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作:11スレ>>328



僕は、ニートだ。
そう、人々から生産力無し、人として負けだと思っている、などと酷評されている、あのニートだ。
でも、悪いが僕はニートをやめる気なんか無い。
裕福な家庭に生まれ、生きる目標が無く、今が楽しければそれでいい。
こんな僕にぴったりの職業だろ?
ああ、ニートって最高。人の目なんかどうだっていい。僕はニートを続けてやる。

そう、僕の今いる場所がとある企業の面接会場だとしても。



目の前のドアからぞろぞろと若い男女が出てくる。
どうやらこの会社の面接はグループ形式のようだ。
まあ、個人だろうがグループだろうが僕には関係ない。

しなければならないのは、全力で受け、全力で落ちるということだ。

僕は家ではいい息子でなくてはいけない。
軋轢の無い家族関係は、より良いニート生活を生み出すからだ。
ただ、“いい息子”がニートであるはずはない。あってはいけない。
だから僕はニート脱出のために努力をする、ふりをする。
何度も面接を受け、何度も落ちる。
そのたびに肩を落とし、悔しさをにじませる、ふりをする。
僕を溺愛している両親はその演技に気付くはずもなく、ただただ同情するだけだ。
次は大丈夫、次は大丈夫と。

まあ、そろそろこの手一本じゃ通用しなくなるかもな。
父さんのコネで適当な会社に入社させられるかもしれない。
さてさて、どうしたものか……

今日の会社は株式会社ヴイ・アイ・ピー。
バイオ産業で最近めきめきと頭角をあらわしてきた会社だ。

「失礼します」
丁寧に挨拶をする。ここでしくじってはいけない。
あくまで真面目に受け、人間性の低さで落ちるようにする。
それが僕の美学だ。
試験を受ける会社はある程度レベルの高いところだから、人間的に劣るヤツを入社させようとはしないだろう。
もしこれで入社できてしまったら、そこで僕の運は尽きたということだ。
あきらめて、社会人としてのスタートを切ってやろうじゃないか。
そんなことは無いだろうけど。

面接官の顔ぶれを見る。
管理職クラスであろう中年男性が1人、その下で働いているであろう筋肉質な男性が1人、そして若い女性が1人。
なかなか綺麗な人だ。秘書だろうか? いや、秘書はこんなところには来ないだろうな。
見た目も若い。僕と同じか、それ以下? いやいやまさか、そんなはずは……

「それでは、そちらの方から番号とお名前をお願いできますか。あと、以後の質問はそちらの方からお答えください」
目の前の女性が質問をする。ずいぶんとビジネスライクな話し方だ。
こんなクールビューティーも悪くは無いかな……
おっと、何を考えている。僕はやるべきことをやらなくては。

簡単に自己紹介を済ませ、僕は作戦を練る。
さて、今度はどんな質問が出てくるだろうか。どうやって欠陥品だと思わせようか……
「皆さんは戦争や、暴動といった武力で物事を解決しようとする姿勢についてどう思われますか?」
またあの女性が話し始めた。なんだよ、その質問は?
普通選んだ理由とか、やりたい仕事とか、経済的な質問をするだろう?
最初の質問が戦争? 暴動? しかし、ここで混乱してはいけない。

僕の隣の男が答える。
「私は間違いだと思います。人間は話し合って解決することができます。
そのための知性、そのための言語なのです。困ったら暴力という原始的な考え方には賛同できません」
うん、簡潔でいい答えじゃないか。いいね、その調子でいって受かっちゃってくれよ。

さて、僕の腕の見せ所だな。
「私はその姿勢は評価するべきだと思います。彼らには彼らの正義がある。それを押し通そうとして何がいけないんでしょうか。
大量破壊兵器を作った国は悪でしょうか? ミサイルを飛ばす国は悪でしょうか? 違います。
彼らはただ自分たちの正義に基づいて、主義主張を訴えているだけなのです。そこに悪意はありません。
正義を名乗る国たちが聞く耳を持たないから、社会が自分たちを認めてくれないから、
そういう形で訴えていくしかないのだと私は思います」
どうだ。この演説口調に、暴力賛同主義。いい感じで壊れてるだろう?

その後は特に変わった質問も無く、周りも代わり映えのしない回答を続ける。
面接のマニュアル本でも読んでるのだろうか?
まあ、それによって僕の異常さが目立つのだから感謝しなければな。

ただひとつ変わったことといえば、あのクールな女性しか話さなかったということだ。
普通、上司が質問するものじゃないのか?
もしかして、あの女性が上司? いや、でも、まさかなぁ……

「失礼しました」
よし、終わった。安堵が僕の体を包み込む。
我ながら今日のデキは100点じゃないかと思う。
今日の演説はどっかのモッズ系猛禽類にも負けやしないだろう。

