昔、俺には好きな人がいた。

その子はいつも、俺の方を見て泣いていた。

話しかけたくて、話しかけられなかった。





雪幻の血 1~雪の見せた幻~





放課後のある教室。

そこには、男子高生が一人たたずんでいた。

彼、刻丈優思は肘を突いたまま窓の外を見ていた。

降り積もる雪と戯れる高校生たちが、騒いでいる普通の光景。

優思は降り続ける雪を見ながら、彼らを見続けていた。

急に、静かな教室の中に合わぬ機械音が響く。

だが優思はそれに気付かないのか、ただ外を見ていた。



窓の外の彼らが帰り始めると、優思も同じ様に帰ろうとした。

「・・・っ!?冷たっ!」

急に冷たい風が、教室中に広がった。

元々暖房をつけていなかった教室は、更に寒くなる。

優思は冷たい風に驚きながらも、気のせいかと扉に手をかけた。

だが優思触れる直前、扉が氷に覆われてしまった。

それがスイッチのように、教室全体が氷に覆われてゆく。

優思は驚き辺りを見渡した。

すると背後から、笑い声が聞こえた。

「ユーシィ・・・逃げられないよぉ?」

クスクス笑う青年は、そう言うと優思に近づく。

「近づくんじゃねぇよっ!お前がこれやったのかよ!?
 元に戻しやがれゲスッ!」

優思は鞄を青年に投げつける。

その瞬間に床から氷の壁が浮き上がる。

音もなく投げつけた鞄が氷の壁に取り込まれ、沈んでいった。

「アハハッ!ばっかじゃぁーん!
 そんなの効かないって・・・知ってるくせにぃ。」

言い終えた途端、青年の周りに冷たい空気が流れる。

皮膚を突き刺すような、冷たい空気が優思を攻撃する。

それに耐えられず、優思は両肩を抑えながら膝をついた。

「あんなぁーに強かったユーシ、もういないんだぁ。
 つまんなぁい、もういいよぉ。死んじゃえよぉ。」

青年が手を振り上げると、氷の壁がまた浮き上がった。

「じゃぁ・・・サヨナラァユーシィ。」

冷たく青年は言うと、その手を振り下ろす。

氷の壁から氷の槍のようなものが優思を目掛け、一斉に飛んできた。

だがだんだん氷の槍は勢いを失い、優思の目の前で止まった。

瞬間、優思を覆うように女性が姿を現した。

「やめて、火ノ壱依。」

優しくそう青年に投げかけると女性は床に手をつく。

すると、床に魔方陣が浮かび上がり、光が女性と優思を包んだ。

「マリアァァァッ!ユーシをかえせぇっ!」

青年は手を伸ばすが、僅かに届かなかった。

優思はそこで意識を失った
最終更新:2008年02月17日 20:59