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砕ける星空




 無音の爆発。
 目を焼くスパーク。
 機体を掠める光線。
 戦艦から迸るレーザービームが交差する。
 味方の砲撃を避けるように、相手の攻撃は避けてトリコロールの機体が戦場を駆け抜ける。
「こんなの、切りないぜっ!」
 ミサイルを温存したまま、シンは機銃を武器に踊る。
 最新鋭機体の新兵装を使う余裕もないまま、敵機に取り囲まれていた。


 ついに激突した両軍。HUD上で敵味方識別コードが入り混じり、照準など取らなくても撃てば何かに当たる。ヘブンズベースを守る地球軍の防衛軍は一個軍団は下らない。迫るプラント側も負けてはいない。後方からの増援部隊が合流しようとしていた。
 引っ切り無しになるアラームと、味方の通信が妨害の最中うるさく鳴る。
『この宙域はオーサー隊が引き受けた。ミネルバ隊は左翼の応援にっ』
 若い男の声がシンの機体に下から迫り、短く告げて、ロールしながら上に抜けていく。エンジンの吐くフレアがその軌跡を描き、シンはスティックを倒すと突然、けたたましく通信のアラーム。インカミングメッセージ。
 メイリンの声も途切れ途切れでさっぱり聞き取れない。
 何言ってんだよっ。
 オートチューンにアラートが被さる。それが何だとシンが目を向けた先には光の奔流があった。
 なっ。
 眼下をまるで川のように流れて虚空へと消えていく。光が消えた空間に残されたものは、原型を留めないまでにひしゃげ、融解した残骸。
 小さな爆発を飲み込むように放たれたのだ。何が起こったのかが分かる。
「俺達だけじゃなく、味方まで・・・一体・・・」
 戦場が一瞬、沈黙する。
 戦艦にどれだけ人が乗っていると思っているんだ。
 あの空域にはコーディネーターだけではなく、地球軍の機体も多数いたはずだ。合流したばかりの艦隊が跡形もない。狂ったように動き回る機体が目に入る。
 母艦を、探して――――!
「ミネルバっ!?」
 通信はノイズばかりで繋がらない。
 機体を回転させ、頭をめぐらしてミネルバを探す。もし、巻き込まれでもしていたら。
 ステラ、ヨウランやヴィーノも。シンはそれこそ、帰る所を失ってしまう。目いっぱいエンジンを吹かして、叫び続ける。
『シン! ミネルバは無事よ!!』
「えあっ、ルナッ!?」
 無事? ミネルバは無事。
『それより、来るわよ!』
 大きく開いた左翼に地球軍の戦艦が突っ込んでくる。包囲するつもりなのか、無数の戦闘機の反応がHUDからも見て取れた。それ以上に、シン自身が感じていた。
 群となって押し寄せる後方に、浮かんでは消える閃光を反射する紅い機体。


 もし本当にアスランだとしても。
 艦隊防衛に向かう味方の機体を撃墜しながら、皇かにシンの前に現れた。
 同じコーディネーターとして。
 同じ戦場を生きるパイロットとして。
 一人の男として、負けるわけにはいかなかった。

 力の使い方を間違えるなよ。
 脳裏に浮かんだ苦笑を浮かべる顔を頭を振って追い払う。

 本当にアンタ、何やってんだよ。
 後にはミネルバがいて、シンが守るべき人たちが大勢乗っている。コーディネーターの未来を勝ち取るために同じ志を持った仲間。
 絶対にここは通さない。
 ただ、その機体だけを目指して、シンはスロットルを全開にした。
 オーロラ色の残像を残して、デスティニーが駆ける。


