冬から春になろうかという時期になり2


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今更だがホロの目の前で裸になるのが恥ずかしかったので、部屋の隅でホロに背を向けるように服を脱ぎだすと、
壁に映る自分の影が目に入った。不器用に動く自分の影を見ていると、初めて娼館に行った時の事が頭に浮かんできてしまう。
嫌な記憶だ。震える手にお金を握り締めて女の部屋に入ったはいいが、結局最後には至らず逃げるように宿に帰ってしまった。
あの時何があったかはこの先誰にも話すことは無いだろう。
酒場で男が集まればよくある笑い話として語られそうなあの経験は、ロレンスの心を深く傷つけたままもう何年も経つ。
ロレンスだってこのまま女性経験なしで一生を終わるなんて事は無いとは思っていたが、まさかこんな展開になるとは夢にも
思っていなかったし、こういう事は男から誘いたかったというか、もう少し雰囲気よく進めたかったのも正直なところだ。
きっとホロに言わせれば、それが雄の要らぬ見栄だと言うのだろうが。
そんなことを頭に巡らせながらシャツを脱いでいたので、時折手が止まってたようだ。
ちゃっちゃとせんか、何を今更恥ずかしがっとるんじゃ等の、雰囲気ぶち壊しの台詞を背中にぶつけてくるホロ。
「そう焦らせるな。少しは黙ってろ」
「む。…まぁ、ぬしがそういうなら黙ってやるかや。じゃが、もうちょっと早くしてくれると助かるの」
顔を見ずともきっと口の先が尖ってるだろうホロに背中越しに手を振ると、ロレンスは思い切ってズボンを下げ素っ裸になった。
振り返る前に手で前を隠そうか迷ったが、今からすることを考慮すればいかに無駄なことか気づいたのでロレンスは
隠すのをやめてそのまま振り返った。
きっとベッドの上で仁王立ちして口を尖らせているかニヤニヤしてるんだろうと思っていたがそんなことはしておらず、
いつの間にかベッドの端に腰掛けていたホロは、揃えた膝の上にのせた尻尾を俯きながら指で鋤いていた。
ホロはロレンスが振り向いたことに気づくと顔をゆっくりと上げロレンスを見つめだしたが、そのおずおずとした仕草と
恥じらいと不安そうな色が混ざったような表情を見ると、ロレンスの胸倉を掴んで不敵に笑っていたのが嘘のように感じられる。
「そっち、行ってもいいか」
そう言うとホロは、はっとしたかと思うと顔を一瞬で赤くさせた。
「と、当然じゃ。ぬしがこんと始まらぬ」そう言って横を向くと反対側のベッドを強めに叩く。
こんな事さっきもしたなと思いロレンスは苦笑した。たださっきと違うところはお互い服を着てないってことだが。
そんなこと思いつつベッドまで歩きホロの横に腰を下ろしたのだが、少し近すぎたようで腕が軽くホロの身体に触れた。
その瞬間、ホロが息を呑んだ気配がロレンスに伝わってくる。
まるで初めて男の相手をする娘のような反応にロレンスは少し意表をつかれた。何しろさっきまであんなに抱いてくれんのかや、
などとロレンスにわめき散らしていたホロなのだ。そんな訳はない。ホロの今までの口ぶりからしても随分あのことに関しては
詳しそうだし、大体何百年と生きていればそんなことは経験してて当然だろう。演技かもしれないな、とも思ったがそれはそれで
ロレンスにとっては有難かった。何せさっきのような勢いで事が進むのは勘弁して欲しい。
そんなことを思い浮かべながらまだ横を向いているホロを見ると、自慢の可愛い耳が目についた。ロレンスの視線を感じたのか
今まで壁のほうを向いていた耳がこっちを向くと何度かお辞儀するように動く。
そんなホロの耳を見ていてロレンスは重要なことを思い出した。ホロはちょっと珍しい特技を持っていたな。ここは一つ、ある提案を
ホロにしなければならない。ホロは何て言うだろうか。視線を耳から横顔に移すとロレンスは僅かな間迷ったが、思い切って口にした。
「ホロ。…話があるんだが」
ホロがこっちを向く。
