※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

走りつづけたい



 言うまでもなく宇宙での戦闘は全方位戦闘である。360度、上下も左右もない。機体名はデスティニー。地球の工廠で組み立てられた試作機の一つ。地上で軽く調整したデスティニーは、再度ミネルバ内で宇宙戦闘用に調整し直されたばかりだが、肝心のシン自身が宇宙に関しては初陣だった。
 抵抗がないってことはこういうことか!
 飛び続ける、速度を相対的に計れる目標物のない世界。
 シールドされたコックピットでは外の様子は黒一色。
 ただ、戦うために用意された無限の戦場、それが宇宙だった。こんな所をコーディネーターは自分達の生きる場所と定め、生活を築いていたのだ。
 感慨に浸る暇もなく、アラームが鳴り響く。HUDに点滅するミサイル接近の文字。
「中立のステーションじゃなかったのかよっ!」
 ステーションの管理宙域を出る前の戦闘。こんなのはルール違反だと地球軍の戦艦に抗議したくもなる。
「俺が宇宙が初めてだからって」
 できないわけがない。
 根拠のない自信も、当然の不安も深く突き止めているほど拘っている余裕はないのだ。敵戦闘機や、一緒に飛び出したルナマリアだって飛んでいる。
 シンにできないわけがない。
 身体にかかるGも半端じゃないが、シンは飛来するミサイルを全て叩き落していた。
「この感じっ!?」
 深宇宙の側で次々と起こる爆発が、小さな銀河の誕生のように見える。
 ざわりと肌があわ立つのを感じた。
 あの機体・・・あの人・・・アスラン・ザラ!


 その熱源はどの艦からも捕らえる事ができて、母艦であるコンシールドされた黒っぽい戦艦の艦長がブリッジで呟く。
「コードネーム、AとZ。始まりと終りねえ、大佐命名だと聞いたが、どこから付けられたのやらだな」
 単独で機動部隊を構成する宇宙戦艦、ガーティ・ルー。
 スターボートに移される撃墜マーク。消える熱源をカウントするオペレータが、興奮気味に言う。
「7、8、あっ、敵軽巡撃沈! これがエクステンデットの力なのか・・・」
「奴に編入組みのフォローも怠るなと伝えろ。スティングにもだ」
 エクステンデットの誰もが同じ活躍ができるわけではない。現に同じラボ出身のスティングも出撃しているが、いまだ撃墜数は2。それこそ、皆が皆、同じように活躍していたらとっくにこの戦闘の決着がついて、ミネルバのブリッジで情けない声をアーサーがあげる事もない。
「アーサー何言ってるのっ! 弾幕張ってっ」
「ははっはいいぃ!」
「メイリンっ。シンとルナマリアに気をつけてと送って。初陣で落とされるなんて洒落にならないわっ」
 慌てて通信を開くメイリン。目の前の画面ではエンジンが吐くフレアしか見えない。包囲されたプラント側艦とそこから発進した戦闘機、包囲する地球軍側戦艦と攻撃機、そしてそれらの残骸で戦場は荒れていた。


