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Men of Destiny 35

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涙を忘れたメモリー



 今度こそ、倒す。
 俺達コーディネーターを平和という檻で苦しめる、裏切り者。
 何より、4年前に故郷で家族を焼いた仇。
 シンはスロットルを全開にして急上昇し、HUDに映る機影を追った。


「フリーダムという二つ名、アーサーは何処から来たか知っている?」
「えっ、確か前大戦時に彼が乗っていたインターセプターがその名前だったからだと」
 ミネルバの前面モニタに映る機影。
 戦闘機と同じ大きさかやや小ぶりだが、特徴のある翼と全く違う挙動。コーディネーターの中でも特に能力の優れた者しか扱えない特別な戦闘機。
「フリーダムは、白い機体に青い複数翼を持ち、一度に7つのレーザービームを発射する事ができたそうよ」
 味方のはずの地球軍がいる空域で、所かまわず七色のレーザーを放つ白い機体。早すぎて一瞬でカメラから消え、気が付けば別のモニタで爆発が起こるその光景。
「あれが、そうなのね」
「ええっ、それじゃあシンは!」
「その生きた伝説と戦う事になるわ」
 ブリッジの通信席に座るメイリンが心配そうにメインモニタを見上げる。あの空にはシンだけでなく姉のルナマリアも戦っているのだ。


 戦闘機はおまけみたいなものだから。操縦は適当でいい。
 何かあったらこのレバーを引いておけ。
 あの人がそう言っていたっけ。ルナ達と合流して、初めて戦闘機の操縦を説明された日、適当に飛んでいれば大丈夫だから、まずは基本に忠実にな。と、あっさり講義を打ち切った。
 それはこの日のことを予見していたのか。技術ではカバーしきれない壁がある。派手なアクロバット飛行や、先達が残した飛行技法をマスターしていたとしても、この局面ではなんの役にも立たない。 
「早いっ!?」
 くそっ、振り切れない。
 ロックオンされないように飛ぶが、乱れ飛ぶレーザービームにそれはあまり意味のない回避策なのかも知れない。
 旋回性能も向こうが上かよっ。
 コックピッドから覗く大地が反転し、爆音を切り裂いて脇をミサイルがすり抜けていく。戦闘を繰り広げているのはシンだけじゃない。
「なっ、いつの間にっ」
 前に。
『シン!』
 上空からのルナの援護射撃にも、機体を回転させて難なく交わす。それどころか、滑らかな動きで進行方向をルナの乗る戦闘機に向け、七色のレーザービームが走った。
 視界の端で上がる煙にシンは叫んでいた。
「ルナァ―――ッ!!」
『ブースターをやられただけよ。まだ飛べるわ』
 エンジン付近から煙を上げているが、何とか飛んでいる。しかし途端に動きが鈍くなったのが素人目にも分かる。
『何をいっているの、ルナマリア。それではただの的よ、帰還しなさい』
『艦長!』
 必死なルナの声。
『これは命令よ。管制っ』
 通信を通しても、ルナの悔しい気持ちが伝わってくる。
「ルナは早く戻れっ! 後は俺が」
 何とかするから。
 後少しなのに。
 この青い海を抜ければ、ヘラクレスの柱。ミネルバの旅の終息地。
 だが、シンには圧倒的に経験が足りなかった。それをカバーできる程、奇策に走れるフィールドでもない。ルナにはああ言ったが、はっきり言って避けるのに精一杯。広い空が手狭に感じられるほど、全身に閉塞感を感じ、常に纏わりつくプレッシャー。
 シンを追いながら、平然と戦闘空域の機体の数を減らしていく生きた伝説。
 空に大きくシュプールを描き、2機がS字を交差させ、上空でターンを切る。そのたびに全身に掛かるGにシンは歯を食いしばって耐えた。
 ふっと力が抜けそうになるスティックを握る手。
 限界を越えて燃えるエンジンに、もういいんだと、十分やってくれたと労うことはできなかった。ピリピリと頭の奥ではじけるスパークが、それを知らせてくれる。
 今、狙われているのは俺だ。
 背後から7色のレーザービームが迫る。虹色には程遠いその光の刃が機体の翼を掠める。
 6本目まではなんとか避ける事ができた。
 逃げ切れないのならっ。
 エアブレーキ、フラップ、エンジン全てを使ってストール寸前まで追い込み、そこでくるりと機体が回転する。背面飛行のまま再びヘッドオン。夢中で機銃をぶっ放す。
 手ごたえはあった。
 びくともせずに再び、真っ直ぐ自分に向かってくるレーザービーム。斜めツイストでターンして交わすが、二度も天はシンに味方してくれなかった。
 シンが機体を振ったそこにも赤いレーザービームが走っていた。
 衝撃と同時にけたたましく鳴る警告音。
 被弾。