「…まさか、今更怖気づいたと言うわけじゃ…」
赤い瞳がロレンスを睨む。気圧されそうになるがロレンスもこの提案だけはホロに飲んでもらわなければならない。
「お前は嘘を聞き分けれたり、俺の心を読むようなことを今までしてきたよな」
「…それがどうしたんじゃ」ロレンスのほうを向いたままうつむくとホロが呟いたが、語尾が少し上がり気味なので
拗ねてるようにも甘えてるようにも取れてしまう。
「今からお前を…その…抱くわけだが」
あらためて口に出すと恥ずかしく、ロレンスはさっきと同じように手で顔を擦りながら話を続けた。
「その間は、今言ったようなのは無しだ。…その…恥ずかしいからな」
ロレンスが話している間じっと聞いていたホロはロレンスが口を閉じた後も黙っていたが、暫くすると顔を上げてこう言った。
「…そうじゃな。確かにわっちの耳を気にしておってはぬしも…落ち着かんじゃろう」
ホロの顔と声には何故かほっとしたような雰囲気が感じられたが、すぐにそれは消し去られロレンスをからかういつもの顔に
戻ってしまった。
「安心するがよい。わっちもそんな無粋なことはしやせん。じゃが、ぬしはわっちの耳よりももっと自分の顔に
気をつけたほうがいいの」
「顔か」昔ホロに指摘された髭のことかと思いロレンスは顎に手をやった。
「髭じゃあありんせん。表情のことを言っておる。ぬしは商人の顔をしとるときは上手く隠せておるようじゃが、わっちの
ような可愛い娘とおるときはこの耳を使わんでも思ってることが丸わかりじゃからのう」
そうなのか、ロレンスは今までを振り返って見るが自分ではよくわからない。それに、ホロのような可愛い娘、なんて言ってるが
そんな娘はざらにいないだろう。実際ロレンスもホロと出会うまでこんなに美しくて可愛い娘には会ったことがない。
そんなことを考えているとホロがロレンスの顔を覗き込んだ
「あらためて見ると、ぬしもなかなか立派なものを持ってるようじゃ」口の端から牙を見せると
「まあ、ぬしのお手並み拝見、というところじゃのう」そう言いながらにやりと意地悪く笑う。
ホロのそんな言葉にロレンスは覚悟はしていたとはいえ、やはり胸が少し痛んだ。
その台詞から想像できるのはホロの遍歴がそれなりに豊富であること、そして今までの男、いや雄と自分が比べられている
ということだ。はっきりとホロの口から言われたことで、ロレンスの心にもやもやとした灰色のものが湧き上がってきた。
そして、それは次第に真っ黒い雨雲のように重く低く垂れ込み始めてきたので慌ててロレンスは大きく深呼吸をしてその雨雲を
身体から出すことにした。
嫉妬だ。ロレンスはその雨雲の正体に気づいていた。ホロが自分以外の男を知っている、ただそれだけのことが異常なまでに
ロレンスの心に嫉妬をおこさせた。
何故だろうか。ホロは自分にとって特別な存在なのはわかっている。だがその特別な存在とは一体何なのだろうか。
俺はホロと一緒に旅を続けたい、抱いてもみたい、多分ホロが他の男と仲良さげに振舞うのをみるのも、それが演技だとホロ自身に
聞かされていたとしても辛いだろう。何故だ。
答えはわかっていた。短いながらもホロと旅を続けていく間にロレンスが抱きだしたホロへの想い。そして、近いうちに必ず
訪れる別れが怖くて、いっそ無かったことにしようとしていたホロへの想い。
それは、俺がホロのことを。
「ぬしよ…すまんかったの。少し過ぎたようじゃ」
ホロの声にロレンスは考えを止められた。声の主を見るとさっきまでの作ったような顔でなく、いたずらが過ぎて叱られた
子供のような顔になっている。いつもはぴんと立った耳もロレンスに謝るように伏せられていた。
どうやら自分の言ったことでロレンスが傷ついたのが分かったようだ。一瞬ロレンスはホロが自分の心を読んだのか、と思い焦ったが、
それは違うようだ。多分、誰が見てもそれと分かるくらいさっきまでのロレンスは情けない顔だったんだろう。
「いや…そんなに気にしてやいないさ」
