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   選ばれた者達    No.15    バクスディと二つの組織 3/3  男はその拳をバクスディに叩きつけていた。背後から襲われたバクスディは、地面に叩きつけられた。すぐに追い打ちを受けないように立ち上がると、相手から離れて向き直った。男は口からよだれを流し、焦点の合わない目でこちらを睨んでいる。  バクスディはすぐによろよろとしてしまった。後頭部への打撃の影響で意識が朦朧としている。 「どうしたんだ? 俺の親父を片付けた時はもっと楽しんでいたんだろ? その残忍さを見せてみろよ」  薄ら笑いを浮かべ、男はバクスディを睨んでいる。バクスディは手元に何か武器になるようなものがないかどうか探したが、銃が一丁あるだけだ。こんな場所で発砲してしまえば誰かに確実に気づかれる。そうしたらこの場所に住んでいることが出来なくなるかもしれない。しかし今はそんなことを気にしている時ではなかった。素早く懐から銃を引き抜くとサマーズに銃口を向けた。そして警告の言葉を言った。 「俺の仕事が何かは知っているな。この銃が唯の脅しでないことも分かるはずだ。……そこを動くなよ」 「……へへへ。そうこなくっちゃな」  サマーズは身をかがめると、そのまま獣のようにバクスディに突進してきた。すかさず銃を足元に向けて発砲する。しかしサマーズの素早い動きに一発目は狙いを外していた。すぐに二発目を放つ。今度は相手の肩口に命中し、血がどくどくと流れるのを確認した。  サマーズはその傷をものともしないように体当たりをしかけると、銃の傷のあるほうの腕でバクスディの銃を持った右腕をねじり上げた。そして本来曲がらない方向へと曲げた。 「何だと?」  ボキリ、という音と共に体を走り抜ける痛みがバクスディを襲った。地面を転げまわり男から離れる。男はバクスディの傷を見て満足そうな表情を見せ、次はどのような苦痛を与えようかと考えをめぐらしているようだった。 「俺の親父、ケーブル・アイの受けた苦痛はこんなもんじゃねえぜ。お前は苦しみぬいて死んでもらわないとな」 「……くそったれ。傷を受けた腕でそれだけの力が出せるなんて。化け物め」  折れた右腕のおかげで先ほどの高頭部への打撃による意識を失うということはなくなっていた。足元を目で追うと、銃はすでに男が拾い上げているところだった。 「こいつが欲しかったのか? 残念だったな。これでお前の武器はもう無い。さっきの爆竹のようなのももうないだろう? ゲームオーバーだ」  確かに手元には武器になるようなものは無かった。身につけている衣服、それと財布くらいのものだ。革のジャケットを脱ごうとしたが、折れた右腕に引っかかりうまく脱ぐことが出来ない。ゆっくりとしゃがみこむと地面に手をついた。肩で息をし、視線をサマーズに向けている。 「お前の行動は読めているぞ。そのジャケットを投げつけて目くらましに使い、ここから逃げようとしているんだろう? 五体満足な状態なら何とかなったかもしれないが、そんな右腕ではどうすることも出来まい。……ん、まだ武器があるのか。薬莢だと?」  バクスディはびくりとした。右腕に絡まったジャケットで足元を隠し、先ほどの二発の銃撃の時の薬莢を密かに拾っていたのだ。気づかれるはずは無かったが、サマーズは見破っていた。 「俺の目はごまかせても鼻はごまかせないぜ。電話先の相手の場所も見つけられるし、相手の思考も嗅ぎ取れるんだからな。その薬莢を使ってどんな手品を見せてくれるんだ?」 「何て奴だ。……お前も俺と同じ特殊な力があったんだな。麻薬の力ではなく、特殊な力が」  バクスディはゆっくりと立ち上がった。行動が読まれてしまうのなら、じっと様子をうかがうのは得策ではない。素早く実行しなければ。