「弾幕薄いわよっ! 何やってるのっ!」
 タリアの指示でアーサーがすかさず、右舷左舷の砲を使う。回転砲塔が火を噴き、自動追尾迫撃砲が一分間に120発の砲弾を撃つ。
「シンっ!?」
 メイリンが息を呑んだ。ブリッジの全員が一枚のモニタを見つめる。右の翼の端から黒い雲を棚引かせて大きく逆Uを切る機体があった。


 電子制御されているはずの機体は、墜落の危険にシートを射出せずに青い海に向かってどんどん高度を下げる。眼下に迫るのが海ではないのは幸か不幸か。白い大地と崩れた建物が見えた。
 コックピッドのパネルに電気が走り、HUDにノイズが走ってウィスキーマークが消えた。
 アナログの高度計が恐ろしい速さで回る。
「脱出なんて、アンタ教えてくれなかったじゃないか―――っ!!」
 シンは殆ど無意識のうちに座席の下のレーバーを引く、それはもう殆ど地面すれすれだった。
 はじけ飛ぶキャノピー。射出されてすぐの落下に地球の重力を感じる。
 一回転して難なく着地して、片膝、片手をついて息を整える。コーディネーターでなければこれで終りだっただろう。ドーンと爆発するさっきまで乗っていた愛機の爆風に耐えて顔を上げた。
 後から吹きつけた爆風が、潮が引くように戻ってくる。
 かすかな大地の音。その爆炎の中から現れた姿。
「お前は・・・」
 あの傷で戦場にいることを当然のように受け止め、シンはライトセーバーを抜いた。


 黒煙に映える青いライトセーバー。あの人と同じ色。
「君、すごいね」
 彼の背後で一際大きな爆発が起こって、オレンジの炎を上げて空に煙を吐きだした。
「どうして邪魔をするの?」
 無表情で向かってくる視線は鋭く、得体が知れない。
 本当に分かってないのか?
 切り結ぶ2本のライトセーバー。削られる光がスパークして、空気を切り裂く小さな稲妻を走らせる。
 すごい振動でシンは一瞬肩がもげたのかと思った。
 身体が流れた隙に、ものすごいスピードで伸びてくるライトセーバーが見える。
 再び構えたのでは到底間に合わない。
 肌で感じた通りに、身体を動かした。皮一枚、もしかしたら腕の1本は覚悟で重力に任せて身体を落とす。背面のまま、手をついてバク転。
 2撃目、3撃目が間髪なく打ち込まれる。
 場所を変え、位置を変え、勘と頼りに光の刃を防ぐ。
 機械のように正確にポイントを突く攻撃。
 遭遇した場所からかなり上がって、崩れた石の柱が転がっていた。丘の上には列柱が幾つか立ち並んでいるから、その島はもしかしたら古代の神殿の跡かも知れなかった。
 柱と柱の間に立つ男の背後に傾いた太陽の陽射しが降り注ぐ。
「僕はただ平和な世界を守りたいだけなのに」
 敵を攻撃するのでもなければ、味方を守るわけでもない無差別な攻撃。
 彼の向こうにも、自分の背後にも戦闘機の残骸。紺碧の海から棚引く黒煙に、空には爆撃の名残が浮かんでは消える。小波の合間を縫って途切れる事のない砲撃音。
 戦いを止めれば、戦争が終わるとでも思っているのか。
「どこが・・・これの何処が平和なんだ」
 前の戦争であんなに大切なモノを人は無くしたのに。あんなに傷ついたのに。
 また戦争になるのはなぜなのか。
 ギリと、ギュッと歯を食いしばり、聞こえる程に拳を強く握った。
 隙ない力の入っていない立ち姿に、自分との次元の違いを知る。視線を合わすけれど自分を通して誰かを見ているようでもあり。
「それでも、守りたいものがあるんだ」
 感情の読めない瞳と焦点が合う。
 守りたいものがあると言った。
 戦場に借り出される強化人間、エクステンデットの少女。まだ、打ち解けあうとは言えないけど、随分と仲良くなったと思う。
 コーディネーターの未来を信じて、共に戦う少女。すぐ子供扱いするところは気にいらないけれど、それに随分と助けられていると思う。
 ヨウランやヴィーノ、メイリン。メカニックのミネルバの仲間。
 気が付けば俺はいつも守られていた。戦場に出れば特に、まだガキで何も知らない俺はきっとあの人にすごく迷惑をかけていて。
 その度に、いつもいつも、あの人の前に姿を現した。
 戦争はいつもシンの大事なものを奪う。4年前、再発した戦争、自分自身の力ではどうしようもない巨大な力があっさりと消していく。
 目の前にいるのは、そんな戦争の力の象徴。
「お前のせいで―――っ!」
 実は今まで息をしていた空気は、本当は動きを封じる透明なガラスだったのではないか。
 自分の周りで、閉じ込めていたクリスタルがはじける。急速に拡散する意識。
 先に踏み込んだのはどっちだったのか。
 重い一撃を顔のまん前で受け止めて、睨みつける。
 腕の筋肉の動きに気づいて咄嗟に身体を離せば、下から繰り出される蹴りにあわせてシンは宙を一回転して、上からライトセーバーを突き出した。
 両親や妹、ハイネの仇の男の瞳に感情が浮かんだ気がした。 
 守ると言って、目の前の敵を消すことも、本当は戦争の一部に違いない。 