「くそっ」
 何一つ攻撃が決まらないシンが目で動きを追う。
 翼そのものが武器のインフィニティの攻撃を避けるのに一杯で、防戦一方。スピードなら負けないのに、接近戦になると旋回性と出力がものを言う。常人ではありえないGに耐えながらシンはタイミングを待つ。
 シンが放った機銃はまるで狙っているのが分かっているのか、余裕を持って避けられる。
 機動性を重視して機体を駆るが、抵抗のない宇宙ではその分流されて、僅かな反応の遅れがあった。それをカバーするために更に機体に負荷をかける。
 HUDの片隅でルナマリアが地球軍の機体と交戦中だ。心なし旗色が悪い。インフィニティとまではいかないまでも、あの緑の機体のパイロットもエクステンデット。
『余所見をする余裕などないぞっ!』
 相変わらず冷静で簡潔な言葉に耳が痛い。
 すぐ近くに友軍機のコールサイン。レジェンド。
「レイ!?」
 白い機体には大きな円盤型レドームを背負っている。データリンク機能を持ち索敵能力を劇的に上げる支援戦闘機。複数の機体を結んでお互いの連携を強化したりもする。シンのデスティニーがタイマンに特化した機体なら、レイのレジェンドは電子戦に特化した機体だ。
『援護する』
「ああっ。ルナも頼むっ!」
 当然だといわんばかりに、すぐに返答が帰ってきた。
『分かっている』
 HUDに浮かぶ機体数が増えて、反対に向こうはガクンと索敵能力が落ちたはずだ。指向性ジャミングを仕掛けることもできるのだ。状況を判断したのかレイがルナマリアの援護に向かった。
 だが、そんなことは微塵も感じさせずに、斜めに3次元S字を描いて深紅の機体が迫る。
 アンタが俺達を覚えていなくても、俺はアンタを覚えている。
 こんな戦い方をする人じゃない。狂ったように落としまくるなんて、アンタらしくない。
 両翼がすれ違って、サークルを描いて再び対峙。
 平行に走るレーザービーム。
 もしキャノピーが透明なら、お互いを見る事ができるほど近づいて、間髪いれずに反転。どちらも機体に無理をさせているのは同じ。立ち上がりの早さが勝敗を分ける。
 よしっ。
 シンはスティックを握り締めて、全身に掛かるGにシートに身体を打ち付ける。体勢を持ち直したのはお互い同時。
 絡み合うリボンのように、結び目に向かう。
 当たる。
 トリガーを引いた。
 しかし、シンの目の前で紅い機体は機首を上げたかと思うと腹を見せてその場でくるっと一回転した。曲芸飛行でもめったに見ない動きに、シンは唖然として反応が遅れた。絶妙なバーニアさばきとバランス感覚。
 それのどこが、おまけなんだっ!!
「操縦は適当でいいって・・・言ったくせに―――っ!」
 背を向けたきり、燐光を残して消える機体にシンは叫んだ。
 まんまと逃げられたのだ。
 見えない紅い光をしばし追いかけて、一転、シンは唇を噛み締めてミネルバに向かう。索敵能力は上なのに、出力的に追いつけないのだ。だが、自機の周囲の絶える事のない状況は明らかに優勢?
 俺達が押している?
 シンは自分がスコアメーカーを引き受ける事で損害を押さえる事に成功した事に気が付かない。コーディネーターの能力を上回るパイロットなど早々いるはずがないのだ。友軍が敵を蹴散らして戦線を押し返していた。
 ルナやレイはっ!?
 HUD上でインパルスを探した。


 フレアを引いて陣営入り乱れた戦場では、シンがルナ達を見つけるよりも先に地球軍にその機体を目に留める者がいた。
「何だよあの野郎っ、逃げられているじゃねーか! へっ」
 ミネルバと因縁浅からぬ緑の機体のコックピッドで、キャノピー透過型のHUDを睨みつけるのはスティング。
 獲物を前に肉食獣の目でコースを変更した途端、戦場の管制機より指示が入る。
『命令は要塞防衛です。コースを外れています』
「あれを落とせば俺だって! 認めさせてやる」
『警告します。防衛ラインから遠ざかっています』
 機械音声がいつまでも繰り返すから、強引に通信をオフにしてトリコロールの機体に迫る。まるで本当にキャノピー越しに見えているかのように身を乗り出して、トリガーを引いた。


 もう何度目かのアラームが頭上に鳴り響く。
 右後方から迫るエネルギーが機体スレスレを通り抜けていく。
「こいつっ!」
 戦場で幾度となく目にしたカラー。レイからもたらされた情報ではカオスというコードネームだった。振り切って早くルナ達やミネルバを確認したいのに、相手も簡単には諦めてくれない。
「お前なんか、相手にしている暇ないのに―――っ」
 シンの意識が緑の機体に向かう。インフィニティとはまた違うフォルムを持つ機体。
 デスティニーが軌道を変えて、ターンを切る。Rを微妙に変えて一気に距離を詰める。翼の残像が相対する機体を切り裂いたかに見えた。
「交わされたっ!?」
 しかし、僅かに届かず、HUDから一端消える。慌てて探せば、全く予期しなかった方向から衝撃が来た。
「左!?」
 なんだアレは?
 戦闘機の砲塔が独立して動いている。注意して探せば、本体の他に2機。別のベクトルを持って運動している小さな光点。3機に囲まれている状況でシンは標的を絞れずに、またも衝撃。身体を支えるシートベルトのおかげでコックピッド内での打ち身を免れた。
 装甲は多少の攻撃には耐えるフェイズシフト装甲だが、何発も食らっていられるわけでもない。実弾を受ければアウトだ。
『こんな所で何を遊んでいるっ!!』
 シンとスティングの一騎打ちに割り込む声。間髪おかずに、勝手に動き回る砲塔の一つが爆発する。爆炎を蹴散らしてシンの機体とすれ違うのは白と水色をしたプラントのベストセラー機。それも最近投入された新型ではないか。
 しかもこの声。
『一気に叩くぞっ!』
「イザーク・ジュール・・・!?」
 彼の機体がカオスを追いかける。スピードは互角、シンは我に返って後を追う。前に出て鼻っ面を抑え、挟み撃ちにするが、相手もそうはさせじと逃れて攻守が逆転する。残った独立砲塔一機と緑の機体でちょうど数は2対2。
 しかし、スティングに不利だったのは、シンとイザークは今この戦場にいるものでも指折りのパイロットだったのだ。すぐに残った独立砲塔も落とされる。そうなると極端に攻撃力の落ちた機体は2機の間を逃げ回るしかなかった。
『下から回り込めっ!』
「やってますっ」
 上下から追いかける機体は若干、下からの方が早い。
 敵機の向こうには戦場の閃光を映す巨大要塞。
 シンはトリガーに指をかけた。 
 照準ロック。
 オン。


 指に力を込める前のほんの僅かな一瞬、衝撃が襲った。
 キャノピーに映る映像が歪んで、すぐに深紅でいっぱいに埋まった。
 インフィニティ!?
 シンに分かったのは、落とす筈だった緑色の機体の変わりにそこに紅い機体がいて、必殺の筈の攻撃が防がれたのだという事。
 こんなやつをアンタは!
 感じたのは、怒りと嫉妬。
 ぶつかり合う金属が悲鳴をあげて、力の向きが急激に変わる。機器の数値がどんどん狂っていき、イザークからの通信がもはや言葉になっていない。制御を失って深紅の機体の向こうに壁面が迫っていた。
 同時に要塞に向けて放たれた無数の艦砲射撃がいくつもレーザービームが突き刺さり、派手な爆発を起こす。爆発の影でシンはもつれ合いながら壁面に激突した。砲撃を受けた個所から火柱が上がり、壁面に亀裂が走って二つの機体は、ヘブンズベースの外壁をぶち破って、吸い込まれた。


 引きずられるような衝撃が収まった後、コックピットのモニタは幾つかが死んでいた。目に見える範囲に赤はない。
 ここは・・・・・・ヘブンズベースの中っ!?
 振動が続く場所に留まっていては危険だ。ただでさえ、防衛ラインが崩壊してコーディネーター側からの一斉攻撃が始まっている。
「くそっ、動けよっ」
 エンジンを吹かしてもびくとも動かない。
 何かに挟まっているっ?
 シートベルトを外し、外を確認することもせずにシンはコックピットを開けて飛び出した。腰のライトセーバーを抜いて、翼を挟んでいる隔壁を切断しに掛かる。絶えず聞こえる爆発音と外からの砲撃は止む事はなく、ヘブンズベースが落ちるのは時間の問題だった。
 このままでは一蓮托生。
 しかし、運命はどこまでも残酷だった。
 隔壁を焼き切るはずのシンのライトセーバーは、振り下ろされた青い光を受け止めていた。
「アンタはっ」
 なんで俺には剣を向けるんだよっ!?
 地球軍のパイロットスーツに身を包んだ全身を視界に納めることなく、二人のライトセーバーが切り結ぶ。
 お互い弾き返されて体勢が流れるが、微重力のおかげで派手に吹っ飛んだシンの方が天井を蹴る。初めて見下ろすその姿が動じずに見上げている。
 ゆるりと持ち上がる利き腕の先には青白い死の剣。
 ほんの一瞬の事なのにシンは背筋が凍る思いがした。
 頭のどこかで交わされると分析している自分がいる。止めろと叫んでいる、命が惜しくないのかと。しかし進むも死なら、ここで引いても死。
 自分は進むしかないのだ。例え前に立ちはだかるのが誰であろうとも。
 稲妻を迸らせて、青と赤のライトセイバーが一直線になる。
 青い光はシンのヘルメットを掠り、赤い光がわき腹のすぐ横を突き抜けた。今までシンがどんなに全力で立ち向かっても、まともに反応がなかった相手が引いている。
 床に突き刺さるシンのライトセーバーを避けるように後方に飛んで、ブオンと一振りする。
「君には本当に縁がある。あの時・・・殺しておくべきだった」
 空いた手に出現する青白きライトセーバー。
「なんでアンタが、そんな事を言うんだよっ!」
「兵士が敵を倒すのは当り前だろう」
「俺達は敵じゃないって言っているだろっ。思い出してくれよ、アスランっ。アンタが言ったんだぞ、殺し合いじゃないってっ!」
「何を言っている? 力ないものはただ死ぬだけだ。敗者に正義を語る資格はない・・・終りだ」


 怒りは恐怖を凌駕するのか。はたまた共存しうるのか。
 シンの瞳は血を滴らせたように真っ赤に燃え上がり、無駄な音の一切が消える。急に頭の中がクリアになってスローモンションのように、動きがコマ送りに見えた。
 どんな気迫でも崩せない壁がある。
 それをシンは怒りのみで強引に乗り越えてしまった。  


 激突する二人に月の重力が触手を伸ばす。
 分解する要塞が月面に向かって落下を始めていた。


続く。・・・やっぱり翌朝、誤字脱字修正しています。文的におかしい所も。