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庄屋のお屋敷には魔物が取り付いておる・・・夜な夜な妖しげな妖怪が屋敷の廊下をススっと動いておるというのだ。始めは見つけた侍女も「おや?たぬきでも迷い込んだか?」と思ったそうな。ただ、夜な夜な見かけるもんが変わるそうでしかも見た目が皆一様に普通の動物では無いときている。こらぁさすがに庄屋も気味悪くなってうちの屋敷はなんか憑いているのか?毎晩毎晩百鬼夜行でもあるまいし化け物にとっかえひっかえ廊下を走り回られては辛抱堪らんと寝込んでしまったのだ・・・・まぁ・・・あの庄屋もけっこう悪どく儲けておるから妖怪も目をつけたんであるまいて?
ジワジワと天下を照らしていた日がややかげりを見せた。アマテラスの大神もあと数時間でツクヨミ様と天下の監視を交代する頃である。さすがにこのはずれの茶屋に客はもういない・・・
・・・この男を除いて
無作法に伸びかけた髪を後ろに縛って髷らしくしている男がだらしなく茶屋の長いすに腰掛けている。
店主も初めは疲れた旅人が一服しているのかと思って立ち去るか注文に呼ばれるかと思ったのだがこの男いつまで経っても動かない。「そろそろ店じまいでさぁ」と言っておったてれば良いのであろうが、腰にある大小が少々気後れさせてそのままにさせているのである。
そうこう奥でやきもきしているとシャンッという高い音が聞こえてきた。チラと表を見ると外の男の前に黒い法衣姿が立っていた。先ほどの音は錫杖であったようで店主はまた首を店の中に向けた。もう一度シャンッと聞こえたので店先に目をやると二人の姿は消えていた。
あまりにも突然であったので店主は驚いて外に出たきた。もしやヘンな白昼夢でも見たのかと長いすに腰掛けるとそこには刀が一本置かれていた。先ほどの男の忘れ物かと鞘から抜き放つと真ん中あたりでぽっきりと折れていて切っ先を確認できなかった。
「それで・・・何か今夜泊まる目処はあったかね?」男は隣の頭巾を目深に被った法衣姿に声を掛ける。「いや、皆目」頭巾の奥から細く凛とした声が通る。法衣姿は尼僧のようである。「おいおい、あんた尼だろうよ?そのへんに突っ立てたら誰か賽銭でもくれるもんじゃないのか?」「そういうのはせいぜい都の街頭でやらねば誰も恵んではくれぬ。第一私は少し日が翳るまで木陰にいたのでなおさらだ」「あきれた坊さんだなぁ・・・やれやれ」「そちら日出人といっしょにしてはもらっては困る。我々は君たちより血が薄いのだ。こう日差しが強いと少々堪える。それよりそちらの首尾はどうなんだ?」「まぁ・・・無いことも無い。少々耳貸してくれ。このあたりで一番儲けている庄屋のとこいくぜ」
正直、下男はうさんくさい連中が着たと厄介払いしようと思っていた。しかし、男の口から「このお屋敷になにか化け物の類はよりついてはいませんかね?」といわれて主人の前に二人を通すことにした。
庄屋と家族、奉公人数人が集まって座す広間で男は声を上げる。「庄屋様ぁ、あっしはケンジというこちらの尼様に奉公させていただいている者ですは。こちらの尼様はリカ様という尼様でございます」そういわれて少し男の後ろに座していた尼僧が頭巾をそっと降ろすと一同は息を飲んだ。白磁のような肌、夕日に反射する金の髪、尼は枝瑠婦(エルフ)だったのだ。「リカ様は遠く南都の方角から修行のために行脚している尼様でこのたびこのお屋敷を通りがかったところただならぬ妖気を感じられて、あっしにそこにおられる御方に声かける様いわれた次第であります」 「ご主人よ、なにかよからぬモノが蔓延っているということはございませぬか?」男が話を一気に言い切った後、エルフの尼僧は見るからに不健康そうな男に声をかけた。「よくぞ聞いてくれました尼様。実は最近夜な夜な我が屋敷の廊下を妖怪の類がススーッと走り去るのですよ・・・それも見たことも無い姿で毎晩走り去る姿が違っているのです、もう気味が悪いし鳴き声もあげるときがあるのでこれじゃ恐ろしくて寝れやしません・・・なんとかなりませんか・・尼様」
