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作:SSライター 力の二号 ◆u7IV4.RZno

 生ぬるい風の吹く8月の夜空に、月が雲に隠れている。視線を少し落とせば、星の輝きを消さんばかりに眩い摩天楼群のライトが見えた。
 繁華街から程良く離れた夜の埠頭。その貸倉庫が並ぶ一角に、俺は来ていた。
 こんな人気の無い場所に来たのには、理由がある。宿敵に呼び出されたのだ。
 奴からの「果たし状」を受け取ったのは、昨日の朝であった。社員寮の安アパートのポストに、ひっそりと突っ込まれていたのだ。それは宛名に「庄家栄一殿へ」と、中には「果たし状。明日の午後10時、西埠頭のYB倉庫で待つ。一人で来られたし」とだけ、墨痕鮮やかに記されていた。
 差出人の名前は無かった。だが、こんな時代錯誤なマネをするのは、世界に一人しかいまい。――間違いようも疑いようもなく、あの大馬鹿レッドだけだ。
「YB倉庫……間違いなく、ここだな」
 ポケットから件の「果たし状」を取り出し、場所を確認する。ついでに腕時計も確認。あと2分といったところか。
(――先輩、すいません)
 心の中で、小さく謝る。今回の決闘は、誰にも告げていなかった。告げられなかった。
 誰かに告げれば、行くのを止められるか、あるいは何らかの罠を仕掛けてレッドを抹殺しようとするだろう。合理的に考えれば、当然のことだ。何も敵の誘いにまんまと乗ることは無い。
 だがそれだけに、この決闘を邪魔することは許せなかった。俺の信じた正義のためにも、奴の信じる正義のためにも、それは許されない行為だ。如何に重大な規律違反であろうと、俺はこの決闘に赴かねばならない。幾度と無く激突し、そのたびに死闘を繰り広げてきた、俺と奴の奇妙な因縁に決着をつけるために。互いの正義をぶつけ合ってきた俺たちの、決着をつけるためにも。

 果たし状を受け取ってからの二日間、俺は挙動不審だった。実際、上司のアポロガイス子先輩にはそれを指摘されていた。察しの良い先輩のことだ、もしかすると俺が何をするつもりか感づいていたかも知れない。いや、察しが良いどころか超人的な勘の良さを持つあの人だから、確実に感づいていただろう。
 だが、それでも先輩は何も言わずに送り出してくれた。
 だから、俺はこの誘いに真正面から乗る。そして、勝つ。俺の信じる正義のために。俺を信頼して送り出してくれた、あの人のために。
「――ぅオシ!」
 倉庫の前で、小さく気合を入れる。
 気を引き締め、倉庫の鉄扉を開けた。錆びた鉄が軋む耳障りな音を響かせつつ、ドアが開く。人一人が通れるだけの幅が開くと、俺は意を決して中に入った。


「良く来たな」
 がらんとした倉庫の中央に、奴はいた。今までに限りない死闘を繰り広げた、俺の宿敵――赤木一真(あかぎ・かずま)。いつもの奴からは信じられないくらいに落ち着いた様子だが、その実、今までに無かったほどの闘気を感じる。
「……」
 俺は何も答えない。視線を奴に向けたまま、後ろ手に扉を閉める。その間に、内蔵したセンサーを稼動させ、伏兵や罠を探る。――結果、共に可能性無し。
「今回は、仲間は置いてきた。罠も仕掛けていない」
 奴の言葉が、俺の調査結果を裏付ける。敵ながらも、奴は筋の通った男だ。今の言葉は、信用に値するだろう。
「……そうか」
 短く、俺は答える。本当はもう少し気の利いたことを言いたかったが、うまい言葉が出てこなかった。……いや、俺と奴との間に、もはや言葉は必要ないのだろう。言葉でどうにかできるような段階は、もはや過ぎ去っている。
 必要があるとすれば、この因縁に対する終止符だけだ。
「……行くぞッ!」
「……応ッ!」
 俺は覚悟を決めると、いつもの構えを取る。同じタイミングで、奴も身構えた。
「変ッッッ……:身ッ!!!」
「ブレェェェイズッ! アァァァップ!!」
 変身に伴う衝撃の余波が、がらんとした倉庫内を疾走する。柱が揺れ、窓ガラスがビリビリと震えた。
そして、その振動が収まった頃。
 そこには、変身を終えた、俺と奴がいた。
「行くぞ、レッド――!」
「来い、ロードファング!!」