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5.ミーア・キャンベル



 街がいつもどおりなのが悔しくて、軒先につるされたランタンをつい恨みがましく見つめてしまう。ミーアは、丘の上の城をを見上げて、今年はあそこにはいけないのねと、1ヶ月前に準備を始めたプディングを取り出した。
「ああ、アタシって何て馬鹿!」
 お母様が亡くなったというのに、どうしてお祭り騒ぎができると思うのよ。
 アスランだって、もうあそこにいないのに。
 旅立ちの一日前に、こっそり尋ねてきたアスランが王都に行くことを告げていった。謝る必要などないのに、つらそうな顔をして今後の事を言い含めていく。本当は笑って、応援しなきゃ行けないのに、アタシは上手く笑えなかった。
 その時になって、今年の誕生日用のプディングを準備していたのを思い出したのだ。
 夏から意気込んでドライフルーツを作ったのに。
 肝心なことは、いつも手遅れなのよね、嫌になっちゃう。
 良い子にできなかったから、今年はアスランに会えないんだわ。いいえ、今年だけじゃない、彼はもう王都へ行ってしまったのだもの。もうずっと会えないのだわ。

 ハロウィン、ハロウィン、ハロウィン。
 早く家に帰らないと、パンプキン大王が来るぞ。
 ほら、叫び声が聞こえるだろ。
 ほら、パンプキンソングが聞こえてきたよ!

 子供達が歌うハロウィンの歌が、恨めしい。
 待てども、王様が現れないことを知っている。
「何が、パンプキン・キングなの。王様はもうここにはいないのよ」
 都に帰ってしまったの。
 出来上がったプディングを見つめる。そして、当初の問題を思い出す。
 プレゼントにする予定だったこれをどうするのかを決めなくちゃ。はあ・・・と、ため息をついた所でカタリと物音がした。いつの間にかドアが開いていた。
「それは物騒な発言だな、ミーア」
 扉の柱に凭れて立っているのはハイネと、ミゲル。
「えっ、二人ともどうしたの・・・?」
 とても疲れているように見えて、慌ててマグにぶどう酒を入れて差し出す。一気に飲み干した二人は木のテーブルの上に置かれたプディングを見て、二人して肩から力を抜いた。
「間に合ったみたいだ」
「出かける準備はいいか?」
 ハイネが手を差し出し。
「王都へな」
 ミゲルが言った。



6.ハイネ・ヴェステンフルス



 急に目を擦ったミーアを見て、何も泣くことないだろうと思ったが、まあ、それも仕方ないかと思う。こんな北の地に一人残されれば、心細くなるだろう。
「それじゃあ、ちょっと急ぐぜえ」
「ギリギリだな」
 ミゲルの一言と共に、馬に鞭が入った。
 連絡が言っていたのだろう、今はニコルが手配した馬車で急行中だ。ミーアがいるから、単騎でかけるわけにはいかないし、抱えている大事な食糧を台無しにしたら、何を言われるか分かったものではない。
「驚くだろうな」
「そして、一通り怒って、礼を言う」
「よく知ってるな、俺達」
 3人が笑う。
 アカデミーで知り合って、それ以来付かず離れずの距離で良き先輩だったつもりだ。イザーク達同期とはまた違う目線で彼を追っていたし、観察もしていた。将来、剣を捧げる相手になるかも知れなかったのだ。
「アイツは不器用で要領が悪い」
「思考が後ろ向き過ぎ」
「知り過ぎたな」
 上に立つものとして、あまりよろしくない性質だ。
 それを補える才能と努力を惜しまない性格で上手く隠されてしまっているが。
「アスランは優しいわ」
「優しいか」
 これが一番厄介だとハイネは思う。
 アレを優しいと評していいのかも正直迷う。
「何か思うところでもあるのか?」
 ミゲルに目ざとく見つかって、苦笑する。
「色々難しい奴だと思ってさ」
 周りが色々と支えてやらないと、困ったことになる奴。それがハイネの今のアスランの人物像だった。勿論、彼一人でも十二分に生きていける、だが、それは彼が好きなことをしている時に限っての話。
 彼には向かないと分かっているのに、期待をしているのだ。
 望まぬこと、何かを断ち切らねばならなくなった時に、彼は選べるだろうか。
 最善であると選んだ自分を許せるだろうか。
「あら、アスランは単純よ? 何一つ無くしたくないのね、すごく欲張りなの」
「なるほど・・・」
 妙に納得してしまった。
 でも、俺はお前が必要だと思ったら切り捨ててくれていいんだぜ?
 頼りになる先輩でいたいからな。



