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蒼天の白き神々の座





「ヤキン・ドゥーエだと! 本気ですか・・・!?」

 偵察機がもたらした艦影。少々荒いがモニタに映し出される帝国艦隊の後方に鎮座する巨大な旗艦。

 第一軍旗艦。
 第一軍、それは、皇帝の艦隊。
 その旗艦の銘は十字型をした超重飛行戦艦、ヤキン・ドゥーエ。
 この大陸にその名を知らぬ者はいない。

 そんなものを持ち出した帝国が大人しく引き下がるはずもない。
 それだけの決意が帝国にあったということだ。
 一戦交えるしかなかったのだと口実を作る為に派遣した交渉団が、帝国の大艦隊の前に豆粒のように埋もれ、連邦軍旗艦ドミニオンのブリッジのメインパネルに、埋め尽くして表示される敵の陣容にアズラエルは唸った。

「数ではこちらが有利、しかし・・・」

 考え込むほど、背中を冷たいものが流れる。さて、どうするかと思った矢先、メインモニタにノイズが混じり、全く意図しない映像が映し出された。黒一色を着込んだ、それこそ肩の上で広がる長い髪でさえ漆黒の、帝国の支配者だった。

「これはこれは殿下。それとも・・・陛下とお呼びした方がよろしいですかな?」

 応えはない。

「ふ・・・我々としても無駄な争いはできるだけ避けたいと思っているのですがねえ」


『真実、停戦のために交渉したいと言うのなら。もう少しまともな者を送るのだな』


 通信は無情にも一方的に切れ、アズラエルは一瞬呆然とモニタを見つめるほかなかった。気を取り直して、むしろこうなってしかるべきだと諦める。通信を入れてきただけ、あちらは礼儀を尽くしてきたのだ。
 連邦軍と帝国軍の間に位置する交渉団をどうするか。次の手を打たなければならない、そう頭を切り替えた時。

 対する帝国軍旗艦、操艦要員からは伺えない一段高い司令部から短い指示が下された。

「撃て」

 ヤキン・ドゥーエのモニタに映るのは、かの交渉団。その後ろには連邦の艦隊左翼。ギルバートの両翼には二人のフェイスマスターが控えていた。




「帝国軍後方に高エネルギー反応!」
「来ます!」

 ドミニオンのモニタを真っ白に焼いて収まった時、連邦の右翼は黒煙と無残にも開けた空間があった。

「帝国軍突撃飛空艇多数接近!」
「交戦状態に入りますっ」

 大空を埋め尽くす二大陣営の艦隊が激突する。
 対空砲が敵艦めがけて炸裂し、高速で飛来する飛空艇が飛行戦艦のブリッジに機関砲をぶち込む。乱戦となった前線を無表情に見下ろすギルバートの元に伝令が入る。

「フェイスマスター・レイ殿より通信」
「なんだ」
「『我、見つけたり』と」

 一言一言に合わせて、ギルバートの瞳が見開かれていた。聞き終えて、ゆっくりと二人のフェイスを振り返る。

「さあ、これからが本当の戦いだよ」
「殿下?」
 ディアッカへと視線を動かすギルバートを、カガリが訝しげに視線を追う。
「ここを頼む。負けない程度に頑張ってくれたまえ」
 ディアッカとカガリがそれぞれの反応を返す間に、ギルバートは颯爽と司令部を後にしてしまっていた。動じないディアッカをカガリが睨み、ディアッカは肩で溜息を付きながら口を開いた。

 全面モニタに映し出されるのは、自軍の戦力、地形の上に映し出される両軍の展開だった。名のある艦が被弾しただの、エースが何機目を落としたのだと。黒煙が空を覆い、そこかしこで小さな光が花火のように浮かんでは消える。

 あれらは全て、人の生き死にだというのに。

「信じられないな。そんな神のような存在」
「残念ながら真実だぜ」
「なるほど、だから、レイの艦隊がいないわけだ・・・」

 二人のフェイスマスターが司令部から外の様子を伺った。陣の後方にある旗艦に攻撃が届くようなことはない。前方と上空で繰り広げられる乱戦を見つめ、刻々ともたらされる状況につまらなそうに歩く。

「茶番だな」
「仕方ないさ、俺たちは陽動だ」

 だが、それでも命は次々に失われていく。

「撃って撃って撃ちまくれ。狙う必要はなんざねえ、撃てば当たる!」
「ばかやろう、味方を殺す気か、援護するならちゃんとやれっ!!」

 歴戦のベテランも、初陣の飛空艇乗りもいたかもしれない。前線では軽飛行戦艦の砲手が攻撃を受け、混戦模様の様子を伝える通信士に突撃飛空艇乗りが文句をつけていた。





 激突する両軍をよそに、シン達はどこまでも続く階段で息を切らしていた。派手に動き回れば階段から転げ落ちてしまう。真っ青な蒼穹へと伸びる螺旋階段は、手を伸ばしても壁などなく、足を踏み外せば地上へと真っ逆さまである。

