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erabare_03

    

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   選ばれた者達

   No.3

   災いの手を持つ少年、ゼダン 3/3



 永い暗闇の中、ゼダンは得体の知れない者に追いかけられていた。真っ暗なその中で、瞳だけが怪しく輝いている。次第にそれはゼダンに追いつき、ゼダンを飲み込んでいく。何の抵抗もできないままゼダンは完全に無くなっていった。完全な無。ゼダンはこの世から消えていた。
 はっとすると、それが夢であるのに気付いた。今までに見たことのない絶望的な夢。全身に汗をかき、息も荒くなっていた。近くにいた少年はその様子を見ると椅子から立ち上がり、そばへ寄ってきた。
「ゼダン、大丈夫? ずいぶん汗をかいているようだけど」
「……大丈夫だ。ただの夢だよ」
 ゼダンは体を起こすと周りを見渡した。窓はなく、天井にある照明だけがこの部屋を明るくしている。ここは地下なのだ。しばらくして意識がはっきりすると、ティエンに導かれて蟻の巣のような地下の通路をツェマッハの待つ集会場まで歩いた。そこではツェマッハが一人静かに目をつぶっている。ティエンはゼダンの前に出ると目の前の老人に声をかけた。
「ゼダンが目を覚ましましたよ」
「おお、そうか。怪我もたいしたことはなかったようじゃな。とりあえずは安心したわい」
「……ありがとう。まさかあの状況で助けてもらえるとは思わなかった」
「これを教訓にこれからは気を付けることじゃ。……もし君がよければここにいてもかまわないんじゃよ。ここにいてくれれば、わしらのような者達がどうやって生きていけばいいか教えてやれるかもしれん。君一人ではまだ危険じゃ」
 ゼダンはこの言葉をじっくりと考えてみた。以前、ツェマッハに言われた時はすぐに飛び出してしまったが、アルラのような力を悪用して生きている者に出会ってしまった今、すぐには拒絶できなかった。しかしすぐに首を縦に振ることもできない。
「気持ちはありがたいが、俺はもう少し一人で考える時間が欲しい。何しろいろんなことがいっぺんに起きてるんで考えがまとまらないんだよ」
 ティエンはその顔を見ると何か言いたそうだったが、ツェマッハはそれを制した。
「無理に強制はせんよ。君がそう言うのならそれもいいじゃろう。じゃがわしらはいつでもここで待っておるぞ」
 ゼダンは軽く頭を下げると、ツェマッハの部屋から出ていった。
「ねえ、ツェマッハ。ゼダンの本当の気持ちは……」
「分かっておる。お前のように心の中が読めなくともな。今はそっとしておくのがいいじゃろう。しかしアルラの動きには気を付けなければならないようじゃな。向こうもゼダンの力に興味を持っているようじゃ……」
 ティエンはゼダンがその場からいなくなってしまってからもいつまでも見つめていた。……ゼダンは怖がっているんだ。アルラ達の力に。そして自分自身に。



 久しぶりに隠れ家に戻ると、ゼダンは念のために部屋中を調べていた。まだ、アルラ達はここには気付いていないようだ。食料、金、盗品の数々が数日前と変わらないようにゼダンを待っていた。それらを床に並べ、大きなリュックを用意した。この隠れ家に未練はない。ゼダンは旅に出るつもりだった。ここでうじうじと考えるよりもそのほうがいいだろうと思っていた。思ったより荷物は多くなく、リュック一つで大体の物は収まった。床にはいくつかの金目の盗品が残っている。これらを売り払って金を手に入れたら出発だ。リュックをベッドの下に押し込むと、ゼダンは眠りについた。悪夢にうなされることもなく、ゼダンは熟睡していた。

