※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

#blognavi
前のが実質2だから、今回は3ですね。




「この寺には檀家はいないのか?」
「いない、な」
 即答だった。
 考えてみれば当たり前で、何年も機能していない寺に檀家が残っているとは思えない。しかし、それならそれで問題である。檀家がいなければ収入がないし、有事に人手がない。
「毎年どうしていたんだ?」
 昼食時の会話である。
 アスランが作ったあまりものを混ぜた焼きそばをつつきながら、イザークは必死にその様相に目をやらないようにしていた。見た目はいたって普通だが、味がでたらめだった。曰く、あまりもので作ったからだそうだ。

 そもそも、檀家さえちゃんとあれば、掃除は彼らがやるし差し入れもあるだろう。地鎮やお祓いなどで訪れた各地の寺ではそうであった。
「俺が掃除していたんだ。自腹で」
「お前が?」
 この寺を一人でか?
 呆れる共に感心し、さもありなんと納得する。何せ、こいつの神社はこの寺に間借りしているのだ、掃除くらいして当然であろう。うむ、全くもってその通り。
「でもまあ、結構面白いよ。仏像を磨くなんて滅多にできないだろ? 背中の後光が取れそうになった時は焦ったけど」
 口に入れた箸が止まった。背中の後光がなんだって?
「あれ、古いよな。何年ぐらい前に作られたものなんだろう」
 そう、古い。パッと見ただけでも年代物だと分かる。恐らく鎌倉後期か、いや、お顔や手にした剣から考えればもっと前かも知れん。作者の名が分かれば調べることもできるが・・・全く無名の寺だから手間取るかも知れん・・・と、問題はそこじゃない。
「貴様、後光が取れそうだと言ったな?」
「ああ。あれ、木造だろ? ぐらぐらして拭きにくいし、接着剤でとめちゃったよ。だから今年は安心だけど」
 握り締めた箸が震えた。他宗派の奴だ、悪気はないのだと頭では分かっているが、イザークの沸点は低い。それが元でこの田舎に飛ばされたのだ。
「なんて事を! き、きしゃまっ、ご本尊様にそんな事をしたのか!!」
「えっ、だって」
 えも、だってもない。
「本堂の掃除は俺がする。貴様は賽銭箱の準備でもしてろ!」
「それは俺の掃除能力が低いと言う事か?」
「余計な事をされても困るんだ! 俺達をなんだと思っている」
 神道の貴様にとってはただの木造でも、俺達にとっては大切なご本尊様で、信仰の対象だ。
「なっ・・・僧侶じゃなきゃここの掃除をしちゃいけないって言うのか? 言っておくが、昨日来たばかりの君よりずっと詳しいし慣れている。君より早く掃除できるさ!」
 俺より早く・・・!?
 イザークの琴線に触れるにはジャストミートだった。
 曲がったことが嫌いなイザークは、誰よりも熱い男だった。
「そこまで言うなら勝負だ! 俺は本尊周辺、貴様はそれ以外だ」
「いいだろう」

 こまごまとしたものがごちゃっと密集している本尊や須弥壇と、伽藍とした広大な畳と柱、取り囲む板の間では果たしてどちらが有利なのか。二人はお互い手にしたバケツと雑巾を持ち、火花を散らして背を向けた。


3:君の瞳に完敗


 短気な上に気位の高い奴。
 きっと扱いに困って、ここに飛ばされたに違いない。アスランはイザークがこの寺にやってきた理由をこう推測した。(そしてそれは当たっている)
 はっきり言って、掃除能力なんて誰も対して変わらないと思うんだけど、そんな所に拘るなんて変な奴だよな。
 雑巾を絞って柱からまず手を付けた。
 逃げられたら困るし、できるだけ親切に接してきたつもりだった。
 掃除だって押し付けず、共同作業で進めるつもりだったのに、妙に対抗意識を燃やされてしまった。僧侶といえば、何事にも動じず冷静に、仏の御心を説くものだと思っていたら大間違い。
 今時のお坊さんってああなのか?
 怒りっぽく、他の宗教と対決姿勢を露にする。勝ったからどうだって言うんだ、宗教家どうし争ってなんになる。だから、世の中平和にならないんだ。あっ、そこではたと気がついた。

 まさか、俺が負けたらこの寺から出て行けって言うんじゃないだろうな。

 間借りさせてもらっている事を思い出したアスランは、イザークをこっそり盗み見た。彼は仏像の裏に回ってなにやらゴソゴソやっている。しかし、周辺の仏具は心なしきれいになっているように見えて焦った。
 今、ここで出て行けといわれると初詣が困る。
 お神酒やおみくじの準備はもう終わってしまっているのだ。
 第一、俺はどこで寝泊りしたらいいんだ?

 負けられない。

 そう結論付けた所で、アスランはせっせと柱を拭き、畳へと移っていった。畳の目に沿って雑巾をかけ、絞っては噴き絞っては拭きを繰り返す。汚れていないように見えて、一年の埃はすさまじく、すぐにバケツの水が真っ黒になった。
 しかし、頑張りの甲斐あって畳を終えて板の間へと移ると、ゴールはもう目前。対するイザークはまだ本尊の裏でなにやらぶつぶつ呟いていた。

「いいのか、そんな余裕で。俺、もう終わるんだけど」
「---ウン・カン・ソワカ。・・・俺には俺のやり方がある」

 アスランはイザークの両手を見つめた。どこかで見た事のある形、そして彼の声が聞こえた。念仏ではない呪文のようなその言葉をなんと言うのか彼は知らなかった。

「・・・何だ・・・?」

 イザークの姿が霞んで見えた。耳に届くのはブーンと言う高周波で、彼の一際大きな声が聞こえたと思った時には空中に舞い上がった埃が自身めがけて飛んできた。
「うわっ!?」
 あっと言う間に飲み込まれ、吹き抜けていった。

「埃を払う真言だ」

 咽ながらイザークを見ると口元をにやりとさせた彼がゆっくりと歩いてくる。勝負は一瞬のうちに逆転され、アスランが手にしていた雑巾も頭の三角巾もマスクも一瞬にして埃まるけになったのだった。




うーん。うまく落ちなかっただ。とりあえずお掃除ネタは終わり。掃除している時って、こう、一瞬できれいになるような魔法の言葉が欲しくなる。誰か教えてくれないかな。



カテゴリ: [ネタの種] - &trackback- 2007年01月11日 21:16:16

#blognavi