 シンは右のスティックを強く握り込んだ。グローブ越しに伝わってくる機の振動に自身の震えを振り払うように強く引く。
 もし、違ったとしても。
 シンのところからもその赤い機体が次々と戦闘機を落とすのが見て取れた。あまつさえ戦艦まで。見る限り誰もその機体に追いつけないようで、やられる一方。
 紙くずのように燃えては消える命。
 真空の宇宙じゃ悲鳴も爆発音も聞こえない、あまりに静かに消えていく光景にシンは息苦しさを覚えてヘルメットのバイザーを開けた。
 これは戦争だ。戦争なんだ、もっと怒りに燃えていいはずなんだ。
 そう、確かに怒りを覚えている、だが、それ以上に落胆している自分がいる。
『なんなの!? あの赤いのっ。さっきメイリンから警告があったのはあれねっ』
 ルナマリアから通信が入っても、シンは返事もろくすぽ返さずに機体の光を追う。近寄らなければ「赤い」機体とは分からないから、ルナは少なからず接触したのだろう。
「ルナっ! 無事か」
『まあね。でも、目の前で2機やられたわ。私も1機落としたけど』
 運が良かったらしい。狙われて無事で済むとは思えないから、その時の標的は別にあったようだ。敵もまだ動きがぎこちない機体が数多くいるから、戦場はごった煮状態。
「このままじゃ、いずれあれに全部落とされる」
 確かめたいことがある。
 この付きまとうような感覚が何なのか。
『シンっ。駄目よっ!!』
 視線にも似た気に障る感覚。
 ずっと動きを見ていて、単純なスピードならシンの機体だって負けやしない。そう思ったシンは思いっきりスロットルを全開にする。引き合うように広大な宇宙の戦場ですれ違う2つの機体。
 射線軸に入る前から、まるで計った様にレーザービームが飛んでくる。それを交わす所までは相手にも読まれていたようだったが、シンの次の一手までは予測不可能だったに違いない。
 シンが押したのはトリガーじゃなく有線の通信用ワイヤー射出ボタン。
 ピンと伸びたワイヤに引きずられるようにして2機が一定の間隔を保って回転運動する。
「アッ、アスランさん! その赤い機体に乗っているんだろ・・・ なんでそんな所にっ」
 返事なしかっ。
 腕を切り落とした本人が乗っているとは限らない。まして、それがアスランだとも限らない。だからどうしても確認したかった。例えシンの中で99%答えが出ているとしても。
「アスランさんなんだろっ」
 そうであって欲しい気持ちと、そうであって欲しくない気持ち。
「アスランさんっ!」
『うるさいぞ、お前。俺はアスランって奴じゃない』
 そんなハズはない。
 通信越しでも、聞き間違えようのない声に鼓動が跳ねる。
 それもつかの間、ワイヤーをレーザーで焼ききられて赤い機体が離れていく。慌てて後を追うが、シンの目の前で大きくターンを切るとZ軸下にいた艦に向かって加速する。両翼が赤く光ってブレードのように伸びる。
「やめろ―――っ!」
 ブリッジを切り裂いて、赤い機体が駆け抜ける。やや遅れて艦橋から爆発、誘爆した艦はあっという間に爆散した。
 次なる標的に向かおうとする機体とシンとの間をいくつものビーム砲が貫く。
 ステーションから出てきた、プラントの宇宙戦艦から放たれたものだった。


 増援によってなんとか包囲を脱出したミネルバを初めとするプラントの戦艦が急遽防衛拠点に向かう中、ミネルバは意外な人物を迎え入れていた。
 先ほどの戦闘で遅れて駆けつけた艦の艦長。
「艦長のタリア・グラディスです。ようこそミネルバへ、ジュール隊長」
 迎えに出た艦長の斜め後ろでやって来た人物を見てシンは目を丸くした。そして、相手がこっちを見てにやりと笑う。
「イザーク・ジュールだ。お噂はかねがね」
「ジュール隊長の勇猛ぶりも地上まで届いておりましたわ」
 助けに入った艦、確か・・・ヴォルテールだったか。その艦長だったのか。シンはそれならあの只者じゃない動きも納得できる。そして、思わせぶりなセリフも。
 艦長や副長のアーサーに先導されて去った後の格納庫に残ったのは、情勢の憶測ばかりだった。独立宣言、防衛軍組織と順調に進んでいるプラント自治評議会の次なる一手。中立コロニーやステーションの勢力図や後門の虎である地球軍の月基地との攻防の行方。ミネルバは編入予定のプラント宇宙軍・月軌道艦隊が向かった、地球軍のアルザッヘル月基地を守るヘブンズベース要塞攻略に参加するのではないか、というのが大方の予想だった。月基地の脅威の排除だけは今だに決着がつかずこう着状態に陥っていたからだ。


