飛び込んできたのは金の髪を揺らすステラだった。
「ステラも行く。シン、守る」


 消火活動を終えてブリッジに足を運んだアスランが、ことの次第を知るのは二人がジープで飛び出した後。恨みがましい視線を受け流す艦長のグラディス。
「あら、あの子達に何かを頼むのにもしかして貴方の許可がいるの?」
「いえ、そんなことは・・・」
 アスランとグラディス艦長、二人の視線の先、晴れかかる雲海の下を補給物資を受け取りにシンとステラを乗せたジープがひた走っている。
 指示されたルートどおりに進むジープが危なげなく街南部の外れ、運河に面したレンガ造りの倉庫街に辿り着く。散発的に鳴り響く銃声はしたものの、街には脱出を図る民間人で溢れ、普通に乗用車も走っている。砲撃はまだずっと先のようだった。
 ガラガラと倉庫のドアを開けるシンとステラ。
「ミネルバから来ましたー」
 カチャ。
 数秒の空きもなく突きつけられた銃口に、飛び掛ろうとするステラに、慌てるシン。
「ステラっ!?」
「ミネルバもそんなガキを寄越すとは・・・グラディスめ」
 取り囲まれた男達の人垣を分けて近寄る靴音。声は女性のものだ。
 見下ろされるのは好きじゃない。値踏みするなとシンはその女性を睨みつけるが、相手は意に関した様子もなく唇の端を僅かに上げるばかり。むしろ、熱い火花を散らしているのはステラだったのかも知れない。
「銃を下げろ。列記とした受取人らしい、さっさと受領しろ」
 親指を立てて倉庫の奥を指差す。荷台の上に薄高く積まれた木箱や麻袋が見える。
「早く持ってけっ」
 言うが早いか、この集団は撤収準備を始めた。呆然とするシンとステラが自分達でジープに積まなくてはならないと悟ったのは半分以上人が減ってから。近くで起こる銃声に気づいたのはその更に後だ。
「ステラは荷物の数を数えてて。俺はジープ回してくるから!」
 時間がない。ぐずぐずしている時間はなかった。
 まず木箱から積み込んで、麻袋で動かないように固定する。しかし、物資の山をジープ1台に載せるなど到底不可能。あっという間に満載になってしまった。
 どうすりゃいいんだよ。
 シンは腕を組んでみるが打開策など浮かぶ訳でもなく。
「こんなのどうやって運んできたんだ」
「シン、兵隊いっぱい」
 倉庫の外を覗きに言ったステラが不穏な発言をする。もはやシンの耳にも嫌でも届く機関砲と戦車、機械化兵の大隊の移動する騒音。
「こいつごと持ってくか!」
 まだ半分以上残る物資を積んだ荷台(それはトラックの荷台にタイヤがついただけのものだ)をジープに積んできたロープで牽引フックとしっかり結びつける。
「よし! 行こう」
 一仕事達成した気分でジープに乗り込むシンとステラ。
 しかし、倉庫から飛び出したジープを待ち受けていたのは地球軍の部隊だった。


 アクセルを踏むこともできず、汗の滲む手でハンドルを握る。
 不安そうなステラを横で感じていてもシンは唇を噛むことしかできない。格好よく中央突破なんてこと、できるわけもない。
「ちょっとの間伏せていて」
 包囲の薄いところを探して、路地に逃げ込もうか迷い、無謀にも突破を決断したシンがアクセルを踏む。タイヤが悲鳴をあげ、それにかぶさるように沸き起こる銃声。
 ジープのサイドミラーが割れる。だけど、シンの目の前で攻撃されているのは治安部隊。ジープの両脇の路地から飛び出したのはとんずらした筈の倉庫にいた男達だった。


 ひどくなる砲撃に彼らの装甲車が前に出て盾になる。弾除けをつけた軍用ジープに横付けされ、乗っているシンをガキを呼んだ女性に叫ぶ。
「あなたは逃げないんですかっ」
「逃げるさ。補給を要請されている艦はミネルバだけじゃないんでね。分かったらさっさと行きなっ」
 横にならぶ彼女のジープが後方の部隊と銃撃戦を始める。
「でも、あなたは」
 全部のジープと装甲車を持ってしても、逃げ切れるかどうか分からないのに。シンはどちらを選んでも望み薄なのを喉の奥に仕舞い込む。
「リーカだ、ぼうや。援護してやるっ」
「シンです。俺はシン・アスカ! 感謝します」
 今度は薄笑いじゃない、彼女の笑顔。それは一瞬で消えてしまったけれど、二台の間に打ち込まれた銃弾でジープはすぐに離れてしまったけれど、シンの中で最初にあった彼女の印象ががらりと変わっていた。
「あの橋まで突っ走れ、いいな!」
「ステラっ! 踏みっぱなしでいいから、ハンドルはずっとこのままでまっすぐ走るんだっ」
 橋まであと100メートル。運転をステラに代わってもらって、シンはマシンガンを構えてリーカを抜いてきた部隊に狙いを定める。
 橋を半分来たところでリーカ達が治安部隊に飲み込まれた。
「振り向くな! 行けっ」
 もう、シンと彼らとの間にあるのは橋があるのみ。打ちつくまでぶっ放すシン。
 彼らの放つ銃弾が届くその瞬間、囲まれたリーカの軍用ジープのあたりから上空に放たれる砲弾がシン達のジープと部隊の間の橋に命中する。
 崩れ落ちる橋を背中にジープは橋を渡りきる。
 後を振り向くことはできなかった。


