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暁の幻




 帝都と聞くと高い建造物が無数に立ち並び、垂れ込めた雲と建物の間で路線飛空艇や人々が世話しなく動き回っている大都会・・・と想像しがちだが、プラントの帝都は違った。大都会で高層建造物が立ち並ぶのは間違いないが、予想外にそこは緑で溢れていた。建物には一定量の緑化が義務付けられており、建物の屋上は緑で覆われている。

 帝都ディセンベル。

 その中央に聳え立つ一際高い建物群を称して中央と呼び、そこには帝国の要である元老院、議会、王宮がある。皇帝は継承権を持つプラント家の王子達から選ばれ、元老院の推薦を受けて議会で承認される。元老院は直接国政に関与することはできないが、皇帝を選出するし、皇帝に助言を与えると言うこの点だけをもって権力の一角を担っていた。
 この場合、議会で否認されることはない。
 元老は引退した議員から功績を考慮して選出されるからだ。

 強大なプラント帝国とて、皇帝の独裁国家ではないのである。

 しかし、全ての組織を横断して三権を行使するフェイスマスターの存在が、帝国の統治機構を形骸化する。建前上は行政を担う皇帝の配下の各フェイス達が帝国全土を統治するが、その頂点に立つフェイスマスターには立法権も司法権もあるのだ。

 広大な帝国全土をより良く治めるために機動力と強制力を持たせた結果、今や、フェイスは帝国の象徴の一つにもなった。

 皇帝パトリックが定例の元老院議会から戻ると、早速、フェイスマスターの1人が報告に訪れていた。厳しい鎧兜を脱ぎ、金髪を無造作に無造作に伸ばしたフェイスが頭を下げる。

「カガリか。ご苦労であったな」
「はっ」

 親子ほどに二人の歳は離れているように見えた。

「アプリリウスの様子は」
「イザーク殿下のアプリリウス統治はまずまずの滑り出しかと」
「そうか」

 皇帝は大きな机の上で手を組みかえる。顔よりも皺の入った指には重厚なプラントの紋章の入った指輪があった。

「落ち着くまで待つしかあるまい。むしろ帝都にこそ蛇は住む、か」
「元老院はなんと」
「ギルバートを何とかしろと言ってきおった。研究所がよほど目障りと見える」

 夕暮れのオレンジ色の光が横の大きな窓から差込、絨毯の上に長い影を作る。

「しかし、研究所は表向き帝国の公的研究機関」
「そこでそなたにやって貰いたい事がある。種石を手に入れるのだ」

 フェイスの表情が揺れたが、パトリック皇帝は構わず続ける

「プラントの種石は失われてしまったのでな。あやつが求めるとしたら王墓の暁」

 短く了解した旨を伝え、兜を被るフェイス。
 金髪に彩られた顔と身体のラインを隠す甲冑を着込めば、フェイスマスター・カガリが女性だと見破るのは難しいかもしれない。部屋を出て行く姿を見送って、皇帝は組んだ両手に額を乗せた。頭上にある皇帝の冠が夕日を反射して赤く光った。





 王墓の入り口まで戻ってきていたシン達は、ひんやりとした入り口から陽炎が立ち上る外を見て最後の涼を楽しんでいた。

「ラクス様。急ぎましょう。アプリリウスの同志も殿下のお戻りを心待ちにしております」
「え、ええ。分かっております」

 入り口へと繋がる階段を降り砂の上を数歩進んだ所で急に日が翳った。手をかざして頭上を仰ぐと、そこには帝国の艦隊が浮かんでいた。

「帝国軍!?」
「ここは飛べないはずだ」

 しかし現に飛行戦艦、多数の飛空艇が空を飛んでいる。
 今またさらに、飛行戦艦から無数の突撃艇が射出され、こちらに向かってくる。気がつけば、周りを帝国兵に囲まれており、鎧の壁の一角が割れた。

「ラクス王女だな? ご同行願おう」

 まだ若い女の声。
 声を発したのは、1人だけ特別な鎧で覆い、黒いマントを翻すフェイスマスター。

「・・・カガリ」

 その名はキラの口から明らかになっていた。





 皆の命を人質にとられ、種石を渡せと迫られる所までシンの時と同じだった。しかし、第5艦隊旗艦の飛行戦艦の甲板で、ラクスはフェイスマスターに向かって種石はないと宣言した。

