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アポロガイス子」(2006/08/13 (日) 18:14:43) の最新版変更点

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「征くぞ、レッドォォォォッ!!」  怒号一閃。  瓦礫を踏みしめ、空を駆ける。  崩壊を続けるビルは、視界を阻むように砂埃を生み出している。  瞳に映し出されるのは白く濁った空間だけ。  だが、必要無い。  眼など見えなくとも、レッドの圧倒的な存在感が、俺に位置を知らせてくれている……! 「来るか、庄家栄一!」  だが、それは相手も同じだ。  白塵の向こう。暗闇にも似た層の向こう側に、俺を見据えている。  詰まる間合い。  繰り出される一撃。  爆ぜる衝撃。  激突した二つの拳が、充満した瓦礫の屑を吹き飛ばす。  白塵が消え去り、視界が生まれる。  そこに在ったのは、相対する双眸。  伝わってくる。  奴の射殺さんばかりの視線。  腕の芯をを伝わってくる、電撃じみた振動。  そして、放たれている殺意が、語っている。  ――これが、友情なのだと。  戦場でしか認めることのできない、認められることのない、存在。  それが、俺たちの望んだ結果であり、末路。  だから――お前を殺す、と。 ----  生ぬるい風の吹く8月の夜空に、月が雲に隠れている。視線を少し落とせば、星の輝きを消さんばかりに眩い摩天楼群のライトが見えた。  繁華街から程良く離れた夜の埠頭。その貸倉庫が並ぶ一角に、俺は来ていた。  こんな人気の無い場所に来たのには、理由がある。宿敵に呼び出されたのだ。  奴からの「果たし状」を受け取ったのは、昨日の朝であった。社員寮の安アパートのポストに、ひっそりと突っ込まれていたのだ。それは宛名に「庄家栄一殿へ」と、中には「果たし状。明日の午後10時、西埠頭のYB倉庫で待つ。一人で来られたし」とだけ、墨痕鮮やかに記されていた。  差出人の名前は無かった。だが、こんな時代錯誤なマネをするのは、世界に一人しかいまい。――間違いようも疑いようもなく、あの大馬鹿レッドだけだ。 「YB倉庫……間違いなく、ここだな」  ポケットから件の「果たし状」を取り出し、場所を確認する。ついでに腕時計も確認。あと2分といったところか。 (――先輩、すいません)  心の中で、小さく謝る。今回の決闘は、誰にも告げていなかった。告げられなかった。  誰かに告げれば、行くのを止められるか、あるいは何らかの罠を仕掛けてレッドを抹殺しようとするだろう。合理的に考えれば、当然のことだ。何も敵の誘いにまんまと乗ることは無い。  だがそれだけに、この決闘を邪魔することは許せなかった。俺の信じた正義のためにも、奴の信じる正義のためにも、それは許されない行為だ。如何に重大な規律違反であろうと、俺はこの決闘に赴かねばならない。幾度と無く激突し、そのたびに死闘を繰り広げてきた、俺と奴の奇妙な因縁に決着をつけるために。互いの正義をぶつけ合ってきた俺たちの、決着をつけるためにも。  果たし状を受け取ってからの二日間、俺は挙動不審だった。実際、上司のアポロガイス子先輩にはそれを指摘されていた。察しの良い先輩のことだ、もしかすると俺が何をするつもりか感づいていたかも知れない。いや、察しが良いどころか超人的な勘の良さを持つあの人だから、確実に感づいていただろう。  だが、それでも先輩は何も言わずに送り出してくれた。  だから、俺はこの誘いに真正面から乗る。そして、勝つ。俺の信じる正義のために。俺を信頼して送り出してくれた、あの人のために。 「――ぅオシ!」  倉庫の前で、小さく気合を入れる。  気を引き締め、倉庫の鉄扉を開けた。錆びた鉄が軋む耳障りな音を響かせつつ、ドアが開く。人一人が通れるだけの幅が開くと、俺は意を決して中に入った。 「良く来たな」  がらんとした倉庫の中央に、奴はいた。