著 布団 花子さん・・・? お題: トイレ 期限:1時間ほど 容量:14.3kb 追記:思いつきで書いた。後悔はしていない。 俺の行く学校には、いわゆる七不思議のネタにされるトイレがある。 3年校舎の4階の女子トイレ、入り口から向かって右側の一番奥の個室だ。 もちろん七不思議というからには幽霊が出るわけであって、名前はもちろん、花子さん。 こういう話は小中学校でも同じものを何度も聞いてきた。いつか花子さんの霊魂が地上から足りなくなってしまうんじゃないだろうか。 俺は「幽霊がいるかもしれないし、いないかもしれない。でも実態がないのなら生きている人間に干渉できるはずがない」という幽霊否定派でも、肯定派でもない意見を持っていたがこういう話が大好きだった。俺たちが変な気をおこしてそれを見るまでは。 夏休みも中盤に差し掛かったころ、夏休み明けにある文化祭のために夜9時まで在校を許されていたころ。 「ねね、○○はトイレの花子さんの七不思議しってる?」 「ああ、聞いたことはあるよ」 一緒にクラスの出し物の看板の色塗りをしていた俺の彼女の××がいきなり話を振ってきた。 「なんかさ、誰が考えたか知らないけど、うちの高校の七不思議、すっごい詳しいところまで話があるみたいだよ。こういうの、好きでしょ?」 「ん、まぁな。手が青に染まりながら延々と色塗りをするのにも飽きてきたところだよ。どんなのだ?」 「えっとね、この3年校舎の4階の女子トイレの右の一番奥に、12時に行ってノックすると花子さんが返事を返してくれる。このくらいは知ってるかな。でね、そこからが面白い話で」 実際怖い話好きな俺はネットやら雑誌やらでこういう話は散々見てきた。彼女も同じだろう。そこらが意気投合して付き合ったくらいなのだから。つまり、こういう聞き飽きた話を彼女がするということは、相当面白いオチがあるってことで。 「ノックを4回して『花子さん、遊びましょう』っていうと『はい。ウノとトランプとオセロ、どれがいいですか?』って言ってくるの」 「まてまて、何で敬語なんだ。しかも遊びが近代的過ぎだ!」 「そこが面白いんじゃない。あやとりとか要求してくるお化けなんか聞き飽きたでしょう?」 彼女が言う面白いというのは、そういうギャップなのだろう。 「それでね、どれか選ぶんだけど、自分がいまそれを持ってたら、本当にそれで遊ぶのよ。ちなみに花子さんはマナ○ナ似で」 くだらなすぎてだんだん笑いがこみ上げてきた。彼女もそれが望みだったのか、うれしそうな顔で続ける。 「遊び終わった後は、自分が『私が片付けるからあなたは先に帰っていいですよ』っていうと、すごく嬉しそうな顔で帰っていくんだって」 「自分が片付けなかったらどうなるんだ」 「もし花子さんに片付けを手伝わせると、ちゃんと全部集めたつもりなのに、1枚だけ足りなくなっちゃうんだって」 「いたずら好きだな」 もう怖い話なんだかどうかもわからなくなって俺は大声で笑って転げまわった。夜中の12時にトイレで遊ぶのはある意味怖いが。 「でもね、続きがあるの。口裂け女とかってさ、問いかけに対して違う言葉で返すと助かる。とかあるでしょ?花子さんには、それが一番嫌いな行為なんだって。花子さんはそういう風に無視されて自殺した子で、無視したり的外れなことをいうとすっごい怒って答えた人を殺すんだって」 ・・・少し関心した。なるほどこれは少し新しい。普通に答えると返してくれて、ひねくれて答えると殺される、か。こういう話に精通しててなおかつ、捻くれた意見を持ってるやつだけを引っ掛けようって言うんだな。花子さん、策士だな。 「どう?いかにも新しい学校の新しい七不思議でしょ?」 「まぁ、新しいといえばな。たしかに面白いはなしだ」 「でさ、本題」 彼女の顔が急に真剣になった。こいつがこういう顔をするときは、大体授業を抜け出して遊びに行こうとか、アイスをおごって、とかロクなことがない。 「いまさ、文化祭で9時まで残っていいって言ってるけど、大体みんな10時まで作業してるでしょ?そこでね」 彼女が急に口を耳元に寄せて小声で言った。 「12時までどっかに隠れてて、花子さんに会いに行ってみる?」 度肝を抜かれた。・・・とは全然思わなかった。こいつの言い出しそうなことだった。しかし、なんでまた。 「こんな現実味のカケラしかない花子さんに会えるはずないだろう」 「ま、ま、ほら、真夏の学校デート〜、みたいな」 たしかに、夏休みに入ってから3年である俺たちの部活の後始末やら、いまの文化祭の準備やらで全然デートをしてなかった。 「・・・。ん〜、わかったよ。少しだけだからな」 「やったやった、ありがと!」 そんなに嬉しかったのか。花子さんに会えるのがうれしいのか、久しぶりのデートが嬉しいのか。とりあえず手に持ってるブラシでペンキを飛ばすのはやめてくれ。 かくして俺たちは文化祭の準備でごたごたしている間に、使われていない教室へ身を潜めた。 さすがに電気もつけれない、携帯もばれるかもしれないで開くことができず、月明かりでしか回りを確認することができなかった。 「ちょっとドキドキしてきたね」 「不謹慎だな」 「もう、違うって。台風の日とか、遠足の前の日とか、そういう時のドキドキ!」 「シッ、大きい声出すなよ」 「あ、ごめん。でもさ、警備の人とか1時まで回ってるんだよね。ばれたりしないかな」 「ばれたらばれたで、お化けのフリでもすれば、警備の人が泣いて逃げたりしてな」 「あはは、それいいね」 小声で他愛無い話をしながら、俺たちは久しぶりのデート(?)を楽しんだ。 「う、あたしちょっとトイレ・・・」 「おう、見つかるなよ」 そういうの彼女はコソコソと教室を出て行った。 彼女が見えなくなった後、携帯の光を手で隠しながら時間を確認してみた。11時30分。花子さん、フライングはしないだろうな。 「あっ!!!」 俺は鞭を打たれたようにビクッとなった。彼女の悲鳴が聞こえたからだ! まさか、花子さんに・・・ その後聞こえてきた声は・・・ 「こら、なに夜中に忍び込んでるんだ!早く帰りなさい!」 警備員さんの声だった。なんだ、花子さんに襲われたわけじゃなかったのか。 「いえいえ、忘れ物を取りに来ただけですって。そんなに怒らないでください。すぐに帰りますよ」 そういうと彼女と警備員さんの足音が段々遠くへ消えていった。俺のことを言わずに咄嗟の言い訳を言った彼女に感謝の念を送る。まってろ、必ず花子さんとトランプをしてくるからな!もちろんポーカーで相手のチップは服だ。ハコテンで俺がじきじきに脱がせたりな! 11時45分、あと15分というとこで携帯のバイブレーションがなった。 8/○○(金)11:45 ×× sab:(T0T) ごめ〜ん、見つかっちゃった・・・。 あたしは見に行けないけど○○はちゃ んと行ってね! あと、あたしの机の中にインスタント カメラがあるからそれで写真を撮って きて! 携帯のカメラじゃ幽霊に壊されたら大 変だからね。 それじゃ、命運を祈る!(`・ω・´) ps.今度デートはちゃんとやりなおし だよ! 彼女からだった。 座り込んで少し痺れた足とももをさすりながら彼女の机へ向かった。 彼女の机の中をあさると、数枚のぐちゃぐちゃのプリントとお菓子の箱と封の切られていないインスタントカメラが出てきた。新品とは用意周到だな。もしや、女子ってのはこういうのを常備しているものなのか? そう思いながらカメラの封を開けて、ためしにフラッシュをたいて写真が撮れるか確認してみた。光が漏れないように、ロッカーの奥に向けて カシャ フラッシュは出るし、ちゃんと枚数が減ってる。壊れてはいなかった。 そうこうしてるうちに55分になった。 ポケットにトランプと携帯、後ろポケットにはサイフ、右手にはインスタントカメラ。装備は万端だ。今ならRPGのボス、とまでは行かないが、途中の中ボスくらいなら倒せる気がする。 こうして俺は女子トイレへ向かった。 女子トイレについたころには58分、後2分になっていた。 真夜中のトイレというのは何もしていなくても怖いものだ。当然いやな想像も生まれる。 でも、ここにでる幽霊には対処方法がある。もちろんでっち上げなので効くかどうかはわからないが気休めにはなった。そういえば七不思議もでっち上げか。 ブブブブブ 12時を知らせるアラームがなった。ポケットをまさぐりそれを止める。いよいよだ・・・! コンコンコンコン 「花子さん、遊びましょう」 帰ってくるのは少しの声の跳ね返りとその後は静寂だけだった。 もう一度試してみる。 コンコンコンコン 「花子さん、遊びましょう」 念のためノックする手を変えてみたが結果は同じ。 さっきまで少なからず怯えていた気持ちがすっとんだ。そうだ、やっぱり。いたっていなくたって関係ないんだ。