「王女。我らとて無闇やたらに争いたくはない、殿下さえご協力いただけるのなら、アプリルの自治を帝国が支援してもいい」 

 フェイスマスター・カガリとは残念ながら知り合いだといえるほど面識がない。
 皇帝の傍によく控え、言葉少なく寡黙な印象を持っていた。ただ、今のフェイスの中で一番の実力の持ち主だとも聞いている。
 しかし、一介のフェイスにそこまで権限があるかは、シンには疑問だった。

「よくそのような事が言えますわ」

 狙いは種石だ。
 ディアッカの時と同じように、手に入れたら用済みだと消しに掛かるに決まっている。

「失礼だが殿下、帝国相手に何ができる?」
「それはやってみなければわかりません」

 果てしない道のりになるだろう。何年掛かるか分からないが、ここから一歩が始まるのだと、ラクスが手を握り締めた。それなのに。

「ラクス様、これはチャンスでは」

 アプリル滅亡以来、共に復興の機会を伺っていたであろう腹心の部下がとんでもない事を言い出した。

「何を言うのです。ダコスタ! わたくしに帝国へ下れと?」

 ラクスが驚いて振り向くが、ダコスタは冷静に見えた。取り乱したり、何かを隠しているように見えない。ただ、淡々と策の一つとして述べる。

「いいえ。そうではありません。やつらの目的は種石で、今それは殿下の手にあります。うまく立ち回れば奴らの力を利用することも可能では?」

「本気か?」

 アレックスが突っ込み、シンは突然の仲間割れにはらはらラクスとダコスタを見る。そんなことを言うような人物には見えなかった。ラクス王女に仕え、忠臣の鏡のような男だと思ったのに。

 フェイスマスターに付け入る隙を与えてしまい、カガリがフッと笑う。

「そちらの部下の方が状況をよくご存知のようだ。殿下の望みはアプリル復興ではないのか?」

 言うが早いか、剣を鞘から抜く音。

「きゃあ!」

 剣が向けられた先はステラ。
 かつてアプリルの軍人に与えられた軍刀が、ステラの喉元に突きつけられていた。ダコスタの本気とステラを思って誰も動けない。まさか、身内にこんな伏兵が潜んでいようとは。

「この暁の種石は」

 ラクスは目を閉じる。王墓で会ったばかりの婚約者が微笑んでいるのが見える。
 貴方が応援してくださるのに、わたくしには期待に応えるだけの力がない。

「殿下、ご決断を」
「そちらにも利のある取引だと思うが」

 取り出した種石は暁と名づけられるだけあって、青白い光を放っていた。夜明け前の空と海。黎明の光。種石を持つラクスの手は少し震えていた。小指の指輪に反射して青白く光る。ダコスタの手からカガリに渡ってもその光は変わらず、特に誰が持とうが同じ光を放っている。

「殿下を丁重にお連れしろ」

 カガリが指示を出し、手にした種石を別の帝国兵に渡す。

「真贋を確かめろ」
「了解しました」

 ところが、すぐに異常事態が発生した。
 内包したシードの量を計測し始めた途端だった。

「これは! この種石は・・・シードを吸収しているっ!?」






 帝国兵に囲まれて連行される間、ラクスはずっと無口だった。ダコスタが必死に彼女を説得しようと声を掛けていたのだが、きれいに無視していた。

「ラクス様、あのフェイスマスターは信用できる人物です。アプリル復興に力を貸してくれます」
「信用などと。どの口が言うのです、ダコスタ」

 シンは信用を失う瞬間を見た。
 もはや彼女がダコスタの言を聞き入れることはないだろうと思う。
 なぜ、彼がこんなことをしたのかが分からなかった。

「ダコスタ。今はこの後どうなるかを考えるべきじゃないの?」
「・・・ヤマト将軍」
「ああ。そうだな、俺達このまま殺されてもおかしくなーーーどうした・・・」

 急にミーアがうずくまる。肩を抱いて息を繰り返している。アレックスが駆け寄るが帝国兵も同じように二人を取り囲んだ。

「勝手な行動をするな!」

 しかしミーアは動かない。

「熱いわ。熱いの・・・シードが熱い」
「ミーア! 大丈夫かっ!?」

 アレックスが伸ばした手を止める。
 もう、シンにも見えていた。ミーアの身体から立ち上る揺れる空気。どこかで見たことがあると思ったら。

 そうか。グレン王の王墓の中の空気と同じだ。
 立ち昇るのはシード。

 同時に飛行戦艦が揺れだして、誰の目にも異常事態が知れた。ミーアの様子を怪訝に思った帝国兵が『立てっ』と槍を突き立てたが、あっという間に吹き飛ばされていた。
 一度に二人の帝国兵を蹴り飛ばして、あり得ないほど高く飛ぶ。銃弾をものともせずに帝国兵をなぎ倒す。魔法はミーアの前で掻き消え、逆に倍になって放った魔導士に向かっていた。

