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 シンは肩を掴まれて、ハッとした。
 目の前のカガリの雰囲気がガラッと変わったのだ。侵入者に対するそれは明らかに攻撃的なもので、今にも魔法をけし掛けそうだった。

「ちょっ、待っ」

 シンが言い終わるよりも早く、正体不明の男がカガリを制していた。いや、と言うより盾にされたのだと、目の前のフェイスの鋭い視線で理解した。シンよりも頭一つ高い所にオレンジ色の髪が揺れていて、随分と引き締まった背中をしていた。

「実は俺もそこを通して欲しくてね、どいてくれないか?」
「貴様、何者だ」

 フェイスと牽制し合っている。

「お前達の呼び名で言えば、所謂、賊って奴」
「そうか、研究所に忍び込んだ賊とはお前のことだな。今度は王宮にまで・・・そんな奴をむざむざ見過ごすと思うか?」

 硬い表情のカガリが剣を抜き、シードが漂い始めた。
 ため息を付いた賊は面白がっているのか、肩を竦める。伸びてきた腕に首を絞められていた。苦しくはなかったけれど、何の抵抗もできずにあっさりと捉えられてしまったことが無性に恥ずかしかった。

「だからこうして人質をとっているわけだ」
「卑怯な・・・」

「でも、この王子様も外に出たがっていたみたいだし、俺達利害が一致してるんだよね」

 そうか。
 こいつを上手く利用すれば俺も外に出られる。
 見下ろす緑色の瞳にウィンクされ、一瞬ドキマギしてしまった。

 少し、アレックスに似ているかも。
 そんな事を考えていると、この男が前に歩き出した。引きずられるように1・2歩、歩いてしまって、慌てて足腰に力を入れた。首には相変わらず賊の腕が回っていて、ちょっと上向きに天井を見て歩く羽目になってしまったけれど。

「ごめん、フェイス・カガリ。俺、やっぱりどうしても、行きたいから」

 この後、彼女がどうなるか分からないシンではなかった。でも、ここは譲れない一線だったから、賊の手を使ってでも外に出たかった。

「いやあ、言いたいことが伝わったらしくて俺は嬉しい」

 じろりと睨みつけるカガリの瞳がシンを見ていたのか、横の賊を見ていたのか分からなかった。しかし、シンはまんまと秘密の抜け道から王宮の外に出ることに成功していたのだった。




 外に出たとは言っても、一旦王宮の外に出た後すぐにまた地下へと逆戻りしてしまっていた。皇帝崩御の帝都はいまだ多くの帝国兵が警備に当たっていて、そう易々と外を歩けるはずがなかった。

「って、何でまだいるんだよ!」

 ガチャリと鳴るのはカガリだけのフェイスの鎧。

「ついていかないとは言っていない」
「フェイスマスターと言っても、案外暇なんだな」

 キッと彼女の冷たい視線が賊を捕らえる。

「どんなに殿下が後先考えないお方だとしても、お守りするのが目下の所、私の役目だ」
「おいおい、仮にも主人だろ?」
「そう思いたい」

 がっくりと力を抜くカガリ。いかにも、『こいつはもうどうしようもないアホだ』と瞳が語っている。シンは意外とお堅いだけじゃないのかもと思って、目の前に広がる地下宮殿を見渡した。

「えっと・・・」
「俺はハイネ」
「えっと、ハイネさんはここが―――」
「ハイネでいい」
「じゃあ、ハイネ、・・・。ここがどこだか知っているのか? 俺は初めてなんだけどさ」

 古い柱が幾つも立ち並び、気のせいがピタピタと何かが歩く音が聞こえる。声は延々反響して、水の雫が落ちる音まで遠く聞こえた。

「ここは地下宮殿だ。どこかの草原に出るといわれているが、悪い、俺も初めてだ」

 地下宮殿か。

 シンは、初めて帝都の地下にそんなものがあることを知って、また一つ、自分の無知を呪った。けれど、めげている場合ではない。

「カガリは何か知っているか?」
「私も初めてだ。地下宮殿のことは聞いていたが」

 誰も知らない地下宮殿を抜けて、兄のいるアプリリウスまで行かなければならない。まずはここを抜けて地上へと出なければ。時間に背中に押されて歩き出す。

「こっちだ」

 手を上げた先に出口があるなどとは知りもせずに、見えない道を探して迷宮に踏み込んだ。最も、威勢よく歩き出したのは最初の数分のうちで、すぐに道なき地下の道を走り回る羽目になっていた。
 何かがいるのは分かっていたのだ。
 妖しげな足跡や毛物の息遣いや方向を狂わせる微かな音。