あっちは霊魂、こっちは肉体。一緒にトランプなんかできるはずがない。 そう考えたらポケットに入っているトランプがとても滑稽に思えてきて笑いがこみ上げてきた。 一応個室をあけて写真をとることにする。 足元やトイレの中や天井などカメラで取り捲る。 カリカリカリカリ、カシャ カリカリカリカリ、カシャ いろいろ取ってるうちに、ファインダー越しに小人のトイレの芳香剤が見えた。 いわゆる新校舎であるこの学校はとても綺麗にされている。それこそ、トイレの個室ひとつに芳香剤ひとつというとんでもないシステムになったわけなのだが。 一度ファインダーから目を離してみた。 あれ さっき見たはずの小人の芳香剤がなくなっている。 多分フラッシュで目に光が残ったんだろう。そう思って、またトイレの中を無造作に撮りまくった。 いっぱい撮ればひとつくらい心霊写真ができるだろうと思い、カメラの残り枚数がなくなるまで撮った。 やがてフィルムを回すとこが止まらなくなったことを確認して、やっとすべての作業が終了した。 逃げ道は、1階の窓から出ればいい、それより早く彼女に報告しないと。待ちくたびれているだろう、なによりこのことを楽しみにしていたのはあいつなんだから。 そんなことを考えながら個室を出ると、足に何かが当たった。 確かな感触を元に携帯の光で足元を照らしてみた。 さっき見た小人の芳香剤が落ちている なんだ。さっき見たのはファインダー越しじゃよくわからなかったけど、ここにあったのか。 それを拾ってあるべき場所に戻した。 駐輪場までは3階におりて2年校舎に移ったほうがいい、などと考えながらトイレを後にした。 4階の階段のところまで着いた。階段が一番足音が出ると思い慎重に降りる。 3階と4階の間の少しのスペースにやっと着いたころ4階へ上る階段に何かが置いてあるのがちらりと見えた。 あの時、見なければよかった。後ろなんか見なければよかったんだ。 そこには、さっきトイレにあったはずの小人の芳香剤が、そのままの形で置いてあった・・・! やばい、やばい! 俺は一目散に3階へ降りた。 花子さんなんかじゃなかった。あいつが幽霊だったんだ!!! すこし走った後、後ろを振り向いてみた。 無い。よかった・・・。 胸をなでおろすということを行動にとったのは初めてだった。 その時 足元にあの小人が――― うわあああああああ!!!! 俺は忍び込んでることなど忘れて大声で悲鳴を上げた! 足はもつれてうまく走れない。 後ろを振り向くと俺から5メートル後ろに見るたびに小人が…! 目を離したり、瞬きをするたびに、同じ距離に近づいてくる!!! 音も無く、気配も無く、ただそこに移動している。 まるでテレポートでもしているかのようにスーッとずっとこっちを見ながら!!! 後ろから足音がついてきたり、笑い声が聞こえたり。そんな恐怖じゃない。 無音の恐怖。無気配の恐怖! こんな恐ろしいとは思わなかった。 その時 足がもつれて転んでしまった。 カメラをもっていて手をつくこともできず腹と顔を思い切りうってしまって、息ができない。 しかし後ろから小人が近づいてくる、ここで蹲ってるわけには行かない! 痛む体に鞭を打って、顔をあげると・・・ いた、目の前に居た! 「ひいぃぃやあああああああああぁぁぁ!!!!!!!」 狂ったような悲鳴をあげて、その小人の芳香剤をガンガン踏みつけた。 陶器でできていたので腕や鼻など、出っ張ったところはすぐにぶち壊れた。 何回踏みつけたかわからない。口からはさっき転んだときに切ったのか、血が出ていた。 口から血が滴り落ちて、足元の小人の芳香剤に落ちる。 それが一層気味悪くみえて、俺はもっとトチ狂ったかのように踏み続けた。 踵に痛みを感じ、で踏むのをやめたとき、俺はやっと我を取り戻した。原型はとどめていたが、腕や鼻がもげ、中の芳香剤が飛び出している小人の芳香剤があった。それを俺は、蹴った。 もちろん自分が進む方向と逆の方へ。 そしてまた走った、走った。 踏みつけた足が骨に亀裂が入ったかのように痛む。芳香剤が足について滑ってこれまたうまく走れない。 もう、後ろを振り向くのはやめた。早く校舎から出て近くの民家にでも逃げ込もう! 無我夢中で走った。口から血が出てるのがのどに絡まって息も苦しい。 後ろを振り向きたくない恐怖と、後ろを確認したい感情が入り混じって思考がうまく働かない。 いくら走っても暗くて出口の見えない廊下。 