「ったく、どこまで続くんだよ!」
「勝手に突っかかるな。また雲が出てきたっ」

 襲い来る想像上のモンスター達を相手にしていると、どこからか湧き出た雲が足元を隠してしまう。四方を青空に囲まれていたはずなのに、ふと気がつくととんでもない草原にいたりするのだ。密林や砂漠に迷い込んだこともある。

 そこはどこなのか? さっきまで登っていた階段はどこへ行ったのか?
 微かに覚えている空気の感触がこの世界のどこかだと分かる。来させまいとする敵の思惑通り、これは誘い込む罠だとシンだって知っている。

「あっこらシン!」
「だからって立ち止まってたら、辿り着けないっ!」

「行っちゃったよ」

 キラがポリポリと頭をかく。

「あのさ、そんな命令口調で言っても聞かないと思うけど」
「何が」

 アスランとキラの稼ぎ頭が向き合う。言いたい事はお互い分かっているのだろうが、どちらも核心には触れずじまいだったから、こうしてまた未知の空間へと足を踏み入れることになる。

「シンを見失ったら大変ですわ。今は急ぎませんと」
「仲間割れしている場合じゃないでしょ」

 雲が晴れてきている。空間への扉が閉まりかけているのを察して、ラクスやミーアの後についてアスランもキラも走る。一度視界がゼロになって、段々場所が開けてくれば、今度はどこかの地下洞窟のようだった。

 眼前にいたのは揺れる大きな炎。

「ファイアーエレメント!」

 そして、その前で剣を抜き、魔法を唱えているのはシン。

「1人でなんて、無茶だっ」
「ラクス」

 キラの短い指示で、ラクスがシンに防御魔法を掛ける。火属性を持つ存在に闇雲に魔法を掛けても効き目はない。むしろ逆効果だってありえるわけで、まして相手は精霊。

「ミーアいけるか?」
「大丈夫、みんな下がってっ!!」

 特大の氷の魔法がエレメントを直撃し、消えそうな炎が足元をゆらゆらと漂っている。後少しで倒せると誰もが思い、シンも例外なく、大きく剣を振りかぶって走る。
 振り下ろされた風圧で炎は割れ、飛び散った。
 二つに分かれた炎が揺らめいて、大きく育つ。

「なんだってんだっ! くそっ」
「剣では駄目だ。シードを集めろ、魔法だ!」

 シンは叫んだアスランを見た。
 キラもラクスも、そう、シン以外が皆魔法のためにシードを集め始める。自分だって!と意気込んで、ハッと気がつく。一体どんな魔法が使えるというのだろう。
 この局面で、肝心な場面で役に立てない。

「下がってろっ! シン」

 悔しい。
 でも、そうするしかない自分。
 アスランとラクスの魔法攻撃でエレメントは消滅し、キラとミーアの魔法で一行にはすぐに癒しの魔法が掛けられる。シンにもそのヒンヤリとした魔法のベールが降りる。

 どんなに頑張っても。

 指先から力が抜けそうになって、慌てて剣を持ち直した。頭を振って、陥りかけた思考を止めた。辺りを霧が包んでいる。
 今までに何度も目にしてきた光景から、さっきまで登っていた階段へと戻るのが分かった。今、一つの罠を突破したのだ。

 俺にできることをするしかないんだ。
 シンはまた一番に走り始めた。どこに繋がるとも知れない階段をただひたすら登る。頭上には青く青く覆われた蒼い空。

「ねえ、アスラン」

 キラがラクスを引っ張りながら階段を上り、最後、立ち止まっていたミーアに気がついたアスランが振り返った。

「急にお兄さんぶらなくてもいいんじゃない?」
「俺は、別に!」

 ミーアがゆっくりと階段を上り始める。長い耳が風に揺られ、桃色の髪が縦横無尽に風に遊ばれている。手にしている弓にここの所出番はないが、彼女はパーティの中でも一番の魔法の使い手だった。

「お兄様のことは残念だったけれど、アスランはアスランのしたいようにしたらいいと思うのよ」
「何を言い出すんだ、ミーア」

 シンもキラ達もかなり先へ行っている。時々、気遣うようなラクスの声が聞こえてくる。

「私ね、風の声が聞こえなくなって、自分がこの世界から見捨てられたような気がしたわ。里で、妹達はああ言ったけれど、やっぱり自分が情けなかった」

 ミーアの妹はキャンベラの隠れ里で、彼女の代わりを立派に勤めている。恨む事もなく、嘆くこともなく、ただひっそりと風の声を聞き、何も変わらない。アスランが分からない・・・と言う顔をしていたから、ミーアはふわりと笑った。

