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Men of Destiny 34

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愛が欲しい



 どこまでやればアンタに追いつける?


 パトライトが回ってエレベーターが降りてくる。
 熱気を孕んだエンジンの回転がまだ止まっていない戦闘機から、パイロットが飛び降りた。
「シンの奴、どうしたんだ? 自分から整備手伝うって」
 待機していたメカニックの前を走り去る少年。
 たった今、ルナマリアと二人で地球軍を蹴散らしたばかりのシンが整備服に着替えて戦闘機の下に潜り込んでいる。オイルパイプの交換、フラップやエルロンの調整などは全部ここに来て覚えた事だ。
 できる時やっておかないと後で泣きを見るぞ?
 主任やアスランにスパナで叩かれながら、油塗れになってヨウランやヴィーノと軽口を叩き合った。メカニック達は誰も何も言わないけれど、ベテランメカニックに引けを取らない腕を持っていたアスランがいなくなって大変に違いないのだ。
「お前さ、どうしちゃったわけ?」
「別に。またいつ戦闘になるか分からないから」
 一通り点検を済ませて耐油軍手を投げる。汗をぬぐえば黒くオイルがスジを引いた。軽くシャワーを浴びて副長のアーサーに今日の戦果を報告する。
「ご苦労さん、シン。通常待機だ。ちゃんと休んでおけよ」
「ハイっ!」
 敬礼をするのもそこそこ様になったと思う。
 軍属とは言え、急ごしらえでも軍は軍。基本的なルールをシンは副長から一応は説明を受けたが、実際には民間の協力者だと言い張る彼の仕草を見て身に付けた。
 本人が敬礼する事はなかったが、腕の角度をさりげなく修正されもした。
 戦艦乗りは海軍式な? と。鏡の前で。
 一歩引いて回れ右をする。忘れる事はできなくても、ミネルバもシンも皆、前に進むしかない。
「良くも悪くも、独り立ちしたって事かしらね」
 タリアがため息交じりで見送り、アーサーがうんうんと安易に頷くから、ミネルバの艦長は更に深くため息を付いていた。


「ルナ! ちょっと付き合ってくれ」
「い、今から?」
 ルナの周りのハロを貸してくれと頼み、シンは甲板まで出て自分のハロと合わせて電源を切る。怪訝そうに見るルナはこの際無視することにする。
 俺は最後、あの速さに付いて行けなかった。
 ロドニアで飛び込んできたアスランにも、瞬時に自分の前に現れるあいつにも気づけなかったと回想する。戦闘機や地球軍の特殊部隊を相手にするのはまだいい、だが、それ以上になると後手に回る。シンは唇を噛み締めた。シンの前に立ちふさがる伝説の英雄達。
 キラ。と、アスランさんは呼んでいたな。名前だろうか。
 ルナに借りたハロと合わせて合計14体。スピードをMAXに上げて、シンはライトセーバーを抜いた。
 一度や二度の特訓でできるようになるわけないけれど。
 空気が震えるような、あの速さがなければ駄目だと思った。
 ハロのレーザーに傷だらけになりながらも、再チャレンジする姿についにルナマリアが折れる。彼女までそのハロの集団に混じりだしてシンを狙い始めた。
 甲板で繰り広げられる恐ろしい光景に、ブリッジから停止命令がアナウンスされても二人とハロ達は止まらない。
 シンとルナマリアが身体中に赤アザを作ってその手を下ろしたのは、エネルギーを使い切ったハロ達が『ハロォ~~・・・』と言って止まるまで。目をチカチカしながらコロコロと転がるハロ達。
 荒い息と汗をぬぐう。
「あと少しでヘラクレスの柱ね」
 二人の視線の先に紺碧の海が広がっていた。
「ああ」
 一時してすぐにコンディションレッドが発令されて、二人は副長、艦長、メカ主任にまで一通り怒られてから戦場に飛び出していく。
 これが最後の戦闘になるかもしれないと、気を引き締めて行けと。


