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その激しさが



 朝は早くて、それでも数分は毛布の中でもぞもぞと葛藤している。起き掛けの少し長めの彼の頭はボサボサで自分といい勝負。歩く速さも早くて一定のリズムが途切れなく廊下に響く。今はすっかり落ち着いた髪が微かに揺れている。
「シン。どこか変か?」
「いっ。あっ別にどこも・・・」
 いつもと同じピンと背筋を伸ばした姿。今まで意識したことはなかったけれど、初めて会った時からそうだったのだろう。医務室の前で一旦立ち止まり、スライドするドアから滑り込むその動きも、眠っているステラの顔色を見つめ、ドクターに悲しそうに容態を聞く姿も。


 シンには医務室で寝ているステラに、額の冷却シートを変えてやることしかできることがなかった。原因不明の高熱がもう2日も続き、暇を見つけてはアスランと様子を見に行くが辛そうな顔を見るとこっちまで辛くなる。ほんわかしているステラが辛いはずなのにいつものペースを崩さないのも痛々しい。
 ドクターの話では、薬物投与の形跡があり禁断症状に近いものが出ているのではないかと言うのだが、麻薬とはまた違うらしい。
「身体機能の急激な低下が何に起因するものなのか・・・エクステンデットであるが故のものだろうが、頭を弄られている可能性もあり、ここではこれ以上は分からん」
 ステラに聞いてみても、首を振るだけで、コーディネーター側にエクステンデットの情報は少なく、なぜ体調を崩しているのか不明な分、不気味であった。


 病室に居ない時のシンは格納庫にいる。
 ミネルバはこれでも戦艦であるから、偵察機や戦闘機が搭載されている。戦艦なんて始めてのシンが何か気の利いた助力を申し出ることはできず、突発的な事態でもなければ出番がないというのが今のシンの置かれた立場だった。
 艦長のグラディスにもただ一言、彼のそばに居なさいとだけ言われる。彼というのは言うまでもなくアスランのことを指していた。
 整備を手伝っているアスランからつかず離れずの距離でシンは、空いたスペースでライトセーバーを振り回していた。整備のつなぎを着て、何やら船のメカニックと話し込んでいる彼。日中はシンとまともに会話することは少なく、身体を動かしてないと取り残されそうで、こっそりあの時のアスランの動きを真似しようと思ったのだが。
 ライトセーバーの動きを思い出してみる。
 あー分けわかんねえ。どうやったらあーなるんだとすぐにギブアップした。
 頭に思い描いても、その通りに動けるわけもない、シンはエンジンに跨っている彼を見る。
 付き合ってくれとか、相手をして欲しいとか、はたまた鍛えてくれなんて口が裂けても言えないシンは、仕方なく一人で素振りをするしかない。補給物資を無事持ち帰ったシン達の噂はすぐに艦内に広まっていて、見かねたスタッフが気を利かせたらしいのだ。
 次の日に、シンはアスランから丸い物体を渡される。
『これでも使え、シン』
 それはシンの周りを飛び跳ね時折レーザーを発射し、それをライトセーバーで受け止める。誰がどうみても訓練であった。レーザーを避けることはシンにも簡単で、あまりにふざけた物体の動きに思わず切りつけたくなることもしばしばだった。


「おっ、やってるな」
 そんなシンに構ってくれるのは下手したらアスランより、格納庫のスタッフ達のほうが多かったかも知れない。アスランが主任と呼んだ中年の男は、メカニック達のまとめ役で主任のマッド・エイブス。
「機械相手では、つまらないんじゃないか?」
「そう言うなら主任。相手してくださいよ」
 エイブス主任が脇に抱えたファイルを炎上した偵察機の残骸をばらしている青年に向ける。
「ハハハ。それは俺の役目でないしな。内熱機関の構造や航空力学、機械メンテナンスにおける心得なら抗議してやるぞ?」
「げっ、それは勘弁してください」
 ポスっとファイルで頭に置かれて去っていく後姿の見送って、奥の残骸のそばにいるアスランを見る。彼にとっては飛行機も冷蔵庫やエアコンと同じ感覚なのだろうか。確かに彼はあの辺境の街でメカを修理して暮らすのもいいと言っていた。
 あっ、いいこと思いついたかも。
 シンはオイルで汚れた姿を一瞥して、丸い物体(ハロという名前らしい)の設定を変える。
例えそれが彼の望みだとしても、今はそんなことを望める時じゃないと、ニィと唇の端を上げた。
出力の上がったレーザーが向かった先は、スパナを持って汗をぬぐう青年。
予想通り、簡単に交わされる。だけどハロは立て続けに彼の後を追うように攻撃を続ける。最後には、アスランがスパナでハロを黙らせる。一直線に伸びたレーザーをスパナで受け止めて、一瞬顔を顰めた後、返す右手でハロを打ったのだ。
「なんのつもりだ、シン。危ないじゃないか!」
 スパナが当たって多少へこんだハロとスパナを両手に、シンに向かって歩いて来る。
「お前、周りの迷惑も考えろよ。誰かに当たったらどうするつもりだったんだ」
「貴方しか狙わないように設定してあります」
「そういう問題じゃない。そりゃ、ステラのことで焦る気持ちは分かるけど・・・」
「焦ってなんかいません」
 なぜ、そこでステラのことなんだと、シンは反発する。
「彼女は身体や記憶を弄られているんだ、お前のことを覚えてなくても仕方がないだろ」
「そんなこと、気にしてないです!」