 翌日、陽の光で目が覚めると、ゼダンは持っている服の中からまともなものを選び、それに着替えた。あまり汚らしい格好だと、質屋は相手をしてくれない。
 小さなカバンに盗品を詰め込むと、ゼダンは町へ向かった。何人もの人が町中を歩いている。その中に自分のような力を持つ者がいるのだろうか? ふとそう考えていた。何しろ、ここ数日でツェマッハ達やアルラ達という、普通ではない者達に続けて遭遇したからだ。しかし自分の力は発動さえさせなければ、普通の人間と変わることがない。ゼダンはなるべく目立たないように、まわりにとけ込むようにして目的の店まで歩いていた。
 この町にはいくつかの質屋があるが、ゼダンがいつも行っているのは、その中でも小さな所だった。細い道に入り、路地裏のような少し汚い道を歩くと、道から一段下がった階段の向こうに古びた木の扉がある。軽くノックをすると、ゼダンは静かに店内へと入っていった。小さなガラス窓から入る陽の光は、店内の埃によって床まで届くカーテンを作っている。床には薄く埃が積もっている。店の中の棚にはいくつかの品物が並んでいる。壺、シカの首の壁掛け、オルゴール、古びたリボルバーまでがある。それはおそらく飾り物だろう。
「久しぶり。ゼダンだ」
 店の奥に声をかけると、しばらくしてキセルをくわえた中年の男が姿を見せた。髪は所々白髪が混じっているが、まだ力にあふれている。店の中にこもっているとは思えないほど、その肌は日にやけて黒くなっている。
「おう、ゼダンか。久しぶりだな。三ヶ月ぶりってところか?」
「そんな所だな。今日はこれを持ってきたよ」
 ゼダンはそう言うと、カバンを店主に渡した。店主はそれを受け取ると、カウンターに中身を並べ出した。年代物風のライターとナイフ。古びた写真立てに、丸鏡など。店主は一つ一つに無難な値段を付けていった。店主は計算機で合計金額を叩き出すと、ゼダンにそれを見せた。ゼダンは頷いた。
「それと、そのカバンもお願いできるかな」
「これもか? 結構愛用してたんじゃないのか? 結構値打ちものだぜ、これは」
「いいんだ。それも頼むよ」
 ゼダンは更にカバンの代金を受け取ると、店主に礼を言った。
「いつも済まないな。何も言わずに買い取ってくれて」
「こっちは客商売をやってるんだ。そんなことかまわないさ。……ゼダン、お前次はいつ来れる?」
 ゼダンは軽く笑みを浮かべると、店主に返事をした。
「俺、この町から出てしばらく旅をするつもりなんだ」
「そうか……。ようやくこの汚い町から抜け出すってわけか。俺もそのうち町を出るつもりだったが、お前に先を越されちまったな」
「悪いな。やっと考えがついて汚い町から出れてせいせいするよ。あんたも早くここから出な。ここにはろくなもんがねえよ」
「ははっ、確かにそうだな。俺もお前みたいな悪ガキと会えなくなると思うと嬉しいよ」
 店主はそう言って笑うとゼダンの肩を叩いた。店主は何かを思い出したように、後ろを振り返ると、奥へと引っ込んでいった。ゼダンはその姿を見ていると、しばらくして店主は再び姿を見せた。
「ゼダン、旅に出るならこれをやるよ。大事に使いな」
 そう言って渡した物は数日分の食料にはなる金、地図、それと古びて値打ちの無さそうな首飾りだった。
「いいのかい?」
「ああ、かまわねえよ。お前は地図には興味がなかったから多分持ってないだろ? それとこの首飾りは、インディアンの戦士が戦いの時に付けていたと言われている物だ。一見汚らしいから、盗まれることもないだろう。しかしこのお守りは結構不思議な力があるって言われてる」
「それだったらあんたが持っててくれよ」
 店主は再び笑い声を上げた。
「俺にもちゃんとお守りがあるさ。カウボーイのな。そうすりゃ、いつかインディアンのお前を見つけられるって寸法だ」
 ゼダンは笑い出した。店主も一緒に笑っている。しばらくして笑うのを止めると、ゼダンは店主と握手をした。
「いろいろありがとう。あんたのおかげでずいぶんこの町も過ごしやすかったよ。また会おう」
「それはお互い様だ。俺もお前みたいな客がいて楽しかったよ。また会おうぜ、悪ガキ!」
 ゼダンは店を出た。この町で唯一話のできる相手だった。町のあちこちでは、孤児で浮浪者のゼダンを煙たがる。コンビニエンスやスーパーマーケットなどの店員は機械のように仕事をこなすだけで、ゼダンの風貌を見て追い出すことはないが、感情も見せない。そんな中、質屋の店主はゼダンの境遇を気にすることもなく、普通に相手をしてくれたのだった。しかしこの町も今日で見納めだ。ゼダンはゆっくり歩きながら隠れ家へと帰っていった。
 その日は夕方にはゼダンは眠りについた。日の出には出発するつもりだった。