 発信時、格納庫でシンが無意識に紺色の頭を探さなくって数日、珍しい姿を見つけた。
「ステラ?」
 心配そうに見る彼女に軽く手を振って、シンはコックピッドに乗り込んだ。回線が繋がると同時にブリッジが指示が飛ぶ。
『数が多いわ。増援が来るまでの艦の防衛が先決よ、敵艦を落とそうとか思わないで』
「了解」
 発信コールの手順を踏んで、エレベーターが上がる。空は今日も戦闘機の排気に塗れ、大海に浮かぶ小島が所どころ白い波を立てている。しかし、そんな感傷も、降り注ぐ集中砲火に為す術もなくミネルバは被弾していく。敵戦闘機から打ち込まれるミサイル、敵艦から叩き込まれる放火を全て防ぐというのは無理な注文である。
 まして、戦闘機に乗っているのは軍属の少年少女。
「ルナマリア、艦の右を頼む」
『分かったわ、にしても冗談じゃないわね、この数』
 目的地まで後少しのところで、地球軍の大攻勢が待っていた。数に勝る地球軍は行く先々で妨害してきたが、これほどの妨害はいまだかつてなかった。
 それでも、シンはいつもどおり機銃で確実に落としていった。
 かえって、いつもどおり冷静に対処できていた。途中、燃料補給に戻った時もミネルバを囲む敵機の位置がなんとなく頭に浮かぶくらいだ。戦場に復帰して、アフターバーナー全開で飛ぶシンは、次々に撃墜していく。
 パーソナルカラーの手ごわい敵機を落とし、挙動の違う新型機を落とす。追尾ミサイルを交わし、すれ違い様に機銃を打ち込む。高価でかつ手に入らないミサイルなんて、ミネルバにはない。シンもルナマリアも攻撃手段は機銃だった。
 どんどん減っていく敵シグナルをディスプレイ上で驚嘆していたメイリンが声をあげる。
「4時の方向に熱源!」


 毎度のごとく現れるアークエンジェルは奇襲がお好きだ。
 一体どれほどの高度から侵入してきたのかは不明だが、ミネルバ、地球軍に感知される事なく戦場に姿を現した。現れると同時に、両軍に向けて放たれるビーム砲。
「手当たり次第ってわけか。子猫ちゃんと逃がすと後が大変なんだがなあ」
 空母に帰還したネオが格納庫からパイロットの調整フロアに上がる。
「スティングは?」
「命に別状はありません」
「ステラに続いてアウルだろ。これで3人目だ。全くまともな人材はいないのかねえ」
 エクステンデット専用の医療ベットに寝かされているスティングを見下ろした。今回は新しく納入された専用の新型機で出撃したが、ミネルバの戦闘機にあえなくエンジンをやられて落とされた。
「ミネルバのエース君。そろそろ無視できなくなって来たな」
 書類を捲ってサインをし、医療フロアを横切る。
「で、こいつ生きてんの?」
 調整室の端のベッドからはみ出ている足を指してスタッフに尋ねる。居合わせたスタッフ達は肩を竦めて首を振る。
「とりあえずラボ送りな。ミネルバは・・・アークエンジェルに任せておけ」


 ミネルバが中央デッキから黒煙を吹いている。上空の白い船から放たれた攻撃で被弾したのか。警告音にハッとしてHUDを確認すれば機影はレッドサイン。
 識別コードはアンノウン。
 何か、ひらめきのような、あの機体を知っているような気がした。
 雲の間を突き抜けて真っ直ぐに向かってくる、白と青の機体。戦闘機とは少し違うフォルムを持った機体の両翼から白いヴェイパーを引いている。
 辺境の都市で会い、夕焼けの輸送機で見下ろす瞳が紫だと知った。そして、お前はプラントでハイネを殺した。
 敵のくせに、窮地を救われた事もあった、あの人がキラと呼ぶ男。
 雷鳴の中、シンの前に立つ、最強のコーディネーター。


 ヘッドオン。真正面。
 通信でルナマリアが何か叫んでいる。


このところずっと長い回が多かったけど、よしよし今回は短いぞ。いよいよ対決です。バーサス・キラ。まずは空中戦です。

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