「前に出るなっ!」

 対面してしまった猛獣は勿論のこと蝙蝠一匹にまでカガリが前に出て剣を振ってシンを守る。だが、おとなしく守られるシンではない。

「バカにするなっ、俺だって」

 アレックス達と一緒に危ない橋を何度も渡ってきたんだ。
 剣を抜いて、蝙蝠の大軍に切りかかる。

「自分の身くらい自分で守れるっ!」
「だからって、率先して突っ込むなっ」

 初めての洞窟で蝙蝠を相手にした時に比べれば、随分易々と切り落とすことが切るようになった。一通り倒して静かになった地下宮殿で、シンはカガリと向かい合っていた。

「俺だってこれくらい相手にできる」
「なるほど。王宮では猫を被っていたんだな。空賊ごっこは楽しかったか?」

 確かに見習いだったさ。
 本当は王子で、本物の空賊にはなれっこないさ。
 けど、アレックスについて、ステラと一緒にミーアに魔法を教わった。ラクスやキラと知り合って、帝国の外の歪を知った。洞窟や砂漠、森、荒野で過ごした日々はシンにとってかけがえのないものだった。

「楽しかったよ。生きてるって感じがした」
「それは良かったな、殿下」
「けど、あの時間がなかったら、今の俺はいなかったと思うんだ」

 亡国の王女は故国を取り戻すのに必死だった。
 過去の屈辱を超えて彼女を無言で守る元将軍。
 帝国にも王国にも属さない空賊の視点。
 力のない少女の純粋な言葉。

 皆、本当に色々な事を考えていた。
 まあ、ステラは別として。いや・・・・・・アレックスもだけど。

「俺には何もできないって思っているみたいだけどさ・・・」

 討伐軍を止める事はできないかもしれないけど、じっとしていられない。

「ちょっとでも可能性があるんだったら、それに賭けてみたいと思うだろ?」

 カガリは厳しい顔をしていた。睨み付けられていると思うほど。

「子供の感傷だな」
「アンタ、なんで俺のこと守ってくれるんだよ、兄上に言われたからか?」

 警護を仰せつかったと言っていた。
 けれど、それだけでこんな地下宮殿の突破まで付き合う必要はないはずだ。

「はい、そこでスト―――ップ。いつまでも立ち話している場合じゃないだろ?」

 シンとカガリの間にはいってぐいっと二人の頭を遠ざけたハイネ。
 初めは茶化すような顔つきだったのが、きっと引き締まって後ろを見るように瞳を動かした時、地下宮殿の奥から空気が震える音がした。

 3人の目が集中する暗がりに大きな目玉が浮かんでいた。
 戦闘の準備をする間もなく、氷のつぶてが飛んできた。そして、急に身体が重くなった。




 マントが宙を舞って、自由に動けるカガリが剣を手に舞うが相手には少ししかダメージを与えられない。どんな魔法なのかシンは足が鉛のように重くなって一歩を動くのがやっとだった。

「こいつは、少々やばいかな?」

 ハイネが大剣で援護するが、やはり効き目が薄い。
 しかし目玉の怪物は、次々に魔法を繰り出して、シンは声が出なくなっていた。
 あんなに張り切って自分の身くらい自分で守れると言った手前、恥ずかしいったらありゃしない。持ってきた数々の薬から目当てのものを探す。そうする内にもカガリとハイネが目玉に飛び掛っていた。

「避けろ、フェイスッ!」

 唯でさえ寒い地下宮殿の床が一斉に凍りつく。シンの剣も持てないほど冷たくなっていた。ハイネは剣を放り投げて、魔法攻撃の為にシードを集め始めていた。

 その間、カガリが1人で目玉の相手をする。魔法を剣で弾き、隙を見て剣を叩きこむ。
 戦う姿はやはりどこか、キラを髣髴とさせる。
 シンは自分の金縛りをなんとかして解いて、自分も攻撃魔法を掛けるべくシードを集め始めるが。