 シンは格納庫で機体の整備をしている最中、ブリッジでの作戦会議を終えて戻ってきた彼を見つけた。
 まずいと思いながらも、見事な銀髪を睨みつけるように見ていたら、つかつかと近寄って来た。
「また会ったな、シン・アスカ」
 最初から知っていたくせに白々しい。
「フリーダムを倒したのがこんな奴とはな。一手お相手願おうか?」
「おいっ、イザークっ」
 ここに来てシンのイザークに対する心象は最低だった。もとから低かったのが、最悪になったようなものだ。前も一緒にいた男が止めるも、お互い戦闘モードに突入していたのでは、もはや止めようがなかった。
 2本のライトサーベルがミネルバの格納庫で抜かれる。
 あの人に少し似てる・・・か?
 シンはイザークがライトセーバーを抜いて軽く構える姿に面影を見出していたが、対峙した相手がそんなことお構いなしに踏み込んできた。
 早いっ!
「なるほど」
 何とか交わすも、右から左から次々と一撃が襲う。避けるのに精一杯で反撃のチャンスを伺う。僅かに後に引いた左手の場所に隙を見つけて身体をねじり込ませる。
 取ったっ。
 と、思った瞬間シンは派手に宙を飛んでいた。
 なんだっ。逆さになった世界で相手をみるが、触れてもいない突き出された左手のみ。
 空気の塊をぶつけられたように、弾き飛ばされる。受身を取って、一回転して向き直れば、ライトセーバーの刃が消えていた。
「確かに瞬間的なスピードは認めてやろう」
「いっ。何なんだよ」
 フフンと鼻で笑われて、シンは起き上がりつつも睨みつける。さも、『まだまだだな』と目が口ほどにモノを言っている。
「コントロールがなっちゃいないな。それだけのスピードと感覚があるのに、中途半端な奴だ」
「うるさい。まだ修行途中だったんだよ。それに、これでも十分に戦える!」
 ああっ、これじゃあ、負け惜しみみたいじゃないか。と、言っておいてシンは後悔する。
 そんな事は誰よりも自分が良く分かっていて、痛い目を見たのに。
「並の敵ならな。だが、それだけでは奴には勝てんぞ」
「それは・・・赤い機体のことですか」
 並んだ二人の反応はまるで逆だった。御付きといった風の金髪の男は、肩を竦めてため息を付き、銀髪のこの男は唇の端を吊り上げる。幾分、嬉しそうでも悔しそうでもある。
「俺は一度もアイツに勝てなかったからな」
「知ってるんですかっ!?」
 答えたのは金髪の方。
「俺達の同期さ」
「アイツは死んだはずだ。プラントと共に地球に堕ちて」
 銀髪に映えるアイスブルーの瞳だった。
 ランチに乗り込んで艦を去る姿は、シン達にはない厳しさがあって、それが前大戦を経験した者が持つ傷痕なのだと後になって知った。