今までに限りない死闘を繰り広げた、俺の宿敵――赤木一真(あかぎ・かずま)。いつもの奴からは信じられないくらいに落ち着いた様子だが、その実、今までに無かったほどの闘気を感じる。 「……」  俺は何も答えない。視線を奴に向けたまま、後ろ手に扉を閉める。その間に、内蔵したセンサーを稼動させ、伏兵や罠を探る。――結果、共に可能性無し。 「今回は、仲間は置いてきた。罠も仕掛けていない」  奴の言葉が、俺の調査結果を裏付ける。敵ながらも、奴は筋の通った男だ。今の言葉は、信用に値するだろう。 「……そうか」  短く、俺は答える。本当はもう少し気の利いたことを言いたかったが、うまい言葉が出てこなかった。……いや、俺と奴との間に、もはや言葉は必要ないのだろう。言葉でどうにかできるような段階は、もはや過ぎ去っている。  必要があるとすれば、この因縁に対する終止符だけだ。 「……行くぞッ!」 「……応ッ!」  俺は覚悟を決めると、いつもの構えを取る。同じタイミングで、奴も身構えた。 「変ッッッ……:身ッ!!!」 「ブレェェェイズッ! アァァァップ!!」  変身に伴う衝撃の余波が、がらんとした倉庫内を疾走する。柱が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。 そして、その振動が収まった頃。  そこには、変身を終えた、俺と奴がいた。 「行くぞ、レッド――!」 「来い、ロードファング!!」
「こうなってよかったのかも知れんな」 白煙が立ち上る部屋の中、アポロ様は静かにそう呟いた。 「前首領様が亡くなった時に私が諦めておけば良かったのだ。それを私があの小さな子を首領にしてまで…」 自嘲気味に笑みを浮かべる。俺はその肩に手を伸ばそうとして…止めた。 「だがこうして皆、私達を残して避難していった。そして私がここで死ねばそれで終いだ。我社には統率する能のある者はいない」 分を弁えろ、彼女がどんな存在であるか思い出せ。 俺の目の前で、アポロ様が、俺の上司が、悪の女幹部が、鉄の女と呼ばれた人が、俺の愛した彼女が――泣いている。 「栄一、お前も私に付き合うことは無いぞやつらが来る前に早く逃げろ」 なら俺は何だ? 分を弁えて、俺はどうするべきなんだ? 俺は庄家栄一で、新人社員で、悪の戦闘員で、なんの取り柄もないけど…好きな女の涙を見過ごせるような甲斐性無しではないつもりだ。 だから、俺は… 「行きます」 「ああ、さよならだ」 アポロ様は諦めたように笑っている。その笑顔が酷く悲しい。俺は貴女にそんな顔をして欲しく無いんです。 「…おい、栄一。そっちは出口では無いぞ」 訝しげなアポロ様の声に振り向くことなく、扉の方を向いたまま応対する。 「俺が奴らを引き付けます、アポロ様はその間に培養怪人の用意を」 「な――っ!  何を言っているのだこのたわけが! 誰がそんな事を言った! 私一人でいい、誰もこれ以上巻き込もうとは思っていない…!」 アポロ様は泣いている。涙を流す事なく泣いている。 だったら俺はそれを止める手伝いをするだけだ。 「決戦用の虎の子が二つあるらしいじゃないですか。どうせですし、それも使っちまいましょう。  俺だって実はドクに色々改造して貰ってるし、並の怪人くらいの働きはできるつもりです。  二人で、奴らに一泡ふかせてやりましょう」 言いたいことを言って、俺はさっさとドアを開けて言ってしまう もうアポロ様は何も言わない。そのことに安心しながらも、一抹の淋しさを覚えていた。 俺は後ろでに扉を閉めて、こ少しの間にすっかりお馴染みになってしまった言葉を静かに唱えた。 「イクイップ」 一瞬の後、そこにはもう庄家栄一はいない。そこにいるのは、仮面ライダーにはなり得ない一人の戦闘員が立っているだけ。 さあ決戦だ。さっさと終わらせて、彼女と行きつけの店に行こう―――

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