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Men of Destiny 31

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孤独な戦い



 青く輝く海の上に落ちる戦艦の影。艦橋には太陽の光を反射してキラキラと輝く波を見つめる瞳があった。アークエンジェル艦長のマリューである。彼女が先に陣取っていた姿を見つけて足を止める。
「キラ君?」
 手すりに手をかけて、遠い海と空の交わる果てを見ている。先のプラント崩壊、独立宣言からアークエンジェルは休みなく戦場を飛び回っていた。
「マリューさん。どうして僕達は」
 アークエンジェルは平和維持機構所属で、地球軍所属ではない。しかし、情勢はそれを許さなかった。集結するレジスタンス、今やプラントによって組織化されたコーディネーターの地上派遣軍と独立を許さない地球軍防衛部隊との衝突。平和を乱すのはどちらかと問われて、平和維持機構が選んだのはコーディネーターだけれど、機構の理事国の思惑に平和の歌姫は屈せず、独立した命令系統を維持することを死守した。
「戦い続けるのだろう」
 穏やかな海も一度荒れれば、船を陸を飲み込んでしまうように。4年間の繰り返しの様相を呈していた。
「アスラン君のこと?」
 同じように手すりについて、海を眺める。
「マリューさんは、つらくないんですか? フラガ少佐のこと」
「そうね。彼が、大切な人が居ないことに慣れていく自分を許せない時もあるわ。でも、きっと本当に忘れることはないのよ」
 まだ少しだけ高いマリューがキラを抱き寄せる。
「またお互いに手を取り合えるようになるわ。だって二人とも生きているんですもの、ね」


 シンが持ち帰ったノートは、シンには内容が分からなくても、医局のドクターには参考になる所があったらしい。少しだけ症状が改善したステラは、起き上がってシンと会話できるまでになっていた。
 急速に主権国家として再編が進むプラントでは、初代の自治評議会が開催され、臨時の議長にギルバート・ヂュランダルが選出される。また、地上で集結しつつあるレジスタンスやコーディネーター残存兵力を正式に地上派遣軍として組織化したところだった。
 かく言う、ミネルバも衛星回線を通じて地上派遣軍そして正式コード・独立部隊ミネルバを受領したところだった。それに伴い、クルーもレジスタンスではなく、プラントのミネルバ所属の軍属となる。
「ステラは民間人ってことになってるから」
 見舞いに来たついでにそのことをシンがステラに告げる。
「民間人? シンも?」
「俺は軍属。アスランさんがその方がいいからって無理やり。そのくせ自分は民間人の協力者だって押し切ってさ」
 階級はパイロットでは最も低い少尉と言いたいところだが、シンには戦士という称号が与えられていた。コーディネーターはコーディネーターでも一騎当千の働きをする特別なコーディネーター。ガルナハン突破後という事もあって、シンとルナマリアには少尉という階級よりも自治評議会から送られたその称号のほうが噂になっていた。
 その戦士も今は医務室で油を売っている。シンとアスランが医務室でいつものようにステラの容態を確認していた。シンはステラのサイドについて毎日の出来事を報告し、ドクターと難しい話をするのは大抵アスランの役目。
「ロドニアからのアンプルを待つほかないようだ、か。それがあれば何とかなるのかも知れんが、どこにあるのかも服用方法も分からんと来た」
「ロドニア・・・研究所でしょうか」
「さあ、よく分からんが、彼女は安静であることには変わりない。起き上がって艦内を歩くのも毎日1時間が限度だからね」
 ぱしっとノートをデスクに置いて、ドクターが眼鏡をかけなおした。
「そう言えば、2人の弟子を持った気分はどうなんだ、アスラン?」
「は? ええ、まあ。色々大変です」