 一体、ヴォルテールの艦長であるイザーク・ジュールとどのような作戦を交わしたのか分からないが、ミネルバは今、1艦で宇宙を航行中だった。外宇宙から持ってきた小惑星を崩した残骸や、戦争の残骸が散らばる宙域。
 ブリッジに鳴り響くアラートにグラディス艦長が顔を引く。
「どうやら、こちらがくじを引いたようね。コンディションレッド発令」
 ヴォルテールと立てた作戦はどちらかが、追っ手を引きつけるというもの。なぜ、中立ステーションを取り囲んでプラント側戦艦のあぶり出しを行ったのか。彼らがどうしてもそこで始末しておきたい人物がいたからである。
 その人物の名はプラント自治評議会議長、ギルバート・デュランダル。中立ステーションで極秘会談中だった所への襲撃で、会合は場所を変えて再度セッティングとなったというわけだ。議長が乗っていると目された2艦が追撃の対象となったのである。
 あれだけ有名になったミネルバは言わずもがな。
 そして、イザーク・ジュール率いるジュール隊も宇宙では有名な部隊だった。
 勿論、ミネルバに議長など乗っていない。
 クルーにはただ追撃部隊と交戦状態に入る、とだけ知らされる。
 また、戦闘に出るシンにしても同じだった。出撃前のブリーフィングで知らされた内容はただ、追手の地球軍を振り切るということ。
 議長がいようがいまいが落とされるわけにはいかない。相手があの赤い奴の母艦ならなおさら気を引き締めなければならなかった。
「シン・アスカ。デスティニー行きます!」
 続いてルナマリアが出る。
「インパルス2号機出るわよっ」
 2機の前方にキラりと光る大軍があった。
『数だけはくれちゃって』
 確かに数は多い。だが、あの気配がない。安堵と落胆を込めてスティックを握ればさっそくミサイルが飛んで来る。
 余裕で避けて宇宙用に改造した機銃が、敵戦闘機の機体に一列に穴をあける。糸を引いてしばらく滑空したあと爆発した。その後も1機しとめたが、今後は目の前で爆散する。
 なんでこうも簡単に。
 シンが強いのではない、相手が弱いのだ。
 こちらはなんなく障害物を避けて飛べるが、向こうは避けるのに精一杯の様子。
「こんなのは戦闘じゃない・・・」
 虐殺だ。ついさっきの戦闘における立場が逆転したようなもの。赤い機体が赤子の手をひねるように落としていく光景が浮かぶ。
 シンは目の前に突っ込んできた敵機にかぶさるウィスキーマークが、ずれたところで引金を引いていた。ぶら下げたミサイルと尾翼に当たったらしい。
「しまった。あれじゃ舵がきかない!」
 早く脱出してくれれば、助かる確率もある。 
 しかし、非常にも障害物の陰からレーザービーム。確か、宇宙用に取り付けた新武装。
「ルナっ!?」
『何、外しているのよっ。機雷でも撒かれたらどうするのよっ!』
 煙を吐いて、障害物に向かって飛ぶ敵機。
 このまま飛びつづけたらぶつかってしまう。今ならまだ、脱出すれば助かるかも知れないのに、よろよろと飛ぶ戦闘機に動きはない。シンはチャンネルを会わせて通信を開こうとする。
「そのコースは危険だ!」


 オートチューンで最後に引っかかった周波数が返事を返してきた。
『なんでえミネルバのガキか。つくづくテメエと縁があるみてエだなあ』
 シンは目を見開いて、前方を飛ぶ機体を見る。
「なんで、脱出しないんだっ」
『俺達みたいな下っ端にな、何機も機体なんざ用意されちゃいねえのさ。それに、テメエらと違って俺はナチュラルだからな』
 コックピット内部で爆発音。聞こえる声が息が混じりだす。
『・・・この宇宙で一人漂って生き残る自信もねえ。これで終りなんだよ』
 ここは地上じゃない。合金でできた機体の外は、人が生きていけぬ真空の世界。ノーマルスーツを着ていても、エアが切れれば終り。万が一の可能性もありはしない。
「だからって、ここで死んだらもう全部終りなんですよっ!!」
『相変わらず甘いな・・・だがな・・・ゴホッ・・・これが戦争だ・・・』
 ボスという爆発音と、ピーピー鳴り響くアラームがノイズに乗って聞こえる。
『あの兄ちゃんな・・・生きてお前の・・・前にいる』
 喉が引きつって声にならなかった。
 シンは彼を助けることができないから呼びかけるしかないのに、声が出ない。
 言いたいことも聞きたいこともあったのに、シンの目の前で小さな閃光が起こる。漆黒の空間に音もなく白い光が浮かんで消える。それが、かつでミネルバの捕虜だった男の最期だとしたら、あまりにあっけなく儚いものだった。


眠すぎて誤字修正できない・・・。翌朝、誤字直しました。文的にちょっとおかしかった所も。しかし、こう行き当たりばったりで書いていると、もはやどう収拾をつけていいのか分かりません。困ったなあ。サトー合掌。まるで別人です。高山版サトーのような感じにしたかったのに、GXに出てきたおっちゃんみたいに(名前思い出せないけど)なってしまったな。