ついさっきまで考えていたことが妙に恥ずかしいのと雰囲気を和らげるためにちょっとおどけた感じで言ったのだが、ホロは
顔を上げようとしなかった。
「ホロ。お前が思ってるほど俺はそんなに──」
「──わっちは」ロレンスが言い終わる前にホロが言葉をかぶせてきた。
「わっちは…ぬしに聞きたいことがある」
ホロの声から何か切迫したような空気を感じたがロレンスは敢えて軽い口調で応えた。
「今日のお前は俺に聞いてばっかり──」
「──聞きたいんじゃ!」今度は叫ぶようにホロはロレンスの声をさえぎった。白く華奢な肩が僅かに震えて見える。
「どうしても。今、この場で…ぬしに答えて欲しいことがあるんじゃ…」
言いながらロレンスに顔を向けるとさらに言葉を続けた。
「ぬしは今からわっちを抱いてくれると言う。わっちは嬉しい、嬉しいのじゃが、その…」
ホロは視線をロレンスの胸元に落とした。
「そ、それはぬしに無理矢理言わせたようなもんじゃろ?…うん、わっちはぬしでいいんじゃが…ぬしは…ぬしは、わっちで
いいのかや?…そう思っての」
膝の上の尻尾の毛を無造作に摘むとそれを握ったり離したりしつつ何度も詰まりながら話すホロを見てロレンスは、ホロの
様子が随分変わってきていることに気づいた。ロレンスの厠でしたことを指摘した時や、なぜ抱かないのかと詰め寄ってきた時
のホロとはもう別人のようだ。もっとはっきり言うとロレンスが裸になった頃から微妙にホロの様子が変化している。
まるで生娘のように。
「…嫌々抱かれるのは…わっちとしても本意ではない」尻尾の毛をぎゅっと握り締めるホロ。
「ぬしの気持ちが知りたい…」そんなことを言うホロの耳は主の意思に反して未だ伏せられてる。
ロレンスは尻尾を握り締めているホロの小さな手に自分の手を重ねると、目を伏せたまま何も言わないホロに向かって
はっきりと言ってやった。
「俺の気持ちはさっきも言っただろ…お前を抱きたい。そのまんまだ」
「ぬし、嫌そうじゃった…」不安げにそう呟くとホロの手がさらに強く握り締められたのが重ねた手に伝わってきた。
ロレンスは手入れが行き届いた尻尾を少し心配してしまったが、今はそんなことを気にする場面ではない。
今すぐに何か言ってやらなければホロはそのまま何も言わなくなってしまうのではないか、そんな心配をロレンスに
させる程ホロの声は脆く儚いものだったからだ。
「嫌じゃないさ。そりゃあ、あれだけを見ればなんと言うか、その、無理矢理言わせたようなもんだが本当は違う。
俺はその…お前を抱きたくてしょうがないんだ」言いながらホロの手を上から握った。
「ほんとかや」さっきよりかは幾分はっきりした声だ。
「ああ」ロレンスは短く答えた。こういった時は短い言葉のほうが本心を伝えられる。
「じゃあ…じゃあ、それはなんでじゃ?」言いながらホロは顔を上げた。
「な、なんでって…?」ロレンスは虚を突かれた。
「なんでぬしはわっちを抱きたいのかや?教えてくりゃれ」ホロの目が真っ直ぐロレンスに向けられている。
ロレンスは咄嗟に答えれずそのままホロの瞳を見ることしかできなかった。
今日のホロは様子がおかしい。いつになく感情的なっているように思える。以前にもそんなことがなかったとは言わないが、
ロレンスを軽くあしらったかと思えば急に怒り出し、かと思えば甘えるような仕草をしたり不安げな表情を見せたりと、
こんなにくるくると表情を変えるホロは初めてだ。どのホロが本当のホロなのか。
ホロは瞬きもしないでロレンスを見つめ続ける。瞬きが必要ないくらいその赤い瞳は潤んでいた。
そんなホロを見てロレンスは思う。きっと今が本当のホロなんだろう。そしてそんなホロがロレンスの本当の気持ちを
知りたがっている。
なぜホロを抱きたいのか?ホロはそうロレンスに問う。思い返してみれば、今日のホロは聞いてばかりだった。
何をしてた?何故抱こうとしないのか?可愛いと思わないのか?抱きたくないのか?
