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リースの行方





 平原を挟んでにらみ合う。肉眼では見えない距離の向こうに大艦隊が待ち受けている、そんな黒雲の緊張感を帝国、連合どちらもひしひしと感じていた。

「状況は?」

 連邦軍旗艦ブリッジにて参謀長が問う。

「帝国軍に動きはありません」
「わが方はどうなっている?」
「艦隊各自臨戦態勢を維持しつつ、警戒」
「上空の偵察機より入電! 帝国軍高速飛空艇連隊を補足したと入電」

 定刻の短いやり取りの中に割り込む、緊急入電を読み上げる通信士。俄かに慌しくなるブリッジで艦長の隣に座っていたアズラエルが手を組み替えた。目の前に広がるのは自国の艦隊と今まさに出発せんとする交渉団。

「くれぐれもこちらから始めないで下さいねえ」

 青空を渡る白い雲が大地に影を落とす。哨戒機がひっきりなしに飛び交い、これから交渉地点へ向かう一団を上空から見守っていた。偵察機が遭遇した飛空艇連隊は帝国の護衛艇なのだろう。誰もが、この交渉を行方を見守っている。

 そして、その結果を知っていた。
 少し離れた場所で両軍の交渉を見守るセイバートリィでも、シンはこの先起こるだろう事を予想していた。
 戦争なんて誰だって嫌なのに、どうして起こるのだろう。
 遭遇して動きを止める帝国と連邦の交渉団の飛空艇がすれ違い、停止する。
 あの中で膝を付き合わせる人達は何を思っているのだろう。

 ただ、時間がだけが刻一刻と過ぎていく。

「遅いね」

 キラが零した呟きをアレックスが拾い上げた。交渉が始まって三刻。

「どちらも飲めない条件を出したのだろう」
「なんとか拾えそうよ。もう少し・・・」

 ミーアがようやく音を拾って、セイバートリィのキャビンに雑音交じりの声が入った。どちらかと言うと雑音の中に人の声が聞こえると言った程度だが、文書を読み上げる声が聞こえる。

「流石は空賊。盗聴もお手の物?」
「静かに、ですわ」

 聞こえるのお互いの交渉内容だったが、連邦は領土の割譲を帝国は先のアプリル東部地帯での真相究明と両陣営の間に横たわる緩衝地帯の資源開発権を主張するばかりで平行線を辿っていた。むしろ、無茶な要求を掲げつつも、次回交渉時間を要求する連邦の方が交渉に前向きに聞こえた。

「帝国はやる気満々だね」
「・・・兄上」

 連邦は安全保障理事会理事、帝国は第2王子がそれぞれのトップに立っている。アレックス達の飛空艇の位置からは両軍が何とか見渡せる。それぞれの旗艦も辛うじて判別でき、シンは兄がいるであろうヴォルテールを探す。交渉が上手くいかないくても、兄なら何とかできると信じていた。戦争を始めてしまうはずが無いと思いたくて、帝国軍の動きを見つめる。
 何か、戦争を回避する方法があるはずなんだ。
 黒雲のように平原を縁取る大艦隊が少しずつ布陣を変えていく現実に、両軍から目が離せない。

「連邦の後方で動きがあるな」

 アレックスの一言で皆がコスモス連邦の艦隊に視線を向けた時、キラリと何かが光った。




「アズラエル理事、後方のガーティルゥより入電です」
「おやおや、もう我慢の限界ですか、彼は」
 仕方ないと通信が回った瞬間、勝ち誇ったようなジブリールが映し出されていた。

『アズラエル理事。いつまでこのような茶番に付き合うつもりなのです?』
「いつまでって、勝つまでですよ。決まっているでしょう」
『ならば、こちらの準備は完了。天啓は降りた』

 やれやれ困ったものだと、アズラエルは一度呼吸をおいて、口を開くその時。

『これは奴ら得意の魔法では防ぎきれまい!』

 何っと、身を乗り出した時、後方左翼艦隊がすっと引いていく。
 ブリッジの策敵要員が後方でシードエネルギーの増大を告げたとき、ブリッジの横を青白い光が走った。

 神授の種石の力が光の本流となって平原を突き進む。
 セイバートリィの前で、両軍が激しく展開しシンの叫び声がキャビンに響き渡った。青い光は帝国軍がいるであろう位置で空へと伸び、続いて爆炎と黒い煙が覆い隠す。襲い掛かる連邦の飛空艇と、迎え撃つ帝国の飛空艇によって端緒が開かれる。

「第一飛空戦闘団、交戦状態に入ります!」
「早く奴等の状況を教えろっ! どうなった、落としたのかっ!?」

 アズラエルが叫ぶが、晴れていく黒煙の向こうから同じような青白い光のベールが出現した。まるで艦隊を包む巨大な壁だけががバチバチと光を放っている。立ち上がりモニターを指差してさらに叫ぶ。

「何ですか、アレはっ!!」
「只今解析中です」

 必殺の一撃が防がれたことは明白だった。どっすと椅子に深く座り込んで腕を組む。なし崩し的に両軍の激突は始まり、手の内を明かした連邦がやや不利だった。

「これでは私のシナリオがめちゃくちゃです!」
「ジブリール理事から入電ですが」
「早く繋ぎなさいっ!」

 目を見開いてアズラエルを見るジブリールは、しかし本当は彼など見ていなかったのかもしれない。

『もうすぐ終わるのだ。そうだ、あの愚かな帝国が消える時が。・・・勿論、終末のレクイエムが聞こえているとも』
「はあ? 貴方、誰と何を話しているのです」
『神だ!』

 通信がぷっつり切れてしまい、アズラエルが一瞬呆然として、すぐに指示を出す。とにかくこれ以上、馬鹿な事をするなと全軍に指令を出せと参謀達を焚きつけた。戦闘飛空艇同志の乱戦に、艦隊同士の射撃戦が右翼で始まっている。本体は今だ遠く離れているが、ここからはタイミングが難しい。

「アレで落とせなかったのが辛いですねえ。だから奴等の言う事は信じられない」

 ジブリールを煽て、種石兵器を使いたがった者に、アズラエルも会ったことがあった。神授の種石をちらつかせて、この世の悪と帝国を名指しした不思議な存在。

「神・・・? よっぽど胡散臭いですよ」
「理事、また後方でシードエネルギーがっ!」
「だから止めさせろと言ったでしょう!」
「だが、まんざら無傷というわけでもない」

 参謀達が捕らえた帝国軍の状況を説明する。直撃は免れたが、あの巨大な防御壁を維持する為に艦が数隻落ちたと言うのだ。見慣れぬ飛空戦艦が混じっており、同様にシードが観測されたという。事象を総合するればこう言う事になる。

「なるほど、種石搭載ですか。しかも人工の!」

 考え込むように睨み付けて顎に手をやるアズラエル。

「目標は決まりましたね、帝国の蚊トンボは無視で構いません。形勢が決まるまで、種石兵器は待ったを掛けろとあの救世主気取りの男に伝えなさい」

 コスモス連邦旗艦ドミニオンのブリッジでは、戦局を動かそうとしていた。命令が各艦隊へと伝わり、大きく布陣が変わる。




「連邦から仕掛けてくれたことは有難いが・・・」

 皆が手すり越しに覗き込む、階下のボードには両軍の戦力が配置されていた。広大な平原を挟んで手前の赤が帝国、青が連邦の艦隊をあらわしている。それを長い柄で動かす司令部の係官達。中心にいるのは白いハーフローブを肩から羽織り、下賜された剣を佩くイザーク・ジュール・プラント殿下。

「こちらの被害状況出せ。新型艦は?」
「新型の1番艦と12番艦が落ちました。12番艦の人工種石は回収にも失敗しています。ヴォルテールの状態も出力80に低下」

 ここは、対する帝国軍最高司令部ヴォルテールの艦橋。最高指令所。

「本物には勝てんか」
「障壁との衝突による拡散もこちらの予想以上となっています」

 跳ね返す力が強ければそれだけ内は守ることが可能だが、外に被害が出る。

「ゴンドワナは?」
「過負荷の兆候は見られません」
「やつらも早々撃ってはこんだろうが、こちらの状況を分析すれば、ばれるのは時間の問題だな」

 下のフロアでは艦橋要員が状況を調査し、各艦隊との連絡を取り合っている。流石に後方にいるこの旗艦に連邦の攻撃が届くことはないが、戦場は平原はすでに煙と炎、そして残骸で埋め尽くされているだろう。

