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HPAS - スポットライト」(2005/11/23 (水) 10:14:46) の最新版変更点

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*スポットライト - 第73回UFA杯第三戦 [[第73回UFA杯第三戦]] 前書き 球団史上初の三連覇を果たしたHPASと、古豪札幌メイデンズによる第73回UFA杯が幕を開けた。 互いに連覇を果たした同士、リーグでの力は図抜けている。それでも前年はHPASが四連勝。今季も下馬評ではHPASとの見方が強かった。 迎えた初戦。HPASは250勝投手21時までのを持ってきて磐石の態勢で臨んだ。初戦を取って、勢いづく。セオリーに忠実な戦略。それが崩れるのは、7回、そして9回。 1失点の好投を見せていた21時までのは、一打席目にひやりとする当たりを飛ばされたゴッドウィングに同点スリーランを許す。降板し後を技巧派みじゅ3に託すも、9回にまたもゴッドウィングに打たれ、続く猿飛佐助の決勝ツーベースで、痛恨の初戦黒星を喫した。 しかしその重圧なムードを断ち切ったのは、第二戦の7回。ショートストップvが均衡を破るツーランを放ち、我慢の投球を続けていためぐボイスを援護。めぐボイスは9回にキモヲタ萌えに1点差と詰め寄られるソロHRを被弾するが、後続を守護神エリースキーがシャットアウト。一勝一敗のタイに持ち込んだ。 取ったほうが俄然有利に立てる、第三戦。HPASは天才の呼び声高い速球派ミセリ、札幌メイデンズは勝ち頭の紺野あさ美。互いに勝利が期待できる好投手を持ってきて、決戦の幕を開く。 ---- 今季首位打者を獲得した切り込み隊長シュンは、外角に逃げるシュートに手を出してしまい、ショートゴロに倒れた。そしてすぐに、スーパー仁くんの耳元で囁く。 「今日の紺野あさ美は球にキレがある。よく見ていけ」 頷いて、スーパー仁くんは左打席に入る。すぐに速球が放られ、次いでシュートやスローカーブが低目に投げ込まれる。しかし迂闊には手を出さず、際どい球はカットして、四球を選んだ。 一回の表は、先発ミセリが簡単に三者凡退に抑えて、リズムを作った。その裏、ワンナウトからの出塁。一気呵成に、攻め立てたい。今季は21個、決めた。自信もついた。スーパー仁くんの気は、逸る。 主砲メロンに投じた初球は、ストレート。紺野あさ美は、こちらを気にする様子はほとんどない。二冠王のメロンに、全神経を研ぎ澄まさせているように見えた。 盗塁だ。次は緩急をつけるためにスローカーブを投じる。そう確信した、第二球。スタートを切った。二塁がみるみる近づく。無警戒のバッテリーが相手、悠々セーフだ。 気付けば、突き出された審判の右腕や、ショートが軽々とボールをピッチャーに投げ返す姿。増やされたアウトカウント。 四番も務める捕手skill2。リード面はあまり良くないと聞いていたのを、侮った。まんまと誘い出されていた。ウェストされて見事刺された事実を、ベンチに戻ってようやくスーパー仁くんは飲み込んだ。 そして、三番メロンのセンター前ヒット。成功させていれば、と悔やんでも仕方がなかった。結局、四番唯やんがショートゴロに倒れ、先制叶わず二回以降へと試合は移っていく。 勢いに乗った紺野あさ美、天才の意地を見せるミセリは共に熱の入った投球を見せ、被安打を許さぬままアウトを増やしていく。そして、訪れた5回裏。下位へと回っていく、決して良いとは言えない打順だった。 五番庫洛洛の大きなセンターフライに動揺した紺野あさ美は、長打があるがんがんに四球を与えてしまう。迎えるは、七番印象派。 後ろには第二戦で決勝ツーランを放ったvが控える。ここは、なんとしても打ち取っておきたい場面。紺野あさ美は慎重にコースを突き、印象派を誘う。第一打席では低目のシンカーに釣られ、空振り三振。この打席も、追い込まれてから低目のシュートにバットが空を切る。二打席連続三振、項垂れてベンチに戻る印象派の姿があった。 そして、今季チャンスで強みを見せ80打点を挙げたvが打席に入る。持ち前の制球力で、確実に仕留めたい。1点は絶対にやれない場面。緊張、重圧で、その右手からは汗が滴る。 まずは、様子見。狙いを高目のボールに定めた。アンダーハンドからのストレートが、上昇していく。しかし、高さがまるで足りない。vが最も得意とする、インロー。