そう、今までは何故抱かないのか、だった。今まではその言い訳に本心を交えつつ当たり障りのない答えを出してきたわけだが、
今ホロが投げてきた問いは何故自分を抱きたいと思うのかとロレンスにの気持ちを聞いている。
そんな問いへの答えは今のロレンスには一つしか思いつかない。ロレンスは空いているほうの手をホロの肩に置いた。
ホロの白くて華奢な肩にじかに触れるのは初めてで、長い間お互い裸でいるのに思ったほど冷たくはなかった。
肩に手を置かれたホロは身じろぎ一つしない。まるでそれが答えの前触れだと分かっているようにロレンスの顔から
視線をはずさなかった。
「俺がお前を抱きたい理由…それは…」
言葉が詰まってしまう。今から言うことは本当の気持ちだ、それは間違いない。
だが、それとは別にロレンスの中に本当のことでも言ってはならないという気持ちもあるのも事実。
好きだと言わなければ今からする行為はただの遊びになる。ホロの我が儘にロレンスが折れた格好だ。
多少はぎくしゃくするだろうが今後も旅を続けヨイツで別れることができるだろう。しかし、ロレンスがホロに好きだと
言ってしまうとどうだろう。今まで同じように旅を続けれるだろうか。
ここで言うべきか、言わざるべきか。ロレンスはホロの瞳から目をはずさない。途中で言葉が途切れてしまったのだ。不安に
ならないわけがない。瞳の上に溜まっている今にも零れ落ちそうなそれは、かろうじて瞬きをしないことでその場に留まっていた。
ホロは俺に言って欲しい言葉があるんだろう。そしてそれが嘘偽りなく俺の本当の気持ちであることを望んでいる。
ならば、結果がどう転ぼうとそれに応えてやりたい。
ロレンスは一つ軽く咳払いをしてから囁くようにホロに自分の本当の気持ちを教えてやった。
「好きだからな」
こんなに緊張したのは初めてで、きっとホロに触れている掌は汗でびっしょりの筈だ。
「…嘘じゃ!」ホロはそう言うと顔を背けた。
「嘘じゃない」
「そんな…そんなのはの、雌が欲しい時に雄が…好きだなんぞと言えば雌が喜ぶだろうと自分に自信の無い雄が
よく言う嘘にきまっとる!」言いながら重ねられていたロレンスの手を振りほどく。
ホロの声はまるで怒ってるように聞こえたが、耳や尻尾が必ずしもそうではないことをロレンスに教えてくれていた。
「本当だ。なんだったらお前のその耳で嘘かどうかを聞き分けてくれてもいい」
「そ、それはできん話じゃ!大体ぬしがわっちにするなって言ったくせに何を…何を言うとるんじゃ!」
「なら俺の顔を見ろ!…それで分かるんだろう?」さっきまでホロの手を握っていた手でそっぽを向くホロの顎を掴む。
だが無理矢理に顔をこちらに向けるのはやめておいた。掴んだ手からホロが震えているのが伝わったからだ。
ホロはほんの少しの間そのままの姿勢で動かなかったが、やがて上を向いて鼻をすするような動きをすると自由になった手で
顎に触れているロレンスの腕を掴んだ。
「…本当かや」言いながらロレンスの腕に頬を寄せるように口を近づけると牙を立てた。
だがさほど痛みは感じられない。猫や犬がよくやる甘噛みのようなもの。そしてそんな仕草が、今のホロの気持ちを物語っている。
「ああ…何度も言ってるだろう」暫くそんなホロを眺めてからそう言うと、ホロは口を離し、くふっ、と小さく笑った。
「そんなに何度も言っとりゃせん。ぬしが言ったのは一回じゃ」ホロが顔をロレンスに向けると、その拍子にロレンスの手が
ホロの顎から離れた。
「…そういう事じゃなくてだな…」ロレンスは言いかけた言葉を飲み込んだ。振り向いたホロはそれ程可愛かったのだ。
ロレンスが黙ってしまったのが不思議なようでホロは小首をかしげる。そんな仕草が本当によく似合う。
そんなホロにロレンスは聞いておきたいことがあった。こんな事聞くのは野暮なことかもしれないし、もしかしたらホロの機嫌を
損ねるかも知れないが、それでもロレンスはホロに聞きたかった。大体ホロばかりロレンスに聞いてばかりでずるいではないか。
そう思ったロレンスは意を決してホロに声をかけた。
「ホロ…」
「なんじゃ?」上目遣いに応える。
「聞きたい事があるんだが、いいか?」
「う、うむ」何を聞かれるのかわからず警戒気味になるホロ。
「お前は喜んでくれたのか?嬉しかったか?」
賢狼らしくなく、なんの事か咄嗟に分からないようだ。だから今度はもう少し分かりやすく言ってやった。
「俺はお前を好きだと言った。…それで雌のお前は嬉しかったのか?」
そこまで言われてようやく通じたようでホロはロレンスが一呼吸する間に顔を真っ赤にさせた。