 ハイネのほうが一瞬早かった。

「お前達、一緒に消し炭になるなよっ」
「フェイスに向かって何を言う!」

 ハイネが叩き込んだ炎の魔法が目玉を蒸発させていた。
 部屋の氷も一緒に消えてなくなり、地下宮殿は先程と同じようにひんやりとした地下特有の空気に包まれる。

「そこのフェイス。さっき、凍結魔法を喰らっただろう」

 周囲の安全確認をしていると、ハイネがやおらフェイスのカガリに声を掛けた。凍結魔法とは、さっきの目玉の怪物が部屋全体を凍らせた魔法のことだ。





「女性は身体を冷やしちゃいけませんってね」
「は?」

 シンはハイネを見て、咄嗟にカガリを見た。
 心なしうろたえているような顔。

 まさか。
 ハイネがカガリの凍えた鎧に手をかけると、泣く子も黙る帝国のフェイスマスターが慌ててその手を振り払っていた。

「さっ、早く鎧を取って。暖を取ろう」
「自分でやれるっ!」

 ああ、そうか。
 シンはキラの言葉を思い出した。彼にいるのは双子の『姉』だったのだ。

 先程の目玉の化け物の凍結攻撃でカガリの纏っている鎧は凍り付いて、彼女の身体から体温を奪っていた。脱ぎ捨てた鎧は本当に冷たく、こんなものを着て動き回っていたのかと、シンは改めて炎の前に腰を下ろす女性を見た。

 兄弟を陥れてまで、彼女は何を考えているのだろう。
 片手で膝を抱え、もう片方は床に置いた剣の柄に手をかけている。暗がりでよく見えないが、二の腕から血が流れていた。

「コジャのランプがあってよかったぜ」

 地下宮殿だっただけあって、調度品がそこかしこに散らばっていて、薪にするような木材の替わりにランプなら山のようにあったと言うわけだ。今はハイネが見つけてきたコジャという大昔のランプに火をつけてその周りに3人が腰を下ろしていた。

 シンは片手に意識を集中してシードを集め始めた。

「手を出せよ」

 いきなり話しかけられて驚いたのか、シンを見上げるカガリの瞳はまだ剣を宿していなかった。言われたことが理解できないのかぼうっと見上げている。

「だから、手」
「あ、ああ」

 差し出されるよりも早く腕を引っつかんで、シンは零れるような淡いグリーンの光を傷口に落としていた。

「・・・殿下?!」
「俺が癒しの魔法を使えちゃ悪いかよ」

 炎の向こうでハイネが笑っている。

「いや、そんな事はないぞ・・・」
「フェイスマスターから見れば俺なんて、ひよっ子にも入らないかもしれないけどさ。少しずつ色々な事ができるようになったんだ」

 治療が完了したカガリの腕に傷跡はなく、乾いた血筋だけが残った。それを柄を押さえていた手で払って彼女はランプの炎を見た。

「私とて、最初からできたわけではないさ。痛い目にあって初めてその重要性に気がついた口だ」

 女性だと認識してからは、シンにはカガリがキラに似ているとは思えなくなっていた。髪の色も瞳の色も違う。まっすぐに炎を見つめる瞳は、ラクスに従うキラと似ていると思ったけれど。何かが違った。それは雰囲気かも知れなかったし、ある種、ラクスのような悲愴な決意が感じられた。

「私はオーブ共和国の生まれだ」

「コスモス連邦に滅ぼされた?」

 シンはぱっと思い浮かばなかったが、ハイネはすぐにその国がどこにあったのか分かったらしい。シンが物心つく頃には既に地図から消えていた国は、アプリル同様、交通の要所にあって、連邦に吸収された小さな国だった。 