白球の運命が元から定まっていたかのように、弾き返される。強烈に引っ張った打球はライナーで右中間を破っていくツーベース。長打力に似合わぬ走力も持つがんがんは一気にサードベースを蹴ってホームへ激走、念願の先制点を叩き出した。 続くLOVEを渾身のストレートで空振り三振に切って取るも、紺野あさ美の表情は曇ったままだ。点と流れを、与えてしまった。これ以上、何も与えてはならない。自身を呵責し続けた。 6回表、援護を受けたミセリは九番俊足巧打に打球をセンター前に運ばれるが、持ち前の奪三振術で樋口、(^▽^/にバットを振らせず連続三振。投手戦は、緊迫感を増していく。 そして、再び試合が動く7回裏。庫洛洛、がんがん、印象派はそれぞれの方向に打球を運び、下位からノーアウト満塁のチャンスを作る。紺野あさ美を戦慄が包み込んだ。このシリーズ、重要な場面で好打を見せるvが左打席で土を均す。打たせない。負けられない。祈りにも似た思いを込めて、投げ込む。 シュートとシンカーで、ツーナッシング。二球外して、低目へ落ちていくスローカーブ。空振り、三振。思わず拍子抜けるほど、あっさりとしていた。紺野あさ美の中で、はっきり緊張の糸は切れた。 LOVEに犠牲フライ、シュンに再びレフト前ヒット、スーパー仁くんの緩い当たりはショート深くまで転がり、内野安打。3-0。致命的な2点を、それこそあっさり与えてしまった。続くメロンを遊ゴロに仕留めベンチに戻る紺野あさ美は、大きく肩で息をしていた。 8回表。点差が開いたことによるミセリの油断と疲労。我慢の投球で好投している紺野あさ美の姿を見、奮い立つ札幌メイデンズ野手陣。様々な要素が交錯し、試合は急展開へと向かう。 トップバッターR.Rを調子良く空振り三振。変わらぬ速球を披露し、続くガディオスの当たりも内野転がり行く力のない打球。しかし、方向に恵まれない。一二塁間へと向かう白球は二塁手メロンから遠く、大きく回りこんで捕球、瞬時に送球するも懸命の走塁を見せたガディオスに競り負ける。 しかしミセリは気持ちを切らすことなく、今日ヒットを浴びている俊足巧打から剛速球で三振を奪取。そして、トップに戻ってキモヲタ萌え。 球のキレはまだある。打ち取れる力は、ある。投じた初球。ストレートの下に当たった打球は力なく打ちあがり、二塁ベース後方へと向かう。球界随一の俊足を誇るセンターシュンは、想像以上に打球が伸びないのに焦り、スピードを速めて打球落下点へ向かう。しかし、無情に芝の上を跳ねる白球。ツーアウト、ランナー一、二塁。 第三打席、チャンスで凡退した樋口が先ほど見逃しして三振を喫した高速シンカーを捉える。右中間を深々と破る二塁打。完全にボールが変わってしまったミセリは続く(^▽^/を半ば敬遠気味に四球、塁を埋める。しかし裏目に出てしまい、四番skill2にあっさり左中間に持っていかれ、2点タイムリーツーベース、遂に同点に追いつかれる。 虚ろな瞳で、呆然とスコアボードを見上げるミセリ。3点差に安心などしなかった。却って、気を引き締めたくらいに。心の中で呟いても、球は正直に油断を表し、無情にマウンドの右左を駆け抜けていった。 そして、投手コーチが姿を現す。監督は既に球審を呼び寄せていた。 『ピッチャー、ミセリに代わりまして、神楽坂優』 ルーキーながら今季2.46の好防御率を残した神楽坂優が、マウンドに駆け寄ってくる。 「すまん、後を頼む」 白球が、ミセリの大きな掌から、無骨な神楽坂優の掌へ、受け渡される。 「はい」 気負いは、なかった。 磊落な性格で、投球にも佞悪さは全く見せない。豪快な速球で、ひたすら三振を奪う。そんなミセリの豪胆さに、技巧派の神楽坂優は憧憬を抱いていた。 あの先輩の右手が、震えていた。表情は苦く、それが苛立ちなのか、悔しさなのか、判断はつかなかった。 ただ今は、試合に、一球一球に集中するのみだ。勢いがある札幌打線、全力を込めきらなければ、やられる。神楽坂優は、サインに頷いた。 初球、低目のシンカーに、気が逸ったのかゴッドウィングは手を出してしまい、死んだような打球をショート方面に転がしてしまう。 しかしそれが札幌にとっては奏功し、深めに守っていたショートvが手早く処理するも間に合わず、更に1点が追加。3-4、逆転。湧き上がるレフトスタンドと、静まりかえるライトスタンド。神楽坂優も、平常心を保ってはいられなくなった。 そして六番猿飛佐助には、甘く入ったスライダーを痛打され、左中間を割られるタイムリーツーベース。