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形見とメモワール






 雑貨屋に残されていたのはステラへの手紙で、何とか読めるつたない字で行商に出ると伝言が残されていた。落ち込むステラを励まそうとシンは、お宝の話をふって元気付けようとしたがその目論見は外れた。

 アプリリウスで足止めされたのだ。
 勿論、ラクス王女にである。

 初めのうちこそ何とか追い出そうと躍起になっていたアレックスも、暖簾に腕押しのラクスに仕舞いには諦めモード。

「アレックスが口で女性に勝てるわけがないじゃない」
「くっ・・・・・・」

 ミーアはラクスに飛空艇を乗っ取られたも同然の状態を楽しんでいて、ヨウランやヴィーノはいつものことと端から期待していない様子。

「それで、次はどこへ行くんだ? 言っておくが、アプリリウスの執政官府へ乗りつけるなんてのは却下だからな」
「そこまで考えなしではありませんわ」

 身を潜めた城下の宿屋の窓からは明かりのついたかつての王宮が見える。月明かりの下で壮麗な白い宮殿が浮かび上がっていた。

 あそこには兄さんがいるもんな。
 シンは今すぐ兄に会いに行こうという気はもうなかった。ステラのこともあったし、何か胸につかえるものがあった。
 それは、アプリル復興のことかも知れないし、プラントの実態のことかも知れない。もやもやとしたものが渦巻いていて、ただ兄の無事が確認できればいい。と言うわけにはいかなかった。

「この暁の種石のことです。これ一つで帝国の艦隊を消滅させてしまいました。おそらくとても大きな力で、帝国に対抗できる唯一のものかも知れません」

「種石少し元気がなさそうだね、シン」
「そうかな・・・? うん、そうだな」

 ステラの言うとおり、王墓で手にした時より幾分光が弱まっているように見えた。部屋全体を満たす程の光は、仄かな光になって宿屋の部屋を照らしている。

「でも、まだ光は消えていません。ミーアさん、どうでしょう、シードを感じますか?」

 ミーアが瞳を閉じた。何かに耳を澄ますように静寂が降りる。

「飛行戦艦で感じた程じゃないけれど、とても強いシードね。鉱山で取れる石とは比べ物にならないもの」

「僕達の切り札だね」

 帝国が求め、人工に作り出そうとしている種石。
 それは種石一つで艦隊を破壊するほどの力なら、喉から手が出るほど欲しいだろう。魔法の補助として使えば効力は計り知れない。

「3つも持っていたジョージ・グレンが大陸を統一できるわけだ」

 アレックスの言うとおり、3つも種石があれば太刀打ちできるものはいない。
 それが神から下されたものだと言うから、もはや彼に与えられた天命である。

「この種石があれば、アプリルを取り戻せるかもしれません」

 ラクスは手の中の種石をぎゅうっと握り締める。

「でもさあ、それって使い方・・・分かるのか?」

「えっ」

 顔を上げる彼女の瞳が揺れる。
 古くは覇王の時代、そして消滅した艦隊を前にして種石の力を目にしてきたけれど。何をどうしたら種石が威力を発揮するのかは分からないのだ。シンには勿論、そしておそらくラクスにも。

「それは・・・」
「ステラ知ってる」

 全員がステラを見るが。

「きゅーっとするとキラキラって光るの」

 はぇ?
 きゅーっとしてキラキラ?

「胸の中でねキラキラして・・・」
「助けてって祈るんだよな、ステラ。そうすると種石が光って願いが叶う、だろ?」
「うん!」

 アレックスの嘘っぽい笑顔に、どこの詐欺師だよとシンは突っ込むが、このまま意味不明なステラの種石活用法を聞いていても仕方ない。祈って願いを叶えてくれるのは神様だけだけど、みんなの願いを叶えてくれるそんなありがたい神はいない。

