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 大崩壊が起こる前、世界は栄華を極めていた。特に著しかったのが再生医療の分野で、プラントも遺伝子解析から応用へと最先端を走る企業だった。増毛、歯、視力から始まって身体機能の復元にまで至り、人類は禁断の領域へと踏み込む。
 すなわち人を超えた種の創造と、いつの時代でもある軍事力への応用である。オーブ財団は前者を、プラントは後者で一歩抜き出て、両者が手を組むことで畏怖と更なる飛躍が期待された。
 プラントが月面探査で採集した未知の物体の構造解析から、染色体反応が出たのだ。これを現代科学に応用することで、プラントは世界における地位を各個たるものにしようと画策する。ついにプラントとオーブは、牽制し合って共同研究を始めた。

「私もその時、初めて人工子宮生まれの人類を見たが、確かにどこか違ったよ」
 オーブから送り込まれた科学者はまだ二十歳にも満たない青年だったが、プラントの第一線の科学者達を凌駕していた。唯一対等に渡り合えたのは、ほんの一握りだけ。
「最も、そういう刺激があったからこそ、ジーンブレイドは生まれたと言える。研究チームの中心メンバー二人はお互いをライバル視していたしからね」
「ですが、ジーンブレイドは失われてしまった」
「君も知っての通りだ。表向きは事故となっているが」
 オーブの科学者とプラント会長の令嬢が恋に落ちてしまったのだ。ジーンブレイドの危険性に気づいた二人は、武器として使われることを恐れジーンブレイドを盗み出して逃亡。
「理想に燃えて夢を語り、世界を憂う。皆、若かったのだろうな・・・うちの研究チームのメンバーまで同調して出て行ったのだから」

「似ているのだよ。ライバルを裏切った・・・彼にね」






 レイが医療カプセルから出て、ベッドに寝かされているアレックスの様子を伺う。朝になって、意識を取り戻したとコールを受けたのだ。上半身を起こして、ぼんやり考え込んでいる様子を見ると、先程まで意識不明の重態だったとは思えない回復力である。レイに気がついた彼が、顔を上げて開口一番に言った。
「家に連絡しないと!」
「は?」
「この部屋、通信手段が、どうしよう。イズーが心配してるかも・・・」
「ああ、でしたら、これをお使い下さい」
 自分の使っている通信端末を彼に差し出すと大慌てで、ボタンを押している。コール音を聞いている時も、端末を持つ手や肩に力が入っている。やっと繋がったのだろう、目に見えて安心している。
「父さん、ちょっと仕事が長引いて遅くなるかも知れないから・・・うん、そう・・・何かあったら、すぐにシンやルナマリアの所に行くんだぞ」
 表情ががらりと変わる。
「えっ、壁がさびしいから絵を描いたって?・・・そうか・・・イズーは画家の才能もあるんだな・・・うんうん・・・楽しみにしてるよ」
 通話を切って、端末をレイに返す彼はそれはもう嬉しそうにしている。
「貴方は変わった人です。こうして普通に話しているとただの親馬鹿なのに」
「お、親ばかって!?」
 アレックスは恥ずかしくなって、慌てて手を振って否定するがそれはかえって逆効果だ。
「ジーンブレイドを発動している貴方は心底破壊を楽しんでいるように見える」
 ギャップがありすぎるのだとレイは言う。
 否定したい。けれど、否定できない。初めは薄っすらとしたものだったけれど、今ではジーンブレイド化している自分をはっきりと認識できる。昨日の戦いで自分が口走ったことだってしっかりと覚えている。
「ブレイド発動に伴う負担は相当なもののはずです。分かっていないことも多い、今回のようなことも、そうそう助かるものでもありません」
 死に掛けたのだと説明された。重症を追い、8時間も意識不明に陥ったのだと。自分と同じジーンブレイドの持ち主とやりあったことも、敵わなかったことも覚えている。
「無理はしないことです」
「負けないさ」
 いつだって、そんな事を考えたことがなかった。
 いつもどおり、ターゲットのコーディを倒して家に戻る。そこにはイズーは寝ないで待っていて(最近は、遅くなることが多いから、眠っていることが多いけど)いない間にあった出来事を聞かせてくれる。
「貴方だって、自分が利用されていると分かっているはずです。そのデータはフィードバックされ、プラントの研究に利用される」
「そんな事分かってるさ・・・」
 こんなことをしているのもイズーの為だ。
「そうですか・・・とにかく、行き過ぎた行動だけは慎んでください。それではコーディと同じですから。それから、もう一つの左のジーンブレイドにはくれぐれも注意してください」
 ベッドから起き上がって、待機していたバンに乗り込んだ。アレックスは、遭遇した青いジーンブレイドを持つ男を思い出す。
 相手は自分を知っているようだった。無くした記憶に関係あるのか・・・覚えていないことに腹を立てていた。それなら、何か教えてくれればいいのに、お互いぶつかり合ったのだからたいした関係ではないのだろう。彼はジーンブレイドを寄越せと言って、攻撃してきたのだから。
 その時の痛みを思い出して、アレックスは右腕に残る痣を見る。相手のブレイドに貫かれた時感じたのは、痛みだけではなかったのだ。

