|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|

ryogan_01

    

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

   旅眼百貨店

   No.1

   序章



 かつて様々な地を飛び回り、数々の不思議な出来事に遭遇し、冒険をしてきた男がいた。
 彼はいくつもの名を名乗っていたが、今は一つの名前、士口吉吉《しぐちよしきち》に落ち着いている。
 若かりし日の冒険で彼は不思議な秘宝や財宝を数え切れないほど手に入れ、今では骨董品屋として隠居生活を送っていた。
 骨董品屋の店長となった男は、ある時出会った若い男の才能に目をつけ、跡を継いでもらおうと考えると店で雇い始めることになる。
 その男に加え、どこからやってきたのかはわからないが、吉吉の助手として頼りになる幼い双子。

 四人を中心にして旅眼百貨店の話は始まる――。



「店長ー、いますかー」
 賑やかな町並みと比べると明らかに違和感の漂う、レトロな雰囲気の店。私は骨董品屋〈旅眼百貨店〉の扉をくぐると店の奥に向かって声をかけた。



 私の名前は桜丘星司《さくらおかせいじ》
 この店の店員として働く人間だ。
 両親は幼い頃に借金返済で首が回らなくなり、遠い親戚に私を預けてどこかへ蒸発してしまった。親戚の面々は私を邪魔者としか見ておらず、ずっと息苦しい生活を強いられてきた。食事はいつも家族が終わった後に一人台所でとっていたし、庭、便所掃除などは例えこちらが忙しい時でも容赦なく頼まれた。親戚一同での外出の時はいつも留守番を任され、帰宅後は居間でくつろぐ親戚達の『おいしいものを食べた』とか『面白い映画だった』とかの会話を延々と聞かされるのだった。
 それでも何とか高校まで卒業させてもらうと、これ以上迷惑はかけられない、これ以上この人達の世話になりたくないと思い家を出てきたのだ。両親が残した僅かな財産は全て親戚が握っていた。自分と親戚の家の貸し借りはこれで無しだ。私は家裁道具、親が一通だけ残した銀行口座など些細な財産を受け取る権利を放棄し、冷めた気持ちを持ちながら一人暮らしを始めていた。

 始めの一年くらいはいくつものバイトを掛け持ちし、家計費に追われる日々だった。中肉中背で学生時代は帰宅部。体力にも腕力にも自信がなく、成績は中くらい。メガネをかけているため、知らず知らずのうちに目つきも悪くなってしまう。親戚の家での居候生活から、遠慮がちな性格が形成され、周りから見れば自信のないおどおどとした男だと見られているだろう。そんな私のやれる仕事といったら限られていたが、一人暮らしはそれほど切迫した状況までは追い込まれてはいなかった。
 そんな時この旅眼百貨店をつけていた。
 住んでいる町は都会とは言えず静かな下町といった雰囲気なのだが、この店はそれでも周囲とは異質な、ある意味人を選ぶような空気を発散していた。
 ちょっと見ただけでは自分には関係ないと考え、足早に通り過ぎてしまう。
 何か琴線に触れるようなものを感じれば、そこへ一歩を踏み出してしまう。

 私は後者だった。
 店の雰囲気に圧倒されてしまい、しばし自分の存在を忘れて魅入ってしまっていた。気づくと扉に手をかけ、店内に足を踏み入れていた。
 見たこともないような数々の展示品。
 しばらくは時間を立つのも忘れて展示品を見るのに没頭していた。古時計、ランプ、筆ペン、皮のカバー冊子、小物入れ(オルゴール?)、西洋東洋古今東西の人形達……。
 その時に店の奥から老人が現れた。白髪の伸びた頭、日焼けで黒くなった顔、目元の深い皺。日本人かどうかも判別できない。その老人はしばらく私を見つめていた。
 高価な展示品の並ぶ店に、こんな貧乏フリーターの姿を見かけて怪しんでいるのだろう。私は何も言えず、動けず、固まってしまっていた。
 しかし、老人は動揺する私に向かって、まず予想も出来ない言葉をかけてきた。
「ふむ……君、ここの店長にならないかね?」

 そんなことから始まった旅眼百貨店での仕事。始めは全くやったことのない仕事に四苦八苦していたが、大変さよりも楽しさのほうが上回っていた。店長・吉吉さんの孫のような二人、有須《ありす》と走也《そうや》には振り回されっぱなしだが、一人暮らしを始めてバイトに追われていた時よりはずっと充実していた。



 いつものように午前中の遅い時間に店に着き、開店の準備を行う。入り口の鍵を開けて店内に入り、照明と空調の確認をして回る。
 そして、〝開店〟の看板を表に出した後、私は店内を見渡したがまだ人の姿は見えなかった。カウンターはがら空きで、レジは開いたままだ。
「まったく、いつも無用心なんだから……」
 私はぶつぶつと文句を漏らしながらカウンター側へ移動するとレジを閉め、店の奥に顔を向ける。