 ラクスが再び手の中の種石に視線を落とした時、ミーアが口を開いた。

「キャンベラの古い教えに種石が出てくるの」

 大地の声と、風の詩に耳を澄ませ
 炎を見つめ、水の流れるままにまかせよ
 種石が弾ける時、視界は開け
 蒼穹への道を示す

「シードが弾ける時とはどういう意味なのでしょうか?」
「力を発揮するって砕けるって事?」

 ラクスとキラが身を乗り出すが、ミーアはそれ以上の答えを返すことができなかった。それはあくまで伝承であって、彼女は学者ではないのだから。

「ごめんなさい。あたしにも詳しくは分からないの。でも、里の長なら」
「何か知っているかも知れないと・・・」

 種石のことを聞きにミーアの故郷へ。
 自動的に次の行く先が決まったようなものだった。
 アレックスが心配そうに彼女を見るが、ミーアはどこを見ているのか分からない視線を窓の外に向けていた。

 キャンベラの里は山に囲まれた白い風車が回る台地。知識として知ってはいるが、実際にどこにあるのか知られていない隠れ里だった。

「キャンベラの里ですのね。宜しくお願いしますわ」

 シンとステラの後ろにいたアレックスが壁から背を離して、唇の端を吊り上げる。
 その様子を見て、嫌な奴だとシンは思った。
 何を言い出すのか検討がついたからだ。

「誰もただで協力してやるとは言っていない。報酬はそうだな。その指輪でいい」

 そう言ってアスランが指したのは、ラクスの小指にある不恰好な指輪だった。お世辞にも価値があるとは思えない代物で、シンはアレックスが譲歩したのだと思った。

 空賊として格好がつかないって事か。

「あの・・・こちらでないと駄目でしょうか?」
「ああ」

 しかし、意外にも彼女はその指輪を外すことを躊躇していた。
 ラクス以外その訳を知らないので、アレックスもシンも皆不思議がっていたが、ついにラクスはゆっくりとそれを外して彼に差し出す。

「もっといいお宝が手に入ったら返すさ」

 ラクスがさびしくなった手を撫で、宿屋の部屋には幾分重たい空気に満ちた。






「いいのか?」

 出発を明日に控えて、アレックスとミーアが宿屋の1階の居酒屋で酒を嗜んでいた。薄暗いランプだけのテーブルでアレックスが空賊のパートナーに問う。

「だって、王女様ったら必死なんですもの。・・・それにね、アレックス。シードをあんなに強く感じられてちょっと嬉しかったのも事実なの。声が聞こえそうだったのよ」
「そうか」

 手にしたグラスをテーブルに置く。木でできたテーブルはあちこちひび割れ、ナイフの傷も多くて染みだらけだった。

「でも彼女は違うわ。帰りたい場所に未来があるの、未来を自分で切り開ける人よ」

 よく見ればテーブルにはグラスは一つしかなく、替わりに半分ほど減ったデカンタが置いてあった。

「貴方こそ、いいの?」

 グラスの氷はほとんど溶けてしまっていた。

「今更だよ」
「そうね。私達、今更ね」

 デカンタを両手で支えて、居酒屋の小さな窓を覗き込めば、王女が夜風に当たっていた。

「あの子も、きっとそうね」

 窓の向こうにはこっそり宿屋を抜け出したシンがいた。





 宿屋には小さな中庭があって、庭には緑に囲まれた池がしつらえてあった。池に掛かる橋がアプリルらしくない石作りのもので、砂漠の中のアプリリウスでは珍しい作りの宿屋。

「怒っていますか? 貴方の指輪を渡してしまったこと」

 月明かりの下。
 橋の上にいるのはラクス1人、けれど、彼女の視線は橋の上にあり、目線は少し高かった。まるでそこにいる誰かと話しているように見える。

「いいえ、貴方はそんな事おっしゃらないですわね。わたくしも覚悟を決めないといけない時なのですわ。貴方の命を奪い、アプリルはわたくし達から奪われてしまった」

 ラクスの言う『あなた』が誰を指すのか、初めシンはピンと来なかった。
 父王ではないとしたら、ああ、指輪の持ち主か。送り主のことだと気がついた時、彼女の先にいる人物が見えた。

 青く白く浮かび上がる姿。
 彼女はその人物に話しかけているのだ。

「歌だけを歌っていられた、あの平和な時ならよかった」

 アプリルのラクス王女は歌姫として有名だった。
 アプリル王国が滅ぶまで、カノ国を訪れる誰もがその歌を聞き、賞賛した。けれど、その国はもうない。歌姫もこの世にはいない。その婚約者も。

「あのさ、ラクス・・・誰と話をしているんだ?」

 !?