「どうなんだ?」さっきまでと逆にホロに詰め寄るロレンスだがこんなに顔を赤くさせたホロなのだ、もう答えは決まっている。
ホロは何度か口をぱくぱくさせていたが、やがて俯いてから小さな声でロレンスに囁いた。
「…そ、そんなの、嬉しいに…きまっとる!」途中から叫ぶような声になったかと思うと、そのままロレンスと反対側の
ベッドに勢いよく倒れてしまった。
「ホロ…」予想通りのホロの答えにロレンスも嬉しくなる。
ホロは寝転んだまま手を伸ばしてシーツを掴むと顔を隠すようにその中に頭を突っ込んだ。
きっと照れた顔を見られるのが恥ずかしいのだろうが、頭隠して尻隠さずとはまさに今のホロを指す言葉のようだ。
シーツに隠されてないホロのお尻から生えている可愛い尻尾がぱたぱたと音を立てて揺れていた。
すぐにでもホロの後を追いベッドに倒れこみたくなるのを無理に抑え、ロレンスはその場に留ま
る事にした。こんな時に焦って動く事が良策とは思えないし実際痛い目にあったこともある。
ここは逸る気持ちを落ち着かせたいところだ。
そう思い、照れた顔を隠したままのホロを眺めているとロレンスは自分が意外にも落ち着いてい
る事に気づいた。考えてみれば何百年と生きてきた経験豊富な賢狼をたかが三十にも届かない自
分が抱こうというのだ。緊張で手が震えていてもおかしくはない。何故だろうか。
ロレンスはホロから自分の掌に視線を移した。
もしかしたらホロへの想いを吐き出した事で何かふっきれたのかもしれないな、と思う。
それならそれでいい。とにかく昔のように何も分からぬのに焦って痛い目にあうのはごめんだ。
気持ちが落ち着いているのならその状態のままでホロを抱きたい。ただ、実際のところホロをど
れだけ満足させられるかは見当もつかないのが本音だが。
そんな事を頭に巡らせながら暫くの間掌を見つめていると頬に視線を感じた。ロレンスがベッド
に顔を向けるとホロが慌ててシーツに隠れる。
ロレンスはそんなホロの仕草につい顔が緩んでしまったが、すぐに顔を引き締めた。なぜなら隠
れる寸前にちらりと見えたホロの口が不機嫌そうに尖って見えたからだ。さらに、さっきまでぱ
たぱたと小さく揺れていた尻尾が急に大きくばたつきだしたのを見れば、今までの経験からホロ
の機嫌はかなり斜めに傾いているのが分かる。
少しばかり待たせ過ぎたかもしれない、そう思ったロレンスはまるで早く来いと言わんばかりの
尻尾を見て一つ小さな溜息をつくと、ゆっくり立ち上がるとホロの待つベッドに足をかけた。
相変わらずベッドの上で忙しく動く尻尾を踏まないように注意深くホロの後ろへ回り込もうとす
ると、尻尾の動きがぴたりと止まる。自分が動きやすいようにとホロの気遣いだと思ったが、単
に大事な尻尾を踏まれないようにしただけかもしれない。
どっちにしろこの場面でホロの尻尾を踏むことはロレンスにとって非常にまずい結果を呼ぶこと
になるのは確実である為、どんな理由であれホロが大人しくしてくれるのは有難い。
尻尾の位置を確認しながらホロの後ろに回りこんだロレンスは、ホロに添い寝をする様に身体を
並べた。シーツは顔しか隠していないので、ロレンスからはただホロが向こうを向いて寝ている
だけに見える。
こんな事は今までもあった。大食らいのホロのおかげで、同じ寝床で一夜を過ごす羽目になった
事も何度かあるし、寒い季節の野宿では荷台の隅に身を寄せ合って寝る事も多い。
だが、今はそんな理由で二人が一緒に寝ている訳ではない。ホロはロレンスに抱いてもらう為、
ロレンスはホロを抱く為にこうしているのだ。
尻尾とは対照的にせわしく動く可愛い耳を見ながら、ロレンスはいよいよ覚悟を決めた。
夜の森の中を明かりも持たずに歩きまわるようなものでこの先二人がどうなるかは全く分からな
いが、とにかくホロが望んでいるのだ。できる限りのことをしてやろう。悩むことがあるのなら
その後でもいい。
ロレンスはそう胸の中で呟いて小さく深呼吸をすると、ホロの肩にかかる髪にゆっくりと手を伸
ばした。
尻尾と違い、たいして手入れなんかしてない筈なのにいつ見ても綺麗でほんのりと甘い匂いがす
る亜麻色のそれをうなじの辺りから優しくどかすと、ろうそくが作る影のせいでその白さは少し
失われてはいたが誰が見ても一目で分かるほどのきめ細かい肌を持つ肩と背中が現れた。
触れてみたい。湧き上がる気持ちそのままにロレンスが指でそっと触れると、ホロはまるで熱い
ものを押し付けられたように身体を反らせた。そのまま指を腰の方に滑らせると、ホロはくすぐ
ったいのか背中を指から逃げるように動かしながら尻尾でロレンスの腕を叩きだしたが、ロレン
