「レッド」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

レッド」(2006/08/17 (木) 17:47:56) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「征くぞ、レッドォォォォッ!!」  怒号一閃。  瓦礫を踏みしめ、空を駆ける。  崩壊を続けるビルは、視界を阻むように砂埃を生み出している。  瞳に映し出されるのは白く濁った空間だけ。  だが、必要無い。  眼など見えなくとも、レッドの圧倒的な存在感が、俺に位置を知らせてくれている……! 「来るか、庄家栄一!」  だが、それは相手も同じだ。  白塵の向こう。暗闇にも似た層の向こう側に、俺を見据えている。  詰まる間合い。  繰り出される一撃。  爆ぜる衝撃。  激突した二つの拳が、充満した瓦礫の屑を吹き飛ばす。  白塵が消え去り、視界が生まれる。  そこに在ったのは、相対する双眸。  伝わってくる。  奴の射殺さんばかりの視線。  腕の芯をを伝わってくる、電撃じみた振動。  そして、放たれている殺意が、語っている。  ――これが、友情なのだと。  戦場でしか認めることのできない、認められることのない、存在。  それが、俺たちの望んだ結果であり、末路。  だから――お前を殺す、と。 ----  生ぬるい風の吹く8月の夜空に、月が雲に隠れている。視線を少し落とせば、星の輝きを消さんばかりに眩い摩天楼群のライトが見えた。  繁華街から程良く離れた夜の埠頭。その貸倉庫が並ぶ一角に、俺は来ていた。  こんな人気の無い場所に来たのには、理由がある。宿敵に呼び出されたのだ。  奴からの「果たし状」を受け取ったのは、昨日の朝であった。社員寮の安アパートのポストに、ひっそりと突っ込まれていたのだ。それは宛名に「庄家栄一殿へ」と、中には「果たし状。明日の午後10時、西埠頭のYB倉庫で待つ。一人で来られたし」とだけ、墨痕鮮やかに記されていた。  差出人の名前は無かった。だが、こんな時代錯誤なマネをするのは、世界に一人しかいまい。――間違いようも疑いようもなく、あの大馬鹿レッドだけだ。 「YB倉庫……間違いなく、ここだな」  ポケットから件の「果たし状」を取り出し、場所を確認する。ついでに腕時計も確認。あと2分といったところか。 (――先輩、すいません)  心の中で、小さく謝る。今回の決闘は、誰にも告げていなかった。告げられなかった。  誰かに告げれば、行くのを止められるか、あるいは何らかの罠を仕掛けてレッドを抹殺しようとするだろう。合理的に考えれば、当然のことだ。何も敵の誘いにまんまと乗ることは無い。  だがそれだけに、この決闘を邪魔することは許せなかった。俺の信じた正義のためにも、奴の信じる正義のためにも、それは許されない行為だ。如何に重大な規律違反であろうと、俺はこの決闘に赴かねばならない。幾度と無く激突し、そのたびに死闘を繰り広げてきた、俺と奴の奇妙な因縁に決着をつけるために。互いの正義をぶつけ合ってきた俺たちの、決着をつけるためにも。  果たし状を受け取ってからの二日間、俺は挙動不審だった。実際、上司のアポロガイス子先輩にはそれを指摘されていた。察しの良い先輩のことだ、もしかすると俺が何をするつもりか感づいていたかも知れない。いや、察しが良いどころか超人的な勘の良さを持つあの人だから、確実に感づいていただろう。  だが、それでも先輩は何も言わずに送り出してくれた。  だから、俺はこの誘いに真正面から乗る。そして、勝つ。俺の信じる正義のために。俺を信頼して送り出してくれた、あの人のために。 「――ぅオシ!」  倉庫の前で、小さく気合を入れる。  気を引き締め、倉庫の鉄扉を開けた。錆びた鉄が軋む耳障りな音を響かせつつ、ドアが開く。人一人が通れるだけの幅が開くと、俺は意を決して中に入った。 「良く来たな」  がらんとした倉庫の中央に、奴はいた。今までに限りない死闘を繰り広げた、俺の宿敵――赤木一真(あかぎ・かずま)。いつもの奴からは信じられないくらいに落ち着いた様子だが、その実、今までに無かったほどの闘気を感じる。 「……」  俺は何も答えない。視線を奴に向けたまま、後ろ手に扉を閉める。その間に、内蔵したセンサーを稼動させ、伏兵や罠を探る。――結果、共に可能性無し。 「今回は、仲間は置いてきた。罠も仕掛けていない」  奴の言葉が、俺の調査結果を裏付ける。敵ながらも、奴は筋の通った男だ。今の言葉は、信用に値するだろう。 「……そうか」  短く、俺は答える。本当はもう少し気の利いたことを言いたかったが、うまい言葉が出てこなかった。……いや、俺と奴との間に、もはや言葉は必要ないのだろう。言葉でどうにかできるような段階は、もはや過ぎ去っている。  必要があるとすれば、この因縁に対する終止符だけだ。 「……行くぞッ!」 「……応ッ!」  俺は覚悟を決めると、いつもの構えを取る。同じタイミングで、奴も身構えた。 「変ッッッ……:身ッ!!!」 「ブレェェェイズッ! アァァァップ!!」  変身に伴う衝撃の余波が、がらんとした倉庫内を疾走する。柱が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。 そして、その振動が収まった頃。  そこには、変身を終えた、俺と奴がいた。 「行くぞ、レッド――!」 「来い、ロードファング!!」