 ラクスが振り向く。結い上げたピンクの髪が揺れた。
 と、同時にラクスの横にいた人物が消えていく。

「シン・・・驚かさないで下さい」
「そこにいたのって、もしかして、アスラン・ザラ・プラント?」

 今度こそ。ラクスは大きく目を見開いた。





 シンは橋の上に来て欄干に手をかける。

「見えていたのですか・・・」
「ああ。グレン王のお墓でもさ、アス兄が種石を渡す所、俺にも見えたんだ」

 二人して池に映った月を見る。
 砂漠の夜は意外と冷える。シンは少し肌寒く感じて腕を摩った。

「アスランは、シンのお兄様でしたわね」
「もういないけどさ」

 7年前、後継者争いに敗れて死んだ。
 いつからこんなに平然と死んだ兄のことを口にできるようになったのだろう。あんなに好きだったのに、絶対信じないと我を張っていたのに。月日と共に想い出は薄れ、いないのが当たり前になっていく。

「俺、ラクスと婚約していたなんて全然知らなかったんだよ。死んでから知ったんだ」

 大々的に行われた盛大な葬儀が、一番上の兄の勝利宣言だと揶揄するものもいた。弔辞に訪れる中にアプリルからの使者もいた。きっと、ラクスもその中にいたに違いない。

 婚約者の葬儀に出たラクス。

「わたくしはシンが羨ましかったですわ。お話をよく聞きましたから」
「どうせ、俺のことあーだこーだ言った話だろ」

 ふふふ・・・と笑うラクスはその内容までは教えてくれなかった。

「お会いする機会は少なかったのですが、手紙ではよく夢のような話をやり取りしました。アプリルの緑化計画や、わたくしの歌をどうやって世界中に届けるか、なんて方法から、子供の話まで・・・!」

 帝都ではどちらかと言うとでき過ぎな兄で、こっそり街に繰り出す時は驚くほど現実的だった兄の意外な一面。自分の知らない姿を他人の口から聞くのはなんとも複雑な気分だった。

「婚約が決まった時に自分で作ったという指輪を下さって」
「アス兄は手先が器用だったから」

 露天で売られている精巧な工芸品を改造して店の主人に怒られたりしていた。風邪で寝込んだ時は果物を動物の形に切ってくれた。

「あんな指輪一つに国の命運を掛けていたアプリルも甘かったのです」

「じゃあ、アレックスに渡した指輪って・・・」
「そうですわ。その指輪です」

 小指にしていたからてっきりただのアクセサリーだと思っていた。そんなものに何を戸惑うことがあるのだろうと思っていた。まさか、そんな思い出の深い大切なものだったなんて。
 シンはお土産を選ぶようにあの指輪を指差したアレックスを恨む。
 アス兄の指輪を今も大事に持っていて、王国の為にラクスはこんなに頑張っているのに。

 皆、彼女には何もできないと言う。
 彼女はまだ自分の夢を諦めていないのに。

 たとえ皇帝にはなれなくても、兄とラクスの作るアプリルを想像した。
 きっと、今よりずっと砂漠も少なく緑に溢れ、兄は便利な機械を作りながら彼女の歌を聞いているだろう。

 歴史に『もし』はないけれど。
 兄弟で争い、殺し合い、帝国の名の下に法さえ歪んでしまう。

「シンはどうなさいますか?」

「えっ、俺?」

「はい。いつまであの空賊の見習いをしているのです?」

 名ばかりの王子と名乗れない王女。

「正直どっちがいいか分からない。帝国が悪いのか、アプリルが弱かっただけなのか。けど、ラクスが本当の自分に戻れないのは、どこか歪んでいるってことなんだと思う」

 今まで、帝国の王子である自分に疑問を持ったことなど一度もなかった。
 甘やかされているとは思っていたけれど、本当に甘えたままでいいのだろうか。今までの自分は、父や兄達の言うとおり、何も見ず、何もしなくてよかったのだろうか。