さてさて、帰るとするかな……
「あ、あのー……16番の、庄家さんですよねー?」
僕に声をかけてきたのは、面接官の筋肉質の男だ。
見た目に似合わない、のんびりとした喋り方をするな。
「なんでしょうか?」
「あー、上司が呼んでいるんでー、ちょっとよろしければ来てもらいたいんですけどー……」
え? 上司じきじきに僕に何があるってんだ?
「まあ、構いませんけど……」
ここはいい子に振舞っておこう。駄々をこねてもいい事は無いからな。
「あー、よかったー。じゃあ私についてきてもらえますー?」
なんだこいつは。子供っぽいというか、失礼というか。
もっと社会人らしい喋り方はできないものかな……

僕は言われるまま男についていく。
どんどんどんどん奥へ進んでいく。こんなにこの会社広かったっけ?
エレベーターもどれだけ乗っただろう。下に降りてるのはなんとなくわかるんだけど。
「あー、こちらですー」
「え? ここですか?」
僕の目の前のドアには大きな字ではっきりと、“関係者以外立ち入り禁止”と書いてある。
「ええ、そうですー。間違ってませんよー。……間違ってないよなぁ。……んまあ、いっか」
そう言って男はドアを開けた。
おいおい頼むよ。厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだぜ。
入った部屋はずいぶんとひんやりしている。照明も十分ではない。
「おめでとうございます。あなたは我が社の一員となることが決定いたしました」
どこからが声が聞こえる。でも、驚くのはそんなところではない。
我が社の一員? 僕が? 完璧に面接をこなした僕が?

バシ、バシという音とともに少し向こうにスポットライトが当たる。
どうやらステージのようなものがあるみたいだ。
その光の中心にいたのは、面接官の女性だった。

「ようこそ。株式会社ヴイ・アイ・ピーへ」
状況を把握できていない僕に女性は語りかける。
その口調は面接の時と全く変わらないクールなものだった。
「な、何なんですか!?」
僕の問いには答えようとせず、彼女は話しつづける。
「あなたのような人間を私たちは待っていました。その思想、その口調、どれをとっても最高の人材です。
あなたになら、私たちの業務内容にもきっと理解を示してくれることでしょう」
なんだって? 良かったっていうのか? 暴力賛同主義が? 独り善がりの演説が?
業務内容って、ただのバイオ産業だろう? 理解もクソもあるのかよ?

「さて、何か質問はありますか?」
なんだよ、好き勝手やっといていきなり『質問は?』だと?
よし、落ち着け、落ち着け、いつもの僕を見せてやろうじゃないか。
「何点かあるのですが……まず、何故このような通知を? 通知は後日と聞いていたのですが」
「我が社では、あなたのように才能があると判断した方には、特別入社枠での採用をしております。
特別入社枠の社員には、最初から機密事項に触れる業務につくため、こうして1対1での通知を行っているのです」
なるほど……って納得いかねえよ! 普通、新入社員に機密事項触れさせるか?
「特別入社枠とは何でしょうか? 事前の説明ではなかったですけど……」
「そうですね……その前にちょっと訂正してもよろしいでしょうか? 先ほど、『ようこそ。株式会社ヴイ・アイ・ピーへ』と言いましたが、
正式には間違いです。言い直しましょう。



ようこそ。秘密結社V.I.Pへ」



「は? は? はあああああああああああああああああ!!!???」
秘密結社V.I.Pっていったら、残虐非道、悪の限りを尽くすという噂の悪の組織じゃないか!!
何だよこれ!? 新手のドッキリか? 嘘だろ? 嘘だと言ってくれ!?

「驚かれたことでしょう。しかし、あなたほどの人物であれば、きっと理解を示してくれると思っています。
あなたの主張した善悪論、まさに私たちの思想そのものです。我々の主張も聞こうとせず、悪だ悪だと決め付け、
私たちを社会から排除しようととする、自称正義を共に倒そうじゃありませんか!」
クールだった女性はいつのまにか立ち上がり、こぶしを握り締めている。
語気も強まり、心なしかほほも赤く染まっているようだった。

「ちょ……あなたがたがV.I.Pという証拠を見せていただきたいのですが……」
そうだよ、こんな陳腐なドッキリにだまされてたまるかよ。
悪の組織が大々的に社員募集するわけないじゃないか。

「そうですね……ゴリラハンマー、もう戻ってもいいわよ」
クールさを取り戻した女性がそういうと、僕の後ろにいた筋肉質の男が突然うめきだした。
「うううううう……やった……これきつかった……ううう……ああああああ!!!!」
「だ、大丈夫ですか!? ちょ、ちょっと! どうにかしなきゃ!」
しかし、男の顔を良く見るとどんどん顔に力がみなぎっているようだ。
でもなんだろう、みなぎっているというか……顔が変わっている?
「ぐうう、うああ、ああああああ!!!」
男はうなりを上げる。その顔にもはや面接の時の面影は無い。
というか、もはや別人だ。というか、もはや人間ではなかった。
なんだ? こいつに何が起こってるんだ? 助けて、母さん!!
「っしゃああああああ!!!」
さらに叫びつづける男に急激な変化が訪れた。
体が膨らみ始めたのだ。
ビリビリと音を立て、服が破れていく。
筋肉は隆起し、大量の体毛がその体を覆っていく。
「こいつ、変身してるのか……?」
「う、う、うああ……」
男の声が止むと同じくして、“変身”は終わった。
「あ、こいつは確か……」
目の前にいたのは、先日起きた銀行襲撃事件の犯人(この場合、犯“人”でいいのだろうか?)である、V.I.Pの怪人だった。
警察と衝突したときの姿は、テレビでも新聞でも見ることができた。見間違いではないだろう……多分……
「ま、マジなんだ……ははは……」
笑ってはみたものの、力は無く、ただただ目の前の光景にあっけに取られるばかりだった。

