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Men of Destiny 37

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戦士よ



 いやに細かく動く機体。思った以上にいい旋回性能にシンは新しい機体をもてあます。
 今までならなんでもない空中戦も、紙一重で交わすのがやっと、慣れた感覚を書き換えるのに敵戦闘機の5機を費やしていた。
 そこまでしてようやくスティックが手に馴染み出す。
 ぐっと広くなった視界の端で見つけた4機編隊が向かって来る。微妙な姿勢制御を無意識の内にこなし、撃ってきたミサイルを交わす。
 この加速ならいけるっ。
 スロットルを全開にして、パワーに任せてミサイルを振り切る。あっという間に4機を落として、ジブラルタル宇宙港の上を大きく旋回した。
「あんな所に、地上部隊」
キャノピーから覗き込む地上を動き回る戦車を見て、シンは時期を逸したのを知った。敵と味方が入り乱れてしまっては援護射撃はできないし、地球軍の戦闘機も引いていくだろう。
 あの赤い奴はどこだ。
 HUD上には影も形もなく、視界のどこにも見つからない。
「くそっ」
 よたよた飛ぶシンは全く相手にされなかったのだ、すれ違うだけでスルーされた。もう少しでコックピッドの前面モニタを叩きつけそうになった時、ミネルバから通信が入る。
『シンっ! 戻って』
 移動を開始したミネルバのいる3番ドック手前で派手にドンパチが始っていた。
 大きくカーブを切って、地球軍の装甲車を機関砲で縫い取りながらシンはミネルバの飛行甲板を目指した。


「ブースターとドッキングするまでの時間だけ持てばいいっ!」
 コックピットから降りるなり、主任に投げられたのは装填済みのマシンガン。
 移動中のミネルバに注意を即すアラームが鳴り響く、3番ドック周辺では激しい襲撃戦が始っていた。艦のクルーはミネルバの甲板上から銃で応戦する。
 シンは移動するミネルバのマスドライバーまでのルートを目で追った。ドックを出てすぐ左、コントロールタワーの下を通って、発射位置へ。
 ところが、シンの視線の先でコントロールタワーの根元で爆発が起こる。
「させるかっ!」
「シンっ!」
 ガッシと腕を捕まれて、バフッと顔に紙袋が当たった。ヨウランとヴィーノが指差す先は敵味方入り混じるマスドライバーの管制塔まで続くエリア。
「工作員が紛れ込んでるらしい。施設内じゃあパスが必要になる」
 袋から取り出したのは赤の軍服。
「発射3分前までには戻れよっ」
 正直、白兵戦をするのにこの目立つ色はどうかという突っ込みはなしだ。この色は決意と誇りの表れなのだから。先頭に立ってコーディネーターを守り導くことを期待されている。
 他でもない、俺が。
 シンは袖を通すと同時に軍服の裾が大きく翻る。マシンガンをヴィーノに渡して、ライトセーバーを振りかざしながら敵の地上部隊の中に飛び込んでいた。
 四方八方から飛ぶ銃撃を交わしながら、シンはコントロールタワーを目指す。
 爆破入り口は未だに燻る火を上げていて、煙が充満していた。かち合った地球軍の兵士の銃身をライトセーバーで切り落とし、彼らの銃弾の間を走り抜ける。既に内部に侵入されているのだろう、通路のあちこちに横たわるプラントの軍服を来た男達。
「どうしてここまでっ!」
 居たたまれなくて、ただ走る。
 近いっ。
 単発的に起る銃声と、悲鳴が奥のほうから聞こえた。
 応戦する仲間達が通路の突き当たりにいたが・・・。ずるずると後退しているようだった。
 ブオン。
 赤いライトセーバーの刃が一瞬見えた。
 通路の壁に吹き飛ぶ鮮血の跡が、2重3重に重なって、事切れた身体がドサドサと折り重なっていく。
 なんだっ!?
 シンの位置からは時々垣間見えるライトセーバーの先端しか見えないが、一人一人、通路から出て応戦するたびに、押し戻されて手足が、頭が赤い血を引いて飛んでいく。
 人があんなにあっけなく。
「止めろっ!」
 立てこもっていた最後が倒れ、シンの耳にはライトセーバーの音だけが残った。地球軍の軍服を着た男が姿を現し、血糊など着くはずがないのに一振りしてシンを見ていた。
 あれだけやっておいて、返り血一つ浴びていない。 
「おい、新入り!」
 後から誰かに呼ばれたようだ。
「すぐ行く」
 こ・・・の、声。
 顔の上半分を隠すバイザーと、灰色の髪を覗けはそれはシンのよく知る人物と同じだった。