「フェイス・カガリ殿から入電」
「繋げ」

『このまま進んでいいかな? 高速飛空艇戦では我が軍が有利だな、連邦の第一波は散らした。だが、先ほどの攻撃が気になる』

「種石を使った攻撃だ。連邦の種石について何か情報は無いか?」

『残念ながら、第5局ではそちらで掴んでいる以上のことは。ただ、外野が騒がしい事になっている。空賊、ハンター、果ては平和の歌姫まで観戦の状況です、殿下』

 ザンバラな金髪を晒して甲を脱いでいる女フェイスがイザークにしか分からない事を告げる。だが、顔色一つ動かさす、イザークは報告を受け流し、下のボードを見下ろした。

『ん? なんだ・・・キサカ』

 そこで通信越しのカガリが副官を振り返り、眉を寄せた。向こうの艦橋の様子が伝わってくる、これは緊急事態だと。カガリの切羽詰った声。

『早く射線上から退避させろ!』

 時同じくして、ヴォルテールの艦橋でも声が上がる。

「シード反応です。第2撃目来ますっ!」
「出力65%で障壁展開」

 平原を突き進む青い光が帝国軍へと迫った。

「ゴンドワナ、出せっ」

 その光は見方の艦艇、飛空艇を巻き込んで人工種石が作る障壁と激突した。それは深く大地を抉り、そして、四方八方へと四散して、上空へと渦を巻いて消えていく。巻き込まれた戦艦は一つや二つじゃない。

 シン達の目の前でまたも種石による破壊が始まった。



「ちゃんと掴っていろよっ!」

 アレックスがセイバートリィを支えるが、猛烈な爆風で木の葉のように錐揉みになる。損傷は無くても操縦を誤ればそれだけでお陀仏になる事態に、のこのこ戦場に出ている場合じゃないと背中をつぅっと冷たいものが降りていくのをシンは感じていた。
 風に混じる黒煙と流れ弾。それらを上手く避けてアレックスは飛空艇を飛ばすけれど、アプリルで遭遇した時と同じように、いつか落ちてしまうのではないかと言う恐怖が無いわけじゃない。

「口を開けてはだめ、舌を噛むわ」
「ラクスっ」

 王女を支えて壁にぶつかるキラ。
 シートの背に嫌と言う程肩を押し付けて、シンは目をあける。目を閉じてはいけないと、戦争の現状を見なければいけないのだと言い聞かせる。その目に映る戦場は、あちこちで黒煙が上がり、あれだけ晴れ渡った空がどこにも無い程どす黒く汚れていた。
 何より、ぶつかった二つの青白い光は拮抗して、今だ稲妻をほとばしらせていた。

「帝国軍はっ」
「また、種石の力をっ!?」
 シンに限らずアレックスもキラも壮絶な光景に驚き、ラクスは力なく零した。

「あれは、あってはならない力なのです。何とかしないと・・・」

 シンは真っ先に黒煙と光の先に帝国軍の旗艦を探した。
 体に響く衝撃音が帝国軍の中から聞こえる。少しでも近づけるように身を乗り出すけれど、見ることができたのは、火を噴いて墜落していく飛行戦艦だった。
 青白い死の光が帝国軍を襲ったのは同時だった。




「誰が攻撃していいとっ!」
『私が救うのだ。あの悪を倒してっ』

 アズラエルがジブリールの後で揺れる影を見つけて、舌打ちする。

「で、どうなんです。落とせたんでしょうねえ? そう何度も連射できないでしょう」
『次で決まる、次で!!』

 充血した目を見開いて、高らかに宣言する男がまるで大陸の覇権でも取ったかのように振舞う。だが、それでは困るのだ。今回は天秤を少し連邦に傾け、領土を割譲するだけいい。アプリルを取り込んだ帝国はよくやっていたが、連邦とて周辺諸国を取り込んでここ数年はずっと拡大傾向だったが、どこかで軋轢が生じるのだ。
 ただ、奪えばいいというものではない。
 アズラエルから見てジブリールにはそのバランス感覚が抜けていた。
 野望だけでは、治めることはできない。

「なるほど、だから彼が選ばれた・・・と言うわけですか」
『チャージ急げ!』




 一瞬、網膜に焼きつく光を残して消え、戦場は混戦の模様を映していた。
 だが、シンは視界の端に捕らえたヴォルテールを見て息を呑んだ。

 煙を吐いている。
 高度が・・・下がって。

「直撃を食らったのかっ。なぜ!?」
「まずいわね。あれではいずれ落ちるわ」
「新型の飛行戦艦が随分減ってるな・・・あの防壁を張る為の専用艦、一体何だ?」

 アレックスとミーアが情勢を分析するが、シンの耳には入らない。
 だって、あそこには、兄がいるのだ。
 この帝国軍艦隊を指揮する、イザークが。

 後方にいた巨大な防御要塞が、旗艦のすぐ後衛にまで上がってきていた。当然だろう、ここで落とされるわけにはいかない。

「兄上・・・」

 助けに行かないと。
 けれど、シンの決意はアレックスの一言に覆されていた。

「アレを破壊しないと」

 え・・・何で。

 彼の視線の先には豆粒ほどの連邦軍の長距離砲撃を行った飛行戦艦があった。何とか持っているが後一発喰らったらお終いだ。防壁を張り巡らせていた新型も数が半分となっては、その庇護を頼ることなどできない。