7.ルナマリア・ホーク



 言付けを開いた時、思わず手を叩きそうになって、慌てて周囲を見回した。
「どうかしたの、ルナマリア」
 オーブからやってきた女官がどこかで目に留めたのか、声を掛けられてしまった。物腰は柔らかいが只者ではない、そんな雰囲気が漂う大人の女性。
「いえ、ちょっと嬉しい知らせがあって・・・お気になさらずに」
「まあ、それは気になるわ。ひょっとして旅行?」
 驚いた。
 主から連絡が言っているのだとしたら、とんでもない記憶だと、未来の国王に舌を巻いた。そんなに気になるのだろうか、北への旅行が。
 いいえ、それは違う。
「え、そうなんです」
 気になっているのはあの人のことだわ。どこかで私達がディセンベルに集っていることを知ったのね。ディセンベルと聞いて、穏やかでいられるはずないもの。沈黙を守ってきた若き北の選帝侯。
「今年は近場で済ましちゃうんですけどね」
 急な話だけど大丈夫。元々その日に予定なんて入れていないわ。それに休暇の届けは念の為出してある。年に一度の楽しみなんだから、邪魔しないで。
 笑って、手元の書類の整理を始めれば、深くは追求できないだろう。これ以上、私から情報を取ろうとしても無駄なんだから。ルナマリアは、仕分けした書類を手に立ち上がった時、部屋を訪れた人物がいた。
「近場って、例えばどこ?」
 本当にどこにでも現れる。このタイミングの良さは、壁にでも耳を仕込んでいるのではないかと思うほど。この国で3番目に位の高い人の前ではルナマリアの些細な抵抗は無駄な話である。
「それはまだ決まっていないんです」
 本当は決まっているけど。
「いつから行くの?」
 教えてあげない。
「あの、申し訳ありません、それも・・・」
「でも、休暇届はちゃんと出してあるんだ」
 好きでもない男に、そんなに調べられても嬉しくもなんともないのよ?
 自分は少し悲しい顔をしていたらしい、気がついた目の前の男が慌てて手を振る。
「別に君を責めてるわけじゃないんだ。ただ、本当に気になっただけで」
「いえ、私のほうこそ王子にお気を使わせてしまって申し訳ありません・・・」
 これがあの人だったら、少しは脈があるんじゃないかって思うのに、あの人は一向に私のことを後輩扱いで、ライバルを増やして回る。去年なんか、タイプの違う女性が二人も増えていた。でも変ね、それが嬉しくて、彼を気に掛けてくれる人が増えるたびに嬉しくなる。
「あまり、別の女性を追いかけていると王女が悲しみますよ?」
「はは、それは困るね」
 マリュー女官の言葉に彼は退散してくれたけど、本当に何なんのだろうと思う。気になるなら、直接呼び出すなりすればいい。彼にはその権限があるし、それが嫌なら王女に何とかしてもらえばいいのに。
「男って複雑ね」
「そうねえ・・・」
 意を汲んだように零す女官と目が合って、ルナマリアはクスッと笑った。
 3人の女性に取り囲まれてたじたじだった彼の人を思い出してまた笑った。