 レーザーが飛び交うあたりから、メカニック達が二人を目で追うようになり、シンの張り上げた声で皆が一斉に注目する。
「おっ、なんだなんだ」
「ついにと言うか、ようやくと言うか」
 手を休めて事態を見守るメカニック達。彼らから見ればシンもアスランもずっと年下の未成年に過ぎない。海上で拾ったハイネの忘れ形見は、一人は鉄砲玉の期待の新人、もう一人は前大戦の伝説の英雄だけれども、接するうちに彼らの人となりは分かってくる。
「お互いまだ若いからねえ。素直になれないんだろうさ」


 陸に上がってからのミネルバは発見を恐れて低空を飛行していた。地球軍部隊が展開している地域なので、ずっと警戒態勢のまま艦は緊張が続いていた。潅木がまばらに見える白っぽい大地とねずみ色の起伏のある山間を西へ進む。
「景色も代わり映えしないし」 
 窓から目を離して、シンは後を振り返る。そこにはベットから起き上がることができなくなったステラがいた。
「水、飲みたい」
「水? 水ね、今持っていくから」
 対処の分からないミネルバではステラは実質、栄養補給のための点滴と安静に寝かされているだけ。
「ありがとう」
 シンと向かい合った時のステラの見る影もなく、シンやアスランが病室を訪れても眠っていることが多くなった。ただ普通に生きて行くことさえ難しい身体にして、一体何を望むというのだろう。
 医務室でドクターが声を落として話しくれた内容を思い出す。
 まことしやかに、けれど誰もが知っていた噂。コーディネーターを使った人体実験の産物は人間であると。
『プラントにもあっただろう、研究セクション。一体何のためにあると思う?』
『コーディネーターに勝つためだ』
 コーディネーターに負けない肉体を作り出すために、投薬を繰り返し、神経や感覚を強化する。強化された兵士はエクステンデットと呼ばれて、地球軍の中で特殊部隊を編成しているという。その目的はコーディネーターとの戦争で勝つため、彼らはそのための兵士であり消耗品。
『だから、彼女は結果を出し続けなければいけなかった・・・それでこんな事に』
 アスランが零した言葉に、拳を握り締めた。
 負ければそれで終り。
 コーディネーターも、地球軍の強化兵も。
 どっちも丸く収まる方法はない。だからと言って、シンには相手の為に終りになるつもりもなく、ただ、窓の外を眺めるばかりだった。


 数日後、ついに細心の注意を払って進むミネルバもついに地球軍に捕捉される。
「2時の方向に敵影。移動砲台らしきもの多数!」
 レーダーが捕らえた影は地上のものだった。
「対地戦闘用意。戦闘機リンク状態でスクランブル」
「全砲門、装填開始」
 艦内で一斉にコンディションがアラートに切り替わる。シンは真っ先にハロをとっ捕まえて身構えたが、格納庫の連中が慌しく動き回る中で立ち尽くす羽目になった。整備服のままのアスランがシンに声をかける。
「シン! 手伝え」
 言われるままに走り出したはいいが、そこは左舷の砲塔の後ろで振動が絶えず響く場所だった。おそらく乗艦して一度も来たことのない場所で、数人のクルーが砲弾を装填する作業を進めている。
「手作業だったんだ・・・」
 ブリッジでは副長の「てっ!」の一言ですむ命令も、裏方では砲弾を弾薬庫から運び出してエレベータに乗せ、装填するための釣り台にセットし、ハンドルを回して吊り上げる。なんて作業を人力を織り交ぜて行っているのだ。
 シンとアスランが砲弾運びを手伝い始めて2時間。
 戦局は動かないまま、艦に衝撃が走る。
「当たった・・・?」
 コンソール上部に取り付けてあるモニタを見れば、まだ戦闘は続行中。しかし、目標は映っていない。いや、目を凝らせば地上を動き回るアリのような物体が見える。
「あんな小さな標的・・・当たるのかよ」
 そのくせ対空ミサイルを撃ってくるから曲者だ。
「しゃべってないで手を動かせ、シン!」
 今まさに次の砲弾をセットしようと弾頭を動かすアスランとシンをガンナー達が見る。彼らの方こそ手を止めていた。
「アンタ達の出番じゃないのか?」
「でも俺達・・・」
 アスランを見る。苦々しく答えるその声は微かに震えていて。
「ここにインターセプターはない」
 それが何か分からないシンでさえ、後ろめたさを感じた。
「でもアンタは飛べるんだろ? その少年も」
 再び艦に衝撃。グラグラと揺れてセットされていた弾頭がゴロンと音を立てて落ちる。
 戦い方は分からなくとも、自分にはその力があるのだと思った。そしてそれを望まれているのだと悟った。だからシンは、その部屋を飛び出して甲板に向かう。
「シン!待てっ」
 後でアスランが名前を呼ぶのも気にせず走る。
 甲板に出て一気に視界が広がり、風が吹きすさぶ。レーダーに引っかからないギリギリの高度まで上昇したミネルバの周りで、爆発の名残の黒い煙がいくつも浮かんでは後方に流れて行く。