「俺はその歪みが何なのか知りたい」

 手を合わせ目を細めてシンを見るラクス。
 きっと自分と同じようにアレックスにアスランを見たのだろう。
 彼は確かに二人のよく知る人に似ているから。

「帝都に戻ったらきっとずっと分からないままだと思うんだ。だから、一緒にいるんだと思う」

 死んだ兄に重ね合わせて、懐かしさのあまり離れられなくなっているとか・・・そんなんじゃないから。

「シンはそんな事を考えてましたのね。初めて地下水道でアレックスを見た時、誰かに似ていると思って、わたくしびっくりしましたのよ」

「だから、絶対、アイツがちょっとアス兄に似てるからって訳じゃないからっ!」

 本当にアプリリウスの夜が冷えてきた。
 指先が冷え、さっきよりも池の月が白く見える。

「わたくしも今はアプリリウス奪還にこだわらずに種石の謎を追いますわ。残念ながらシンのお兄様、イザーク様はアプリリウスをよく治めていらっしゃいますから」









 翌日、アプリリウスを立ったセイバートリィは、半日ほど行った所でシン達を降ろすことになった。森の向こうに雪を冠した山脈が連なり、その向こうは青い空と白い雲。

「ええ、こっから歩くんですか~」
「あのなあ、いきなり飛空艇で乗り付けられるか!」

 キャンベラの里はグレン王の王墓のように飛空艇が飛べない場所にあるわけではない。けれど、その場所を知るものは少なく、また訪れる者もほとんどいない閉鎖された場所にあった。四方を険しい山に囲まれた大地にひっそりと暮らしている亜人。

 森を掻き分け、一日がかりで峠を越えた所に白い風車が幾つも回る台地が広がっていた。青い空と緑の台地に白い風車。シンは帝都を出てから驚きの連続だったが、これほど牧歌的な風景を見たのは初めてだった。

「すごくのどかな場所だね」

 キラの言うとおり、隠れ里というイメージに少しそぐわない。

「あの細い道を下るのでしょうか・・・」

 ラクスの指差す先に白い小路が見下ろす集落まで細々と続いている。風が山から吹き降ろし、ラクスの髪も、ミーアの長い髪を舞い上げる。

「ああごめんなさい。里に人間は入れないの、まずあたしが話を・・・」
「無理するな、ミーア」

 アレックスがミーアの言葉をさえぎって、シンとステラを手招きした。

「シン、ステラ、里にメイリンって子がいるからちょっと呼んで来てくれないか」

 行った事もない所に、会った事もないキャンベラを呼びに行く。
 いくら見習いとは言っても、それは乱暴じゃないかと思って言い返そうと思ったが、アレックスはどこか反論を寄せ付けない。
 言葉を飲み込んだシンの替わりに、ステラが返事をする。

「分かった。メイリン呼んでくる」
「ちょっと待てって、ステラっ!?」

「里の子達に聞けば教えてくれるから」

 ミーアを振り返ったら、彼女がとてもさびしそうな顔をしていて、いつものミーアと違うなとシンは思う。けれどそれを聞くことはできないなと、走り出したステラを追いかけた。

 細い道の先には深い谷が横たわっていて、壊れそうなつり橋が架かっていた。
 ステラはもう向こうに渡ってしまっていて、シンを待っている。

 結構、度胸あるよなあ。
 空中都市だって、見ず知らずの空賊達に着いて行ったみたいだし。 
 ずっと行商で旅して回ってたのかな、何歳くらいからなんだろう。

 ギシギシ揺れるつり橋をわたる最中、シンはステラのことを考えて気を紛らわしていた。何せ、足元は深い谷。足を滑らせたらどうなることか。まして、つり橋が落ちたらと考えると足元からゾクゾク来る。