8.メイリン・ホーク



「で、二人の仲はどうなわけ?」
「どうって・・・?」
 メイリンはルナマリアにずいっと迫られて、キョトンとしてしまった。二人とは誰のことだろうと思った。
「馬鹿ねえ、だからラクス王女と婚約者のキラ王子よ」
 それもそうだ。その二人以外に、姉が自分に情報を求めることなどない。けれど分かった所で、疑問符は取れない。
「え、何で? とても仲睦まじそうに見えるけど」
「だって、あの王子、アスランに対抗意識バリバリよ」
「アスランさんに?」
 メイリンは「うん・・・」を相槌を打ったが、それは当たり前のような気がする。これから結婚する王女の元婚約者だったのだから。しかもその人は、この国に3人しかいない選帝侯の一人。自分より格好良くて、きれいで、背が高いならなおさら。
「それは仕方がないと思う。アタシはラクス様の方が不思議」
「はあ、どう言う事よ」


 メイリンは今日も二人にお茶を出していた。
 午後の昼下がり、小春日和のテラスでのんびりと他愛もない話をしていた二人。けど、何の拍子かで去年の今頃はと言う話になって、言いたくないけどお姉ちゃんのことも話題に上っていた。身軽に旅行に行くことができるのが少し羨ましいと王子が言って、その後、王女がふと漏らしたのだ。
『もう、そんな季節ですのね』
 メイリンはラクスの言葉で、またこの季節が来たのだと実感した。そして、いつものように北の地に行くことがないのを少し寂しく思った。今年は会えないかもしれない。
『日が暮れるのも早くなったし、朝晩冷えるよ』
『まあ、キラ』
 優しく肩を抱く婚約者に王女は安心仕切っていたけれど、その視線はどこか遠くを見ていた。
『本当に時が巡るのは早いですわね・・・』


「上手く言えないんだけど、全てが上手く行くなんてこと・・・ないんだなって」
 何もかも満ち足りているなら、あんな顔をするはずがないと思うのだ。自分にだって思い当たる感覚がある。幸せにはほんの少しの犠牲があって、手に入れた望みには叶わない夢や諦めが必ずある。
「そりゃ王女様だもの、あたし達よりずっと不自由でしょ」
「だよねえ」
 お姉ちゃんから、見せてもらった小さな紙には幽霊屋敷への招待が記してあった。毎年恒例の旅行が、王都の幽霊屋敷になってしまったのは残念だけど、それでも皆と合えるのは楽しみだし、こんなチャンスでもなければ心置きなく話す事もできない。
「少なくても、こんなパーティ行けないよね」
 いつもとは趣向の違う集まりに、今度はどんな一面を覗かせてくれるのだろう。季節が巡るに連れて、遠くで見ていた憧れの人から、等身大の青年へと変わった。時に見ていられなくて、時に頼もしいディセンベル伯は意外と呆けていて負けず嫌い。
 負けず嫌いと言えば、いつも本人の前で別人になっている、その紙を次に回すべき相手を思い出した。




9.シン・アスカ



「き、聞こえた・・・今、何か聞こえた」
「何でアンタがびびってんのよ」
 すぐ背後で聞こえた声に、シンは心臓が口から出そうになるほど驚いて、そろりと後を振り返った。
「ル、ルナぁ。驚かすなよ」
「アンタが驚きすぎなのよ。幽霊屋敷って言ったてねえ、本当に幽霊なんて出るわけないでしょ?」
「そうだよ、アスランさん家なんだから」
 女二人は何でもないように、門が開くのを待っているが、ギギギ・・・と門が軋みを上げた時、もう一度、糸が切れるような細い悲鳴が聞こえた。