「私は殿下を利用しているだけかも知れないぞ」

「俺は別にいいよ。それに、実はちょっと嬉しいかも」

 アプリルは滅ぼされてまだそう年が経っていないから復興の希望があるが、オーブはもう無理だろう。それに聞いたことがあった。

「アンタ、よく生き残れたな。オーブは連邦に細菌兵器を使われたって話だが」

 疫病が流行り、穀物は枯れ、土地は死んだ。
 そんな国家にどんな価値があったのか、コスモス連邦のやり方を疑う侵攻だった。

「弟と二人、運が良かったんだ。結局、その後の混乱で離れてしまったが・・・」

 静かに話す彼女からは、かつてのような激情が感じられない。
 空中戦艦でキラを殺したくてたまらない姿が嘘のようだった。

「どうして、キラを?」
「私は帝国軍に救助された。フェイスとなってアプリル侵攻に参加し、あいつはアプリルの将軍になっていた」

 それだけを聞けば、兄弟が敵味方に分かれて再会する悲劇。

「やればなんだって私よりもできた。将軍にだってなれるだろう。けどな、アイツは、国にいる時は勉強も剣の稽古も本当に何もせずに、恋人を見殺しにした」

 そこでカガリは息を継いで、膝を抱えていた手を変えた。

「許せなかった。どうして今頃になって、と」

 きっと、キラが今、ラクスをあれだけ守ろうとするのは、守れなかった過去があるからなのだとシンは思う。いつも淡々として何を考えているか分からないけれど、危険が迫れば真っ先に剣を抜き、危険を排除する。屈辱に耐えても、アプリルの為に生き抜いていた彼。

 だから、この人は、そんな弟を許せない。
 そんな力があるのなら、どうしてもっと早く使わなかった、と。

「何もできないのは君だけじゃないさ。私も同じ」
「アンタは連邦に復讐がしたいのか?」

 帝国の力を借りて?

「そのつもりなんだけどな。こんな所で何をやっているんだか」

 ほう・・・。とカガリがため息を付く。
 それは、帝都からちょっとは離れたであろう地下宮殿のどこかで、出口を探してさまよっている所だった。強敵を倒した安堵感からか、3人が一葉にため息をついた。フェイス・カガリのヘビーな身の上も合って、地下宮殿の一室は実にしんみりと時が流れていった。

 シン達が地上に出たのはその後、3日も十分に地下宮殿をさまよった後だった。





「あー、久しぶりの地上だぜ」

 出口は草原にあって、一面に広がる緑に閉塞感が吹き飛んでいく。頬を撫で、髪を揺らす風が心地よい。

「悪いことは言わない。殿下は帝都にお戻り下さい。この先は火傷ではすまない」
「分かってて言うんだな、フェイス・カガリ」

 彼女が肩の力を抜いたのを見て、シンはそれを了承だと受け取った。

「で、どうやってアプリリウスまで行くつもりなのかな、王子様は」
「えっと・・・」

 時間がないんだから、歩きってのはなしだ。
 乗り合いの馬車もパス。
 一番近い街で飛空艇の空路を行こう。
 この際、変装でも強奪でもなんでもやってやる。

「隠していたわけじゃないが、賊は賊でも、実は空賊なんだ」

 その一言にフェイス・カガリが眉をひそめてハイネを見た。彼女はいつの間にかフェイスの鎧兜をしておらず、眩しい金髪を陽の下に晒していた。ハイネのオレンジ色の髪とあいまってシンには実に眩しい二人だった。

「幸いな事に俺の飛空艇が近くにある」

 同じ空賊でもアレックスはとことん厄介ごとに巻き込まれるのを嫌がったが、目の前の賊はそうでもないらしい。わざわざもっといい手段があると提案してきた。となれば、展開はお決まりのパターン。

「報酬なら言い値であげますよ」
「さすがはシン・アスカ・プラント殿下。太っ腹な事で」

 帝国の西。集結する反乱軍と、帝国から出征した討伐軍が国境沿いに睨み合っている同じ空の下。シンはようやく帝都を抜け、イザークの元へと空を飛んだ。







 同じ真っ青な空の下、セイバートリィが出発の為の準備をしていた。
 ミーアやステラは既に乗り込んでいて、アレックスが飛空艇の確認とアンカーを外していた。ラクスは背後からアレックスに近づいて、手を休めたのを見計らって声をかけた。

