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My Santa is

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 その年、学校では自分のトナカイに名前を付けるのが流行っていた。初代の8頭立てのトナカイには皆名前が付けられていたと言うし、厩舎の同じ顔をしたトナカイ達も名前を付ければ可愛く見えるものだ。

 クリスマスも押し迫った12月の中頃。
 アカデミーでは今年のプレゼント配布のスケジュールが発表されて騒然となっていた。世界中にクリスマスのプレゼントを配るのはたった一人のサンタではない。サンタの学校にいるサンタ達が手分けをして一晩で配り終えるのである。アカデミーと呼ばれるサンタの学校にはサンタの国、ノースポールの国民全員が通っている。いや、暮らしていると言っても過言ではない。彼らはこの日のために生まれ、この日のためにリサーチを行ってプレゼントを用意する。トナカイを飼育するのも彼らの仕事だし、世界中の言葉を覚えるのも仕事の内。そして最大のイベントが2人1組のプレゼント配布である。

「校長先生も何を考えているんでしょう」
 張り紙をみてサンタの学校の生徒達が指を指す。一番上に書かれたペアを見て口を開く。
「拠りによってあの2人を組ませるとはね」
「あいつらの受け持ちってどこの地区?」
「ひゅ~・・・一番の激戦区」
 人口が多ければ手際よく片付けないと一晩で終わらない地区もある。その為のエリアわけなのだが、経済状態や政治状態、全てを鑑みて行われるエリア分けはなかなか簡単にはいかないもので。毎年、その地区担当になったサンタは翌日にまさにご愁傷様といった有様となる。
「あーあ、可哀相に。嵐だな。ブリザードだぜ、きっと」
 イブの夜。夜空が晴れるのも荒れるのもサンタの気分次第。月明かりの穏やかな夜も、しんしんと凍える夜も、そのエリアを担当するサンタ達の心次第なのだ。その心持一つで決まる24日の天候が嵐になると口々に噂する。

「貴様! 俺に足をひっぱったら承知しないぞ」
「俺のイージスの足を引っ張るのはお前のデュエルだろ」

 そして、張り紙の前で睨み合う2人。このサンタの学校で知らぬものはいないという2人は学校の主席と次席で、イージスとデュエルが彼らのトナカイの名前だった。

 イージスはそのやや赤っぽい毛並みに合わせて、首に下げたベルトやソリを繋ぐベルトが赤かった。大きく伸びた角が立派で、サンタの学校でも一・二を争うトナカイ。対するデュエルも水色のベルトを巻きつけた角も、やや白い毛並みも見事なトナカイだった。

 当日最後の手入れをして、ソリを繋ぐ2人が準備を終えて配達口から大きなプレゼントを受け取って寄宿舎へと着替えに戻る。

「そろそろ出発しないと。イザークの奴、まだなのか」

 赤い帽子。赤い服には白いボアがついていて、黒いブーツにベルト。
 白い巻き毛の髪と髭は胸まで伸びて・・・。
 世の人々が想像するサンタルックを、ノースポールのサンタ達全員がするわけではない。サンタを見つけることはまずできないし、偶然にも遭遇したとしてもその心の中にあるイメージを通してサンタ達を見ることになるのだ。
 だから、アスランとイザークのようにどう見ても見た目青二才のサンタでも立派にサンタとして夜空を駆け巡ることができる。最も、一応はサンタであるから、この夜のために彼らはサンタルックに身を包むのだ。

「イザーク、おまっ」

 先に準備を終えたアスランがスタスタと歩いてきたイザークを目に留めて言葉を失った。普段、無表情で有名な彼が目を丸くしている。彼の愛トナカイ・デュエルを撫でる姿を目で追っていた。その姿は上から下まで完璧なサンタルックである。青い髪のアスランとは違い、イザークの髪は銀髪である。