「とにかく、まだ状態を見ないことにはなんとも言えません。今夜様子をみるためにこちらに待機させてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」尼僧の言葉に一同は頭を下げ手をあわせた。
「これで今夜の宿と飯は確保できたっと」通された一室でケンジがつぶやいた。「まったく口が達者だな。うまく騙し通せたから良いがどうするつもりなんだ?」「そいつはお互い様だ、あんただってけっこう乗ってたじゃないか?リカ」「それで、どうするのだ?」話をそらしたつもりだったがリカにさらりと戻された。「なぁになるようになるさ。何も出なければ妖怪も尼様の法力に恐れを成したようですとかなんとかいっておさらばすればいいしな」「いや、出なかった時ではない・・・出たらどうするつもりだ?」「それはリカの法力次第じゃないか、オレはお膳立てはするけど妖怪と戦う技術は持っていないのでね・・・」法衣のエルフはあきれ果てた。「まったく・・・肝心なところは人任せか」「じゃあオレがリカに代わって妖怪払うとしてさっきのように言いくるめてくれたかい?」「わかったわかった・・・何とか修行の成果を試すことにするよ」観念したリカを見てケンジはヒヒヒと笑った。
「失礼・・・いたします」やや間の開いた感じで断りをいれて障子が開いた。急須と湯のみを載せた盆を横に置いた少女が正座してその場に現れた。「だんな様の命でお茶をお持ちいたしました・・・」そう言うと立ち上がり、盆を持って部屋の中へ入ってきた。ちょうど障子の真横に座っていたケンジは部屋へ入っていった少女を眼で追い、後ろ髪の先だけを括った背中を見つめる形になった。
「えっと・・・エルフの尼様・・・やっぱりこのお屋敷に魔物が取り付いているのでしょうか?」うつむき加減におずおずと尋ねた。「まだ何とも言えませぬ。夜になると出るらしいので待たせてもらうことになると思う・・・」「そ・・・そうなんですか」「お嬢さんはその出るという場所は知っているのかね?」ケンジが後ろから声をかける。ビクッと肩を上げ少女は振り向いた。美人や可愛らしいという訳ではないがなにか引き付けられそうな感じの娘だった。「よろしければその場をいまのうちに探索したいのですがね」
少女が障子を開け、おずおずと指を出てすぐの廊下で指し示した。「ちょうど・・・・その廊下なんです・・・出るのは」「へぇ・・・そうなるとまさしくこの部屋で妖怪を見張ってくれってぇことか」「そういうことなのだろう・・・」確認すると再び三人は部屋の座布団に腰をおろした。「お二人は・・・旅暮らしなのですか?」「まぁ・・・そうですね」「うらやましいです・・・あたしは10になってからずっとこのお屋敷に奉公しているのです」一瞬その言葉を聞いてケンジの目が冷たく光ったが誰も気がつかなかった。
まだ、件の妖怪がでるまで時間があるためそのまま少女と雑談になった。相手にとってはものめずらしいエルフの女性ということもあってか、少女とリカの他愛も無いが続いていた。「でも、最近なんかいい夢が見れるんですよ・・・なにか見たことも無いような動物に囲まれているような・・・そんな感じの夢を良く見るのです」「随分と可愛らしい夢だな」「そういわれると思っちゃって・・・誰にも話してなかったんですよね。でもなぜか尼様とお話してたらついつい・・・なんででしょうね?」そうこうするうちに夕日は西の彼方へ消えていきツクヨミが見守る夜が訪れる。娘も仕事があるらしく部屋から出て行き、その後別の娘が簡単な食事を運んできた。しばらくして天下は虫の声以外何も聞こえない深夜になろうとしていた・・・
書きかけなので続く
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