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erabare_23

    

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   選ばれた者達

   No.23

   超能力少女、レクイヤ 2/3



 翌日、母は一向に起きる気配がなかった。大きないびきをかき続けているが、レクイヤの呼びかけには反応しない。仕方なく朝食の用意をし、弟に保育園の支度をさせると、二人で家を出た。先に保育園に寄り、学校へ向かう。
「じゃあ、レクイヤまたね!」
「じゃあねトミー」
 元気な弟に手を振ると、レクイヤは学校へ向かった。レクイヤは一番で教室についていた。教室に足を踏み入れた時、異変に気がついた。腐った食べ物のにおいがする。昨日、掃除をして帰った時はちゃんとごみは捨てたはずだ。教室の後ろのごみ箱を見るが、空っぽだった。窓とガスストーブの隙間を覗いてみる。いつもはそこに紙くずや飲み終わった紙パックのジュースなどが詰め込まれているのだ。そこにもごみはなかった。
 異臭の元が見つからないので、レクイヤはあきらめて自分の席に着いた。いっそう異臭が強くなった。まさか、と思って、机の中をのぞいてみると、そこに残飯が詰め込まれていた。机を傾けると、どろっとした赤茶色の液体が垂れて床に落ちる。うっ、と吐き気がこみ上げてくるのをこらえると、レクイヤはバケツと雑巾を持って洗面所に向かった。水を汲み、教室に戻る。
 汚物の片づけをしていると、他のクラスメイトもぽつぽつと登校してきた。まず朝の挨拶がかわされ、次に異臭が鼻を突いて顔を歪めさせる。誰もレクイヤに声をかけようとはしなかった。そしていつもの三人組が登校してきた。
「おはよー」
「おはよう」
「おはよ……。何か臭くない?」
 ざわざわとした後、レクイヤは三人を睨んだ。三人組も睨み返す。
「あら、レクイヤおはよう。そのバケツと雑巾はどうしたの?」
「あ、レクイヤの机汚いよ! 何かこぼれてるもん」
「汚いわねえ。レクイヤ、今度は何をやってるのよ?」
「……分かってるわよ。こんなくだらないことをやるのはあなた達だってね」
「何を、生意気な……」
 三人組はその言葉に怒ると、レクイヤに掴みかかっていった。レクイヤは床に倒れ、三人から暴行を受けた。他のクラスメイト達も興奮すると、レクイヤ達を遠巻きに囲んで歓声を上げていた。そしてその騒動を聞きつけると、すぐに教師が教室に入ってきた。
「こら、お前達何をやっているんだ! 授業が始まるぞ!」
 三人組はすぐにクラスメイトに紛れ込むと自分の席に戻っていった。レクイヤは一人倒れたままでうずくまっている。
「ほら、お前も。席についておけよ」
 教師の心無い言葉にレクイヤは打ちひしがれ、仕方なく自分の席に戻った。あまりにばたばたしていたので加害者と被害者の区別もつけられないのだろう。その教師が廊下に出て行くと、ほぼ同時に一時限目の教師が教室に入ってきた。授業は何事もなく進められた。

 昼食の時間、食欲のなかったレクイヤは人のあまり来ない中庭の草むらに寝転がっていた。空を見上げると、暖かい日差しの中、虫が集団になって飛んでいる。レクイヤはその霧のような塊の虫達を睨みつけた。霧の一部分がごそりと削れるように草むらに落ちる。一回り小さくなった虫の集団はまだその場所に停滞している。再び睨みつけた。
 何度かそれを繰り返すと、目の前を飛んでいた虫達はいなくなっていた。草むらを見てみると、ゴマをばら撒いたように虫達が落ちていた。
「なんで私にはこんな力があるんだろう」
 レクイヤは立ち上がると、今度は少し離れた場所にある木の枝に精神を集中した。枝はぽきりと折れて地面に落ちた。
 次に上を見上げるようにして木の葉に精神を集中する。葉が風にざわめいて何十枚も飛ばされていった。
 朝の汚物の出来事を思い出す。悔しさがこみ上げてくる。その思いを足元の地面に向けると、ザンッという音と共に地面がえぐれた。レクイヤ一人が軽く埋まってしまうほどの深さの穴がそこに現れ、前方には掻き出された土がぶちまけられている。
 レクイヤは少し落ち着いた後、目の前の穴を見てぞっとしていた。
「なんで、こんな怖い力があるんだろう……」
 レクイヤは予鈴を耳にすると、中庭から教室へ戻った。はっと我に返り、今日はまだ授業が二時間もあると思うと憂鬱になった。

 午後の授業は自習だった。担当の教師が急用で出かけるので、生徒達にはプリントが数枚配られ、提出期限は明日の朝となっていた。あまり難しい問題もなく、ほとんどの生徒が半分ほどの時間で終えてしまい、帰宅していく。レクイヤもすぐに課題を終わらせると、他の生徒と同じように課題を教卓の引き出しに入れる。例の三人組はレクイヤを睨みつけていたが、何もしてはこなかった。レクイヤは三人を無視して帰ることにした。三人組はレクイヤが教室を出るまで睨み続けていた。
 その日も保育園に弟を迎えに行き、一緒に家に帰った。母はいつの間にかいなくなっていた。ダイニングのテーブルにメモが一枚残されている。

 ――ママは仕事があるので出かけます。夕飯は冷蔵庫の中身を適当に食べるように。

 レクイヤと弟は適当に夕飯を済ませると、夜遅くまでテレビを見て両親の帰りを待ったが、夜中になっても両親は戻っては来なかった。待ちくたびれた二人はベッドに入ることにした。
 その日は両親は帰ってこなかった。