「なんだ、文句あるのか!」
「文句なんて、と言うかそこまで気合入れるなんて思わなかった」

 イザークの銀髪は巻き巻きにカーブして胸元まで伸び、元の長さを考えたらありえない長さになっていた。ジロリとアスランを睨む目元には銀縁の眼鏡。

「フン。腰抜けの貴様と一緒にするな」
「腰抜けって・・・お前、自分の姿を鏡で見たのか?」

 あっけに取られていたアスランもいつもの口論が始まって負けじと反論する。

「似合ってないとでも言うつもりか、貴様っ!!」

 ここでゴングが鳴る所が今回はアスランの笑い声が響いた。おなかを抱え、肩を震わせて笑いを堪えている。

「いや、似合い過ぎてて、俺、もうダメ・・・だって、イザークお前、それ・・・」

 最後はもはや言葉にならずに、アスランは自分のトナカイ・イージスに伏して笑い続けた。残されたイザークがどうしたものかと、長い髪に手をやりながらプレゼントの袋やソリの状態をチェックして出立の準備を始める。学校の窓に映る自分の姿を見つけて、一瞬手が止まる。何も言わずに作業を再開したが、様子が少し照れくさそうだったと、誰もが思ったに違いない。



 2人の戦場は東洋の島国だった。

 小さな国だが、人口が多く、どんな宗教も受け入れる得意なお国柄のせいか、クリスマスプレゼントの需要はエリアあたりに換算するとずば抜けて多かった。サンタの国でも多大な人員を割いて毎年リサーチを行っている。

 その割には、クリスマス当日の朝に驚きの声が少ないと思うかもしれない。実は、枕元にこっそり置くという時代はとうに過ぎ去って、今時のサンタ達はプレゼントを買い求める彼らに働きかけてリサーチの結果を反映させるのである。お店で思案している時、大切な誰かの事を思う時、ふと思い浮かぶプレゼント。それらは全てサンタの囁きだとしたら。店頭で渡される綺麗にラッピングされたプレゼントが実はサンタの国で用意されたものだとしたら?

「えっと、あのお母さんにはこれで、あのお姉さんにはこれで・・・」

 アスランが電子手帳のリストをあちこち飛びながら潰していく。まるでメールが届くみたいに、着信音がしたプレゼント選びに悩める人々にプレゼントを届けるのである。
 サンタ達はクリスマスプレゼントに悩む彼らの心をキャッチすることができる。相手を読み取り、リサーチの結果を探す。
 だから、クリスマスイブの夜、サンタ達は輪をかけて大忙しとなるのである。常に相手の事を気にかけてプレゼントに悩まないならサンタの出番も少ないのだろうが、特にこの地区は宗教入り乱れる土地柄か、この時になって盛大にクリスマス一色に染まる。

「なになに、トール・ケーニヒ16歳。恋人へのプレゼントを考えていなかったあ!?」

 話しながらも手は手帳の上を目も留まらぬ速さで動く。リンク・アクセス・サーチ・ヒット。照合確認、恋人はミリアリア・ハウ。趣味は写真、用意されたプレゼントはデジカメ。

「なぜ、今頃になって気がつくんだっ」

 イザークが怒鳴れば、アスランもため息をついて、電子手帳を目まぐるしく操作する。

「カガリ・ユラ・アスハ。父親のプレゼントに奮発しすぎて、弟の分の予算が足りなくなった・・・って、そんなの俺にもどうにもできないよ」

 イザークやアスランが悪態をつきつつ、トナカイを走らせる。夜は段々更けていき、9時を回り出すと人も段々家路へと急ぎ出す。渡しそびれたプレゼントほど寂しいものはない。悩める恋人やお父さんお母さんの手助けが終わると、いよいよ本業。プレゼント配りが待っている。

「アスラン! 俺はもう半分終わったぞっ!」
「俺だって同じだ」


 サンタクロースを信じているのに、プレゼントの贈り手がいない。そんな時、サンタがそっと枕元や靴下の中にプレゼントを入れて回る。昔に比べればずっと数は減ったとは言え、そんな純粋な心を無視できるはずもなく、用意したプレゼントを持って夜空に澄んだ光を探してソリは滑る。

 窓をすり抜け、音もなく扉を開ける。
 眠る子供達の横にプレゼントの包みをそっと置く。
 そんな原始的な配り方から、まとめて幾つもプレゼントだけを空から贈る。青い光のベールに包まれ、光の粒を残して靴下の中に届くプレゼント。