「なんだ子供か」
 ライトセーバーの刃は出たまま、一歩ずつ近づいてくる。
 殆ど反射的にシンは自分のライトセーバーを抜いた。
「やる気か?」
 バイザーは不透過処理をされていて、その向こうは覗けなかった。硬めの灰色の髪。
 えっ?えっ?
 声と同時に目の前にいた。驚いて飛びのいて、振り払うようにライトセーバーを回すが、それは見事に合わされてしまった。相手は初めからそこにいたかのように静かに立つ。
 まるでダンスを踊るように、すり抜けられる。
 リーチが違いすぎる。
 長い手足が描く曲線と、成長途中の直線的な動き。シンは不利を悟って、階段を駆け上がるが。
 なんで! こんな。
 それすらも一瞬で間合いを詰められ、一気に10段飛ばしで階を上がることになってしまった。格好は悪いが、階段途中にあったゴミ箱や非常用の消火器を片っ端から投げる。ライトセーバーで切り取った非常扉が音を立てて倒れていく。
「あっちもライトセーバーだから、こんなんじゃ効果なしかっ!」
 大して足止めすることもできず、少しでも気を抜いたら目の前を横切る赤い光。
 その度にシュンと音を立てて、空気が震える。と、一瞬、向こうの注意が削がれる。
「遊んでる場合じゃないぞっ!」
 素顔を隠した男がエレベーターホールの前で呼んでいる。ステラと共にいた変態仮面が割り込んで来た。
 今だっ。
 短く「分かっている」と、答える隙をついてシンは突進するが、敵う気がしない。それよりも、なぜか、殺される気がしない。
「コントロールルームを制圧するのが先だぞ」
「ああ」
 肩を竦めて、ライトセーバーをしまうと、目の前の男が拳を突き出した。
 相手が無表情の中にもかすかに唇の端を上げるものだから、シンは思わず呟いていた。
「何をっ・・・」
 緩んだ指の隙間から落ちるのは、ボタン。
 大小さまざまなそれが、次々に廊下に散らばる。
「俺が本気なら、君は6回死んでいたな」
 床に転がっているボタンは全部で6つ。
 もしかして、俺の軍服の! シンは慌てて軍服のあちこちを見た。袖口のボタンしかり、前立てのボタンしかり。紙一重でボタンだけが切り取られて、遊びだったと証明された。しかも、徽章だけはしっかり残っていて、シンの中で何かが切れた。
「なめるな―――っ!!」


 冷たいのか、熱いのか、痛みが脳天を突き抜けた。力が抜けて、ドサリと膝をつく。
「ぐわぁ――――――っ」
 喉の奥から、脊髄反射で悲鳴をあげた。
 見るのが怖い。シンの視界の中で、右の手首がない。
 歯がかち合わなくて、カチカチと鳴り、全身から汗が噴出した。
 相棒を失った左手が行方を探して右腕を支える。
「あっ、あっ」
 手が、手が、血が。
 実際にはライトセーバーの切断面でそんなに血は出てない。
 痛みと光景が合わずに、近づいてくる靴音に、顔を上げることしかできない。
 来るな、来るなよ。
「はい、君のライトセーバー」
 受け取れと差し出されても、手を出せそうにない。
 それを、どうしろって・・・言うんだ。
 目じりがじわりと滲む。恐怖だと思いたくなかった、これは悔し涙だと言い聞かせて唇を噛み締める。精一杯、相手のバイザーに覆われた顔を睨みつけた。
「これで7回死んだな」
 背を向けて去っていく背中に、シンは視線を送ることしかできない。彼が去る間際に傍らに置いていったライトセーバーに手を伸ばすが震える指先はうまく掴めない。2・3回弾いて、何とか握り締める。
「・・・くっ・・・ちっくしょう」
 あり合わせのもので右腕を縛り、気休め程度の止血をした。救急袋を見つけて、痛み止めを突き刺した。
 どうせ、くっつきっこないんだ。
 床に転がったままの右手を見下ろして、シンは諦めた。今すぐ処置しても繋がるかどうかは微妙なところだ。まして保存する入れ物もないのだ。今だ震えが止まらない足に力を入れて立ち上がる。
 ライトセーバーを腰の後にさして、階段を駆け下りた。
 今から、コントロールルームに行ったって無駄だ。
 痛みは感じないはずなのに、腕が痛い。すぐに右腕に向かおうとする意識を頭を振って思考を取り戻す。
「何がなんでも、ミネルバで宇宙へ行ってやる」