作:SSライター 力の二号 ◆u7IV4.RZno  生ぬるい風の吹く8月の夜空に、月が雲に隠れている。視線を少し落とせば、星の輝きを消さんばかりに眩い摩天楼群のライトが見えた。  繁華街から程良く離れた夜の埠頭。その貸倉庫が並ぶ一角に、俺は来ていた。  こんな人気の無い場所に来たのには、理由がある。宿敵に呼び出されたのだ。  奴からの「果たし状」を受け取ったのは、昨日の朝であった。社員寮の安アパートのポストに、ひっそりと突っ込まれていたのだ。それは宛名に「庄家栄一殿へ」と、中には「果たし状。明日の午後10時、西埠頭のYB倉庫で待つ。一人で来られたし」とだけ、墨痕鮮やかに記されていた。  差出人の名前は無かった。だが、こんな時代錯誤なマネをするのは、世界に一人しかいまい。――間違いようも疑いようもなく、あの大馬鹿レッドだけだ。 「YB倉庫……間違いなく、ここだな」  ポケットから件の「果たし状」を取り出し、場所を確認する。ついでに腕時計も確認。あと2分といったところか。 (――先輩、すいません)  心の中で、小さく謝る。今回の決闘は、誰にも告げていなかった。告げられなかった。  誰かに告げれば、行くのを止められるか、あるいは何らかの罠を仕掛けてレッドを抹殺しようとするだろう。合理的に考えれば、当然のことだ。何も敵の誘いにまんまと乗ることは無い。  だがそれだけに、この決闘を邪魔することは許せなかった。俺の信じた正義のためにも、奴の信じる正義のためにも、それは許されない行為だ。如何に重大な規律違反であろうと、俺はこの決闘に赴かねばならない。幾度と無く激突し、そのたびに死闘を繰り広げてきた、俺と奴の奇妙な因縁に決着をつけるために。互いの正義をぶつけ合ってきた俺たちの、決着をつけるためにも。  果たし状を受け取ってからの二日間、俺は挙動不審だった。実際、上司のアポロガイス子先輩にはそれを指摘されていた。察しの良い先輩のことだ、もしかすると俺が何をするつもりか感づいていたかも知れない。いや、察しが良いどころか超人的な勘の良さを持つあの人だから、確実に感づいていただろう。  だが、それでも先輩は何も言わずに送り出してくれた。  だから、俺はこの誘いに真正面から乗る。そして、勝つ。俺の信じる正義のために。俺を信頼して送り出してくれた、あの人のために。 「――ぅオシ!」  倉庫の前で、小さく気合を入れる。  気を引き締め、倉庫の鉄扉を開けた。錆びた鉄が軋む耳障りな音を響かせつつ、ドアが開く。人一人が通れるだけの幅が開くと、俺は意を決して中に入った。 「良く来たな」  がらんとした倉庫の中央に、奴はいた。今までに限りない死闘を繰り広げた、俺の宿敵――赤木一真(あかぎ・かずま)。いつもの奴からは信じられないくらいに落ち着いた様子だが、その実、今までに無かったほどの闘気を感じる。 「……」  俺は何も答えない。視線を奴に向けたまま、後ろ手に扉を閉める。その間に、内蔵したセンサーを稼動させ、伏兵や罠を探る。――結果、共に可能性無し。 「今回は、仲間は置いてきた。罠も仕掛けていない」  奴の言葉が、俺の調査結果を裏付ける。敵ながらも、奴は筋の通った男だ。今の言葉は、信用に値するだろう。 「……そうか」  短く、俺は答える。本当はもう少し気の利いたことを言いたかったが、うまい言葉が出てこなかった。……いや、俺と奴との間に、もはや言葉は必要ないのだろう。言葉でどうにかできるような段階は、もはや過ぎ去っている。  必要があるとすれば、この因縁に対する終止符だけだ。 「……行くぞッ!」 「……応ッ!」  俺は覚悟を決めると、いつもの構えを取る。同じタイミングで、奴も身構えた。 「変ッッッ……:身ッ!!!」 「ブレェェェイズッ! アァァァップ!!」  変身に伴う衝撃の余波が、がらんとした倉庫内を疾走する。柱が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。 そして、その振動が収まった頃。  そこには、変身を終えた、俺と奴がいた。 「行くぞ、レッド――!」 「来い、ロードファング!!」

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: