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erabare_02

    

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   選ばれた者達

   No.2

   災いの手を持つ少年、ゼダン 2/3



 どれくらい歩いたのか、おそらく時間的にはほんの数分だったろう。黒人の少年の案内で、ゼダンは小さな集会場のような所へたどり着いた。たいして広くない場所に、十人ほどの人間がいた。皆、それぞれが言葉を交わしあい騒いでいる。ゼダンが現れると、沈黙が訪れた。それぞれはまるで値踏みをするようにじろじろとゼダンの姿を見ていた。
「なんだ! 俺がそんなに珍しいのか? じろじろと気味の悪い目で見やがって」
「ちょ、ちょっと、そんな喧嘩腰にならないでよ」
 黒人の少年は慌ててゼダンを押さえようとしたが、ゼダンは少年をその者達の方へ突き飛ばした。
「てめえ、ティエンに何をする!」
 その集団の中の一人、黒人の男は、少年が突き飛ばされるとゼダンに組みかかった。ゼダンは右手の力を使わずに応戦したが、すぐに別の者によって喧嘩は止められた。
「これ、オルロフ。顔を合わしたそうそう喧嘩とは何事じゃ! 君、すまないのう。ここにいる連中は普通の人間を相手にするのは苦手じゃから少し喧嘩っ早いんじゃ」
 ゼダンとその黒人の男が他の者に体を押さえ付けられていると、奥から顔を現した老人にそう言われた。一目見た感じではもう八十は過ぎているような老人で、車椅子に座っている。ゼダンは落ち着くとその老人に話しかけた。
「偉そうに喧嘩を止めてくれてありがとよ。一応危ない目からその子が助けてくれたんで礼は言うぜ。だが俺はあんな化け物なんか知らん。あんた達はあの化け物を知っていそうだが、俺には関係ない」
「おい、いい加減にしろよ。ツェマッハに失礼な言葉を使うな」
 オルロフは体を押さえ付けられたままゼダンを睨んだ。車椅子に座っているツェマッハと言われた老人はオルロフを手で制した。
「今はかまわんよ。まだわしのことを何も知らんからのう。……さて、あの化け物のことじゃが、あいつは化け物ではなく、本当は人間じゃ」
「へっ、胸に人間を丸飲みできるほどのばかでかい口があったんだぜ? あれが人間かよ」
 ゼダンはあきれてツェマッハの言葉に言い返した。ツェマッハはその態度にも構わずに話を続けた。
「まあの。普通の人間ではない。……わしらも、お前さんもな」
「! なんだと?」
「お前さんには普通の人間にはない力がある。ここにいる全員もそうじゃ。わしはこの特殊な力を持った者を悪い道で使うことのないように説いておるんじゃ。あの化け物はその特殊な力を使って悪事を働いている奴じゃ。あのような者のおかげで警察や国はわしらを全て犯罪者と思っておるらしい」
 ツェマッハが話している間に、ゼダンは体を自由にされた。ゼダンはじっとその話を聞いていた。黒人の男はティエンの元へ歩いていった。
「あの化け物のような者も悪いが、国のやり方も許せないものじゃ。お前さんも今までに散々迫害を受けてきたじゃろう? わしはそういった者達を救おうとしているんじゃ」
「確かに俺は周りから迫害を受け、両親にも捨てられたようなものだった。だが俺は自分の力で生きていける。あんたのようなじいさんの力を借りたいとも思わないし、あの化け物みたいになるつもりもない。今回助けてくれたのはありがたいが、それだけだ。じゃあな」
「待て! 今社会に戻ってもつらい生活があるだけじゃ。わしは君のような者を救いたいんじゃ。もう少し話を聞いてくれ」
「待ってよゼダン! ここにいる人達はいい人達ばかりなんだよ!」
「……人の心を読めるらしいな。名前を名乗ってもいないのに。それがお前の力というわけか。ティエンだったか? 今日は危ない所をありがとよ」
 黒人の少年、ティエンもそう言ってひきとめようとしたが、ゼダンはその場を立ち去った。だいぶおしゃべりをしていたからあの化け物ももういなくなっているだろう。