 シンとルナマリアは歳も近く、似たような勝気な性格のせいか二人して格納庫の片隅でハロを相手にしていると非常に目立った。
「修~了~っ!」
 息を切らせて、7つ目のハロのレーザーを避けきったルナマリアがシンに向かって大きくVサインを出す。初めはロックで盆踊りをするようだったルナマリアも随分と形になってきていて、いい具合にシンを触発する。
「やっぱにアスランさんに手を上げさせるくらいにならないと駄目だろ」
「何あんた、手を出したの!?」
 シンの自慢話か、ルナの負け惜しみか、とにかくくだらない内容で二人の訓練は合同になる。大量のハロが飛び交う中で、一気に組み手に発展するのだ。コーディネーターの中でも並外れた運動能力を持つ二人が決闘まがいのライトセーバー戦を繰り広げる。
「アスラン。あれ、どうにかしてくれよ」
 作業着に着替えて格納庫に現れたアスランにメカニックが指差した。ハロが放つレーザーが降り注ぐ中で二人で口喧嘩をしている。ただの口なら可愛いものだが、そこに手あり足ありのやかましいものだ。
 そばにあった工具が二人の動きを止めるまで、きっとシンとルナはアスランが腕を組んで立っていることにすら気づかないのだろう。
「痛って~これ、絶対たんこぶになりますって!」
 運悪くスパナが後頭部にヒットしたシンは、頭を押さえて医務室に行く。
 生憎ドクターは不在で、ステラの方に顔を出す。そこで耳慣れた音をシンの耳が感知する。
 ん? このふざけた飛び跳ねる音は。
「シン! 見て。アスランに貰ったの、ハロ!」
 思った通り、ステラのベッドの上を所狭しと飛び跳ねるハロがいた。
 シンは無意識の内に腰のベルトにつけたハロのキーホルダーを捜す。プラントに入った時に取り上げられてしまったのを思い出して、わざとらしくベッドに手をついた。
 ハロハロ元気か~? 言語機能は散々シンやルナをこけにするハロと代わりがないようだ。片言のハロとステラは気が合うのだろう。取りとめもない会話をずっとしている。
「ステラってさ、アスランさんのこと好きだよな」
「うん、ステラ好き。きれいなの好き」
 ステラ好き。
 シンはハロと『ねー』と笑い会っているステラを見て、腫れた後頭部を抑えて医務室を出て行った。
「・・・シン?」
 ハロを抱えたステラがじっとその背中を見ているとも知らずに。


 丘の街・ディオキア。
 コーディネーターの手引きでこの街でミネルバは本格的な補給を受けることになった。勿論、表向きはディオキアもナチュラル側の勢力になるので、目立たないように街の外れにある偽装したドックでである。
「あと2時間で終わらせて」
 グラディスが指示を出してからちょうど1時間。物資の搬入、艦の船体の修理弾薬の補給は山場を迎えていた。
「熱源感知。数5。戦艦です!」
 艦内に鳴り響くアラート。すぐにコンディションレッドが発令され、待機要員が飛び出していく。
「メイリン、補給中ある見方の船は?」
「3隻です」
 情報処理能力を買われたメイリンがちゃっかり、ミネルバの通信士席に収まっている。
「準備出来次第発信するわ。皆に知らせて。シンとアスランをすぐに呼び戻して」


 ポケットから呼び出し音が鳴った。身体に伝わる微かな振動に、シンは足を止めずに路地に入ってレンガ作りの壁に背中を預けた。すぐ脇の道路にジープが急停車する。アスランが視線で乗れ!と言う。
「まずいことになりそうだ」
 運転しながら話す彼に、シンは雲の多い空を見上げた。この空の向こうから地球軍が追ってきている。
「お前がどうしてもって粘るから」
「でもおかげで、ロドニアの場所わかりましたよ」
 シンは懐から地図を取り出してポンと叩く。
 補給作業には加わらずに街に降りた二人は、艦長に頼まれたデータを受け取りに行って日用雑貨を買う傍ら、ロドニアの研究所とやらをさりげなく聞いて回っていた。もっぱら、ジープの後に山済みになっている品の買出しはアスランで、聞き込みはシンだったわけだが。
「とにかく急ごう」
 坂を下り、郊外へと出るハイウェイに出る。その頃には既に空を地球軍の戦艦が覆っていた。街を破壊する気はないのか、絨毯爆撃など、空爆には至らなかったが、多数の特殊空挺部隊が降下していた。
 案の定、ミネルバまで後少しのところで道を阻まれる。
「シン。分かっているな!」
「馬鹿にしないで下さいっ」
 リーチは僅かシンの腕のみ。強行突破時に切りつけろというのだ。
 ガコッとギアがあがって、ジープのスピードが上がる。打ち込まれる銃弾にジープは右に左に揺れる。荷台に当たったせいで、買ったばかり雑貨が道路に散乱していく。
「ああっ、俺の歯ブラシっ、ヨウランに頼まれてたエロ本もっ」
「ったく、諦めろっ」
 アスランに一蹴されて、シンはライトセーバーを握り締めた。迫る装甲車や歩兵達に突っ込むジープのスピードは緩まない。銃弾で窓ガラスは割れ、すれ違い様、シンのライトセーバーの餌食になった。後に吹き飛ぶ敵車両から直も発射される集団で、ジープは急激に右に傾いた。
 タイヤをやられて制御を失ったジープから、二つの影が飛び出す。
「走るぞっ」
「って、あんた、何もってんですか―――っ」
 シンが噛み付いたのはアスランが片手にライトセーバー、反対の手に買ったばかりのビニール袋を下げていたからだ。
「じゃあ、お前が持っているそれは何だ」
 同じようにシンもこれだけは絶対に譲れない収穫物を持っていた。横転するジープから目的の荷物を取り出しつつ、脱出するコーディネーターまさに恐るべし。
 特殊兵装の地球軍の歩兵部隊も一瞬動きを止める。一呼吸置いて、二人の足元が火を噴いた。効果部隊のど真ん中で二人の戦いが始まった。