「アレックス」
「これは王女様。もう少しで出発ですが」

 機体の外壁をコンコンを叩きながらラクスに返事を返す。

「わたくしに反乱を止められると思いますか?」
「そう思っているから、わざわざ出向くのだろう。種石や覇王の剣まで持って」

 アレックスの手は淀みなく機体のチェックを続け、緩やかに回転するエンジンの音を聞いていた。飛行色の青い光が漏れていて、少し暁の種石の色に似ていた。

「貴方にも、わたくしが力を求めているように見えますか?」

 アレックスの手が止まる。

「見えないと言ったら嘘になるかな」

 振り向いた彼にラクスはアスランを重ねていてた。
 この胸の苦しさは、だからなのだと言い聞かせる。

「そうですか・・・でも、わたくしは」
「アプリル復興の為と言っても、本当に力があれば国が取り戻せるのか? 君は歌姫として有名だったのだろう?」

 確信はない。
 けれど、力がなければ国は取り戻せないのだ。歌では民を養えず、帝国軍から守ることもできない。

「アプリリウスで君が諸侯の前で歌う時、不思議と争いが自粛されると聞いた。俺なら別のことを考えるな」

 ラクスは視線を逸らして、どこか遠い所を見つめるアレックスを見ていた。
 何故だろう、次に発せられる言葉が頭に浮かぶ。
 ほら、きっと彼はこう言うのだ。

「例えば大陸中に君の歌を流すとか」

 あの日、あの時、届いた手紙に書かれていた。

 世界中の人が君の歌を聞けば平和になるのに。
 そうだ、僕は君の歌声を大陸中に伝える機械を作るよ。

 あなたの口からその言葉を聞くなんて。
 あなたは、誰?

 ラクスはそれ以上聞いていられなくて、目の前の男に尋ねたのが失敗だったと語気を強めて言った。

「いい加減にしてくださいませ。そのような戯言で平和になるわけないですわ」 
「戯言ね。だから君は力を求めるのか」

「そうかも知れません。ですが、まだ起つにはこの力はあまりに未熟」
「そうだろうな。今決起しても、帝国にひねり潰されるのが落ちだ」

 エンジンの調子を確認した彼が、翼を潜って、アンカーを外すべくコックピットに向かって手を上げる。

「ですから、早く向かわねば」
「だったら、俺と無駄話をしていないでさっさと乗ったらどうだ」
「言われなくてもそうするつもりですわ」

 ラクスは入り口へと機体を回り込んた。飛び立つ準備をする彼を、見えなくなる寸前に一度振り返る。そこには何事もなくアンカーを取り外す作業をヨウランやヴィーノ指示している姿があった。
 なんだか、無性に寂しくなって、足早にセイバートリィに乗り込んだ。




 ラクスが乗り込んだのを見計らって、草を踏みしめて彼に近づく人物がいた。キラである。先程のラクスとアレックスの会話を彼はしっかり聞いていた。盗み聞きするつもりはなかったが、二人はいつもと変わらない声で話しているから、嫌でも耳に入ってしまったのだ。

 それはキラにとって、これから、もしかしたら戦地となる所に行くかも知れないという時に、実に気になる会話だった。

「ちょっと確認してもいいかな?」

 振り向いたアレックスが、足でアンカーを軽く叩いた。アンカーを引っこ抜こうとするヴィーノやヨウランに反対側を頼むと指示を出す。

「なんだ? 時間がないんだ、手短に頼む」
「うん。すぐ終わるよ」

 キラは彼を連れ出して、セイバートリィから少し離れた所で足を止めた。

「どうしてこんなに僕達に協力的なのか、聞いてもいいかな?」
「・・・僕達?」
「ああ、ごめん。君に頼んでいるのはラクスだったね。まさか、王女に惚れちゃったとか?」

「そうだと言ったらどうする? お前」

 アレックスが腕を組んで、唇の端を僅かに上げた。
 ドレープのきいた白いシャツを着て、斜に構えると、彼は一見空賊に見えない。乱暴で粗野かと思うと、女性に対する完璧なエスコートを見せたりする。

 ずっと気にかかっていた。
 キャンベラを連れていることと言い、彼は唯の空賊ではない。深紅の空賊の名は知っていたし、高額な賞金が賭けられていることも知っている。何の理由も無しに手を貸してくれはずがないのだ。

「彼女を傷つけるものは僕が許さない」

 彼は冗談でも、ラクスは違う。少しずつ、彼に対する態度が変わってきている。
 いつか、目の前の空賊が障害になるかもしれない。そんな漠然とした予感がキラにはあった。

「そう気色ばむなよ、冗談だ」
「それで、僕の問いには何て答えるつもり? 報酬目当て?」

 彼は笑いながら手を振った。そして、ふっとまた別の笑みを浮かべる。

「種石には俺も野暮用がある」

 この話題はこれで終了だと暗に告げて身を翻す空賊がセイバートリィへと向かう。キラはその後姿を穴が開くほど見つめて、隠れた綻びを探すのを止めた。





なかなか思ったように進みませんです。どんどん、長くなる~。日曜日中にアップできなかった、ガクッ。