 翌日、天気はあいにくの雨だった。日の出は見れなかったが、空はぼんやりと明るくなってきている。ゼダンはリュックを背負い、雨用のコートを羽織ると隠れ家を出た。町へ向かい、標識を見る。木で作られた矢印形の案内板には、隣町までの方向と距離が書いてある。ゼダンはその中から一番遠くにある町に向かうことにしていた。

 ウエスト・レイン・タウン・四十キロメートル。

 ゼダンは雨が止んだら地図を見るつもりで、とりあえずは案内通りに歩き出した。雨は弱まるどころか、更に強く降り続け、ゼダンの行く手を阻むかのようだった。

 半日ほど歩き続けると、疲れと雨によって体が冷やされたことでゼダンはかなり疲れ切っていた。道にはほとんど人影らしい人はいない、しばらくすると、ようやく前方に一つの建物が見え始めた。どうやらガソリンスタンドのようだ。ゼダンは助かったとばかりに建物に飛び込んだ。ずぶぬれのコートを着たまま、店内をのぞき込む。そこには湯気の立ち上るコーヒーを片手に、一人の男がテレビニュースを見ていた。その男はゼダンに気が付くとコーヒーをテーブルに起き、入り口までやってきた。
「おい、店の中が濡れちまうから、コートはそこのハンガーに掛けてくれないか」
 ゼダンは素直にコートを脱ぐとハンガーに掛けた。そしてリュックを床に置くと、男に近づいた。
「ホットコーヒーを一つ」
「待ってな。すぐに用意するよ」
 男は、コーヒーをカップに注ぎながら外の様子を見ている。雨は当分止みそうにない。スタンドの屋根の下には自分自身の車が一台止まっているだけだ。
 男は今現れたずぶぬれの訪問者の姿を見た。まだ少年だ。バイクには乗れるかもしれないが、車の免許はまだとれないという所だろう。
「お前さん、この雨の中どこから来た? ここは隣町のウエスト・レイン・タウンから二十キロは離れてるんだぜ」
「歩いてきたよ。ウエスト・レイン・タウンの反対の町からね。そうか。これで半分か」
 ゼダンは今までの道のりを思い出していた。雨の中半日歩き続けて半分は距離を稼いだことになる。しばらく休憩すれば、ウエスト・レイン・タウンまでの道のりはそれほどつらく無さそうだ。
「ほう、あの浮浪者の多い町からか。珍しいな。ってことはこれからどうするんだ? ウエスト・レイン・タウンへ行くつもりか?」
「ああ。雨が落ち着くまでここで休ませてもらうよ」
「それはかまわないが、ウエスト・レイン・タウンは危険だぜ。いっちゃ悪いが君のような子供が一人で行くようなとこじゃない」
 ゼダンは興味を持つと、ウエスト・レイン・タウンについて聞いてみた。
「まあ、俺も暇だからおしゃべりに付き合ってやるよ。お前が来た町は〈浮浪者の町〉って言われてるが、ウエスト・レイン・タウンは〈暴挙の町〉って言われてるんだ……」


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