「飛び上がったシンは、驚いてここまで走ってきた、と」
「そうなんですよー、シンったらこれで騎士だなんておかしいですよね」
「それであの音は何なんですか?」
 シンはアスランが取り出したものを見つめるが、ただのケトルに見えた。青銅製のそこそこの大きさのヤカン。
「ほら、よく火に掛けっぱなしにするだろ? 沸騰したら音が出るようにしたら分かりやすいと思ってさ」
「なるほど~」
 そんな音を悲鳴と聞き間違えていたのかと思うと恥ずかしい。この先、ルナやメイリンにずっとこの話題でからかわれるのも面白くない。どうしてよりによって、この人の前でと思うが後の祭り。
「気にするな、シン。イザークだって間違えた」
 余計に気にします。
 俺はあの人、ライバルだと思ってますから。この人とアカデミー同期で、怒鳴りあう仲だという公爵家の銀髪の跡取り。俺だって、怒鳴りあう仲だけど、少し意味合いが違うから悔しい。もっと、近くに行きたい。もっと、頼りにされたいんだ。まだまだ自分が力不足だと思うから、名乗り出ることができない。
「遅いぞ!」
 俺達が到着したのを知ったのか、ホールの奥からジュールのおかっぱが出てきた。しかし、服装が少し変じゃないか?
「時間には間に合いましたよ。ってか、なんでそんな格好しているんでありますか?」
「なにぃ・・・何を今頃言っている?」
「メイリン、あんたシンに言ってないの?」
 話が分からないのはどうやら俺だけらしい。
「忘れてた。でも、例の小道具は忘れてないよ」
 メイリンは持っていた袋の中から、何か黒いものと赤いベルトを取り出してルナに渡している。アスランもイザークもそれが何か分かったらしく、どことなく笑っている・・・?
「はい! これでアンタもOKよ」
 頭と首でゴソゴソされ、腰に一本ベルトを渡された。はっきり言って意味が分からない。
「貴様にはお似合いだな」
 何が・・・と言いかけて、ホールの鏡に映った自分の姿を見た。頭に何かついていて、首に赤いベルトが渡されネームプレートが光っている。指でつまんでみると、何か掘ってある。骨と一緒に、アルファベットを目で追うと。
 エスエイチ・アイ・エヌ・エヌーーー。
「これって、これって・・・っ!?」
 腰の後からぶら下がるもの、それはふさふさの大きな尻尾で。
 そこでようやく、今日と言うパーティが何なのかを悟った。イザークが着ているのは吸血鬼の衣装だ。ルナとメイリンはおそろいの魔女っ子、そして自分は。
「これって狼男とか」
「犬だな、犬!」
 イザークが大爆笑する。
 相手が黒いインバネス姿に合いすぎているから、悔しさも倍増である。



 エピローグ



「妻に先立たれた男二人が、こんな寂しい部屋でグラスを傾けることになろうとは・・・。もっと他になかったのか? パトリックよ」

 暗に酒のつまみを要求されて、パトリックが目を瞠り、そしてため息をついた。早々に隠居して悠々自適の生活を送るこの国の国王が、つまらないと言っている。持参した今年自領でできたワインだけではお気に召さなかったらしい。

「シーゲルがここでと言ったのではないか。静かに楽しみたいと」
「だがしかし、本当にワインだけ持ってくるとは思わなかったのだ。君は相変わらずだ、全く気が利かない、風流の一つも理解できん男に国政を任せていたのかと思うと」
 さめざめと泣く振りをされても困るとため息を付く。
「そこまで言うのならわしは屋敷に帰る。渡さねばならんものもあるからな」
「屋敷と言うと、幽霊屋敷か?」
「ああ・・・今頃、幽霊達が盛り上がっていることだろう」
 国王の耳にまでそのような噂が届いていること自体、ザラ家としては不名誉なことであるのだが、パトリックは好きにさせておいた。まさか、本気にするとも思えない。
 明かりが少ないのは冬を前に大々的に改造しているからなのだと想像がつく。夜な夜な聞こえる悲鳴も、大方、息子が工房で何か作っている時の騒音か何かだろう。
 女の幽霊・・・については、思い当たる節がないわけではないが、敢えて口にしない方がいい。
「では早速、美女の幽霊でも口説きに行くか!」
「シ、シーゲル!?」





おわり




誕生日小噺でした。仮装パーティーじゃあ、ちょっとありきたりすぎたかなと思いますが、何せ即席ですから! カガリがここにいないのは、最後のエピローグ故です。流石に臣下の誕生日会に国王が来た現場にいちゃ後々まずいことになりそうだったんで。って、後なんてないんですがね・・・。通訳で、オーブから送られてきた誕生日プレゼントを私にいくパパリンと言う事になったのです。きっと、パパ達乱入が一番のサプライズだっただろうなと思いつつ、そのシーンは書けない軟弱者です。はい。