続く七番R.Rへの初球もど真ん中に入る完全な失投だったが、打ち損じでセカンドゴロに。漸く、スリーアウト。 3-5。偶然でひっくり返せる点差では、なかった。 8回裏。逆転のみを見据えたHPAS打線は、いきなり中核のバットが火を吹く。 今日湿りがちだった四番唯やんの打球は、お返しと言わんばかりの左中間方向へのツーベース。紺野あさ美は五番庫洛洛をセカンドゴロに仕留めるが、疲労困憊の右腕は制球を定めることができず、がんがんに痛恨のフォアボール。一発で逆転可能にしてしまう。 札幌側の投手コーチが慌てて飛び出す。奮投を続けた紺野あさ美に、労いの言葉をかける。紺野あさ美は、苦虫を噛み潰したような表情でそれを聞いていた。 2点に広がった点差。意地でも、完投したかった。まだ、投げられる。思いは、口の中で暴れまわるだけだ。開いて飛び出させようとも、思わなかった。 マウンドに駆け寄る・ェ・)ノ~⑩に勝利への思いを、白球に込めて託し、紺野あさ美は静かにベンチに引き上げた。 リリーフエース・ェ・)ノ~⑩の速球と速い変化球に手が出ず、印象派はセカンドゴロ、vが見逃し三振に倒れる。ものにしておきたい好機を活かすことができず、HPASは望みを最終回に託す。 9回表。絶対に1点もやれない場面で、神楽坂優の投球が冴え渡る。八番ガディオスが初球にあっさり手を出してくれたことが精神的救いとなり、俊足巧打やキモヲタ萌えを簡単に打ち取っていく。テンポ良く、最終回へと繋いでいく。 そして、9回裏。札幌メイデンズは、満を持してストッパーハードゲイをマウンドへ送り出す。トップバッターは、九番LOVE。 「ハードゲイは制球力に衰えが見える。しっかり見て、甘い球が来たら、思いっきり叩け」 「OK」 日本語は上手く使えないが、野球に関することのニュアンスなら掴める。ハードゲイを睨みながら、LOVEが右打席に入った。 ドラフトで入団して7年。昨季は自己最高の成績でチームの連覇に貢献したが、一転今季は不振に陥って九番を指定席に試合をこなし続けた。自分の不甲斐なさで、チームに迷惑もかけた。それをこのUFA杯で、少しでも取り返せたらと思ったが、ここまでいいところはない。 絶対に出塁する。しかし、焦りはない。冷静に見極めるのが、最適だった。 ツーストライクまで追い込まれるも、際どい球に手は出さなかった。しかし甘い球も来ず、半端なボールだけファールにして、好球を待つ。焦るな、逸るな。バットと自分に言い聞かせて。 9球目。真ん中低目への緩い球。失投か。バットが、出かかる。しかし、頭の中が、パームボールと告げ、バットを制止させた。低目のボールゾーンに沈んだ球。四球を、勝ち取った。奇跡の第一歩を、踏み出した。 トップに戻って、今季の首位打者シュンがボールを打ち上げるもセンターフライ。しかし、調子の上がらないハードゲイを続くスーパー仁くんが攻め立てる。 痛烈に弾き返した打球は、センターの前。一発で、逆転サヨナラのランナーが出た。そして、迎えるは今季二冠の三番メロン。 しかしここはストレートのフォアボール。塁が全て埋まる。ワンナウト満塁。右打席で虚空を見上げるのは、四番唯やん。 明らかに本調子でない、ハードゲイ。その得意球である、高速シンカー。やや高目に、浮いた。鳴り響く快音。振り抜かれたバットには、はっきりと白球の痕が残っている。センターバックスクリーンに向かって、打球が舞い上がった。 センターキモヲタ萌えが、一瞬肩を落としたほど、大きな飛球。それが、少しずつ、少しずつ、勢いを落としていく。バックスクリーン方向からホームに向かって吹く、強風。高く上がりすぎたのが却って仇になり、打球の勢いを、完全に殺いだ。フェンスギリギリで、センターのグローブの中に打球は収まった。 それで、安堵してしまったのがハードゲイだった。ライトスタンドの落胆がまだ色を残している間に、庫洛洛に投じた初球。真ん中高目の、直球。しまった、と思う前に、頭上を打球が通り過ぎていった。LOVE、そしてスーパー仁くん。二人が駆け抜けていくホームの後方で、呆然とするハードゲイの姿があった。あまりに、不用意な一球だった。 同点のホームを駆け抜けたスーパー仁くんが、ベンチ前で跳ね回ってハイタッチする。既に先発した21時までのやめぐボイスらもベンチ前に飛び出してランナーの生還を祝福していた。 10回表。9回裏のサヨナラのチャンスでは、がんがんが平凡なセンターフライに倒れ、遂に延長戦に突入。八回、勝ち越し打を許した神楽坂優が3イニング目のマウンドに登った。先の回から、集中力は益々増している。却って自然体である、と思えるほどだ。今なら、誰にも打たれる気がしない。神楽坂優は、変化球を巧みに駆使してあっさり二番、三番、四番の上位を三者凡退で片付けた。奇跡を、演出するために。 10回、裏。 印象派は、一つの駆け引きを札幌バッテリーと行った。 今日、ここまで2三振。いずれも低目の変化球を空振った。skill2は一辺倒なリードが、ある意味持ち味だ。この打席も、低目の変化球を決め球に持ってくる。それは、恐らくHシンカー。先ほど、唯やんに大飛球を打たれた球だ。 直球やパームでカウントを稼がれ、ツーストライク。やはり、間違いないだろう。 自分の力では、決められない。印象派は、その知力を持って冷静に分析していた。衰えつつある力。加えて、高く打ち上げがちな自分の打球。今日の逆風なら、大きいのを狙っても平凡なフライに終わりかねない。繋ぐ気持ちでコンパクトにスイングしても、この下位からそう連打できるとも思えない。 ここは、一発。それも、このシリーズ重要な局面での打点が光るvに。 ツーストライクワンボールからの、5球目。高速シンカーが、低目に投じられる。沈むボールにバットが空を切った。空振り三振で、ワンナウト。 何も言わずに、打席に向かうvとすれ違った。耳打ちをして、感づかれたりしたら意味がなくなる。 数年前、長年守ったショートのポジションを、キャッチャーコンバートで空席にした。そのときの後釜がvだった。未熟さがまだ目立ち、経験で得た技術は惜しみなく伝えた。vは寡黙、無愛想な人柄で、何を言っても頷くばかりだったが、飲み込みは早かった。あまり言葉を用いずとも勝手に理解する。そして、それが間違っていることはほとんどなかった。 あの頃より、いくらか逞しくなった後姿を一瞥して、堂々背筋を伸ばしたまま印象派はベンチに戻った。 ハードゲイ、skill2バッテリーは、下位とはいえvには警戒心を強めていた。 今日も先制点を叩き出しており、チャンスには強い。慎重かつ大胆な組み立てが必要だと感じていた。 初球、二球目とストレートで、外角を上手く突いてツーストライク。釣り球も充分使える状況だ。少し、慎重になりすぎたかも知れない。先制点以外、今日のvに良いところはなかった。それを考えればあまり怖がる必要もない。 低目にパームを放るが、ワンバウンドしてボール。高目にウェストしてみるもバットは出ず、ツーボール。決めるなら、このカウントしかない。 シーズン中はよくHシンカーを決め球に持ってきた。今日は、9回裏に唯やんに痛打されたが、印象派は三振に切って取っている。元々、低目にHシンカーを放るのは最も得意とする技術だ。簡単には打たれない、という自信はあった。 5球目。低目の高速シンカー。若干高くなったが、しっかり沈めば問題ないコース。 三振の、はずだった。 七番印象派に投じた決め球は、高速シンカー。唯やんに捉えられた後は投げ控えしていたが、印象派からは見事三振を奪った。自信を、取り戻しただろう。 先の打席。印象派は、恐らくシンカーが来ることを分かっていた。それを、あえて空振り。ハードゲイに、シンカーに対する自信を与えたのだ。 決め球を、誘い出すために。 高速シンカーのみに、照準を絞った。決め球には、必ず放ってくる。間違い、ない。 投じられた5球目。何の球か、vの頭には残らなかった。ただ、気付けばバットは振り抜かれ、白球すら、小さな白い点としか見えなかった。 強烈な向かい風を、低いライナーが切り裂き行く。レフトスタンドへ、最短距離で向かうように。 突き刺さった打球は、勝利を信じるレフトスタンドを黙らせるに、相応しい一撃だった。左中間への、サヨナラホームラン。歓喜に沸くライトスタンドへ向かって、vは右腕を上げた。 ホームでチームメイトに迎えられ、頭を叩かれるv。真っ先にベンチを飛び出した印象派。肩のタオルを放り出して駆け寄ったミセリ、神楽坂優。皆が暫くの間、ホーム近くで戯れていた。 無愛想なvの口元が、少しだけ綻んでいた。 ---- 余勢を駆って第四戦、第五戦ともに札幌メイデンズを寄せ付けず、三年連続のUFA杯を制したHPAS。 第三戦での勝利がシリーズの帰趨を決定付け、同時にチームを高みへと導いた。 これからも連覇を続けるHPASにとっての、発条。礎とも言える、大きな勝利となった。 ---- 調子に乗ってしまった。 (暇を潰せれば)長文でも良かった。 今もあまり反省していない。