 翌日。普段通りに弟を保育園に送り、学校へ向かう。一時限目が始まると、教師は教壇の横の棚から課題のプリントを取り出した。しばらくクラス名簿とプリントを見比べている。そして教師は前に向き直った。
「レクイヤ。課題はどうしたのかな? 提出してないようだが」
「えっ? 昨日ちゃんと出しましたよ」
「そんなこと言っても無いもんは無いんだ。お前も確認してくれるか?」
 レクイヤは頷くと立ち上がり、教壇に向かった。そして教師と一緒にプリントを確認するが、レクイヤの提出した課題は見つからなかった。後ろではくすくすと笑い声が聞こえる。例の三人組だ。
「あなた達がやったのね?」
 レクイヤは振り返ると三人を睨んだ。三人はとぼけた表情をしている。
「何言ってるのレクイヤ? 私は何も知らないわよ」
「クラスメイトを疑うなんて最低よ」
 レクイヤは怒りを必死に抑えていた。教師のいる前、クラスの中で証拠もなしに喧嘩をするわけにもいかない。
「仕方ないな。レクイヤは今日、放課後補習に出てもらおうか」
「そ、そんな先生。夕方は用事があるんです。弟を保育園に迎えに行かないと……」
「だったら補習が終わってからでもいいだろう? さぼることは許されんぞ」
 結局、レクイヤの課題のプリントが無くなったことは原因が分からず、補習を受けることになってしまった。

 掃除が終わり、クラスメイトが全員帰った後、レクイヤは一人残って教師を待っていた。
 もう空も赤くなり始めた夕方、教師はようやく現れる。
「俺も忙しいからな。さっさと終わらせて帰りたいんだ」
「分かってるわ」
 いらいらした教師は教壇に立つと、レクイヤに視線を向けた。レクイヤは教師が怒り出しそうな雰囲気でいることを感じ取ると、少し怖くなっていた。大人は、子供以上に理不尽な怒りによって行動することがよくあるのだ。
「じゃあ、始めるぞ。一足す二は何だ?」
 威嚇するように睨み付けている。レクイヤは幼稚な質問にあきれながらも恐怖に負けないようにすぐに答えた。
「〈三〉よ」
 教師はとんでもないというような表情をし、眉間に血管を浮き上がらせて怒鳴った。
「ふざけんなよ、このガキが! そんな簡単な問題を出すと思うか? もっと考えてから答えろよな! 一つのグラスに二杯のジュースを入れたって、グラスは一つのままだろう? 答えは〈一〉なんだよ!」
 教師は振り上げた拳をレクイヤに見舞った。その衝撃で椅子から転げ落ち、レクイヤは床に倒れた。口の中を切ってしまい、鉄の味がじわりと広がった。口元を拭うと赤い血が手の甲に着く。すぐに教師は首根っこを掴むと、椅子を元に戻して同じように座らせた。
「……ご、ごめんなさい」
「あやまる暇があるんならもっと頭を使うんだ、このガキめ。お前なんかの補習に付き合わされる俺の立場も考えられないのかよ!」
 ドン、と拳を机に打ち付ける。レクイヤは泣き出しそうになるのを必死にこらえていたが、体の震えは止まらない。
「よし、では次の問題だ。一足す一は?」
「……」
 すぐに答えることができない。何が答えなんだろう? 教師の説明からはどんな状況での問題かは見当もつかなかった。単純に答えることができず、時間だけが冷や汗と共に過ぎていく。
「……おい、いつまで考えてるんだよ? こんな簡単な問題、時間をかけるのも馬鹿らしいと思わねえのか!」
 パーンという乾いた音が教室に響く。教師の放った平手打ちがレクイヤの頬を真っ赤にしていた。レクイヤはどもりながら答えた。
「こ、答え、は、い、〈一〉です。一つのグ、グラスにい、一杯のジュースをい、入れたから……」
 教師の顔は怒気を含んだままだった。突然立ち上がると体を震わせている。
「馬鹿野郎! また間違えやがって! 一つのジュースしかなかったので別のジュースを用意したんだよ! だから今は二種類のジュースがある。〈二〉が答えになるに決まってるだろうが!」
 立ち上がっていた教師はレクイヤの机を蹴りつけた。机と椅子に挟まれたまま、レクイヤは床に倒れ込んでしまう。起き上がろうとしたが、教師はひっくり返った机に足を乗せ、体重をかけてレクイヤを押し潰そうとしていた。
「く、苦しい……。せ、先生やめて……」
「止めろだあ? お前の為に特別に補習してやってる俺に対して言う言葉か? お前は黙って真面目に勉強すればいいんだよ! これは勉強ができないお前に対しての愛の鞭だってのがわかんねえのか!」
 そのうちに教師も肩で息をし始めた。レクイヤ相手にむきになり、疲れてきた自分がばかばかしくなってきた。レクイヤの顔につばを吐くと、教師は教室を出て行こうとした。
「じゃあ、俺はもう帰るぞ。散らかった机はちゃんと元に戻して、宿題はここでやっていくんだな。真面目にやれば馬鹿なお前でも一時間くらいだろう。それと俺のことを親や学校に悪く言うんじゃねえぞ。分かったな?」
「は、はい……」
 レクイヤは消え入りそうな声で答えた。教師は満足そうににやりと笑うと、すっかり夕方になった町へ向かって帰っていった。レクイヤはしばらく倒れたまま、声を出さずに肩を震わせながら泣いていた。


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