「シン、遅いーーーっ」
「悪い悪い」

 足を踏み入れたキャンベラの里。
 二つの風車の間に門があって、キャンベラが1人立っていた。ミーアと同じ、目のやり場に困るくらいのナイスプロポーションの女性がシン達を見ている。無視するわけにもいかないので、彼女に聞くことにする。

「あの。すいません。メイリンって子知ってますか?」

「知っているが、人間がキャンベラの里に何の用だ」
「あー。ちょっと話がしたくて」

 見下ろされる彼女の頭にも大きくて長い耳がある。
 ステラはそれに釘付けで、握った手がうずうずしているのが見えた。ミーアは薄いピンク色をしているが、目の前の彼女の耳は先が黒い。

「話? キャンベラは人とかかわりを持たぬ。話す事などない」
「話があるのは俺じゃないくて、キャンベラだよ」

 彼女が眉を寄せる。

「そのキャンベラの名は?」
「ミーアってんだけど。ピンク色の髪で、耳はちょっとピンク色っぽくて、目は・・・」
「私の一存では決められぬから、里の長に聞くがいい」

 シンは拍子抜けしてステラと二人で門を潜り抜ける。
 点在する風車の下に家があって、キャンベラ達がいた。シンとステラに好奇の視線を寄越すが、誰も話しかけてはこない。いつもはキャンベラが珍しい世界も、ここではシンとステラが少数派。

 人間が珍しいのかなあ。

「長ってどこにいるんだろうな」
「んーーー」

 二人で里の中をぐるぐると回って、長はどこかと聞いたが、誰も愛想は悪く、一行に居場所が掴めない。ついに、最後の風車にたどり着いた。里の中で一番古くて大きな風車だった。家の上に二つの風車が回っている。

「すいませんーん」

 返事がない。

「誰もいませんかーーーっ?」

 家の中は暗く、誰かいそうな気配はなかった。がっかりした二人が諦めて帰ろうとした時、背後から声が掛かった。

「あたしの家に何か用?」

 振り返ると、濃い紅色の髪を短く切ったキャンベラいた。
 見た目、シンと同じくらいの歳だろうか、気の強そうな少女。

「アンタがこの里の長?」
「誰よ、アンタ。どうして人間がここにいるのよ」

 なんともシンと同レベルの語り口に、シンのほうが面食らっていた。

 驚くことに目の前の少女がこの里の長だ知って、思わず感嘆の声が出そうになるのを辛うじて押さえる。シンが自己紹介とステラを紹介すると、彼女はルナと名乗った。

「何よ、何か文句あるの?」
「あっ、いやそうじゃなくて・・・」

 なんか、信じられないよなあ。長ってーと、こう長い白髪と髭で寝てんだか起きてんだか分からないじーさんを連想すんだけど。

「どうやってここまできたの?」
「案内してもらったんだよ。途中まで飛空艇で、森からは歩き」
「飛空艇って真っ赤な?」

 正直シンはびっくりした。
 普通は真っ赤な飛空艇などめずらしいもので、こんな隠れ里でお目にかかれるようなものかじゃない。飛空艇を見たことがあるのかすら危ぶまれるというのに、目の前の少女はばっちり色まで当てている。

「風が教えてくれるから分かるのよ。で、用は何?」
「メイリンって子に会いたいんだけど」

 ようやく、本題である。
 如何せん向こうのペースだ。

「・・・メイリンに何の用?」
「知ってるのか!?」

 お使いの出口が見えて声が上ずってしまったが、長であるルナは少し複雑そうだった。むしろ、シン達を伺っていると言っていい。

「メイリンは、アタシの妹よ・・・今は、ここにはいないわ」

 膨らんだ風船が急にしぼんでしまう。

「どこに行けば会える?」
「それよりも、一体誰がメイリンに会いたいと言っているのか知りたいわね。どうせアンタ達じゃないんでしょ」

 図星なこれも風が教えてくれるのだろうかと思った。





 里の外。
 シンとステラの帰りを待っているミーア達の所にシン達が戻ってきた。1人のキャンベラがいて、そのキャンベラがメイリンだと思ったのだが、アレックスは眉を寄せ、ミーアが視線を緑の丘に落とす。