何分走ったのだろう。もう30分は走った気がしてきた。 もう体が持たない、いつまで走ればいいかわからない。 そう思ってしまったからだろう、踵の痛みでまた転んでしまった。 今度は、さっきよりも受身が取れなかったのか、体全身が痛む。 もう起き上がりたくも無い、そう思った矢先 明らかな気配――― 目の前に立っている!!! もう俺は怖くて仕方なかった。 このまま眠ってしまえば、明日の朝には誰かに見つけてもらえるだろう。このまま眠ってしまいたかった。 そう思っても、目の前の人の気配は消えない。 俺は頭を抱えて土下座のような格好でブルブル震えていた。 すみません、もうしません、すみません、すみません 頭の中で念仏を唱え続けるように謝った。 すると、目の前の気配が俺の肩を叩いてる!!! もう俺はより一層震えを強くするしかなかった。 「君、大丈夫?」 俺が怯えていたそれは、警備員さんだった。 「こんな時間までなにをしてるんだ・・・って、血が出てるじゃないか!いったい何があったんだ!」 俺は心身疲れきってしまって、警備員さんの問いに答えを帰すことができなかった。 唯一できた行動が後ろを振り向くこと。 後ろにはあの小人は居なかった。 そこで、俺の意識は――― 目を覚ましたら、病院のベッドの上だった。 みすぼらしい天井と、あの夜一緒にいけなかった彼女の顔が見えた。泣いていた。 俺は夜中1時に警備員さんに発見されて、意識を失った後救急車で病院に担ぎ込まれたらしい。 額は転んだときに裂け、5針縫った。口もまだ鉄の味がする。全身打撲で、右足の踵にはひびが入ってたそうだ。 「ごめんね、あたしが昨日行こうなんていったから、ごめんね、ごめんね・・・」 俺が目を覚ましたのをみて、彼女は泣き崩れてしまった。 女の涙には弱い。ましては彼女のせいでもないのに泣かれたら困る。 まだ口を開くと痛むから、俺はだまって彼女の頭をなでた。 しかし、昨日の出来事はなんだったんだろう・・・。 後日 彼女と一緒にその日の朝、あの日のカメラを現像にだして、久しぶりのデートを楽しんだ。 あの日の償いと思って思い切り。貯金の半分はなくなるぐらい高い料理屋にいったり。 彼女が途中でリタイアしたのはとても残念に思う、でも来なくてよかった。 あんな怖い思い、俺だけで十分だった。 帰りに現像に出した写真を持って、それを話の肴に帰路についた。 次の日、夏休みも最後の日、学校ではまだ文化祭の準備でせわしくしていた。 俺は、あの日撮った写真を持ってきた。まだ中身は見ていない。 彼女のところに持っていくと、喜んだと思いきやすこし写真を受け取るのを躊躇した。 多分俺のためを思っているのだろう。 「俺のここは気にしなくていいから」 そういうと、彼女は苦笑いをしながら写真を受け取った。 彼女が写真を取り出す。俺も一緒に見ることにした。 27枚 最初の1枚からじっくり見ていったがトイレが写っているだけで、おかしなところは何も無かった。 「おーい、○○。ちょっとこっち手伝ってくれー」 「すまん、呼ばれた。おー!いまいくー!」 俺はそういって彼女の元を離れた。 「そっちもってくれ、看板倒れないようにな」 「おう」 教室の入り口でまだ踵が痛む中、看板を立てかけて、針金でくくりつける。 この一連の出来事で悟ったことは、むやみに怪しい場所。それが、人間のつくったうわさの産物であっても、近づくようなマネは止めようと思った。このことはデートのときに彼女に話している。 彼女は少しつまらなそうな顔をしていたが、俺の怪我があったことから二つ返事で了解してくれた。 俺ももうあんな目にはあいたくないし、彼女をあんな目にあわせるのはもっと苦痛だ。 そんなことを考えながら最後の針金をくくりつけたとき 「○○!ちょっときて!!!」 彼女が大声で俺を呼んだ。 「ラブラブだねぇ」 「茶化すなよ」 多分怪しいシミなんかを見つけて喜んでるんだろう。あんなこともあったが、彼女がよろこんでくれて嬉しいと思った。 「おう、なんか見つけたか?」 「こ、これ、なに!?」 そうして見せた彼女の写真は 最初にとった、フラッシュを確認するためだけにとった、壁しか写らないはずの、ロッカーの中。 そこには 血まみれで ぼろぼろになった あの小人が――― いまでも4階の女子トイレには、あの芳香剤が置かれているのだろうか。 確かめにいく勇気は、無い。