「ミーア、どうしちゃったの?」
「俺だって、分からないよ」

 シンはミーアの突然の変化を見ているばかりで、唯一状況を理解していそうなアレックスを見る。その表情は悲痛で、動きの止まったミーアに歩いていってしゃがみ込む。

「あの種石よ。種石のシードが暴走しているわ。この飛空戦艦・・・落ちる」
「本当か」

 ミーアの呟きを聞いてシンはぎょっとする。アレックスの手作り飛空艇とは訳が違うのだ、帝国艦隊の旗艦が落ちることなどありえない。

「嘘だろ。こいつが落ちる?」

 微かな揺れは続いているけれど、信じられなくてアレックスをもう一度見る。彼は疑うことなど何もないような顔をして、ミーアを抱き起こしに掛かっていた。

「脱出するぞ。ここは沈む」
「お待ち下さい、それは本当ですか?」

 驚いたのはシンだけではない。

「ああ、ミーアがそう言った」
「君の勘は当てならないけれど、彼女なら話は別だ。急ぐよ」

 アレックスはミーアを担いでいたから、シンとステラはキラの後ろについて道を探す。ラクスも頷いて飛行甲板を目指したが。

「駄目だ」

 行く手を阻んだのはダコスタ。

「今、ここでこの飛行戦艦から降りるなど、駄目です」
「ダコスタ、どきなさい」
「アプリルの復興には帝国の力がいる!」

 剣を抜くから、こちらも言葉で説得を続けることができない。
 スタッフを構えて対するラクスを庇うようにキラが前面に立った。シンはアレックスとミーアが動けないのを思い出して、慌てて剣を抜く。

「ステラはラクスを守って」
「うん」

 キラとダコスタの打ち合いが始まる。
 一つはアプリルの軍人に与えられる紋章入りの軍刀。もう一方はどこで拾ったのか分からないただの剣。何かに忠義立てする剣ではない、けれど、持ち手の願いはおそらく同じ。

 シンは剣を抜いてはいたけれど、二人の間に割り込むことはなかった。

 勝負はすぐについたのだ。

 ダコスタががくりと膝をついて、剣で身体を支える。
 キラの横にラクスが立っていた。

「殿下は帝国の強大さをご存知ない。この2年間どれだけの犠牲を払ったか。もはや、我らレジスタンスだけの力だけではどうにもならないというのに!」

 滅びた王国の復活。
 死んだはずの王女を旗印に帝国から独立を勝ち取る。

 それがどのようなことを意味するのか、本当の所、シンにはよく分かっていないのだ。けれど、目の前の息絶えようとしている男にはそれがいかに困難かを身をもって体験したのだ。王国滅亡から2年間の地下活動の間で。

「その通りだ」

 ダコスタの奥の通路から鎧の音がガチャリガチャリと近づいてくる。
 この声は、フェイスマスター・カガリ。

「ラクス王女。まさか自分が起っただけで独立できるとでも?」
「いつかは必ず」
「滅亡から2年。何もできなかった貴方が? 王女だと証明するものも何もない」

 唇を咬んで耐えるラクス。
 矛先を変えたのか、フェイスマスターがキラを見る。

「お前に何ができるができるというんだ? ヤマト将軍」
「諦めてしまったら・・・それで終わりなんだ」

「お前が、それを言うのかっ!」

 ごろんとダコスタを足蹴にして、フェイスマスター・カガリが一歩近づく。

 なんだ? この二人は・・・とても敵同士とは思えない遣り取り。
 ハッとして、シンはキラとフェイスを見た。
 確かキラはこう言ってなかっただろうか。

 双子の姉に嵌められたのだと。
 まさか、目の前のフェイスがそうなのだろうか。

「現実を見ろ。キラ・ヤマト」




「だからこそ、抗うんだ」





 一瞬の間を置いて、キラが応える。
 それを聞いて、今度はフェイスマスターが黙る番だった。

「君も早く脱出した方がいい。この船は落ちる」
「何を馬鹿な事を」

 気のせいか、振動が激しくなったような気がする。

「忠告はしたよ」
「せいぜい逃げるがいい、どうせお前には何も成し遂げられやしないさ」

「うん。分かってる」

「いつまでしゃべってんだ。早く逃げるぞ、こら」

 ラクス王女でさえ静観していたのに、割り込んだのはアレックス。
 ミーアに肩を貸し、開いた手で何かを投げる。それは弧を描いて、キラとフェイスマスターの間にゴトンと置いて、バヒュッと爆ぜた。