「これは手袋だからあの家。5巻セットはええっと・・・あっ、まだ起きてる」
「ゲームはこいつ。取っ手の取れる鍋はその家。ガンプラはあの家。腕時計はあそこだっ。さあ、行ってこい!」

 いくつ同時に贈ることができるか。
 この一年練習を積んだ成果を発揮する時でもある。プレゼントの包みを見て中身を見通すサンタ達は、手帳と照らし合わせて一気に空中に放つ。


 存外に熱い2人のおかげで東洋のクリスマスイブはいつになく暖かい夜だった。うっかり着込んでは熱いほどに。


 袋の中が空っぽになって、一息ついたアスランが少し離れた所にいるイザークを見た。配り終えたのか、下界を見下ろしていた。窓の明かりも消え、街頭だけが暖かい夜を照らしている。月も星も12月下旬とは思えないやわらかさで空に輝いていた。

「終わった」

 イージスにお疲れと声をかけてソリの様子を確認し、プレゼントの袋を畳み掛けて気がついた。

 まだ一つ残っている。

 そんなはずは。電子手帳を確認して、イザークと分担し合ったリストを上から順に調べていった。何度も何度も、まだ配り終えてないプレゼントを探したが、きれいに配達完了の文字が並んでいる。では、この袋の一つは一体・・・?

 イージスへのプレゼントだろうかと中身を見ようとして愕然とした。トナカイに贈るのにあまりに意味のないものだったらいやだな。そんな軽い気持ちでプレゼントがなんなのか知ろうとしただけだったのに、中身が見えないのだ。目をしばたいて、擦ってみても、簡素にラッピングされた包みの向こうが覗けない。

「困ったな」

「ア、アスラン。どうかしたのかっ!」

 イザークがアスランの独り言を耳に留めたのか、聞き返していた。ドキッとして振り向いたアスランは持ち前のポーカーフェースで動揺を見事に覆い隠していた。

「俺は、一応終えたぞ。・・・貴様はどうだ?」

 イザークのソリの上の袋はペタンときれいに折りたたまれていて、もはや一つもないのは一目瞭然だった。

「俺も、リストにある分は配り終えたさ」
「そうか。そうだな、この時間で配り終えていないなんてありえんな」

 気まずい沈黙が降りる。お互い配り終えたのなら、どちらが先だったかと争い始めるはずが、この時ばかりは視線を逸らしたまま下界の見下ろしたり、夜空を見上げている。

 最後の一つの贈り先を考えていたアスランが、ふと思いつく。

 これはもしかして―――

 イザーク宛?

 そう思えば、それしかいないような気がしてくる。

「あのさ、イザーク」
「アスランっ!」

 声をかけたのは同時だった。
 アスランもイザークもびっくりして二の句が告げない。

「なんだ、アスラン」
「いや、俺はいい」
「なんだ貴様。言いたい事があるならさっさと言え」
「イザークこそ」

 アスランが後ろ手にしたプレゼントの包みを握り締める。一呼吸おいて口を開く。

「これはお前にだっ!」

 宙を進む光がアスランの額にこつんと当たった。両手で受け止めると赤いリボンでラッピングされたプレゼントだった。驚いてイザークを見る。そっぽを向いて口をへの字に曲げているが、イザークが寄越したものに違いない。なにせこのエリアにいるサンタは2人きり。残るは一人しかいないではないか。

「俺もイザークに渡すものがあるよ」

 ふわりと空を舞うプレゼントが振り向いたイザークの手の中に納まる。それはアスランからイザークへのクリスマスプレゼントで。

 きっと、リストにない最後のひとつはサンタからのクリスマスプレゼント。
 イブの夜を一緒に過ごしたサンタ達へのサンタからの。

 照れくさいやら嬉しいやら包みをさっとしまうイザークを尻目に、アスランがリボンを解きに掛かる。

「開けてもいいか?」
「勝手にしろっ。何が出てきたって俺が選んだわけじゃないからなっ」
「なんだ、イザークのは見せてくれないのか?」



おわり



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My Santa is blue eyes.ってなつもりで考えていたのに、全然違うものが出来上がってしまいました
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