年の頃は20代後半、もしくは30代前半か。噂のメンバーズエリートは意外と若かった。そう遠目に見る分には。しかし、面と向かったこの時はどうだ? ラスコー衛星都市部で反乱の沈静化活動を行っていた部隊長は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
派手な臙脂色の軍服、作戦行動に邪魔になるとしか思えない長めの黒髪。表情が読めないのは軍人ならば当たり前だが、読めないのではない。長年軍に籍を置く身だからこそ違いが分かる。
こいつは。人を人とも思っちゃいない。
背後に漆黒の闇を引き連れて、その虚空から死の恐怖が手招きしているようだ。
「我が方の損害は2、敵反乱分子の掃討を確認しました」
背後で事後報告する部下の声が震えている。
掃討? 喉元を一撃で切り裂かれ血を天井まで吹き上げた、認識するまでもなく眉間を打ち抜かれた、フロアごと押しつぶされたあれが?自分達は指示通りに動いただけで、メンバーズの行動の僅かな一部のみを目撃しただけだ。忘れたくても、脳裏に焼きついて離れたあの凄惨なシーン。
これは。殺戮だ。
灯の落ちた屋内よりなお黒い影。通り過ぎる黒い影と、充満する血の匂い。
煌く白刃。
まるで全身ばねだ。恐ろしい早業のはずなのに、目にその瞬間がスローモンションで焼きつくのだ。黒いコンバットスーツの下で彼の筋肉が張り、力の流れる方向が。
悲鳴にならない声がつぶれたあごから漏れる。
これで一体何人目だ。
なぜ、敵に位置が分かる。
なぜ、敵の攻撃が当たらない。
反乱軍とて烏合の衆とは言え、銃を持っている。一秒間に何発も連射できるマシンガン、レーザーガン。その射線を隙間を彼は進む。ついて来いと言った我々を無視して、人質の安否を気にせずに突き進む。両手の銃が敵の動きを止める。一体いつ狙いを定めているのか、ターゲットの位置を確認しているのか。背中にも目があるとしか思えない。正確に敵を追い詰め、寸分の狂いもなく仕留める彼の両手。
自動的に人を認識して殺害しているとしか思えない淀みない滑らかな動きは、彼の前に出たら、味方でさえやられると言う恐怖をもたらした。
突入。銃撃戦。確保。その繰り返し。
解放された人質の表情が晴れないのは、この空間を支配する彼の気のせいだろう。
敵よりも恐ろしい何かがいる。人命よりも敵を滅ぼすことを優先する、人の皮を被った機械。あの両目が、アイスブルーの瞳が全くLEDの様に鋭く光を反射する。
言われるままに小型爆弾をセットし、タイマーが作動した時、眼下のフロアーが爆炎と共に落下していた。それを見据える彼の両目は炎を宿してなお氷点下の冷たさを湛えていた。
なるほど。女性が溜息を付くほどに、広報担当が色めき立つ見目良い男に見えるかもしれない。前途ようとした約束された未来を持つ男だ。
だが、彼は。
彼こそが。
殺人機械<<キラーマシン>>なのだ。
マザーの申し子、一切の情を廃して我々の世界を守るもの。
*
ちょっと最後どうかな