 もくもくと上がる煙。それは煙幕。

「アンタ、なんでそんなもん持ってんだよ!」
「備えあれば憂いなし、だ」

 煙幕などと言う、ある意味珍しいものが、あまりに帝国の飛行戦艦という場にそぐわなくてシンは早速楯突いていた。

「ミーアがせっかく知らせてくれたのに、時間を無駄にするな」

 キラがあっけに取られて、そして笑う。

「ああ、うん。そうだね。そうだ」

 駆け出すアレックスとミーアを追って、キラがラクスを振り向く。

「殿下も、早く」
「ラクスも・・・急ぐ!」

 キラとステラに引っ張られてラクスが一歩動く。倒れたままのダコスタを一度だけ振り返り、煙に完全に隠れて見えなくなると、前を向いて走り始めた。

 ドォン。

 煙が晴れないうちに大きな衝撃が襲い、揺れは艦全体に及んでいた。
 煙幕とは違う煙が通路に充満し、身体に感じるのは落下による浮遊感。
 通路の帝国兵も慌てていて、逃げるシン達を追うべきなのか、緊急事態に指示を仰ぐべきなのか、戸惑っているのが幸いした。飛行甲板の突撃艇に乗り込む。

 その時にはバキバキと艦隊が軋む音が盛大に起こっていて、振り向くのが怖かった。
 ミーアの言うとおり、この飛行戦艦が落ちる。そんな事が本当のことになっている。

 本来1人乗りのところに、6人。
 狭いコックピットにギュウギュウ詰めの帝国軍突撃艇が浮上する。
 炎が喰らいつくように伸びて飛空艇に伸びるが、操縦するアレックスが飛行甲板を障害物を避けながら飛ぶ。とても避けられるようなものではなかったけれど。

「うわっ、ぶつかるっ」
「うるさい! 黙ってろ、シン」

 右に左に振られる突撃艇の中で、ステラが床に横たわったミーアに覆いかぶさる。

「怖いっ」
「・・・大丈夫よ・・・絶対・・・無事に切り抜けられるから」

 空賊としてずっと仲間だったミーアには信じられても、シンには目に見えるものが全て。

「でもっ・・・て、あーーーっ!!」

 飛行甲板に降り注ぐ残骸と、分解する飛行戦艦を見たら誰でも声にならない叫び声を上げる。何せ、破片は四方八方に飛び散っているのに、戦艦の中央部分はまるで空洞のように何もないのだ。

「空賊を、なめるなよっ」

 加速が掛かって、転がらないように座席にしがみ付くシンは、急にその力がなくなったのを感じて目を開ける。大きな弧を描くように爆発の中心から逃れた突撃艇は、眼下の落ちる飛行戦艦の上をゆっくりと旋回していた。

「あれはっ」

 ラクスが指を指した方角に、キラキラと輝く何かが浮かんでいた。

 青白い光を放つそれは、暁の種石。
 爆発の破片と一緒に宙を飛んでいる。

「拾っていくだろっ!」

 突撃艇はもう一度、爆発の余韻が残る残骸の中に向かって旋回した。





「お礼を言いますわ」
「そりゃ、どーも」

 またもや財宝を手に入れそこなったことで、当然のごとく機嫌が良くないアレックス。用は済んだとばかりに先を急ぎたいラクスが別れを告げる。

「シン殿下。これでお別れですわね」
「そう、ですよね。ラクス王女もお元気で」

 プラント王子の自分がこう言うのはおかしいのだろうが、相手はアプリルの王女、ラクス・クライン。いくら名ばかりとは言え、こんな時に失礼はできなかった。

「アレックス、君も。また機会があったらよろしく」
「さっさと行け」

 キラの言葉にもひらひら手を振って追い出したアレックスはくるりと踵を向けて、セイバートリィの元に戻る。

 空中都市ターミナルで別れた足で、ラクスとキラはバルトフェルト侯の元へ急いだ。取り戻した種石と決起について話し合う為だったのだが、侯から出た提案は意外なもので、ラクスは言葉を失う。

「空中都市ターミナルでの王女の安全は保障しよう」
「わたくしに身を隠せと」

 意味が分からないラクスではない。

「今の君に何ができるのかね?」

 ダコスタやフェイスマスターと同じ事を今また、頼りにしているバルトフェルト侯も口にする。それ程までに帝国は強大なのだと改めて認識せずにはいられない。

 待つことに反対ではありませんわ。けれど、それはいつまでなのでしょう?
 もう2年待てば宜しいのですか?

