「何でこんな奴までっ!」
トオニィがテレポートで医務室に現れた時、2人の重症患者が運び込まれるはめになっていた。ジョミーの手が人類の指導者の腕を捕らえて話さなかったからだ。しかし、トオニィの激昂もDr.ノルディの危機感に満ちた動きに、ジョミーの容態にすぐさま気持ちが走って消える。
「グランパの状態は?!」
肩とわき腹の出血が酷く既に赤黒く変色していた。
「重症だ・・・もう少しここに運び込まれるのが遅かったら、手遅れだったかも知れない」
「助かるのかって聞いてるんだっ!」
手も視線も医療機器に落としたまま、ノルディが短く言う。表情は厳しいが、声音は少し柔らかくなった。
「ああ。大丈夫だ、心配するな」
「良かった、グランパ」
安心して溢れる涙を拭ったトオニィが、続いてドクターの口から出た言葉に息を呑んだ。
「こっちの彼も、だ」
振り上げた手は、いきなり開かれた彼の瞳の前に、寸前で止まった。
「これからはお前達の時代だ」
低く穏やかな声。
「お前達の好きなように、望む世界を作ればいい」
「人間なんて知ったことか。テラもミュウも本当はどうだっていいんだ! グランパの為に僕は戦ってるっ」
子供のような、しかし、だからこそ純粋で強い力。キースは新しい時代を生み出す息吹を感じる。医療ベッドに寝かされているが、どれだけ命が削られたか分からないので自分が助かると言う気がしなかった。
SD体制に隠された人とミュウの秘密を公表してしまった。人類を管理してきたグランドマザーも破壊され、指針を失ったこの世界には混乱が訪れるだろう。
淡々とこの先の世界を予想しているというのに、意外と気持ちは穏やかだった。
「それがお前達の義務だ」
責務から解放された為かも知れない。難しいことを考える必要も、もうない。
「お前の言う事なんか聞くかっ!!」
言うなり、姿が消えた。自分の言葉がここまで無力だといっそ諦めもつきやすい。メッセージを受け取った人類が何を思ったのか、この先どう行動を起こすかも全ては自分の手を離れてしまった。
ただ今言えることは、あの若者がメギドを止めに行ったのだと思いたいだけだった。痛みは彼方へいったままだが、息が上手く吸えなかった。
「・・・ずるいな」
バイタルをチェックする音だけが続く部屋に、少し掠れた声が漏れた。
隣のベッドにキースが寝ているのを見て、トオニィが途中で彼を振り落としなどしなかったことに安心してジョミーは少し笑う。トオニィだって本当は分かっているハズなのだ。まだ子供で、あまりにいろんなことが起こりすぎて気持ちの整理がつかないだけなのだと。その子供にあんな話を聞かせても無茶だろう。
「さっさと・・・自分だけ楽になるつもり・・・か」
これじゃあ、ブルーと同じじゃないか。
大層なものを任されて、とんでもなく苦労したと言うのに、まだ終わらない。それどころか、ゴールのないレースに放り込まれてしまった。
「この世界を、滅び行く人類とお前達ミュウの為に・・・この世界を守り、より高い次元へと導けーーーそれが勝者の道だ」
「力を貸してくれないのか?」
微かな苦笑が聞こえるばかりで、返答はついぞ訪れなかった。