スがお構いなしに指を尻尾の付け根まで滑らせると、顔を隠していたシーツで素早くそこを隠し
てしまった。
「これ、そこは駄目じゃ」
声でも分かったが、そう言って顔を上げてロレンスを諌めるホロの顔はやはり不機嫌そうだ。
「じゃあ、何処ならいいんだ」
手持ち無沙汰になった手でホロの腕を掴み軽く引っ張ると、ホロは抵抗することも無く仰向けに
なった。手に持っていたシーツが胸から腰の辺りまでを隠しているホロの姿は、ロレンスでも一
度は教会で見た事があるような名画のように美しく、少し暗めの明かりのせいで艶かしささえ感
じられる。
とはいえそんな感想を言った所でホロは喜びそうも無いので口に出すのはやめておいた。
「そんなことはわっちの口からは言えぬ」
「言えぬって言われてもな…そういう事は先に言ってくれたほうが俺としてはやり易いんだが」
そう言った後で気づいたが、ホロは人の形を成しているとはいえ尻尾やら耳やら牙などが生えて
いるのだ。もしかするとロレンスには分からないが人に触れられたくない微妙な部位があるのか
もしれない。
不機嫌そうに小さな溜息を天井に向けてつくとホロは目を瞑ってしまった。
「先には言えぬが…そうじゃな、ぬしが触れてはならぬ場所はその都度教えてやろう」
なんの解決にもなってない提案には驚いたが、こんな時ですら手綱を離そうとしないホロには思
わず感心した。なるほど、どんな事でも主導権を握ることは自分にとって有利に事を運べるのは
間違いない。ホロに好きだと言ったあたりは自分のほうに主導権があったような気がするが、ど
うやら気のせいだったようだ。
経験の差を主導権で埋めたいロレンスだが、じっくり考える暇をホロは与えてはくれない。
「大体じゃな…ぬしはちゃんとできるのかや」
顔を上に向けたまま薄く開いた目でロレンスを睨みつける。
「ぬしはさっき、自分で出したんじゃろうが? 雄の子種はそんなすぐに溜まるものかや」
言い方が少し刺々しい。確かにこんな短時間で出したことはないが、自分ではまだまだ若くて健
康な男だと思っていたロレンスはその事をホロに指摘してやる事にした。
「お前も知ってるだろうが、若い男なら一晩で何回もする事ができるんだ。心配はいらんな」
「じゃがのう…こう言っては何じゃが、ぬしは人の雄にしてはどっちつかずな歳だしの。まあ案
外いけるのかもしらんが」
渋い顔をしながら男を微妙に傷つける台詞をさらりと吐くホロにロレンスは少しむっとしたが、
ここで怒るのも大人気ない。それよりも何故ホロの機嫌が斜めになったのかが気になる。
少なくともホロが照れてベッドに倒れるまではよかった筈。問題はそれからロレンスがベッドに
上がるまでの間だ。特に何もなかった筈だが。
「…お前、何怒ってるんだ?」
そう言われたホロはぷい、と顔を背けてしまう。こんな場合、何度も訊く事で状況が悪化する事
が多いのでロレンスは黙ってホロの出方を見ることにした。先っぽが白いホロの耳を暫く見てい
るとやがてホロがまったく、と言わんばかりに大きく溜息をついた。
「…遅いじゃろうが」
「遅い…?」
何の事だと言いかけたが、ふと思いあたる事が頭に浮かんだので口を閉じた。そんなロレンスに
ホロは勢いよく振り返ると片眉を上げながら不満そうに言う。
「遅いじゃろ!あそこはすぐにわっちの後を追ってぬしがベッドに入るところじゃないかや」
やはりその事か。確かに少しばかり遅かったのは認めるが、そんなに責められるような事ではな
いよう気がする。
まったくぬしは雌の気持ちを分かっとらんの。ああいう時はこう、空気を読んでじゃな──」
「──あのなぁ、俺は俺で考える事があったんだ」
「何を考えておったと言うんじゃ」
「それはだな、その…なんだ」ホロにはちょっと言いにくい。
「下手の考え休むに似たりと言っての、どうせいらん事でも考えておったんじゃろ」
嘘は許さんとばかりに赤い瞳がまっすぐロレンスを見据える。
「いらん事じゃない。俺にとっては大事な事だったんだ…大体だな、俺が何を考えてただなんて
その気になればお前ならすぐに分かったんじゃないか」
「ぬしはわっちに読むなと言ったじゃろ。忘れたかや」
「でも顔で分かるんだろう」
「顔を隠していたから分かりんせん」
そう言って尖らせた口から舌を出すホロを見たら、つい顔がにやけてしまった。だからその後で
言った台詞も呆れ半分、笑い半分だ。
「…口の減らない狼だな。こんな時だ、もう少し静かにできないのか」
そう言われたホロはかちんときたらしく、怒りのせいかさっと顔を赤くしたかと思うとロレンス
を挑発するように言った。