 最強のコーディネーターに被って白い世界が見える。
 振り返った緑の瞳と目が合い、その人は目を細めた。
 周囲から音が一切消え、心臓の鼓動だけが響く。 
 ――――――シン
 声が聞こえる。


 迫る青い光の刃と平行にシンの腕から伸びた朱色のライトセーバー。光を失いつつ高く舞い上がるライトセーバーの色は青。戦場に似つかわしくない静寂さの中にあって、唯一動くものがあった。シンの頬を真っ赤な血が流れ落ちる。
 シンの刃は相手の喉元の直前で止まっていた。


「後悔するよ、君」
 大して俺と変わらない歳だと思った。
 あの人と変わらない柔和な表情をして見上げている。けれど、もう無表情には見えない。ちょっと力を込めれば一瞬で決着がつくと言うのに、さっきまで無音だった世界に色と音が戻ってきている。
「アスランのこと・・・」
「あんたには関係ないだろ」
 シンが吐き捨てると同時にライトセーバーの刃を消し、彼が立ち上がるのをシンは何もせずに見守る。
 ついさっきまで刃を向け合っていた事が信じられないくらい、相手が普通に歩いて少し離れた所に落ちていたライトセーバーを拾う。それはシンの攻撃で下半分が焼き切れていた。
「これ・・・アスランに作ってもらったのだったのに」
 確かにシンが手にしているのと全く同じもの。ただし上半分だけ。
 呟きながら一度、シンを振り返る。
 ついに交わす言葉もなく数秒、今だに燃え続けるシンの愛機のほうからシンを呼ぶ声が聞こえた。
「シーンッ!」
 偵察機に乗ったルナとヨウランが丘の下から現れる。警戒するルナが腰のライトセーバーに手をかけながら近寄り、ヨウランが操縦を代わる。
「ルナ!」
「シン。あんた大丈夫なの? 怪我はない?」
「ああ、うん」
 さりげなくシンを庇うように前に出るから、シンは慌ててルナを制して二人して立ち尽くす男を見た。着ているスーツが地球軍とは違い、ルナが視線を逸らさずにシンに聞く。
「誰?」
「行きなよ」
 感情のない声が脈絡もなく言う。
 当初の目的を思い出したルナが、強引にでもシンを引っ張っていく。最初の2・3歩こそ引きずられこそしたが、シンは彼女と共に偵察機で空に舞い上がった。空は黄金色に染まり、西の空に救援の航空戦艦が見えていた。
 これでいいんだよな。
 おれはもう軍属でこの先ずっと、コーディネーターが平和に暮らしていける世界の為に戦い続けていくんだ。俺の人生は後悔の連続で。
 一瞬の判断が全てだから。それに従うしかないんだ。
 シンは海上の小島を振り返らなかった。
 これからは、もう少し、亡くした人の優しい夢を見られるかも知れない。


 ボロボロのミネルバが集結したコーディネータの戦艦の一団に加わったのは、それから数時間後のこと。茜色の空の下、大陸の西端にある海峡を望む要衝・ジブラルタル。古来からその地はヘラクレスの柱と呼ばれていた。


意外とあっさり? やーようやくジブラルタルに到着です。vsキラで一回分丸まる使ってしまったよ~。肉弾戦だとブーツ攻撃とかハイマットフルバーストとか機体の特徴を生かした攻撃にならないから難しいですね。ライトセーバー戦は単純だからそれゆえ描写がワンパターンになるというか。格闘技とかよく知らないから苦労するんだよな、アクションシーンもっとうまく書けるようになりたいなりよ。

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