「なんとか逃げ切れた・・・」 
 ホッと息をついたのもつかの間。一つ大きくカーブを切れば、ジープの前方に別働隊出現する。ステラが慌ててハンドルを切り、切ったついでにアクセルも緩めてしまっていた。良くも悪くも緊張が解けてしまっていたのだ。
 あっという間に囲まれるシン達。 
「なんだお前達は、コーディネータかっ!」
 荷物を調べられればアウト。何よりシンを見れば一目瞭然であった。シンの紅い瞳はコーディネーター以外の何者でもないのだから。ステラに身をかがめるように言って、シンは腰に下げたライトセーバーに手をかけた。崩れるプラントから唯一シンが持ち出せたもの。
 こんな絶対絶命の情況をどうやって切り抜けるのか。それでも、動くしかなかった。ブォンと音を立てて出現する光の刃に、相手が怯んだ一瞬の隙をついてシンは無謀にも敵陣に突っ込んだ。
 俺がやらなきゃ。
 ステラを守って、補給物資をミネルバに届けるんだ。
 倒しても倒しても現れる敵兵。いつまで彼らの攻撃を避けきれるか、シンにも分からなかった。
「シンっ!!」
 バランスを崩したシンを助けようとステラがナイフで乱入してきても、「バカっ」と叫ぶ余裕もない。ステラは普通じゃないが、コーディネーターではない。銃弾をよけることはできないし、足元で爆ぜる弾に当たれば血を流す。
 くそっ、これじゃ。
 ステラのことだって。
 単純に言ってシンの苦労は二倍になって、息があがる。いくつもの銃口が二人を狙い、避けきれないと直感的に悟る。どちらかに確実に当たる。
 そんな絶望的な予感が、淡い青い光に散る。
 突如沸き立った、青いライトセーバーが敵をなぎ払っている。銃身が落ち、砲身がぶった切られていく。振るっているのはシンの良く知る青年だった。
「アスランさん、なんでここにっ!」
「シン、うしろっ。ステラも前に出るなっ」
 シンの質問に答えるよりもまず、今は現状打破が先だった。
 ステラを守りつつ、アスランが打ち込まれる銃弾を全てライトセーバーで防ぐ。まるでライトセイバーに吸い込まれるように。その光景に敵はおろかシンまで目を見張った。
「シンっ、闇雲に剣を振るうなっ」
 それを見てシンもただ飛び込むのではなく、背中をアスランに任せて敵を各個撃破していく。それはまるで小さな竜巻のようだった。朱色の光と水色の光がハリネズミのように舞う。
 完全に沈黙し、撤退する敵を前にステラに駆け寄り、荷物を確認する。そこに上空から打ち込まれる砲弾。慌てて姿勢を立て直すが間に合わない。シンは咄嗟にステラを守ろうと抱え、片手でライトセーバーを構えたが、シンの目の前で、宙を舞うアスランが全弾叩き落していた。
 ジープから離れた所で切り刻まれた砲弾が爆発する。
 周囲を一瞥してアスランがシンを振り返る。
「お前のことを頼むと言われているからな」


 シンはジープを運転するアスランを後部座席から見て、先程の戦い振りを思い出した。そこにはシンの知らないアスラン・ザラという人物がいて、アレックスの面影を探したが、その時シンには見つけることができなかった。
 補給物資を無事確保して、ミネルバに向かう途中にジープのラジオが緊急放送を捕らえる。かなりの雑音交じりで、本当に集中していないと聞き取れない電波の弱いもの。
 ザザザ・・・我々は・・・ザザ・・・ここに・・・宣言する・・・
 ・・・の柱に・・・ザザー・・・集結せよ・・・ザ――――
 同じ内容を繰り返し流しているようだった。横に座るステラがコテンとシンの肩に頭を乗せる。
「ステラ?」
 とても疲れて眠っているという表情ではない彼女に、シンは慌てて肩に手をかけた。

ああ~。時間がない。慌てているから文体が細切れです。夜遅くにアップして、翌日に誤字脱字を修正する習慣なんとかしないとな・・・。ステラ編スタートです。はは。