「とにかくラクス。君には休息が必要だよ、身体を休めてゆっくり考える時間が必要だ」






 そして、飛空艇の発着ポートでラクスやキラと分かれたシン達。空賊の一行は一旦アプリリウスに帰って、ステラのいた雑貨屋の様子を知るべく発進する準備を進めていた。

「また、収穫なしか~」
「食い扶持が増えたってのにさ」

 ヨウランとヴィーノを手伝うシンとステラをあわせた4人が、整備と物資の積み込みをしている所だった。燃料はかからなくても乗員には燃料がいる。アプリリウスに寄った後、小金を稼ぐことにしていた。いわゆる空賊の本業の事である。

「アレックスは?」
「発進の手続きをしに行ったぜ」
「こらっ、シン。サボってないで、こいつ全部積み込むぞっ」

 ヨウランが腕を振り上げている。シンとステラが麻袋を一つずつ持ち上げてカーゴスペースに運ぶ。全部運び込むと、セイバートリィに繋げていた色々な管を外しに掛かる。水道管をごろりと外して横たえ、蓋を閉める。

「これで後はアレックスを待つばかりっと」

 どやどやと4人が深紅の飛空艇の中に戻る。カーゴスペースの荷を仕分けして適当な位置に固定する。ようやく一仕事ついて、計器の点検の為にコックピッドに戻った時、そこには先客がいた。

「あれ、アンタ」

 まずヴィーノが気づいて、ヨウランが『げっ』と零す。遅れて入ったシンとステラが先客二人の名を呼んだ。

「ラクス! ・・・とキラっ!?」
「またお会いしましたわね」

「なんだ、どうかしたのか?」

 いつの間にか帰って来ていたアレックスがコックピットに入って来て、露骨に嫌そうな顔をする。最後に顔を見せたミーアが驚いて少し笑う。

「あらあら」
「ここで何をしている?」

 無断侵入がばれたラクスとキラは平然とその目的を口にする。

「セイバートリィに乗せてもらおうと思いまして」
「僕達の方が早かったみたいだったから、先に上がらせてもらったよ。駄目だったかな」

 駄目も何も・・・。シンはアレックスを振り返った。
 案の定、怒っている。
 確実に今後の予定が狂うからだ。アプリリウスに行く予定も、その後に一稼ぎする計画もパーになる。

「もう関係はないはずだ」

「それは困りましたわ」
「なぜだ?」

 問うアレックスにラクスは正面から言う。
 その瞳は迷いがなく、背中に光を受けて。

「現実から目を背けず、屈せずにわたくしの手で成し遂げたいのです。アプリル復興には長い時間が掛かるかもしれません。けれど、その道を自分の足で歩みたいのです」

 2年の間彼女を支えた忠臣は、あまりの壁の高さに屈してしまった。
 途方もない夢の為に、皆が表だって動けずにいる。

「その為に、歌だけではなく、守られるだけでもなく、剣を取ると決めたのです」
「反乱分子の親玉、過激派王女様を乗せるなんて、真っ平ごめんだな」

 拒否するアレックスをラクスは予想していたのだろう、一呼吸置いて微笑む。

「では、わたくしを盗んでください」
「は?」

 アレックス同様、シンも疑問符を浮かべる。
 盗むとはどういう意味だ?

「空賊なのでしょう?」

 確かに。アレックスは空賊だ。

「わたくしをここから盗んでくださいな」

 空中都市から連れ出して欲しいと、ラクスはアレックスに頼んだのだった。
 ポンポンと肩を叩く音はミーアの手から出ていて、スタスタとコックピットのシートに座る。

「何してるの? アレックス、早くアプリリウスに行きましょ」

 ヨウランもヴィーノも自分の席について発進の準備を始める。

「おい、ミーア! 俺はまだっ」
「あー、ほらほら、文句言わないの」





よしよし、今回は短いぞ(あまり話しが進んでいないというのは置いておいて)配役からいって、こういう流れなんですよね・・・。道のりは遠い。