*スポットライト - 第73回UFA杯第三戦 [[第73回UFA杯第三戦]] 前書き 球団史上初の三連覇を果たしたHPASと、古豪札幌メイデンズによる第73回UFA杯が幕を開けた。 互いに連覇を果たした同士、リーグでの力は図抜けている。それでも前年はHPASが四連勝。今季も下馬評ではHPASとの見方が強かった。 迎えた初戦。HPASは250勝投手21時までのを持ってきて磐石の態勢で臨んだ。初戦を取って、勢いづく。セオリーに忠実な戦略。それが崩れるのは、7回、そして9回。 1失点の好投を見せていた21時までのは、一打席目にひやりとする当たりを飛ばされたゴッドウィングに同点スリーランを許す。降板し後を技巧派みじゅ3に託すも、9回にまたもゴッドウィングに打たれ、続く猿飛佐助の決勝ツーベースで、痛恨の初戦黒星を喫した。 しかしその重圧なムードを断ち切ったのは、第二戦の7回。ショートストップvが均衡を破るツーランを放ち、我慢の投球を続けていためぐボイスを援護。めぐボイスは9回にキモヲタ萌えに1点差と詰め寄られるソロHRを被弾するが、後続を守護神エリースキーがシャットアウト。一勝一敗のタイに持ち込んだ。 取ったほうが俄然有利に立てる、第三戦。HPASは天才の呼び声高い速球派ミセリ、札幌メイデンズは勝ち頭の紺野あさ美。互いに勝利が期待できる好投手を持ってきて、決戦の幕を開く。 ---- 今季首位打者を獲得した切り込み隊長シュンは、外角に逃げるシュートに手を出してしまい、ショートゴロに倒れた。そしてすぐに、スーパー仁くんの耳元で囁く。 「今日の紺野あさ美は球にキレがある。よく見ていけ」 頷いて、スーパー仁くんは左打席に入る。すぐに速球が放られ、次いでシュートやスローカーブが低目に投げ込まれる。しかし迂闊には手を出さず、際どい球はカットして、四球を選んだ。 一回の表は、先発ミセリが簡単に三者凡退に抑えて、リズムを作った。その裏、ワンナウトからの出塁。一気呵成に、攻め立てたい。今季は21個、決めた。自信もついた。スーパー仁くんの気は、逸る。 主砲メロンに投じた初球は、ストレート。紺野あさ美は、こちらを気にする様子はほとんどない。二冠王のメロンに、全神経を研ぎ澄まさせているように見えた。 盗塁だ。次は緩急をつけるためにスローカーブを投じる。そう確信した、第二球。スタートを切った。二塁がみるみる近づく。無警戒のバッテリーが相手、悠々セーフだ。 気付けば、突き出された審判の右腕や、ショートが軽々とボールをピッチャーに投げ返す姿。増やされたアウトカウント。 四番も務める捕手skill2。リード面はあまり良くないと聞いていたのを、侮った。まんまと誘い出されていた。ウェストされて見事刺された事実を、ベンチに戻ってようやくスーパー仁くんは飲み込んだ。 そして、三番メロンのセンター前ヒット。成功させていれば、と悔やんでも仕方がなかった。結局、四番唯やんがショートゴロに倒れ、先制叶わず二回以降へと試合は移っていく。 勢いに乗った紺野あさ美、天才の意地を見せるミセリは共に熱の入った投球を見せ、被安打を許さぬままアウトを増やしていく。そして、訪れた5回裏。下位へと回っていく、決して良いとは言えない打順だった。 五番庫洛洛の大きなセンターフライに動揺した紺野あさ美は、長打があるがんがんに四球を与えてしまう。迎えるは、七番印象派。 後ろには第二戦で決勝ツーランを放ったvが控える。ここは、なんとしても打ち取っておきたい場面。紺野あさ美は慎重にコースを突き、印象派を誘う。第一打席では低目のシンカーに釣られ、空振り三振。この打席も、追い込まれてから低目のシュートにバットが空を切る。二打席連続三振、項垂れてベンチに戻る印象派の姿があった。 そして、今季チャンスで強みを見せ80打点を挙げたvが打席に入る。持ち前の制球力で、確実に仕留めたい。1点は絶対にやれない場面。緊張、重圧で、その右手からは汗が滴る。 まずは、様子見。狙いを高目のボールに定めた。アンダーハンドからのストレートが、上昇していく。しかし、高さがまるで足りない。vが最も得意とする、インロー。白球の運命が元から定まっていたかのように、弾き返される。強烈に引っ張った打球はライナーで右中間を破っていくツーベース。長打力に似合わぬ走力も持つがんがんは一気にサードベースを蹴ってホームへ激走、念願の先制点を叩き出した。 続くLOVEを渾身のストレートで空振り三振に切って取るも、紺野あさ美の表情は曇ったままだ。