 シンは身体を空中に躍らせた。
 着地と同時にライトセーバーを抜く。地面は足場が悪くて動きが制限されるが、それでも尋常じゃない速さでミサイルポッドを積んだ地球軍の装甲車に向かう。
 ライトセーバーで装甲車を叩き切って次の車両に向かって飛ぶ。そこへ打ち込まれる銃弾をシンは身体をひねって避ける。目標を探すと別の場所でミサイルを発射したところだった。
「くっそ――っ」
 シンは弾を避けるのに精一杯で、間一髪間に合わない。そこへ降って来たアスランがライトセーバーでミサイルを叩き落し、掃射された弾幕を剣1本で防ぎきるではないか。
 気が付けば3台の装甲車が動きを止めている。ミサイルポッドを両断され、エンジンから煙を吐いている。戦闘能力を無くした敵車両の周りに、白兵戦に打って出る敵の兵士達も皆臥していた。
「指揮車を探せっ。どれかが命令を下しているはずだ」
 貴方はいつもっ!
 どうして最初から本気でやらない。
 そうすればこんな危機だってすぐに終わるというのに。
 感情のままにシンは目に入った車両から手当たり次第に攻撃し始めた。確かに頭を叩くのが正しいのかも知れない、でも、間に合わなかったら、見つける前にミサイルが打ち込まれたら? 
 不安を原動力にシンは発射される前のポッドを落として回った。機銃の掃射を足1本で交わして、光剣でなぎ払う。操縦席が横一文字に破壊され、爆煙に混じって血と肉が焼ける臭い。
 しかし、敵の攻撃をかわすアクションを取る分、シンは一歩出遅れる。その上、シンが避けた砲撃線上をミサイルが発射される。はっとしてミサイルの先を見上げれば、対空砲火中のミネルバ。運悪いことに護衛の戦闘機が視界に見当たらない。カッとシンの胸が熱くなる。鼓動で頭が埋め尽くされた。
 あそこにはステラがいるのに――――――っ!!


 今まさに飛び立とうと噴射する対空ミサイル目掛けてシンは身体をひねった。砂に足を取られようがお構いなしに全力で飛ぶ。ライトセーバーがミサイルを一刀両断にしても、彼は止まらなかった。
 今ミサイルを放った装甲車を皮切りにシンは飛び石の要領で装甲車を飛び回って、剣を振るった。爆煙の中から飛び立ち、また次の獲物を狙う。
 不思議と頭の中に敵の装甲車の位置が浮かび上がる。目まぐるしく動き回る装甲車がミサイルを発射しても、怯むことなく立ち向かう。いつしか上空からの援護もミネルバの艦砲射撃も止んでいたことにも気が付かずに、爆散するミサイルだけを探知する。誰が落としたのかなんて気にも留めずにただ突き進む。
 そしてとうとう、最後までミサイルを打ちつづけた装甲車が残った。
 これで最後っ。シンは突きたてようと大きく被りを振る。
「よせっ、シンっ!」
 寸前で止まる朱のライトセーバー。ゆっくりとシンは声のした方、アスランの方を向く。右手に持つライトセーバーの青い光が消えるところだった。
「もう戦闘能力はない、殺す必要はないんだ」
 自分の荒い息だけだが耳について、広がった自分の意識が休息に収束するのを感じていた。


「俺はこんな光景を、できればもう二度と、見たくなかった」
「ア・・・スランさん」
 硝煙とオイルの溶け合った一陣の風が二人の間を吹き抜ける。鼻腔につくのは血の臭い。
 ミネルバからクルーが降りてきて、残った装甲車の地球軍兵士を捕虜にしていた。シンの持つライトセーバーの特有の音が燻る装甲車の残骸と共に耳に残る。連行される彼らに注目されている二人は、それに構うことなく戦いの終わった殺戮の跡に立つ尽くす。
「でも、やっぱり駄目だな。君が死ぬことに比べればまだ我慢できる」
 アスランが脇で燃える最後の装甲車から視線を戻した。シンは久しぶりにあの緑の瞳を正面から見た気がした。
「お前は強い、だが、こんな戦い方じゃ命がいくつあっても足りないだろうな。強くなりたいのなら、力の使い方を学ばなければ駄目だ」
 それはシンが望んだ言葉。
 だけど、なぜか胸が痛んだ。

眠いです。もっとミネルバのクルーやいろんな人との出会いを作って行きたいのだけど難しいですね・・・。いよいよアスラン、パダワンを持つです。ふう。インターセプターの件、まだちょっと未定です。