「口は一つしかありんせん。減らせるものなら減らしてみ──」
その先は言わせなかった。ロレンスは自分でも驚くくらいの速さでホロの顎を掴むと強引に自分
の方に向けてから唇を重ねた。目を閉じる寸前にホロが驚くのと同時に視界の端に小さな拳が見
えたが構いはしなかった。
ホロがどんな顔をしているのかは分からないが、口づけの一瞬後にロレンスの頬に触れたものは
小さくても当たれば痛いいつもの拳ではなく、しっとりとやわらかく暖かい掌の感触だった。
暫くその感触を味わってからロレンスが唇を離して目を開けると、ホロはぶるりと身体を震わせ
てからゆっくりと閉じていた目を開けた。口づけの間ずっと止めていたのか大きく息を吐くと、
ロレンスの鼻に甘い香りがほんのりと入ってきた。
「…たわけ。こんな口の減らしかたがあるか」
嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からない顔でそういいながら、ホロはロレンスの頬を優しく撫
でた。
「こんな方法しか思いつかなかったんでな」
言いながら顎を掴んでいた手をホロの手に重ねる。
「ぬしにしては上出来かや…じゃが、あんまりわっちを驚かせんでほしいの」
「…すまん」
ロレンスがそう言うとホロはくふっ、と笑うととびっきりの甘えた顔で囁いた。
「…優しくしてくりゃれ?」
潤んだ瞳でホロが言った言葉。それは二人が初めて出会った時にも聞かされた言葉だった。
あの時ロレンスは身体か固まり確か何も言い返せなかった覚えがある。今も咄嗟に気の利いた台
詞が出てこない。
だが、言うべき言葉は出てこなくてもロレンスは心配はしない。
ホロへの答えを表すのに無理に言葉を使わなくてもいいのだ。
ロレンスは重ねていた手を離しホロの頬に添えると、できる限り優しく口づけをした。
きゅっと閉じられている薄桃色の唇は驚くほどしっとりとして柔らく、そのまま押し付けていれば
溶けてなくなってしまうのではないかと思う程だった。そんな唇の柔らかさを味わっていると、ホ
ロは息が苦しくなったのか顔を横にずらしだした。
口づけの間、鼻息が相手にかかるのが恥ずかしいのだろうか。ロレンスはホロを逃がさぬよう、優
しく頬を押さえながら口を合わせ続けると、やがてホロは諦めたように大人しくすると細く長い息
を鼻から出した。
裸を見られたり身体を抱かれたりは平気なのに、尻尾の付け根や鼻息がかかるのを気にするホロの
恥ずかしさの基準がよく分からない。
重ねていた唇を離すとホロは細い腕で鼻と口を隠してしまった。よほど気になるのか、真っ直ぐロ
レンスに向けられた潤んだ赤い瞳には恥ずかしさと非難の色が混ぜられていた。
そんな目で見るなよ。そう胸中で呟きロレンスがホロの腕を掴んで上にずらすと、何度でも吸い付
きたくなるような唇がまた現れる。
再度、口づけをしようと顔を近づけるとホロがロレンスの髭をそっと触った。
「…くすぐったい」
気にしていたのは鼻息でなく髭だったようで、ホロは髭を触っていた指を自分の鼻の下に当てると
わざと顔をしかめて痒そうに擦りだした。
「慣れるしかないな」
いまさら髭をそるわけにもいかないし、もとよりそんな気も無い。自分では気に入ってるのだ。
ただ、我慢しろ、とは言わない。そう言うとホロの機嫌が傾きそうな気がしたからだ。
ホロは擦る手を止めて、わざとらしく溜息をつくと笑いながら言った。
「くふふ、そうかや。慣れるしかないのかや」
「ああ」
「じゃあ、もっとせんといかんの」
そう言うとホロは目を閉じると自ら顎を上げて唇を差し出してきた。
「そうだな」
ロレンスはそう言いながらも、なるべくホロに髭が当たらぬようにと尖らせた唇を近づける。
わざとぎりぎりで止めるとホロの唇が催促しはじめた。それはまるで赤子が母親の乳を探すようだ
った。ロレンスはそれに舌で応えてみる。今までの口づけではお互い舌は入れていなかった。
伸ばした舌が唇に触れるとホロの動きが止まった。やがて薄く開いた唇の隙間から小さな舌がおず
おずと顔を出す。
ロレンスがそれに自分の舌を絡ませるとホロの口から「あふっ」という声が漏れた。
ホロの舌は触れ合っている肌よりも熱く、そして何故か甘かった。
比喩的な表現ではなく本当に甘い。さっきからホロの息が甘く感じたのはそのせいだったようだ。
ロレンスがその甘さをゆっくりと味わった。それから唇を重ねてホロの舌を自分の口の中に強
く吸い込むと、ホロは驚いたように顔を左右に振ってロレンスの唇を遠ざけた。
息が少し荒いホロがロレンスを見つめてくるが、その瞳には非難めいたものは無くむしろ期待に潤
んでいる。