点と流れを、与えてしまった。これ以上、何も与えてはならない。自身を呵責し続けた。 6回表、援護を受けたミセリは九番俊足巧打に打球をセンター前に運ばれるが、持ち前の奪三振術で樋口、(^▽^/にバットを振らせず連続三振。投手戦は、緊迫感を増していく。 そして、再び試合が動く7回裏。庫洛洛、がんがん、印象派はそれぞれの方向に打球を運び、下位からノーアウト満塁のチャンスを作る。紺野あさ美を戦慄が包み込んだ。このシリーズ、重要な場面で好打を見せるvが左打席で土を均す。打たせない。負けられない。祈りにも似た思いを込めて、投げ込む。 シュートとシンカーで、ツーナッシング。二球外して、低目へ落ちていくスローカーブ。空振り、三振。思わず拍子抜けるほど、あっさりとしていた。紺野あさ美の中で、はっきり緊張の糸は切れた。 LOVEに犠牲フライ、シュンに再びレフト前ヒット、スーパー仁くんの緩い当たりはショート深くまで転がり、内野安打。3-0。致命的な2点を、それこそあっさり与えてしまった。続くメロンを遊ゴロに仕留めベンチに戻る紺野あさ美は、大きく肩で息をしていた。 8回表。点差が開いたことによるミセリの油断と疲労。我慢の投球で好投している紺野あさ美の姿を見、奮い立つ札幌メイデンズ野手陣。様々な要素が交錯し、試合は急展開へと向かう。 トップバッターR.Rを調子良く空振り三振。変わらぬ速球を披露し、続くガディオスの当たりも内野転がり行く力のない打球。しかし、方向に恵まれない。一二塁間へと向かう白球は二塁手メロンから遠く、大きく回りこんで捕球、瞬時に送球するも懸命の走塁を見せたガディオスに競り負ける。 しかしミセリは気持ちを切らすことなく、今日ヒットを浴びている俊足巧打から剛速球で三振を奪取。そして、トップに戻ってキモヲタ萌え。 球のキレはまだある。打ち取れる力は、ある。投じた初球。ストレートの下に当たった打球は力なく打ちあがり、二塁ベース後方へと向かう。球界随一の俊足を誇るセンターシュンは、想像以上に打球が伸びないのに焦り、スピードを速めて打球落下点へ向かう。しかし、無情に芝の上を跳ねる白球。ツーアウト、ランナー一、二塁。 第三打席、チャンスで凡退した樋口が先ほど見逃しして三振を喫した高速シンカーを捉える。右中間を深々と破る二塁打。完全にボールが変わってしまったミセリは続く(^▽^/を半ば敬遠気味に四球、塁を埋める。しかし裏目に出てしまい、四番skill2にあっさり左中間に持っていかれ、2点タイムリーツーベース、遂に同点に追いつかれる。 虚ろな瞳で、呆然とスコアボードを見上げるミセリ。3点差に安心などしなかった。却って、気を引き締めたくらいに。心の中で呟いても、球は正直に油断を表し、無情にマウンドの右左を駆け抜けていった。 そして、投手コーチが姿を現す。監督は既に球審を呼び寄せていた。 『ピッチャー、ミセリに代わりまして、神楽坂優』 ルーキーながら今季2.46の好防御率を残した神楽坂優が、マウンドに駆け寄ってくる。 「すまん、後を頼む」 白球が、ミセリの大きな掌から、無骨な神楽坂優の掌へ、受け渡される。 「はい」 気負いは、なかった。 磊落な性格で、投球にも佞悪さは全く見せない。豪快な速球で、ひたすら三振を奪う。そんなミセリの豪胆さに、技巧派の神楽坂優は憧憬を抱いていた。 あの先輩の右手が、震えていた。表情は苦く、それが苛立ちなのか、悔しさなのか、判断はつかなかった。 ただ今は、試合に、一球一球に集中するのみだ。勢いがある札幌打線、全力を込めきらなければ、やられる。神楽坂優は、サインに頷いた。 初球、低目のシンカーに、気が逸ったのかゴッドウィングは手を出してしまい、死んだような打球をショート方面に転がしてしまう。 しかしそれが札幌にとっては奏功し、深めに守っていたショートvが手早く処理するも間に合わず、更に1点が追加。3-4、逆転。湧き上がるレフトスタンドと、静まりかえるライトスタンド。神楽坂優も、平常心を保ってはいられなくなった。 そして六番猿飛佐助には、甘く入ったスライダーを痛打され、左中間を割られるタイムリーツーベース。続く七番R.Rへの初球もど真ん中に入る完全な失投だったが、打ち損じでセカンドゴロに。漸く、スリーアウト。 3-5。偶然でひっくり返せる点差では、なかった。 8回裏。逆転のみを見据えたHPAS打線は、いきなり中核のバットが火を吹く。 今日湿りがちだった四番唯やんの打球は、お返しと言わんばかりの左中間方向へのツーベース。