右腕の痛みをこらえると、バクスディは一気にジャケットを脱ぎサマーズに向かって投げつけた。サマーズはジャケットを叩き落とすと再び襲いかかろうとした。その時にバクスディは左腕に持っていた薬莢を投げつけた。薬莢はサマーズの足元に落ち、手榴弾のように爆発を起こした。 「な、何故火薬のなくなった弾丸が爆発しやがるんだ?」 「それが俺の特殊な力だからだ。分かったか、化け物」  驚くサマーズの目に飛び込んできたのはもう一発の薬莢だった。顔の中央で爆発を起こすと、その衝撃で地面に倒れた。あまりの熱にやけどを起こし、鼻が効かなくなっていた。 「くそ、キサマ!」  バクスディは必死にその場から逃げ出した。部屋に戻ることは出来ない。鼻の効くサマーズにすぐに気づかれてしまうだろう。それに、すでにクライアントの一味が罠を張っているかもしれない。  ぼろぼろの状態でバクスディは電車を乗り継ぎ、商店街を歩いた。大きめのコートを買い、いびつになった右腕を隠す。再び電車に乗ると、更にサマーズと遭遇した場所、クライアントと接触を持った場所を離れる。そしてある駅でバクスディは電車を降りた。駅周辺にはいくつかのビルがあり、大きな病院は無かったが、外科、内科、小児科など、科ごとの施設がそろっていた。その中から整形外科を探し出すと、バクスディは足を向けた。通りかかる人々に腕は見られていない。  医者に会うと、初めてバクスディは右腕を外にさらした。応急処置も何もしないまま隠しつづけてきていたので、紫色に腫れ上がり、見るも無残な姿だった。 「君、こ、これは重症じゃよ。すぐに手術をしなければ」 「お願いします先生。意識も朦朧としてきました」 「大丈夫じゃ。麻酔もちゃんとかけるからの。そのまま眠ってくれてかまわんぞ」  ようやく気が落ち着くと、バクスディは意識を失い診療台に倒れ込んでいた。診療室はにわかに騒がしくなり医師、看護婦が行き来しだしていたがバクスディはそんなことなど気づく状態ではなかった。  クライアントは報酬の半分を持ってバクスディを見下ろしている。 「この残り半分の報酬は無しだ。この前の前金は死んだ先で使ってくれたまえ」  札束を懐にしまうと、クライアントはその場から立ち去った。  サマーズが目の前に現れた。ベットに体を固定され、身動きの取れないバクスディはなすすべも無かった。首をひねりあげられ、骨を折られる……。  ……クライアントとサマーズが争っている。クライアントはマシンガンを乱射し、サマーズを蜂の巣にしている。サマーズはそれでも一歩一歩クライアントに近づくとついにクライアントを掴んだ。驚異的な力で胸に拳をたたきつける。胸骨の砕ける音がし、折れた骨はクライアントの心臓を串刺しにしていた。そして二人はバクスディの前で重なるように倒れた。  ……闇。バクスディはぼんやりとした意識の中、頭上を見上げていた。深夜の部屋。周りを見渡すと、バクスディの他には誰もおらず、ここは個室のようだった。起きあがろうとしたが、右腕が固定されていて動けない。ベットに設置された器具に右腕のギプスが吊るされている。まいったなと思い、頭を掻こうとすると指に包帯が引っかかった。頭は包帯がぐるぐる巻きにされていた。仕方が無いのでバクスディは再び横になった。先ほどの夢を思い出す。クライアント、サマーズ達は当分はこちらを見つけることはないだろう。しかしこの怪我を早く治さなくては戦うことも逃げることもできない。  まだ朝までは時間があるのでバクスディは再び眠りについた。喉の渇きと空腹感があったが、今は睡眠が一番必要だった。  早朝、看護婦が部屋に入ってくる。バクスディはそれを目で追った。看護婦は窓に寄るとカーテンを開け日の光を部屋に入れた。 「悪いけど、喉が乾いたんだ」  バクスディが声をかけると、驚いて看護婦はこちらを振り返った。 「あら、やっと気がつきましたのね。