そんな期待に応えるようにロレンスはまた口をつけた。
擦れあう鼻がよじれるほどの激しい口づけをしながら右手をホロの腰のくびれに置くと、ホロがそ
の手に自分の手を重ねてきた。そのままホロの身体を覆っているシーツの上を滑らせていく。
ロレンスの手が、控えめにシーツを押し上げている胸の膨らみに触れると絡めあっていたホロの舌
が動かなくなった。指でシーツを挟んで下に引っ張ると小さめな乳房とその先端が現れた。
シーツよりも白い肌、そして唇と同じ薄桃色のそれは、今まで何度か見た時よりも綺麗で艶やかに
見える。
ロレンスが周りから寄せるように優しく揉むと、塞がれているホロの口から溜息のような声が漏れ
だした。暫く揉んでいるうちに止まっていたホロの舌が前よりも激しく動きだし、ロレンスの口の
中を弄りだす。いつの間にかロレンスの顔を固定するようにホロの両手がロレンスの頬に添えられ
ていた。
ロレンスが舌をすぼめるとホロはさっきのロレンスを真似するようにその舌を強く吸いだす。
ロレンスは胸を揉む手を休めた。そして白い丘の頂へ蟻の歩みのようにゆっくりと指を這わせる。
ホロはその指の行き先に気づいたようで、指がそこに近づくにつれホロの舌づかいが激しくなった。
指の腹が先端に触れたかと思うとロレンスはいきなりそれを摘み上げた。
「んっっ!」
ホロの細い身体が川魚のように跳ね、その拍子に重ねていた唇が離されてしまう。
横を向いて荒く口で息をするホロを見て、口を責めることを諦めたロレンスの目に留まったのはも
う片方の乳房だった。
ロレンスは迷う事無くその先端を口に含んだ。
「──あふっ!」
身体を反らせながら耐えていたものを吐き出すような声を出すホロ。と同時にロレンスとホロの間
で大人しくしていた尻尾の毛が爆発したかのように膨れ上がった。
ロレンスは驚きながらも口と指を離さない。
舌でその形を確かめるように舐めはじめると、体を反らせた事で危うく消えてしまいそうな胸の膨
らみとは対照的に、その先端は硬く尖りだす。
さらに舌で押し潰したり弾いたりを繰り返すと、ホロは頭を左右に振りながら声を上げだした。
股の辺りがむず痒いのか、腰を浮かせながらしきりに内腿を擦り合わせていた。
「んぁっ…っああ……ん」
ロレンスがもっと若ければ聞いただけで股のものが硬くなってしまいそうな声だ。そんな声を頬を
朱に染めながら濡れた唇から出されれば、男なら誰だって我慢できなくなるだろう。
もちろんロレンスだって例外ではない。
「…下も…弄っていいか」
口に出してから余りにも無粋な問いだと気づきひやりとしたが、ホロは意外にも機嫌を悪くするこ
とも無く小さく頷きながら「…うん」と答えた。
ほっとしたロレンスは右手を下のほうへ滑らせるとシーツ越しにホロの股に手を入れた。
「あうっ…!」ホロが僅かに腰を引く。
指でシーツの皺を伸ばしながら形を探るとシーツが谷間の中に入り込んだ。
そのまま谷の中を指を滑らせると途中で指が引っかかる。さらに深い場所があるのだ。
何度も指でその辺りを弄っているとかすかに甘い香りが漂いはじめ、シーツの生地からねっとりと
したものが滲んできた。ホロが濡れている。
ロレンスがたまらず指を突き入れようとすると、ホロがその手をすばやく掴んで止めた。
驚いてホロを見るともう片方の手で顔を隠している。
「そこは…そこは、まだ早いじゃろ…」
焦るんじゃない、と窘めるようにホロは言う。
経験の足りないロレンスはそう言われると強くは出れない。だがそこが駄目なら他を責めればいい
だけだ。
「じゃあ、こっちはどうだ」
ホロに掴まれたまま濡れた指を上に滑らせる。谷の突き当たりには小さな突起があった。ここが感
じる所ぐらいロレンスだって知っていた。シーツの上から軽く擦るとホロが身体をくねらせた。
「んんっ!…んあっ……んっ…んっ」
声を出しながらロレンスを掴んでいた手を離すと、まるでこれから自分を襲う何かに備えるように
ホロは近くのシーツを力強く握り締めた。
ロレンスはホロの顔を隠している手をどかしその口に舌を入れるとさらに指の動きを激しくする。
その突起自体は潤ってはこないようなので、谷の方から湧き出るものを汲み上げるように指につけ
てから、それを突起に擦り付ける。
何度も行うと湿った布がぴったりと肌に張り付き、ホロの形がはっきりと分かるようになった。
指で挟んだり摘んだりする度にホロの身体が大きくくねり、塞がれた口から漏れる声には粘り気が
混じり始めた。


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