「ルナマリアが迎えに来る」
「ええーっ、この混戦の中どうやって拾うつもりだよ」
 すっかり囲まれてしまった二人が背中合わせに、情報を共有する。さすがに多勢に無勢。一騎当千とは言うものの、千人も相手にできるわけがない。
 そこへバラバラと音を立てて飛来したのはミネルバ所属の小型ヘリ。
 あんなもんで来るなよ、バカマリアっ!
 一人乗りの偵察用ヘリのコックピットからルナマリアが手を振る。
「アスランさーん!」
 俺のことは無視かよっ。
「と、シン!」
 取ってつけたように言うな。
 ルナが手で合図するには、この先の丘まで走れと言っているらしい。
「俺が突破口を開く。シンは全速力で走れ。データが艦長に確実に渡せよ」
 づいっと押し付けられた、アスランが手にしていた買い物袋。
「突破口ってどうやってっ、って、あんたっ」
 シンが言い終わらないうちにアスランが動く。それは一瞬のスパークのように、取り囲む特殊部隊の一角が空に舞った。ライトセーバーの光は等しく地上を走っている。キーンとシンの耳が鳴る。
 はっ。
 シンは見とれてる場合じゃないことを思い出して、力の限り走った。無意識のうちに死角から飛んでくる銃弾を弾いて、最短距離でルナの待つ丘まで走る。背後でアスランが攪乱しているうちに、ヘリの姿が見える。
 間に合った。
 ルナがこっちを向いて叫んでいるのが聞こえる。
 シンはデータと手にした荷物をヘリに放り投げて、乗り込もうと腕をかけた。そしてまたも耳に届く高周波。
 何気なく振り向いた先で、沸き立つ稲妻を孕んだ衝撃波。黒い群れの中のあの下で、時間を稼ぐためにアスランが戦っている。
「早く乗りなさいよっ」
「ルナ、後は任せたっ!」
「ちょ、ちょっとシン」
 ルナの伸ばした手は空を切って、替わりに打ち込まれるミサイル。小型ヘリは結局誰も乗せないまま、再び大地を後にする。


 一人に集中していた集団が、突如別の一端から切り崩しにあった。さすが特殊部隊とだけあって、衝撃に強い装甲を身にまとっていた。ライトセーバーにも少しは耐える特殊繊維に、狙うは急所のみ。その上、中には同じようにライトセーバーを扱うエクステンデットまでいる。
 シンが突き進んで、視界に納めたアスランは両手にライトセーバーを持っていた。
 今まで見たことのない二刀流という事態に、ピンチを知る。彼がシンを見る目もいつもと違う。
「馬鹿っ、何しに戻ってきたっ!」
「俺一人だけ逃げるなんてできるもんか・・・大きいからって・・・自分は強いからって」
 踊りかかった敵兵を切りつける。ドサリと倒れる背後から打ち込まれる銃弾をライトセーバーで全て防いで、シンはアスランを睨む。
「俺をバカにするのもいい加減にしてくださいよ!」
 深紅の瞳が、彼の緑の瞳を射る。
 視線が絡み、味方同士なのに一食触発の事態。
 巻き込まれたのはどちらの方だったのか。
 腕を型を膝を。装甲の継ぎ目をことごとく狙い、銃口を切り落として二人は進む。空にいる小型ヘリが救出のタイミングを計ってずっと対空している。
「!?」
 上空に向けて放たれた携帯対空砲がヘリを狙う。シンが歯軋りして、打った本人を切り倒した後、咄嗟に振り返った先で、アスランが振りかぶり一投する。間髪おかずにミサイルが光に串刺しになる。爆風に煽られてよたよた高度を下げるヘリ。しかし、危機を救ったのも事実で。
 あんたはいつもいつも。
 倒したい奴はこんなうじゃうじゃ沸いてくる地球軍じゃない。
 シンのライトセーバーの矛先が微妙にずれる。
「シンっ」
 アスランの瞳が平坦だった。まるで鬼火のような色だと、見た事もないのに思う。向けた殺気が何倍にもなって帰ってくる。
 そんな二人の間に突き刺さる、青い光。上空から青い稲妻と共に衝撃が広がる。シンは左腕に鋭い痛みを感じて、咄嗟に目を庇った。