 一方ミネルバは既に離脱ブースターとのドッキングを済ませ、施設内レールの上を発射台までゆっくりと移動していた。コントールタワーから送られてくるカウントダウン。
「艦長っ!」
 それが、突如停止され、キャンセルの文字がデカデカと現れる。アーサーが悲鳴をあげ、ブリッジは騒然となった。がっくんとミネルバの移動もストップする。
「コントロールが落ちたのね! アーサー、ブースターはこちらで点火操作できるの?」
「ええっ!?」
 うろたえる副長に変わって、ミネルバに届くのはスピーカから聞こえるシンの声。
『艦長! ここから直接点火しますっ』
 奇しくもミネルバはちょうど滑走路の最終チェックライン上でコントロールタワーの真下、レール脇に備え付けられた手動用のコントロールルームの前だった。その部屋の中にシンの姿を確認する。
「お前、どうしたんだ。顔色悪いぞっ」
「・・・シンっ! 急いでっ」
 アーサーが冷や汗で血色の悪いシンの顔色に驚いていたが、タリアの言うとおり、ぐずぐずしていると、マスドライバーのレールそのものが破壊されかねない。シンは右手を見せないように、モニタに向かって返事をした。
『はいっ!』


「やってくれるねえ」
 コントロールタワーを制圧して、せっかくミネルバを止めたと言うのにまた動き出したのを見てネオが苦笑いをする。
「手動用コントロールからだ」
「逃げられちゃ、元も子もない。新入り、行くか」
 ネオとシンの右手を切り落とした男がコントロールルームを後にする。


 カウントダウンを再開したとなれば、長居は無用だ。
 後は何が何でもミネルバに乗り移るだけである。それだけに、耳の後で遠くで鐘が鳴る。
 部屋を出て、通路の端に地球軍の姿を確認した時は、驚きはしなかった。
 頭半分を追おう仮面を被った男と、バイザーで顔を目を隠した男と、明らかに異色な軍人達。シンの姿を見るなり、もう奪取で迫る彼ら。
 シンは壁のロックを片っ端から壊しながら駆け抜ける。閉まる非常シャッターを掻い潜って、出口を目指す。右腕を庇うように走りながらも、出口の向こうには移動するミネルバの船体が見えた。
 あいつのボディーコントロールはすごい。
 だから奴は止まる。
 でも、読まれていたら?
 不安を無理やり飲み込んで、シンはジャンプして手すりに飛び乗って力の限りジャンプした。作業用のクレーンに片腕1本で捕まって、鎖が伸びて振り子のようにミネルバに迫る。戦艦が動く様はゆっくりに見えても、実は猛スピードで、偶然が重なったタイミングだった。
 みるみる近くなる船体のサイドのハッチで手を伸ばしているのは、ルナ。
 身体を乗り出して目いっぱい広げた手を掴む。勢いで振り飛ばされそうになるルナを支えていたのがステラ。
 身体をぶつけながらも、シンは両足をついて肩から身体を強引にミネルバの中に押し込んだ。
 轟音と共に大気圏離脱用のブースターが点火する。無理やり発進するミネルバに、タワー内の様々な突起物が吹き飛ぶ。非常隔壁が降り始めようが、作業用のクレーンが手動のコントロールルームを直撃しようが、ミネルバは止まらない。
 3人揃って、艦内の気密ハッチの中になだれ込んで、加速Gの為に壁に押し付けられる。
「わーっ!!」
 ステラとルナの悲鳴さえ、振動と轟音に掻き消えた。
 一直線に伸びる白い軌跡が空高く伸びる。


いや、まあ、うん。シン増長記念ってことで。本当なら前回と今回の間に2,3話を挟んでちょっと図に乗るシン・・・なんてのをやりたかったんだけど、いいネタが思い浮かばなくてこんなんになってしまいました。どうでもいいけど、彼の名前募集中です。と言うか、ボタンなんてどこにあるのあの制服にっていう突っ込みはなしでお願いします。

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