今、持ってきますよ」  しばらくすると先ほどの看護婦が医師を連れて部屋にやってきた。ベッドの横にトレーをおき、水の入ったコップをバクスディに手渡す。バクスディはそれを一気に喉に流し込んだ。 「おはよう。手術はぎりぎりだったよ。もう少し処置が遅れていたら右腕切断になっていたかもしれん状態だった」 「そんなにひどかったんですか? ありがとうございます」 「うむ、気にせんでいいよ。わしは患者を助けるのが仕事なんじゃからな。骨折の傷はともかく、脳に異常が無かったのは幸いじゃったな。おかげで三日間も意識は戻らんかったんじゃぞ」 「え、三日も?」  バクスディは驚いた。手術が終わったのは昨日とばかり思っていたのだ。 「そんなに意識が無かったんですか? 頭の怪我はどのような……」 「うむ。頭蓋骨にひびが入っておった。幸い、体を動かしたことでそのひびが広がるというほどの大きさではなく、治療も短時間ですんだんじゃが、脳へのショックがあったようじゃの。まあ、細かい検査は後でするとして今は体に栄養を取りなさい」  そして朝食を取り、しばらくして検査を受けた。回復は良好で後遺症が残ることもないということだった。ギプスを着けていれば自由に歩くことも出来る。バクスディはひまになると、フラフラと散歩をして時間を過ごした。医者から出たすぐ目の前に公園があり、まだ平日の昼間の時間帯はほとんど人もいない。時折手ごろな石を拾うと力を込めてみる。ぴりぴりという感覚を左手に感じ、石を投げつけるとそれは軽く爆発を起こした。どうやら力はちゃんと戻っているようだ。 「あら、そんなに運動しては駄目ですよ」  振り返ると整形外科の看護婦がそこに立っていた。 「重症でもないんだ。外の空気を吸っていてもいいでしょう?」 「いけません。まだ骨は完全に治ってないんですよ。ギプスをしている間は安静にしていてください」 「……わかりましたよ」  バクスディはしぶしぶ医者へ戻った。そして個室のベッドに再び横になる。  右腕のギプスを見つめながら考えていた。力を失っていない今、逆に復讐をするチャンスかもしれない。サマーズはこちらの怪我の状態からろくに戦えないものと考えているだろう。そこで全力を出して戦えばサマーズは何とかなるかもしれない。そこで思いが浮かんだ。サマーズの奴も手負いのはずだ。奴もどこかの病院で治療を受けているかもしれない。すると問題はクライアントの連中だな。サマーズの居場所を知らないふりをしていながら、電話口でバクスディの名を口にしたことといい、バクスディとサマーズを会わせたことといい、怪しい点が多すぎる。クライアントの情報能力を持ってすれば、三日も連絡なしの状態でどれほど情報を得ているだろうか。 「これは完治するまでのんびりってわけにもいかなさそうだな……」  この駅周辺の情報はまだほとんど知らないが、あまり人の多い地域ではなさそうだ。ここで決着をつけることになるかもしれない。バクスディは漠然とした考えをもったが、それは確信に近いものに感じられた。  それからは昼間の時間帯には散歩をし、周辺の情報を得ることにした。医者に戻ると雑誌、テレビに目を向けて動向を探る。ケーブル・アイ事件は相変わらず進展がなく、バクスディとサマーズが争ったことも話題にはなっていない。血痕、銃声だけで証拠品などなかったからか。バクスディの革のジャケット、拳銃などは落ちているのかサマーズが持ち去ってしまったのかは定かではなかった。一旦アパートへ戻り武器を持ってきたかったが、危険すぎると判断した。クライアントの手の者がいるかもしれないし、サマーズのあのどんなものでも嗅ぎ付ける鼻を持ってすれば革のジャケットから場所を割り当てることもできるだろう。

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