 既に半数は減っていた地球軍の特殊部隊が、更に数を減らしていた。
 無造作にライトセーバーを地中から引き抜く動作は、すきだらけのようで、誰も動けなかった。ただ、彼一人を除いて。
「・・・キラ・・・」
 どうしようもなく悲しい顔をして、アスランが二人の間に立つ人物を見ている。
 無言の邂逅は一瞬で、彼は両手を広げたかと思うと、シンとアスランを取り囲んでいた特殊空挺部隊に襲い掛かっていた。
「お前もなんなんだーーっ!」
「止めろっ、シン!」
 朱色のライトセーバーを掲げて突進するシンを横からアスランが掴む。
 分かっている、ここは、この混乱に乗じて逃げるべきだと。
 だが、それではシンのプライドが許さない。今まで散々敵として戦ってきた相手に助けられるなど、あってはならないことだ。
「離せよっ、あいつも敵だっ」
「シン! ルナマリアを殺したいのか」
 そうだ、ルナ。
 耳に届くヘリのローター音は僅かに後方。
 シンとアスランが囲みを突破して、ルナの小型偵察ヘリのスキットに捕まる頃には、地上に立っているのはただ一人だった。彼が遠ざかるヘリを見上げている。
 アスランの表情は窺い知れない。ただシンはその姿を睨みつけていた。


 ディオキアの街を飛び立ったミネルバの甲板でヘリから降りるなり、シンはアスランに掴まれた。
「シンっ! ルナマリアをどれだけ危険にさらしたのか分かっているのか!」
「ああ、どうせ俺は考えなしで、アンタやあいつみたいに強くないさっ」
 ぐいっとひねられたかと思うと、突き飛ばされる。ふるふると震える拳を見てシンは笑った。
「殴りたいですか? でも、俺は間違ってない」
 ぴたりとアスランが歩みを止める。
「俺のことなんか、ハイネに言われたから嫌々付き合っているだけなんだろ!」
 どうしてアスランがこんなに構うのかシンには分からなかった。
 メカニックも見ていたルナマリアも息を呑む。
「いい加減にしろ!」
「アスラン」
 事態の収拾を図ったのはグラディス艦長だった。いつも着ている白いコートが、実は前大戦時のプラント軍の軍服だと知ったのはつい最近のこと。
「シンも貴方も大切なミネルバのクルーで貴重な戦力よ。その辺にしておいて貰えるかしら」
 遠巻きに二人の見ていたメカニック達がヘリ格納の作業を開始する。
 顔を見るのも嫌で、背けたまま甲板から消えようとしたシンに投げかけられた言葉。
「お前には力がある。何かを為すほどの。その力は人を幸せにもするし不幸にもする」
 だがシンは立ち止まらなかった。振り返りもしない。
 聞いてなんかやるもんか。
「力があるなら、その力を自覚しろ。力の使い方を間違えるなよ」
 アスランの説教は懲り懲りだった。
 画竜点睛を欠くとはいえ、シンはアスランを助けるために戻ったのだ。感謝されこそすれ、責められる謂れはないと、乱暴にハッチの扉を閉めた。
 クルー達は腫れ物に触るようにシンに話し掛けず、ルナマリアは艦長室。シンの足は自然とステラの要る病室に向かった。このところずっと小康状態の続いていたステラだったが、今は眠っていた。
 規則正しく息をしてはいるが、もともと色だったせいか顔色がいいとはいえない。枕もとのハロも同じように動かず、シンに答えるものはいない。
「ステラ・・・。俺ってそんなに頼りないかな」
 艦長はああ言ったけれど、みんなが本当に期待しているのは俺じゃない。
 同じように訓練しているルナと何も変わらない。
 あの人は前に誉めてくれたけれど、あれは俺一人の作戦じゃない。
 シンはドクターのデスクでブックエンドに挟まれたノートを取り出した。もう一度、研究所のつづりを確認する。今度は地図を取り出して、囲ってある地名と照合する。
「俺だけでも、ステラのこと、なんとかしてみせるから、待ってて」


はあ、今日も大変だった。ちょっと強引すぎるかなあ、と。シンはちゃんと主人公しているでしょうか?

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