 俺は、ジーンブレイドを持ち続けることに、イズーを利用していないか?
 俯いたまま考え込む内に、我が家であるアパートメントが見えてきた。




 クリーニングが入ってひとさらいされた部屋はどこもかしこもきれいで、今、イザークが睨めっこしている壁も真っ白のままだった。正面にチラシの裏に描いたパステル画を貼り付けて、唸る。
「やっぱり、もうちょっと右」
 小さな手でずずず・・・と右へずらし、続けて、片足ずつ右へトトト・・・とずれる。もう、そんな事を2・3回繰り返していた。壁の一番目立つ所の真ん中に貼り付けようと思っているのだが、中々場所が定まらない。
「紙が小さいんだ。もっと大きな絵なら」
 そう言って、ダイニングのテーブルの上に目をやる。まだ落書きをしていないチラシが数枚残っている。けれど、どれも大きさは同じ。暫くその紙と壁の絵を交互に見比べる。
「もう一枚描けばいいんだ」
 父さんにも画家の才能があると言われたばかりだし。
 イザークは冷蔵庫の上の時計を見て時間を確認すると、チラシとパステルを持って1階のレストランへと向かった。

 まずは、青で丸を描く。続いて隣に、白色で丸を。
 今日の服は水色だから次は水色で、父が昨日着ていた服は何色だっただろう?