「そうじゃないかと思っていた。朝から風が騒がしかったから」

 シンとステラの前に出る。

「ルナ・・・」
「久しぶりだわ」

 僅かな会話の隙間にただならぬものを感じる。それも、良くない方にだ。誰が見たって仲が良いようには見えず、シンはミーアとルナを交互に見る。

「何しに来たの、アレックス? そっちは国を失ったお姫様と裏切り者の将軍ね?」

 ラクスとキラが構えたが、ルナは顔色一つ動かさない。
 ため息をついてアレックスが口を開く。

「相変わらずだな、君は。俺達は種石のーーー」
「いいの、アレックス。アタシの問題だもの。あのねルナ、種石の使い方を探しに来たの・・・キャンベラの古い詩にあるあれよ。長の貴方なら何か知っていると思って・・・」

 いつになく元気のないミーアの話し方。

「どうしてアタシに聞くの? そんなのミーアが風に聞けばいいじゃない。大地と風が教えてくれるわ」
「ルナ・・・お願い」
「里を出て行ったあなたに明かすことができると思うの? 私は里の長だもの、キャンベラの秘密を守る義務がある」

 長と言うにはあまりに若い少女がミーアにきつく当たる様は、正直見ていて気分のいいものじゃなかった。何より、白か黒かで判断して、理由一つ聞かない長にシンは理不尽なものを感じた。

 まるで息が詰まる。

「そんな言い方ないだろ! お前が言ったとおり、そこにいるのはアプリルのラクス王女で、種石を持っているんだ、それをっ」

 シンがミーアとルナの間に割り込むが、さらに後ろから声が割り込んだ。

「ルナさんとおっしゃいましたね? わたくしの手には今、暁の種石があります。ですが、これは先程、突然シードを放って帝国の艦隊を消滅させてしまいました。制御できなければただの危険な石・・・私は種石の制御の方法を知りたいのです」

 ゆっくりと歩み寄って、ルナを真摯に見つめる。
 強気な瞳が揺らいで、視線が落ちる。
 ラクスの言うことは最もだ。種石は覇王の末裔に伝わる王家の証。使い方を知っていてなんら問題がない。

「確かにアタシが風に問えば、きっと詩の意味を知ることができるわ。でも、今は無理」
「どうしてかな?」

 キラの言い方は優しげだが、逆にじわじわと追い詰めるような感じだった。
 それでなくても、長であるルナは先程までの気勢がどこに行ったのやら、声に張りがない。

「風が騒いでいるの、荒れていると言ってもいい」

 小さな声に、ミーアがピクリと反応する。

「ルナ、里に何かあったのね・・・?」
「メイリンが帰ってこないの」

 メイリンとは自分達が探しているキャンベラではないか。

「帰ってこないって?」
「あの子は勝手に里の外に出て、もう3日も帰ってない・・・風に問えば森をさまよっていると・・・でも、何かが邪魔してメイリンを追えない」

「じゃあーーー」
「よし! メイリンを探し出したら、お前、風に種石の使い方を聞いてくれるか?」
「お前?」

 言いかけたキラがポカンと口を開ける。
 ルナとステラがほとんど同じタイミングで反射的に聞き返していた。

 ゴチッ。

「イテッ」

 頭にゲンコツが降りて、シンは斜めに見つめるルナを見て慌てて言いなおした。ルナのシンへの冷たい視線に替わりはなかったが、メイリンを連れて戻ってくれたら考えてもいいと約束してくれた。

 森へと向かう途中、ルナはミーアを呼び止めて『ごめんなさい』と小さく呟いたのが聞こえた。ラクス達がスタスタと進んでいくから、シンはステラの手を引いて、離されないようについて行く。後ろを振り返るとアレックスがミーアを待っていて。

 ルナが里へと1人帰っていった。

 飛空艇から降りて、登って来た森は左右に大きく広がって、木漏れ日が射す向こうに深く暗い闇があった。





前半だらだらと書いてしまって、今回長くなりそうだからぶった切ってしまった。早く進めないと! 世界の仕組みとか実はよく考えずに書いているから、二度と出てこない設定とかありそうだ。