「飛空艇戦は帝国が押しているが、戦艦の絶対数で押されているな。何を考えている」
「守るだけでは勝てないからね」

 考え込んだアレックスが、少し間を置いて自嘲していた。
 シンは珍しいものを見るように、彼を見るが、探るような顔つきはいつもの空賊のものとは少し違った。キラとの会話が遠い。

「防壁で艦を守り、防空の飛空艇を潰して艦丸裸にする気か?・・・だが時間がかかり過ぎる」

 先陣を切って連邦を蹴散らしている帝国軍艦隊も、一足飛びに連邦の懐まで飛び込めるはずもない。もとより、始まってしまった以上、お互いにどうやって終わるかを必死で考えているはずなのだ。

「この混戦の中を抜けて行くつもり?」

 シンは俄かには信じられなかった。落ちそうな帝国軍を助けるのではなく、攻撃をする連邦軍を攻撃するという選択に。けれど、シンにも本当は分かっている。ゴンドワナに移ったのだろう、帝国軍とて馬鹿じゃない。落ち行く戦艦に自国の大将をいつまでも乗せておくわけが無い。

「問題はそこじゃない。時間だ」
「ですが、やらねばなりませんわ」

 賛同者はラクス。

「警備はさぞかし厳重ね、優秀な道案内が必要だわ」

 もとより、ミーアはアレックスのパートナーである。

「確かに、こんな所でただ見ているわけには行かないね。どうせ交渉なんてはじめからやるつもりなんて無かったんだし」
「シンはどうするの?」

 ミーアが振り返った。
 その背後には戦場が映り、連邦軍の艦をこれから落とそうと算段している空賊他2名。

 俺だって。

「こんな所で放り出されるのはごめんです」

 一瞬、ミーアが眉を潜め、横目でアレックスを見た。
 合図とばかりに彼が低い声で言った。

「アレを落とす」

 言うなり、セイバートリィは黒煙と爆炎が吹き荒れる戦場へと突っ込んでいった。




「おいおい、そっちかよ・・・・・・勘弁してくれっての」

 その光景を地上で見ていたフェイスが一人、額に手を当てて飛空艇を発進させた。頭上ではひっきりなしに飛び交う戦闘飛空艇と、乱れ飛ぶ銃弾。雨あられと降ってくる破片の中に深紅の飛空艇は飛び込んでいってしまったのだ。

 超低空飛行で一直線に向かうは、連邦軍左奥の飛行戦艦。
 それが何をした艦であるかは一目瞭然で、彼らの目的も自然と分かると言うもの。深紅の飛空艇は矢の様に、それこそ一陣の風のように迫り、ふっと視界から消えた。
 フェイスでさえそうなのだから、近づかれた飛行戦艦はもっと焦ったことだろう。戦艦の策敵にも限度がある、その上、捕らえた瞬間消失とあっては。

「単機で突っ込んできますっ!」
「打ち落とせ」
「駄目です、仰角範囲外です! あっ、消えたっ?!」

 小さな砂埃を上げて、飛空艇は紅い軌跡を直角にまげて一気に上昇したのだ。
 シンは一瞬気が遠くなりそうになった。視界がかすれ、音が消える。

 一度上空に消えて、ベクトルを180度変えて落下。
 ふわりと体が軽くなり、自分が今どちらを向いているのか分からなくなる。
 中に乗る者を全く考慮しない着艦で、衝撃による錐揉みどころのではなかった。銃弾の雨を避け、破片を蹴散らし、飛行戦艦の外壁にへばり付くと、そのまま、姿を晦ます空賊の飛空艇。

 一連の振動が収まって、ようやくシンは抗議の声を上げることができた。今でも、視界が揺れ、全ての音が遠い。

「・・・アンタ・・・無茶苦茶です」
「急げ、時間がない」

 確かにその通りだけど、そうだけど。シンは涙目で、セイバートリィから飛び出した。




久々だったので、ちょっとあっさりし過ぎたかも(相方にもそう言われましたし)。でも、予定の所まで行かなかったので、次回が長くなるか、一回増えてしまうのか・・・。この当たりペース配分が難しい。折角の大戦シーンなのに、3日くらい会戦していて欲しいのに、戦争しているシーンは難しいです。