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Men of Destiny 33

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言葉にできない想い



 ステラの首に掛かっているエマージェンシーのランプがチカチカと赤く光っていた。
「シンとステラを発見」
 ミネルバのクルーがシンとステラを発見したのは、跡形もなく消えうせたロドニアの古城からそう離れていない、城の裏手だった。爆破による残骸が森の至る所に散乱し、霧雨と煙で視界が悪い。地球軍の目を盗んで、二人はミネルバに収容された。
 医務室のベッドの上でぼんやりとシンは目を開ける。隣にはいつものようにステラ。
 ここはミネルバだ。どうして医務室に俺が、だって俺は。
 爆発の中、誰かに抱えられていた。そいつの呟きが、大切なものを守れないと吐き捨てるのが聞こえる。そいつが逃げる俺達の前に現れて戦闘になり―――。
 今にもあの瞬間が蘇る。背中を貫き、崩れ落ちる身体。絶叫。
 夢!?
 シンは飛び起きた。


「シン、気が付いた?」
 戸口から聞こえた声に身体をひねれば、ルナマリアとメイリン、ヨウランやヴィーノが入ってくる所だった。
「アンタはピンピンしているって。ステラはちょっと熱出しちゃってるけど」
「大丈夫か? お前」
 4人をベッドの上から見上げる。
 シンは誰かが言ってくれることを待った。他の4人はきっとシンが振るのを待っているのだろう。
「エマージェンシーに小さな袋がついてて、その中に飴が入っていたの」
 ルナマリアがその飴のことを話し出す。ステラの身体を楽にする効果があるらしいと、成分を詳しく分析すれば特効薬になるかもしれないと。だから今、熱を出しているのは、だたの風邪なのよ、と言う。
 一気に捲くし立てて、彼女がため息をついて医務室の窓から外を見る。
「アスランさんが見つけてくれたのかな」
 NGワードが解除されて、ルナマリアを皮切りにヴィーノが現状を説明する。それはシンが知りたかった事。ありえないと分かっていても、もしかしたらと望みを捨てられなかった事。
「まだ見つかってないんだ、でもミネルバ止まらなくて、ただの協力者だからって、今地球軍に落とされるわけにはいかないって艦長が・・・」
「アスランさん、戻ってこれないね」
 力なく呟くメイリンに4人ともが視線を落とした。
 この手で突き刺した事も、暗闇に消えるのも、本当のことだった。
 当り前だ、この手が感触を覚えている。
「あの人は帰ってこない」
 4人の視線が突き刺さる。だが、感覚が麻痺しているのか痛みは感じなかった。
「俺が刺したから」
「シン?」
 ああ、いつも勝気な彼女の声が震えている。
 俺はいつからこんなに弱くなったのだろう。今にも叫びだしそうなこの感情を、胸の内にとどめておけないだなんて。誰かに聞いて欲しいなんて、一番聞いて欲しい人はもういないのに。
「俺を庇って、俺とあいつの間に割り込んで俺達二人のライトセーバーを身体で受け止めて、そのまま、谷底に、落ちて―――」
 ピンピンしているなんて嘘じゃないか。こんなに身体が痛い。
 膝を抱え込むように身体を折り曲げるシンは、包帯の巻かれた手で毛布を握りこんだ。


 一夜開けたロドニア城址では、地球軍の一部隊が展開していた。そこにいきなり違う制服に身を包んだ男が姿を現す。それは平和維持機構の青と白の制服だった。
「紺色の髪に緑の瞳の男?」
 お互い何をしているのかは問わない。命令系統は別々だ。
「ええ、見つけたら連絡ください。うちの者ですから」
 現れた時と同様に、突然に去っていく男に地球軍の兵士達は首をかしげながらも黙々と任務に勤しんでいた。滞空するアークエンジェルとの共同作戦中だということは知られている。だから、向こうにも昨夜の爆破で損害が出たのだろう。
「MIAでここまでしてもらえるって、エクステンデットはいいよな」
「金掛かってんだから、仕方ないんだろうぜ。どぶ浚いも任務は任務だ」
「どうせなら追撃部隊の方がよかったぜ、手当て違うんだぜ」
 地球軍の残りの部隊は、包囲を突破したミネルバを追撃していた。


「シンは出られる?」
 シンからロドニアで起こった事を報告を受けたタリアが、ルナと、続けてシンに出撃命令を出す。格納庫からの連絡より早く、本人からゴーサインの連絡があった。モニタに映ったのは出撃準備の整ったシンの姿。
「でも、あなた」
 経緯を淡々と話すシンを見て、ダメージを受けていることは明らかだったから、タリアが艦を預かるものとして念のために確認する。あまりひどい精神状態なら無理に出撃させることはできない。
『大丈夫です。出ます』
 戦闘空域に飛び出していったシンの戦闘機は、追撃の地球軍部隊を壊滅状態にまで追い込んでいく。
 一人の戦いがこんなに怖いってことを忘れていた。
 ずっとそうやって生きてきたのに、いつのまにか当り前になっていた存在がいた。
 それを俺は自分の手でなくしまった。
 もう守ってくれる存在はいない、これからは自分がやらなければならない事だと、トリガーを引いた。機銃がバラバラと前方の装甲戦車を撃ち抜いていく。
 彼のように戦えない自分が悔しかった。
 でも、優先順位を付けるとしたらまずミネルバを守ることなのだ。
 まさに鬼神のごとき活躍で、たった一機で追い払ったも同然。戦場には黒い煙がいくつも棚引き、誉められた戦い方ではなかったが、ミネルバはとりあえずは危機を脱する事になる。
 帰ってきたシンを格納庫のスタッフは取り囲み、称賛する。
 その人込みの中に何かを探すように視線をさ迷わせるシン。戦いから帰っても、『なんだあの戦い方はっ!』とシンを叱る手もなければ、『よくやったな』と誉める手もない。
 この時、シンは本当に、ああ・・・いないんだと、認識する。
 僅かに落胆する顔をしたシンを引き止めるものはなく、逃げるように格納庫を後にした。
 誰とも話したくない気分だった。