「あーお、しーろ、みーずいろー♪ ん?」
「何描いてんだよ?」
 シンがやって来てイザークが描いているものを覗き込む。後でプッと笑い声が聞こえたから、チラシの端っこに黒い丸に赤いパステルで豚の鼻を描いた。
「お前、まさかこれが俺だって言うんじゃないだろうな!」
「違う。これ、シンブー」
「何、もう始めてるの?」
「父さんが帰って来る前に完成させないと」
 ルナマリアもやって来て、カウンターの中で食器やグラスのセットを始めた。開店準備を一通り終えて、イザークの落書きに混じる頃にはもう昼前。
「もうやめちゃったの?」
 テーブルはカウンター近くの端っこに移動して、営業の邪魔にならないようにしているが、その手は殆ど動いていない。
「心配ないわよ! ちゃんと連絡あったんでしょ?」
「んだよ、やっぱりパパが恋しいのか!?」
 開店前のレストランでイザークは勉強を見てもらっていたが、どうにも落ち着かなくてルナマリアが宥め、シンがからかう。
「ち、違うぞ。父さんまた何か、しでかしたも知れないし」
 描きかけていたパステルが止まる。父さんを驚かせようと思って、隣に貼る絵を描いていたのに。最近事件が多いから、怪我をしたのかも知れないし、遠くまで行ってしまったのかも知れない。レストランのドアがいつ開くかとずっと気にしている自分がいるのだ。
 カランとドアが開く音に、思いっきり振り返る。耳の下で切りそろえられた銀髪が広がる。
「貴方が、イザーク・ディノね?」
 入ってきたのは、待っている父ではなく、栗色の髪の女性だった。父じゃなくてがっかりしている上に、イザークはその人を知らないのに、向こうは知っているらしい。どことなく面白くなくて、返事はひどくぶっきらぼう。
「はい」
「お父さんはどこ? 大切な話があるのだけど」
「あ・・・っと、この子の父親なら仕事でいないわ」
 しかし、女性はつかつかと近寄ってきて、イザークがいる隣のテーブルにまで来て荷物を置く。腰に手を当てて、レストランを見回してもう一度イザークを見た。
「大事なお話なのだけど、連絡取れないかしら。貴方の将来にかかわる話なのよ?」
「将来ってどういう意味だよ」
シンが口をはさむ
「イザーク・ディノ君。貴方は児童福祉省に保護されることになったの。もうこんな所で働かなくていいのよ?」
「働くって! 私はイズーの勉強を見ているだけよ」
「勉強なの?」
 テーブルの上に視線が注がれるのを感じて、イザークは手で書きかけの絵を隠す。小さな手で隠れる所は僅かだったけれど。
「まあ上手、でもね、お勉強はお絵かきだけじゃないの?」
「あのなあ、イズーは今更勉強しなくても、十分できるんだよ! ニュースや新聞だって読めるし、掛け算割り算だってばっちりなの! アレックスさんだって帰ってないんだし、さっさと帰れよ!」
「・・・シン」
 向きになって反論しているのは日頃よく口げんかをしているシンで、イザークは自分が何を言い出すタイミングを逃してしまった。
 自分がどこかに行かなければならない。よくないことが起ころうとしているのが分かってこの女性から何も聞いてはいけない、そんな気がして、早く帰って欲しかった。
「あの」
「イズーは黙ってて! こんなおばさんにそう易々と渡してたまるもんですか」
「おば・・・」
 ルナマリアがイザークを抱え込んで睨みつけている。
「仕方ないわ、今日の所は」
 女性がテーブルの書類を持ち上げて入り口へと向かった時、ドアが開いた。
「ただいまー」
 やっと帰ってくれると思ったのに、なんてタイミングの悪い・・・。父さんはいつもこうだったとがっかりした。


 返事がないのを不思議に思ったのだろう、アレックスが顔を上げる。そして、うっと動きを止めた。シンやルナマリアの冷たい視線と、イザークのため息が零れる。そして、フロアに見知らぬ女性がいるのに気がついた。緩やかにカールした髪が肩口にたれ、それは見事なプロポーションの女性が微笑を浮かべて立っている。
「貴方がアレックス・ディノさんかしら?」
「え、あ、はい。そうですが」
「私、児童福祉省のラミアスといいます。貴方にお伝えしなければならないことがあります、少し、お時間いただけるかしら?」
 児童福祉省が何の用だといぶかしみ、シンやルナマリアの表情からイザークのことだと思い当たる。
「時間を・・・」
「お手間は取らせないわ」
「は、はい」
「父さん!」
 イザークが心配そうに、ルナマリアの腕を抜け出して足に抱きつく。何、ちょっと話を聞くだけだと、しゃがんで頭を撫でる。子供のイザークではまだ、アレックスの背中に手は回らなくて、服をぎゅっと握るのが精一杯だった。
「こうして見ると、まるで本当の親子のようね」
 アレックスは耳を疑った。
「残念だわ、親子じゃないなんて・・・」
 アレックスもイザークも声のした方、女性を見上げる。彼女は柔らかく微笑んでいたけれど、そのルージュの口びるから放たれる言葉はとても残酷なものだった。
「いずれ分かる話だからここで言うわね。あなた達親子の間に血縁関係がない事が判明したの。ですから、アレックス・ディノさん。貴方のイザーク君に対する親権は消滅したのよ」
「何を・・・」
 言い出すんだ? アレックスは呆然とする。イザークを抱きしめる手に力が入り、何から尋ねたらいいのか分からない。何かとてつもないことを言われている。俺とイザークがなんだって? 親子じゃない?
「突然のことで驚かれたでしょうけど、政府は子供を保護する義務があるの」
「ちょっと待ってください!」
 この女性は俺からイザークを取り上げようとしている。
 俺とイザークが親子じゃないと言って、俺が育てる権利がないと言う。
「親子じゃないってどう言う事ですかっ!?」
 返事の替わりに差し出されたのは、DNA鑑定証明書。引ったくって、文面を追う。書いてある事の科学的な意味はわからなくても、文字が親子であることを否定している。初めからそう書くことが決まりであるかのように、流れるように導かれる答えに薄っぺらい紙が歪むほどに力が入る。
「勿論、家族がいる場合はその方の意見が尊重されるわ、けれど、ただの保護者ではね」
「どうして、今頃になって・・・」
 俺の記憶がないからか?
 イザークを一人にしておいたから、それとも、本当は俺が―――。
「とにかく、大事な初等教育の時期に間に合ってよかったわ。まずこちらの書類にサインお願いします」