「だから、嬉しかったのよ。皆に必要される自分が、何かの役に立てる自分がね。今は世界の秘密を自分で解き明かしていくことが楽しいわ。もし力を失わなかったら、ただ風に問いかけるばかりだった」

 風が攫う髪がたゆたっている。
 アスランよりずっと長く生きた彼女が、視線を悠久の空へと向けた。

「風の声が聞こえなくなって、空賊だっていきがっていたのはアタシも同じなのね」
「俺は別に、空賊になったのは、そんなつもりじゃない。本当に空に――― 」

 何度目かのラクスの声を聞いて、二人は再び走り始めた。
 いつもは飛空艇で旅する空を細い階段で必死に登る。

「だから、そのままで生きてもいいと思わない?」
「けど、ミーア、俺は・・・」

 言い淀むアスランを見て、ミーアはもっと朗らかに笑った。
 矛盾している言葉。帝国の王子であるアスランはいないと言っておきながら、彼は迷っている。どこかで、その義務を果たそうとしている。

「聞き分けのいいアレックスなんて、今までいなかったんだし、アスランに戻っても同じことか。ま、仕方ないわね」

 反論すべきかどうか悩むアスランの耳に、今までとは違うラクスの声が届いたのはその直ぐ後だった。シンとキラの声には「のろま」だの「馬鹿」だの聞き捨てならない言葉も混じっていた。

 だが、シン達が一葉に立ち往生しているその場所に辿り着いて、アスランとミーアは息を呑んだ。巨大な門。向こう側はただの空が広がっていて階段はない。

「これが、もしかして・・・」
「蒼穹の門」

 覇王の言霊が蘇る。

 だとしたら、この向こうに在るのは。
 調停者たち。

 大陸の歴史を陰で操り、大国同士を争わせ帝国を滅亡へと導こうとしている歴史の紡ぎ手。イザークが戦っていた白いローブの存在がいる所。

「でも、向こうには何もないね」
「扉を開けねばなりません」

「どーやって!?」

 叫んだシンが振り返ると、ミーアがゆっくりと歩いて来る。

「シードよ。内なる。私達皆が持っているもの」

 ハッとラクスがミーアを見た。シンが取り出した種石を見て、ああ、と胸の前で手を合わせた。

「誰にでも種石の元となる力が眠っているのですね」
「それが弾けた時」

 ラクスの言葉をキラが引き継ぎ―――。

「門が開く」

 硬く閉ざされた蒼穹の門。
 シンとアスランが門を振り仰いだ時、空気が震え、足元に激震が走った。キーンと耳鳴りが起こり、流れ込む風に煙と炎が混じる。猛烈に向き荒れる風に必死なって吹き飛ばされないように足を踏ん張った。ミーアがラクスを支えてしゃがみ込んでいる。ここで風に攫われたら洒落にならない。

 轟音が頭上で起こり、真っ黒な飛行戦艦が頭上で火花を散らしていた。火花に乗って溢れる光は種石の放つ青白い光。空間を歪ませ、稲妻を迸らせながら、シン達が立ち往生している門を飛び越えて強引に入っていく。

 まるで特攻のように、透明な膜にめり込んでいく。
 僅かな隙間からのぞく光景にシンは目を疑った。
 陸地がある。

 風は直ぐに収まったが。

「・・・今のは、メサイア!?」

 上を見ていたアスランが呟き、シンは釣られるように叫んでいた。

「メサイアって、兄上の艦隊の!?」

 確かに見覚えがあった。

「今のは第二艦隊旗艦、メサイアだ」
「じゃあ、まさか、兄上は・・・」

 考えられないことではない。彼らを敵と定めた帝国ならば、直接対決を試みてもおかしくない。いや、脅威を根絶しなければならないこそ。

 その為の種石であり、人工種石。
 あの兄がその為にここまで乗り込んできたのだと、シンは唇をかみ締めた。善意ではなく、まして偶然でもなく、真の敵を見据えて行動をしていた。

 兄が乗った飛行戦艦が消えた向こうに陸地が浮かんでいる。
 シン達が必死になって登っていた階段は空に浮かぶ大陸に繋がっていたのだ。門の向こうには何もないが、その先にはきっとあの大陸がある。

「あれが、敵の本拠地・・・」

 シンの呟きは風と共に消えた。





今回のタイトルですが、出典の分かる方いらっしゃいますか? 分かった方にはプチ小説をプレゼント・・・なんて事はないですが、本当は青空をバックに雪をかぶった山の頂をこう呼びます。さて、ようやく蒼穹の門まで来ました。本当ならこの道程はラスダンなんですよね、大空洞とかシンの体内とか、大灯台です。ちょっと、端折り過ぎですけど。