 予想通り地上にはもうあの化け物はいなかった。しかしあの化け物も同じ人間なのか? ゼダンは信じられなかった。もしかしたら自分もああなってしまうのか? そんな考えはいやだった。絶対にあんな化け物と一緒じゃない! 暗く静かな道をゼダンは自分の家に向かって歩いた。あの化け物も、ティエンという少年の仲間も現れなかった。



 それから数日は何も起きなかった。平和な日々が続いていた。ゼダンはたびたびティエン達のことを思い出しては頭から追い出そうとしていた。あんな奴らにはもう関わるつもりはないのに、頭の中ではツェマッハの言葉が響く。いつも通りの生活をしていたが、あの事件以来、町に出るとときおり視線を感じることがあった。ティエンやオルロフといった連中がまたそこらにいてゼダンの様子を探っているように感じていた。
「おい、そこの君」
 ゼダンは声を掛けられると後ろを振り返った。スーツに身を包み、サングラスをしている。両手はポケットに突っ込んだままでゼダンを見下ろすような姿勢でいる。
「君はゼダン、だったね? 少し私にご同行してもらいたいのですが」
「俺になんか用があるのか?」
 スーツの男は懐から警察手帳を取り出した。ゼダンは一瞬驚いたが、このようなことには慣れていた。いつも万引きやスリをしているのだ。警察に捕まらないすべを知っているつもりだった。
「警察が俺に何のようですか? 何かあったんですか?」
 スーツの男は申し訳なさそうに話した。
「ええ。数日前に近くのコンビニで強盗がありましてね。強盗から逃げていく君を見た人がいるんですよ。その時の状況を教えてもらいたいと思いまして」
 ゼダンは、頭の中に思い出したくもない胸に口のある男の姿が浮かんだ。知らないうちに嫌悪感を顔に表していた。スーツの男は同情するようにゼダンを見ていた。
「思い出したくないのは分かります。非情な事件でしたからね。しかし我々警察としても何とか犯人を捕まえたいし、事件を解決したいんですよ。君の身の安全と生活は我々が保証します」
 ゼダンはその言葉に心が動いた。どうせ一人者だし、しばらく警察に厄介になるのもいいかもしれない。食べ物にはしばらくは困らないだろう。しばらく考えた末、その警察という男についていくことにした。スーツの男はゼダンを連れて一つの車の前で止まった。真っ赤な傷一つないオープンカーだ。ゼダンは車に乗るのは久しぶりだった。
「警察官はこんな派手な車に乗るのか?」
「私は私服警官ですよ。服装など自由な所が多いんです」
 大きな騒音をあげ町から離れ、二人を乗せた車は黙々と走っていく。大きな警察署が見えてきたが、車はその前を通り過ぎていった。ゼダンは不思議に思った。
「あれ? ここじゃないのか?」
「そうです。私の勤務している警察署は別の所です……」
 しばらく車は道路を走っていく。だんだんとにぎやかな町並みが消え、到着したのは大きな工場のような所だった。ゼダンはわけが分からずにそびえるような工場を見ていた。
「なあ、ここが警察署なのか?」
 スーツの男はうつむいていた。よく見ると笑っているようだった。
「そうですよ。我々の法のね」
 スーツの男は突然懐から拳銃を取り出すと、ゼダンに突きつけた。
「降りなさい」
 ゼダンは黙ってそれに従った。背中に拳銃の冷たい銃口を突きつけられる。
「……あんた、何者だ?」
 ゼダンはなるべく相手を挑発しないように静かに尋ねた。スーツの男は黙ってゼダンに拳銃を突きつけたまま歩き続けた。
 広い工場の中を歩き続け、事務所のような所へつくと、スーツの男は事務所の中へ呼びかけた。
「アルラ様。ハーウィンです。例の小僧を連れてきました」
「入りなさい」
 事務所に入ったゼダンは言葉を失った。ソファにはあの胸に口のある男が座っていたのだ。胸に口のある男は静かにゼダンを睨んでいる。
「ギプロス。あなたは静かにしていなさい」
 奥から女の声が聞こえた。机に腕を組んでいる女は、髪は真っ赤で長く、唇も真紅の色をしていた。瞳も赤く、爪、指輪などあらゆるものが赤く染まっている。どうやらその女がアルラという名のようだった。