 普段は吉吉さんしか足を踏み入れることが出来ない場所。そこには吉吉さんがかつて若かった頃に世界中を飛び回って手にした秘宝や財宝やらが封印されているという。

 ――ワシは生涯の中で数え切れんほどの冒険をこなしてきた。その中で〈聖杯〉や〈聖棺〉や〈四つのクリスタル〉なんかも集めてきたんじゃ――。

(……もしかして、この奥に?)
 店の中で飾られているもの、ショーウィンドウの中に展示されているものも年代物や価値のありそうなものばかりだったが、〝最重要品〟と呼ばれるようなものはよほどのお客がやってこないと見せることはない。何でも、カウンターの奥には秘密の部屋があり、そこには展示しきれないもの、〝最重要品〟と呼ばれるものが数多く眠っているらしい。
「吉吉さーん、いますかー……」
 私はもう一度声をかけた。しかし、やはり返事はない。しーんと静まり返った店内は自分一人しかいないと実感できた。
(……よーし、チビ達もいないようだしちょっとだけならいいよな)

 足音を立てないように爪先立ちでゆっくりとカウンター奥ののれんをくぐる。
 そこは細い通路になっており、左右に二つづつの部屋がある。吉吉さんと二人のチビの部屋だ。そして、更に奥へ進んだ突き当りには一つの扉が。
 ごくりとつばを飲み込み、扉に手をかける。ゆっくりとノブを回し始めた。

「……せいじさん、何をやってらっしゃるんですか?」
「うわっ!」
 背後から上着を引っ張られる感触。慌てて振り返ると、そこには例のおチビさん、有須が服を掴んでこちらを見上げていた。
 部屋の扉が開かれると、もう一人のおチビさん、走也が私を睨みつけて突進してくる。避けきれずに体当たりを食らうと、そのまま床に倒れてしまう。
「星司! こそこそと何をしてやがるんだよ! お前は泥棒か!」
「ふ、二人とも誤解だよ。私はちょっとトイレに行こうかな、と……」
 倒れている私をジト目で見下ろす二人の子供。
「それで、星司さんはここでどうするおつもりだったんですか?」
 真剣な顔の有須。私はもうごまかしきれなくなっていた。仕方なく白状する。
「……ごめん。吉吉さんがいなかったから、秘密の部屋をちょっと見てみたかったんだ」
「星司、分相応を考えろよ。ここを見ていいのは店長と俺と有須くらいなんだから」
 そう。走也の言う通り、ここは許された者しか入ることを許されていない。まだ仕事を始めて一年足らずの星司が、入ることを許されるはずがない。しかし八歳の双子でも認められているのに、自分はまだ駄目というのは中々悲しい事実だ。

 ゆっくりと立ち上がると、双子の冷たい視線を受けながらカウンターに戻った。幸い、今のどたばたの最中には来客は無かったようだ。吉吉さんがいない間は自分が店番をすることになっている。
「ところでさあ二人とも。店長ってどこ行ったの?」

 私が店番につくと、安心した二人は店内のソファでくつろいでいる。二人は難しそうな本から目を放さずに背後に向かって返事をした。
「俺、聞いてないよ」
「有須は知りませんわ」
 吉吉さんの計画性の無さは今に始まったことではないが、未だに慣れずに振り回されてしまう。



 陽が落ち、夕焼けの光が店内を照らす。
 ゆっくりとした時間の中、走也と有須がぱたぱたと近寄ってくる。
「おい星司、そろそろ腹減ったぞ。何か作れ」
「走也、それが人にものを頼む態度ですか? 星司さん、店番は変わりますから夕食の用意をお願いします」
「はいはいわかったよ二人とも」
 有須は丁寧に言い直したが、結局やって欲しい内容は同じだ。しかしこれには文句を言わずにいた。二人に勝てる数少ない技能の一つだからだ。私は食事の用意に取り掛かった。
 店内には窓際にアンティークなテーブルが用意されている。これは店員が使うプライベートなテーブルだ。吉吉さんのいうところでは随分と価値のあるものらしいが、〝このテーブルは使われてこそ価値がある〟そうだ。

 夕飯の支度が済むと、私は二人に声をかけた。有須は〝閉店〟の看板を出しに表へ、走也は夕飯をテーブルに運ぶ手伝いにかかった。
 まもなく三人はそれぞれの仕事を済ませてテーブルについていた。壁時計を見ると二十一時を回っている。
「店長遅いな……」
 私は四人分の皿を眺めると軽くため息をついた。
 皿にはご飯が盛り付けられ、横には野菜サラダが並んでいる。テーブルの中央には大きな鍋が用意され、甘くて香ばしい匂いを放つシチューが湯気を立てている。
「もう食べようぜ。店長いつになるかわからないし……」
 走也はぶつぶつ言って、スプーンで皿を叩いている。
「行儀が悪いですよ。もう少し辛抱しなさい」
 有須に叱られ、ぶーたれる走也。
 私もそろそろ腹がなりそうだ。

 更に五分ほど待っていただろうか。店の玄関の方からからからと音が鳴ると、夕飯を待ちに待たせた張本人が三人の前に姿を見せた。土埃で汚れたズボンと上着。目深にかぶった帽子。テーブルで待っていた三人はようやく夕飯を食べられると思うと、ほっと顔を緩めていた。
「お前達、いいものを見せてやろう。ほれ、これじゃ」
 店長・士口吉吉は無邪気な笑顔を見せると、手のひらに歪んだガラス玉のようなものを乗せて三人に見せびらかし、さっそく今日の出来事について語りだした。

 ――全くこの人はいつもこうなんだ。
 私は早く食事を食べたかったし、双子も同じ気持ちのようだ。

 そんな中、吉吉さんはまるでこの中で一番若い人間で、話がしたくてうずうずしていたように嬉しそうに語りだした。


更新履歴

取得中です。

アクセス
統計  -
今日  -
昨日  -