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ブラック」(2006/08/23 (水) 16:28:06) の最新版変更点

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シナリオ 技の一号 ◆maDANNSTIo  デートはつつがなく進む。俺とクロエは商店街にやってきた。 「栄兄ィ」 「なんだ?」 「俺、この帽子が欲しい」  クロエは店先の野球帽を指して言う。どうしよう。買ってやろうかな? 「よし。『俺』って一人称を止めたら買ってやろう」 「なんでだよー」 「なんでもだ。女のくせに『俺』なんて言うな」  するとクロエは――昔の通り――顔を真っ赤にして怒り出した。 「『女のくせに』ってなによ! 俺が俺って言って何が悪い!?」  にらみ合って……どちらからともなく笑いあう。 「まったく。栄兄ィってば、変なところで古いんだよなぁ」 「お前こそ。本当に変わってねーなー」 「……あ」  そう口にした途端、クロエは黙り込んだ。なぜだ? その瞳が悲しそうに揺れている。  一歩歩み寄ろうとした、そのとき、轟音と振動が俺たちを揺さぶった。振り返ると、すぐそこの銀行が爆破され、煙を吐いていた。 「ゲフェフェフェフェー!」  中から奇妙な人影が現れた。その姿に見覚えがある。あれは…… 「ムカデ怪人!?」  背中に金庫をしょっている。バカな、こんな作戦、聞いていない! 『ポッポー! ポッポー! ポッポー!』  内ポケットの携帯が、いつもと違う着信音で鳴った。  緊急コール。無制限の変身が許された合図だ。 (やはりこの作戦、予定外か!)  悔しさに歯噛みする。力を悪用しようとする同僚がいる事実が、組織が一枚岩では無くなっているのが、悔しくてたまらなかった。  いや、今は迷うときではない。俺はどこかで変身しようと歩き出し―― 「栄兄ィ」 「えっ!?」 ――突然、呼び止められた。 「俺、言わなきゃいけないことがあるんだ」 「はぁ? こんな時に?」  露骨に呆れた顔をしてやる。なのにクロエは真剣な顔で言葉を続けた。 「さっき、お袋さん元気かって聞いたよね?」 「ああ」 「母さんは死んだ……カメレオンの化け物にやられた」 「は?」  声が出なかった。死んだ? お母さんが? 理解できない頭の上を、彼女の言葉が滑っていく。 「その時、俺も重傷を負った。それを助けてくれたのが赤木さんだった」 「赤木!?」  クロエ、どうして赤木を知っているんだ? お前は何を言っているんだ? 頭の中で最悪と最低がくっ付いて、一つのパズルを完成させていく。クロエは言葉を区切り、あの男と同じ構えを取った。 「ブラック・タイド!」 「っく、変身ッ!」  背筋で感じとった殺意に体が動く。お互いの変身エネルギーがぶつかり合い、渦を巻く。俺は立っていることもできずに吹き飛ばされた。  受身を取って立ち上がる。そこには漆黒の殺意があった。 「もう俺はクロエであってクロエじゃない。機械の体に生まれ変わった」 「クロエ……」  彼女は両手に持ったナイフを振りかぶった。切っ先は鋭く、濡れたように黒い。 「栄兄ィ…どうして? 本当に、兄貴みたいだと思ってたのに!」 「クロエェェェェッ!!」  クロエ、いや、ブラックが走る。視界の隅ではムカデ怪人が、あざ笑うように体をくねらせていた。
 デートはつつがなく進む。俺とクロエは商店街にやってきた。 「栄兄ィ」 「なんだ?」 「俺、この帽子が欲しい」  クロエは店先の野球帽を指して言う。どうしよう。買ってやろうかな? 「よし。『俺』って一人称を止めたら買ってやろう」 「なんでだよー」 「なんでもだ。女のくせに『俺』なんて言うな」  するとクロエは――昔の通り――顔を真っ赤にして怒り出した。 「『女のくせに』ってなによ! 俺が俺って言って何が悪い!?」  にらみ合って……どちらからともなく笑いあう。 「まったく。栄兄ィってば、変なところで古いんだよなぁ」 「お前こそ。本当に変わってねーなー」 「……あ」  そう口にした途端、クロエは黙り込んだ。なぜだ? その瞳が悲しそうに揺れている。  一歩歩み寄ろうとした、そのとき、轟音と振動が俺たちを揺さぶった。振り返ると、すぐそこの銀行が爆破され、煙を吐いていた。 「ゲフェフェフェフェー!」  中から奇妙な人影が現れた。その姿に見覚えがある。あれは…… 「ムカデ怪人!?」  背中に金庫をしょっている。バカな、こんな作戦、聞いていない! 『ポッポー! ポッポー! ポッポー!』  内ポケットの携帯が、いつもと違う着信音で鳴った。  緊急コール。無制限の変身が許された合図だ。 (やはりこの作戦、予定外か!)  悔しさに歯噛みする。力を悪用しようとする同僚がいる事実が、組織が一枚岩では無くなっているのが、悔しくてたまらなかった。  いや、今は迷うときではない。俺はどこかで変身しようと歩き出し―― 「栄兄ィ」 「えっ!?」 ――突然、呼び止められた。 「俺、言わなきゃいけないことがあるんだ」 「はぁ? こんな時に?」  露骨に呆れた顔をしてやる。なのにクロエは真剣な顔で言葉を続けた。 「さっき、お袋さん元気かって聞いたよね?」 「ああ」 「母さんは死んだ……カメレオンの化け物にやられた」 「は?」  声が出なかった。死んだ? お母さんが? 理解できない頭の上を、彼女の言葉が滑っていく。 「その時、俺も重傷を負った。それを助けてくれたのが赤木さんだった」 「赤木!?」  クロエ、どうして赤木を知っているんだ? お前は何を言っているんだ? 頭の中で最悪と最低がくっ付いて、一つのパズルを完成させていく。クロエは言葉を区切り、あの男と同じ構えを取った。 「ブラック・タイド!」 「っく、変身ッ!」  背筋で感じとった殺意に体が動く。お互いの変身エネルギーがぶつかり合い、渦を巻く。俺は立っていることもできずに吹き飛ばされた。  受身を取って立ち上がる。そこには漆黒の殺意があった。 「もう俺はクロエであってクロエじゃない。機械の体に生まれ変わった」 「クロエ……」  彼女は両手に持ったナイフを振りかぶった。切っ先は鋭く、濡れたように黒い。 「栄兄ィ…どうして? 本当に、兄貴みたいだと思ってたのに!」 「クロエェェェェッ!!」  クロエ、いや、ブラックが走る。視界の隅ではムカデ怪人が、あざ笑うように体をくねらせていた。

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