「あんたがこのギプロスから逃げた奴だね。あの時の目撃者は全て殺したんだよ。……お前以外はね」
「俺をどうするつもりだ? 俺を殺しても何にもならないぜ」
 胸に口のある男はゼダンを見るとすぐにでも飛びかかりそうだった。獲物を逃がしたのが耐えられないようだ。赤に染まった女は冷たい目でゼダンを見つめた。
「本当ならあんたをすぐにでも殺してやるんだけどね。……あんたもあたしらと同じ特殊能力者らしいじゃないか。あたしの元で働く気があるなら生かしといてもいいと思うんだがね」
「……そんなことは知らないな」
「小僧! アルラ様に失礼だぞ!」
 スーツの男は拳銃でゼダンの頭を殴りつけた。ソファに倒れると、頭に生暖かいものが流れるのを感じた。血が流れていた。赤に染め上げた女はスーツの男に注意した。
「ハーウィン。そいつはあたしらの戦力になるかもしれないんだ。扱いには気をつけな」
 スーツの男は頭を下げると、ゼダンを起こした。
「おい小僧、どうするんだ? 我々の仲間になるか、それとも死か?」
 ゼダンはうつむいたままぶつぶつと呟いていた。スーツの男はそれを聞き取ろうと頭を下げて耳を近づけた。
「ん? なんて言ってるんだ?」
 ゼダンは男の顔を右手で掴んだ。右手は変形し、男の顔はすっぽりと包まれた。呼吸ができずにもがいている。アルラは黙ったままその様子を見ていた。ゼダンは左手でスーツの男から拳銃をひったくると、アルラに銃口を向けた。
「追いかけてくるなよ。下手に動いたらこいつをぶっ殺してやるからな」
「それがあんたの力かい? 面白いね」
 ゆっくりと後ずさるように事務所を出ようとすると、後ろから頭を殴られた。右手を離してしまうと、ハーウィンは呼吸を取り戻した。何とか後ろを振り返ると、バットを握っている男がゼダンを睨んでいる。ゼダンはよろよろと立ち上がると相手の顔を見た。バットを持っている男はにやにやと笑っている。右手を向けると、指を伸ばして相手の目を潰した。バットを持つ男は突然の反撃にうろたえた。
「う、こ、この小僧が!」
 ゼダンは拳銃を握ったまま体当たりをした。そして相手がよろけている間に表へ走り出した。アルラはようやく立ち上がると部下に命令をした。
「何やっているんだい! さっさと捕まえるんだよ! ハーウィン、ギプロス、ドーソン! 他の奴にも言ってきな!」
 ゼダンは広い工場を出口に向かって走っていた。工場を出れば、そこに車があるはずだ。運転の仕方は知らないが、何とかなるだろう。出口に近づいていくと、四、五人の相手が立ちはだかった。
「逃げられると思うな!」
 一人の男は大声を出した。凄まじい音に両耳をふさぐと、拳銃が粉々になっていた。どうやらこの超音波のような声で破壊されたらしい。ゼダンが武器をなくすと、もう一人が石のようなものを投げてきた。石は空中で突然発火し、ゼダンの服に火がついた。慌てて火をかき消したが、今度は後ろからハーウィン達が近づいてくるのが分かった。ハーウィンが腕を振り回すと、風が巻き上がりゼダンに襲いかかった。ゼダンの頬に鋭い痛みが走ると、血が流れ出した。かまいたちでついたような傷口が開いている。ゼダンは周りを見渡し、囲まれているとさとると頭上を見上げた。十メートルほど頭上が天井になっており、鉄骨が四方に伸びている。右手をロープのように伸ばし、天井の鉄骨を掴む。するすると登っていく間にもハーウィンは風を起こし続けた。ゼダンの体に傷が次々と現れる。痛みをこらえて何とか登り切ると、鉄骨の上を走り出した。下の方では十人以上の追っ手がゼダンを捕まえようと走っている。ゼダンは途中で窓を見つけると、右手をハンマーにしてそれを叩き割った。ガラスの破片が工場に降り注ぎ、ハーウィン達は頭を押さえている。その間にゼダンは窓から脱出し、屋根に登った。大分町から離れているようで、辺りに人の気配はなかった。
「くそ! どこか逃げ道はないのか?」
 屋根をつたって工場の入り口まで行ったが、すでに車はハーウィン達が見張っていた。ふと殺気を感じると、後ろを振り返った。こんなにすぐに追っ手が屋根まで登ってきたのか? しかしそれは人間ではなかった。真紅に染まった髪が蛇のように伸びてきたのだ。髪はまるで眼を持っているように正確にゼダンに襲いかかってきた。ゼダンは髪の毛に捕まると、身体を締め付けられた。髪は次々に増えていき、ゼダンを包んでいく。右手の力は何の役にも立たなかった。締め付けられたまま、ずるずると割れた窓の方へ引っ張られていく。意識も失いかけていた所で急に目の前が暗くなった。頭上に誰かが立っていて、日光を遮っていた。その顔はどこかで見た顔だった。
「ゼダン! なんだか無茶をやったようだな。よりによってアルラの所にいるとは!」
 その黒人の男はオルロフだった。横にはティエンも立っている。オルロフはすぐに腰からナイフを取り出すと、真っ赤な髪を切った。ティエンはオルロフの背中に飛びつく。オルロフはゼダンを抱えると、工場の入り口に向かって屋根を走り出した。
「おい、無駄だぜ。ここは奴らに囲まれているんだ……」
 ゼダンは力無く言ったが、オルロフは構わずにゼダンを抱えたまま走っていた。
「まあ、まかせとけ」
 ゼダンは屋根の端まで来ると、空をきょろきょろと眺めた。足下では追っ手が騒いでいる。
「いたぞ! 早く捕まえろ!」
 オルロフは何かを感じ取ると、屋根から飛び出した。ゼダンはもう終わりだと思ったが、地面に落ちることはなかった。ふと気付くと空を飛んでいた。ゼダンは驚いて眼下を見下ろした。追っ手達がどんどん小さくなっていく。
「ど、どういうことだ?」
 ゼダンが傷の痛みも忘れて尋ねると、オルロフが答えた。
「俺は風の動きを知ることができるんだ。うまい具合にいい風に乗れたわけだ」
「無茶だよゼダンは。あの工場で何をやっているのか知らなかったの? 世間でも騒がれている悪い奴らがいるんだよ」
「……俺は新聞やテレビは見ないからな」
 ゼダンはとりあえず落ち着くことにした。ティエンやオルロフ達に対して冷たい別れ方をしたのに助けてくれたのだ。礼を言うのも恥ずかしかった。
 しばらくするとオルロフは地上に降りた。ティエンはオルロフの背中から飛び降りた。懐からタオルを取り出すと、ゼダンの傷を拭いた。
「ゼダン。追っ手達を巻く為にしばらくうろついてから隠れ家に行くぞ」
「……ああ。すまない」
 すぐに隠れ家に行っては、もし追っ手がいた時にツェマッハ達まで見つかってしまうというので、三人は町に出た。人混みにまぎれ、薬局とハンバーガー店に入った。オルロフのおごりでゼダンは傷を隠し、腹もいっぱいになった。
「後で払ってもらいたいが、今回はおごりだ。遠慮しないで食ってくれよ」
 食事が終わってしばらくすると、ティエンが周りをきょろきょろとした。
「大丈夫。今は敵意の持つ人はいないよ」
「よし、いこう」
 今度はティエンが先頭になり、オルロフとゼダンはそれに続いた。人通りのない路地へ向かうと、マンホールを開けて中へ入る。ゼダンは申し訳ない気持ちを抱いていた。これからツェマッハにあったらなんと言えばいいのだろう? しばらく歩いていくと、明かりが見えてきた。見張りの男はティエンとオルロフを見るとすぐに扉を開けてくれた。奥の部屋ではツェマッハが安堵の表情を浮かべて三人を待っていた。
「おお、オルロフとティエンか。ゼダンも無事なようじゃな」
 ゼダンは何も言えなかった。ツェマッハはすぐにゼダンを奥の部屋に案内した。医療道具が揃っている。そこにいる何人かはゼダンの傷に驚いていた。体中に切られたような傷があるからだ。ツェマッハはそこにいる者達に治療を任せた。
「話は傷を手当してからじゃ。今はゆっくり体を休めるといい」
 ゼダンは気がゆるむと眠気に逆らえずに意識を失った。人のいる場所で眠るのは何年ぶりだろうか……。ゼダンは夢の中で家族のことを思い出していた。


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