 バッグから取り出された書類と万年筆。
 許諾書にサインしたら、俺はイザークと一緒にいられなくなる?

「できるわけがない」
「そうね、急ですものね。明日まで待ちましょうか。けれど、イザーク君の保護義務はもう政府にあるの、今日は私と一緒に行くことになるわ」
「そんな・・・」
「・・・いやだ」
 ぎゅっとしがみついて、顔を埋めるイザーク。ラミアスが殊更優しい声で、イザークに話しかけた。施設にいっぱいいるお友達のこと、色々なことが勉強できること、そして。
「別にもう二度と会えなくなるわけじゃないのよ?」
 頭をふるイザークを見て、彼女はさびしそうな顔をするがすぐに表情を切り替えてアレックスを見た。
「よく考えてくださいね、何がイザーク君にとって一番いいのか。曲がりなりにも6年間親をやったのなら、分かるはずでしょう?」
「言われなくたって」
 考えている。誰よりもイザークの事を考え、心配していると言えればよかった。
 しかし、今のアレックスにはジーンブレイドを発動して破壊を楽しむと言う、もう一人の自分がいた。不安が伝わったのか、自分の気持ちに素直になったのはイザークの方だった。
「父さんと一緒がいい」 
 女性の方を見もせずに、頑なに拒んでいる。嫌だ嫌だと繰り返せば、見逃してもらえるかのように、アレックスに抱きついて自分を隠そうとしている。
「行かないからな。行かないったら・・・行かない」
「イザーク君、行きたくないってあまり抵抗すると、お父さんが誘拐罪で捕まっちゃうのよ?」
 ビクッとして顔を上げる。
 アレックスを見上げて、口をへの字に曲げる。真っ青な瞳が潤んでいて、アレックスは自分の方が泣きそうになった。自分は罪でも何でも構わないから離したくないのに、罪になると聞いて、イザークがそれを気にしないはずがない。
「イズー・・・」
 そろそろと手を離して、俯いたイザークは唇を噛んでいた。
「そんなの卑怯だわ」
 ルナマリアの呟きすら気にせずに、ラミアスがイザークに手を差し出した。一向に握らないイザークに諦めたのか、肩に手を置いて出発を促した。レストランの入り口のドアが閉まり、その揺れさえ消えうせてもアレックスは動けなかった。

 チラシの裏に描かれていたのは青い頭の大きな人と白い頭の小さな人らしきもの。端にはシンやルナマリアを描いたのだと思われる丸が描いてあった。描きかけの絵を見つけて手に取って、エレベーターホールに向かう。シンやルナマリアが何も言わないのが今はありがたかった。
 部屋の鍵を開けて、ダイニングのテーブルの上に荷物を置くと、フッと目に入る位置に絵が張ってあった。
「ちょっと傾いてるぞ、イズー」
 電話で話していた自信作だろう。
「これでいいんだ」
 化け物の親を持つより、福祉施設で引き取ってもらった方がイザークの為だ。そこは安全だし、教育も受けられる。友達だってできるだろう。
 今しがた描いていた絵も隣に飾ろうと思って壁に当てる。膝をついて向き合い、手を乗せるともう視界がぼやけてきた。腕の力が抜けて頭が壁に当たる。イザークは泣かなかったのに、守られた父親は情けなさにポタリと床に涙が落ちた。



 イザークはオーブ財団と政府が共同で建設した、児童福祉施設の一室にいた。来る途中、大勢の子供達の騒ぎ声が聞こえて、張り詰めた意識が少しだけほぐれる。少なくともここには、大勢の子供がいる。とは言っても、とりあえず案内された部屋で、借りてきた猫のようにジッとしているだけだが。

「その子が例の子供ですのね?」
「ええ。まだちょっと緊張して大人しいけれど、本当は元気な子よ」
 一人ぽつんと座っている少年をこっそりモニタ上から覗く女性が1人。イザークをここに連れてきたラミアスが画面上で長いピンク色の髪が印象的な女性と会話を交わす。
「まあ、銀髪ですのね、こんなきれいな髪を見たのは久しぶ、り・・・」
 画面の中で頭を動かした少年の横顔が映る。サラサラの銀髪がゆれ、瞬きした向こうにあるのは、吸い込まれそうなそれはそれは青い瞳。言葉を切ってしまったマザーを前にして、ラミアスが続きを促すが、反応がないのを見て話題を変える。
「そう言えば、諜報部から良くない噂を聞きました。プラントがコーディ対策ワクチンを開発したと」
「その件なら今詳しい情報を収集ですの。怖いのは、救済と称して臨床試験を強制することです。大崩壊の影響で私達は皆、コーディ化する因子を持っています」
「ワクチンはそれを防ぎ無効化するものだと」
「私達はその真偽を確かめねばなりません」
 収まらないコーディ化現象と増え続ける犯罪。
 そこへ、もう一つのジーンブレイドの出現による混乱が起こっている。ラミアスは一気に暗くなってしまった会話を元に戻して、イザークのことに再び触れた。いつまでも財団のカリスマ、マザーと話しているわけにもいかない。
「簡単な検査をして、大部屋に移すわ」
「そうしてくださいな。一人は寂しいですから」

 暫くしてラミアスが戻り部屋から出る。身長、体重を測って、イザークが次につれられたのは沢山の子供達が集う、レクリエーションルームを見下ろせる部屋だった。イザークよりも大きな子も小さな子もいる。男の子も女の子もいて一緒に遊んだりしている。
「これからお友達になるみんなよ。今日は、お姉さんと一緒の部屋だけど、明日からは皆と一緒だから安心して」
 何をするでもなく一日が過ぎ、ラミアスが部屋に戻ると呆れてベッドに腰掛ける。
「テレビくらい見ていてもいいのよ? それとも遣い方が分からなかった?」
「知ってるよ」
 馬鹿にするなと言いたかったけれど、相手は女性だから黙っておいた。帰ってきたのだから、もういいだろうと思って、布団を捲る。
「おやすみなさい」
「え、ええ。おやすみなさい」
 潜り込んで丸くなる。隣のベッドでため息をついている彼女に気がついたけれど、気がつかないふりをした。こんなのは夢で、目が覚めたら父さんが隣でグースカ寝ているんだと言い聞かせて目を閉じる。


 その日の夢は、いつものように戦い続ける夢ではなかった。

 ビルも人も、何もない真っ白な世界。
 一つだけ光ったのは、流れ落ちる涙だった。

 誰か、泣いてる?

 次に目に入ったのは血だらけの手。ずいっと伸ばされた手がもう少しで触れると言う時、ふわふわと透き通っていく。それもつかの間、白い世界を瞬時に埋め尽くす闇の中で光る青いブレードと紫の瞳。辛うじて残った残像で思い当たる人と言えば、いつも夢の中で向き合うアイツしかしない。

 アイツは敵じゃないか。
 おかしいよ。どうしてこんなに、安心しているんだろう。




ザ☆急展開。すいません、毎度のお約束な展開で。バレバレな事を、何!昔そんな事が!? ッて感じで書くのってなんだか恥ずかしいですね。