紺野あさ美は五番庫洛洛をセカンドゴロに仕留めるが、疲労困憊の右腕は制球を定めることができず、がんがんに痛恨のフォアボール。一発で逆転可能にしてしまう。 札幌側の投手コーチが慌てて飛び出す。奮投を続けた紺野あさ美に、労いの言葉をかける。紺野あさ美は、苦虫を噛み潰したような表情でそれを聞いていた。 2点に広がった点差。意地でも、完投したかった。まだ、投げられる。思いは、口の中で暴れまわるだけだ。開いて飛び出させようとも、思わなかった。 マウンドに駆け寄る・ェ・)ノ~⑩に勝利への思いを、白球に込めて託し、紺野あさ美は静かにベンチに引き上げた。 リリーフエース・ェ・)ノ~⑩の速球と速い変化球に手が出ず、印象派はセカンドゴロ、vが見逃し三振に倒れる。ものにしておきたい好機を活かすことができず、HPASは望みを最終回に託す。 9回表。絶対に1点もやれない場面で、神楽坂優の投球が冴え渡る。八番ガディオスが初球にあっさり手を出してくれたことが精神的救いとなり、俊足巧打やキモヲタ萌えを簡単に打ち取っていく。テンポ良く、最終回へと繋いでいく。 そして、9回裏。札幌メイデンズは、満を持してストッパーハードゲイをマウンドへ送り出す。トップバッターは、九番LOVE。 「ハードゲイは制球力に衰えが見える。しっかり見て、甘い球が来たら、思いっきり叩け」 「OK」 日本語は上手く使えないが、野球に関することのニュアンスなら掴める。ハードゲイを睨みながら、LOVEが右打席に入った。 ドラフトで入団して7年。昨季は自己最高の成績でチームの連覇に貢献したが、一転今季は不振に陥って九番を指定席に試合をこなし続けた。自分の不甲斐なさで、チームに迷惑もかけた。それをこのUFA杯で、少しでも取り返せたらと思ったが、ここまでいいところはない。 絶対に出塁する。しかし、焦りはない。冷静に見極めるのが、最適だった。 ツーストライクまで追い込まれるも、際どい球に手は出さなかった。しかし甘い球も来ず、半端なボールだけファールにして、好球を待つ。焦るな、逸るな。バットと自分に言い聞かせて。 9球目。真ん中低目への緩い球。失投か。バットが、出かかる。しかし、頭の中が、パームボールと告げ、バットを制止させた。低目のボールゾーンに沈んだ球。四球を、勝ち取った。奇跡の第一歩を、踏み出した。 トップに戻って、今季の首位打者シュンがボールを打ち上げるもセンターフライ。しかし、調子の上がらないハードゲイを続くスーパー仁くんが攻め立てる。 痛烈に弾き返した打球は、センターの前。一発で、逆転サヨナラのランナーが出た。そして、迎えるは今季二冠の三番メロン。 しかしここはストレートのフォアボール。塁が全て埋まる。ワンナウト満塁。右打席で虚空を見上げるのは、四番唯やん。 明らかに本調子でない、ハードゲイ。その得意球である、高速シンカー。やや高目に、浮いた。鳴り響く快音。振り抜かれたバットには、はっきりと白球の痕が残っている。センターバックスクリーンに向かって、打球が舞い上がった。 センターキモヲタ萌えが、一瞬肩を落としたほど、大きな飛球。それが、少しずつ、少しずつ、勢いを落としていく。バックスクリーン方向からホームに向かって吹く、強風。高く上がりすぎたのが却って仇になり、打球の勢いを、完全に殺いだ。フェンスギリギリで、センターのグローブの中に打球は収まった。 それで、安堵してしまったのがハードゲイだった。ライトスタンドの落胆がまだ色を残している間に、庫洛洛に投じた初球。真ん中高目の、直球。しまった、と思う前に、頭上を打球が通り過ぎていった。LOVE、そしてスーパー仁くん。二人が駆け抜けていくホームの後方で、呆然とするハードゲイの姿があった。あまりに、不用意な一球だった。 同点のホームを駆け抜けたスーパー仁くんが、ベンチ前で跳ね回ってハイタッチする。既に先発した21時までのやめぐボイスらもベンチ前に飛び出してランナーの生還を祝福していた。 10回表。9回裏のサヨナラのチャンスでは、がんがんが平凡なセンターフライに倒れ、遂に延長戦に突入。八回、勝ち越し打を許した神楽坂優が3イニング目のマウンドに登った。先の回から、集中力は益々増している。却って自然体である、と思えるほどだ。今なら、誰にも打たれる気がしない。神楽坂優は、変化球を巧みに駆使してあっさり二番、三番、四番の上位を三者凡退で片付けた。奇跡を、演出するために。 10回、裏。 印象派は、一つの駆け引きを札幌バッテリーと行った。 今日、ここまで2三振。いずれも低目の変化球を空振った。skill2は一辺倒なリードが、ある意味持ち味だ。この打席も、低目の変化球を決め球に持ってくる。それは、恐らくHシンカー。先ほど、唯やんに大飛球を打たれた球だ。 直球やパームでカウントを稼がれ、ツーストライク。やはり、間違いないだろう。 自分の力では、決められない。印象派は、その知力を持って冷静に分析していた。衰えつつある力。加えて、高く打ち上げがちな自分の打球。今日の逆風なら、大きいのを狙っても平凡なフライに終わりかねない。繋ぐ気持ちでコンパクトにスイングしても、この下位からそう連打できるとも思えない。 ここは、一発。それも、このシリーズ重要な局面での打点が光るvに。 ツーストライクワンボールからの、5球目。高速シンカーが、低目に投じられる。沈むボールにバットが空を切った。空振り三振で、ワンナウト。 何も言わずに、打席に向かうvとすれ違った。耳打ちをして、感づかれたりしたら意味がなくなる。 数年前、長年守ったショートのポジションを、キャッチャーコンバートで空席にした。そのときの後釜がvだった。未熟さがまだ目立ち、経験で得た技術は惜しみなく伝えた。vは寡黙、無愛想な人柄で、何を言っても頷くばかりだったが、飲み込みは早かった。あまり言葉を用いずとも勝手に理解する。そして、それが間違っていることはほとんどなかった。 あの頃より、いくらか逞しくなった後姿を一瞥して、堂々背筋を伸ばしたまま印象派はベンチに戻った。 ハードゲイ、skill2バッテリーは、下位とはいえvには警戒心を強めていた。 今日も先制点を叩き出しており、チャンスには強い。慎重かつ大胆な組み立てが必要だと感じていた。 初球、二球目とストレートで、外角を上手く突いてツーストライク。釣り球も充分使える状況だ。少し、慎重になりすぎたかも知れない。先制点以外、今日のvに良いところはなかった。それを考えればあまり怖がる必要もない。 低目にパームを放るが、ワンバウンドしてボール。高目にウェストしてみるもバットは出ず、ツーボール。決めるなら、このカウントしかない。 シーズン中はよくHシンカーを決め球に持ってきた。今日は、9回裏に唯やんに痛打されたが、印象派は三振に切って取っている。元々、低目にHシンカーを放るのは最も得意とする技術だ。簡単には打たれない、という自信はあった。 5球目。低目の高速シンカー。若干高くなったが、しっかり沈めば問題ないコース。 三振の、はずだった。 七番印象派に投じた決め球は、高速シンカー。唯やんに捉えられた後は投げ控えしていたが、印象派からは見事三振を奪った。自信を、取り戻しただろう。 先の打席。印象派は、恐らくシンカーが来ることを分かっていた。それを、あえて空振り。ハードゲイに、シンカーに対する自信を与えたのだ。 決め球を、誘い出すために。 高速シンカーのみに、照準を絞った。決め球には、必ず放ってくる。間違い、ない。 投じられた5球目。何の球か、vの頭には残らなかった。ただ、気付けばバットは振り抜かれ、白球すら、小さな白い点としか見えなかった。 強烈な向かい風を、低いライナーが切り裂き行く。レフトスタンドへ、最短距離で向かうように。 突き刺さった打球は、勝利を信じるレフトスタンドを黙らせるに、相応しい一撃だった。左中間への、サヨナラホームラン。歓喜に沸くライトスタンドへ向かって、vは右腕を上げた。 ホームでチームメイトに迎えられ、頭を叩かれるv。真っ先にベンチを飛び出した印象派。肩のタオルを放り出して駆け寄ったミセリ、神楽坂優。最初にホームに到達したシュン。太い腕で強烈に叩き続けるLOVE。輪の外で跳ね回る庫洛洛。同じく輪の外で、何故かスーパー仁くんを叩くメロンと唯やん。最後に飛び出して、途中で転んだがんがん。それぞれ皆が、暫くの間、ホーム近くで戯れていた。 無愛想なvの目元口元が、少しだけ綻んでいた。 ---- 余勢を駆って第四戦、第五戦ともに札幌メイデンズを寄せ付けず、三年連続のUFA杯を制したHPAS。 第三戦での勝利がシリーズの帰趨を決定付け、同時にチームを高みへと導いた。 これからも連覇を続けるHPASにとっての、発条。礎とも言える、大きな勝利となった。 ---- 調子に乗ってしまった。 (暇を潰せれば)長文でも良かった。 今もあまり反省していない。

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