 めったに人が訪れない、捕虜を収監しているブロックは、一人になりたい時のシンの隠れ家だった。よくここに来ては、捕虜のおやじに愚痴を言ったり、喧嘩を吹っかけたりしていた。とても今はそんな気にはなれなかったが、ついくせで、いつもの鉄格子の前に立つ。
 捕虜の前で、艦内の内情を話すわけにはいかないから、シンはなかなか口を開かなかった。
「どうした、なんか変だぞ、お前」
「あのきれいな兄ちゃんはどうした。こんな所で油売ってていいのか?」
「あの人はもういない」
「死んだのか」
 他人の口からはっきり言われたのは初めてだった。
 シンは鉄格子に額をつけて、足元を見る。
「俺が弱かったから、俺が勝手な事をしたから!」
「坊主のせいじゃねえぞ。戦場で生きるか死ぬかはそいつ次第だ、あの兄ちゃんには運がなかったのさ」
 そんなわけあるか。
 あの人は前の戦争の英雄で、俺なんかよりずっと強い人だった。それを俺が殺したんだ。運がなかっただと? 冗談じゃない。そんなモンで納得なんかできるか。
 誰かに慰めて欲しいわけじゃないのに、ごいつもこいつも。
「おいっ!?」
 皆、どうして、俺を責めない!
「くそっ」
 イラついた足取りでシンは捕虜のいるブロックを後にする。当てもなく艦内をうろつくシンはいつのまにか格納庫に来ていた。ずっとここで、今、ルナマリアがしているようにハロ達を相手に訓練するのが日課だった。今は電源を切ってロッカーにしまってあるあれ。アスランがいなくなってからは、居住区のあの部屋にできるだけいたくなくて、寝に戻るだけだ。
「ルナ、替わって」
「えっ、ちょっと!」
 飛び跳ねるハロを潜り抜けて、四方八方から飛び交うレーザーをライトセーバーで受け止める。ルナがハロの外に出たのを見て、シンは両目を閉じた。
 思い浮かぶ彼の言葉。頭を振って追いやって、神経を集中する。
 格納庫のスタッフやルナが驚きの表情でそのライトセーバー捌きを見守る中、身体を動かし、剣を振るう。
 何度も何度も。シンはがむしゃらに訓練を続けた。それは見ていて微笑ましいものではなくて、すぐに見守る皆が悲痛な表情をすることになった。
 見かねたルナマリアが険しい顔をして飛び跳ねるハロの一体を掴んで電源を切る。次々に捕まえては、ついには全部電源を切ってしまった。
「あんたってほんとガキねえ。ちょっと休憩にしましょ」


 強引に食堂に連れて行かれたシンは、ルナマリアが持ってきたものをまじまじと見つめた。戦時下に移動中の戦艦でそうそうお目にかかれるものじゃない。
「これ、桃?」
「そっ、珍しいでしょ」
 よく冷えた白桃が皮を剥かれて無造作に切ってある。
「こんなもん、よく手に入ったなあ」
「アスランさんが・・・」
 シンの手が止まる。甘くて柔らかい食感だけが口に広がった。
「ディオキアで買ったみたい。最後まで持っていたビニール袋の中に入っていたの」
「本当はステラの快気祝いに用意してたのね。みんなで一緒に食べようって言っていたのに、あんたのせいよ」
 直るかどうか分からないってのに、俺ばっかり慌てて、焦って。
 急に勿体無くなって、たった一切れが口に入れられない。 
「あっ、勿論、ステラの分は取ってあるから、それ全部食べちゃっていいわよ」
 そろりとフォークで刺して口に放り込む。桃色をした外側がとろりとしてまったりして甘く、芯の方はすっぱくて、ちょっと硬かった。
「何も泣くことないじゃない」
「泣いてないっ!」 
 俺、アンタの分も頑張るから。強くなるから。
 ステラだって、ルナだって、この艦だって俺が守るから。


ちょっとインターバル的なお話を。と言うか、シンが別人28号と化しています。自分で書いてて違う人物だよ、と。できるだけ少年ぽく、熱血主人公ぽく書こうと努めているのですが、こう、無意識のうちに(笑)・・・笑い事じゃないよ、コラ。うーん、打ちのめされるんじゃなくて、やっぱり反発する方かも知れないな。勝手に出てきて、勝手に刺されて、勝手に消えて! 知るかあんな奴っ! いなくなって清清した!ってんでも良かったのかなあ。

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