無題2


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「これだけかや」
不満を隠そうともしない声に、ロレンスは溜息をついた。
「質を上げれば量は下がる。買う時に説明したし、お前も納得しただろう」
むう、と唸るホロを横目にロレンスは自分の分の干し肉を一口かじった。
口いっぱいに広がる肉の旨味を味わいながら、今朝の市場でのやりとりを思い返す。

そもそも、街を出立する前に保存食の見立てを頼んだのは、ロレンスの方だった。
賢狼たるホロなら上質のものを見抜く事ぐらい容易いだろうと軽い気持ちで口にしたのだが、すぐさまホロが真剣な目で市場を徘徊し始めた時は、少し後悔した。
結局、ホロが選んだ干し肉は普段のものとは比べ物にならないくらい上等なものであり、予算以上の出費を断固拒否したロレンスは量を減らすという妥協案でその場を収めたのだった。

「腹が減っては働く頭も働かんと言うぞ。わっちの頭は頼りにならんかや?」
「そうか、それはいいことを聞いた。お前の頭を頼らずに済むようにちゃんと食事をしておこう」
さらりと切り返してやると、ホロは一瞬驚いたような顔になった。
「……ぬしも口が回るようになったのう」
「誰かさんのおかげでな」
そう言って干し肉をくわえ、ホロに振り向いたロレンスは息を呑んだ。
ホロがとても寂しそうな顔をしていたのだ。
「ぬしがわっちを頼らぬようになったら、わっちはどう借金を返せばよい?」
その力無い声に、ロレンスは固まった。
ロレンスは、借金など互いにとって旅を続けるための口実に過ぎないと思っている。
その口実が無くては二人の旅はおそらく始まらなかっただろう。
しかし、今は、ホロもこの旅を終わらせたくないはずだとロレンスは確信している。
役に立たなくなった口実は、しかしデメリットだけを残す。すなわち、ホロの借金だ。
ロレンスは思う。
ひょっとしてホロは、借金を完済し、その上で続ける二人の旅を望んでいるのではないか。
本心を明かさぬ賢狼の、胸の内を垣間見た気がした。

24 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/04/19(木) 22:48:23 ID:LT36hK2M
「ホロ……」
肩に手を回してやると、しっかりと身を寄せてきた。
衣服越しにじんわりと体温が伝わってくる。
「借金は――」
驚きのあまり、いまだ干し肉をくわえたままのロレンスの言葉は、不意にホロが顔を近づけてきたため、あっけなく途切れた。
ロレンスの視界の中、ホロの幼さの残る顔が、大きな潤んだ瞳が、柔らかそうな唇が大きくなっていき、


一瞬で、遠ざかっていった。
それも、その口に干し肉をくわえて。


「なっ……」
呆然とするロレンスの口にさっきまで存在した干し肉は、既に手を伸ばしても届かない所まで逃げてしまっていた。
代わりに唇に残ったのは、甘いような、くすぐったいような、柔らかい感触。
「うふふふふ。ぬしは本当にからかい甲斐があるのう」
満面の笑みで干し肉を噛む相棒の姿に、ロレンスは溜息混じりの苦笑をするほか無かったのだった。


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