「ちょっと戻るのが遅くなったんじゃないの? まだ傷の治りは完全じゃないのかしら?」
「いやー、ちょっとー、カプセルに入る時間が短かったみたいでー」
喋り方は人間であった時とあまり変わっていないようだった。
「これでわかっていただけましたか? さあ、共に輝かしい未来を作っていこうじゃありませんか!」
どうしよう……断れない雰囲気だ……どうしよう……
ものすごい期待を感じる……クールビューティーが熱くなってるよ……
「……まさか、私たちに賛同していただけないと? 残念です。……ゴリラハンマー、私たちの正体を知られた限りは」
女性の顔が瞬く間にいつもの冷たい表情に戻っている。
「えー、もうやっちゃうんですかー? かわいそうだなー。ごめんねー」
え? やる? 殺る? 犯る? アッー! どっちにしても嫌だ! 嫌すぎる!
「いやいやいや! 違います! うれしかったんです! そう、感動のあまり声に出なかっただけなんです!」
「そうですか! それでは早速契約書にサインを」
気のせいだろうか。女性が一瞬笑った気がした。いくら興奮しても無表情だけは崩さなかったのに。
「いや、あのですね、その、親に知らせてから後日ということでは……」
そんな契約なんかしてられるか! まともな企業ならまだしも、悪の組織だぞ!?
だいたい僕はまだニートでいたいんだ!
「それは不可能です。あなたの親御さんであろうとも、我々の正体を明かすことはできません。
もし、そんなことをした場合、あなただけでなくあなたの親御さんも……」
「あ、いえ、そうですよね! あはははは! ぺ、ペンはどこでしょうかね!? あは、あはははは!」
もうダメだ。逃げられない。背に腹はかえられない。死ぬよりは就職したほうがましだ!
……たとえ、就職先が悪の秘密結社だとしても。

「安心してください。我々は株式会社ヴイ・アイ・ピーとしての企業活動も怠ってはおりません。
V.I.Pの構成員ではない社員も多数在籍しております。後日改めて採用と言う形で連絡しておくので、
親御さんもきっと喜んでくれるでしょう。さ、サインを」
ゴリラなんとかとかいう怪人がテーブルと椅子を持ってきた。片手で。
僕の目の前にそれらを置き、契約書とペンを差し出す。
契約書を一通り眺めてみても、特におかしいところは無い。
強いて言うなら、正体を明かしてはならない、といった主旨の条項があるくらいだ。
「大丈夫です。詐欺のような契約書は作っていません。訴訟を起こされたらたまりませんからね」
悪の組織がいちいち訴訟なんか気にするなよ!
「ええ、そうみたいですね」
僕はきわめて冷静を装い契約書にサインし、なんとかハンマーとかいう怪人に手渡した。
「これで貴様は我らV.I.Pの一員だ。 貴様のその汗が、血が、我らを進歩させるのだ。
貴様の活躍を期待しているぞ。では、私はこれから会議があるので失礼する」
ゴリなんとかマーとかいう怪人から契約書を受け取った女性は態度を豹変させた。
なるほど、契約書にサインしたから俺はもう手下ってことか。敬語を使う必要は無いと。

「あのー……庄家くんだったよねー、これからのことは僕が説明しますー。えっとー、庄家くんはー、一応ヴイ・アイ・ピーの社員としても活動してもらいますー。
なのでー、月曜の新入社員オリエンテーションから出てもらえれば結構ですー。で、その後V.I.Pの方のオリエンテーションを行いますー。
あ、僕が直接呼びに行くんでー、そこんとこは大丈夫ですー。人形態のときはー、五利って名前なんでー、よろしくー」
五利って……まんまかよ……
「あ、そういえば、あの女性の方はなんという名前なんですか?」
「あーあの方はねー、女性幹部のアポロガイス子さんっていうんだー。でも本名なのかなー? ちょっとダサいよねー。
あ、これは絶対言っちゃダメだよー! アポロさん怒ると怖いからさー、ファンクラブみたいなのもあるしー、ファンにも怒られちゃうよー。
ちなみに会社では阿幌さんって名乗ってるんだー」
ファンクラブって……そんな悪の組織ってありかよ……そりゃ確かに可愛いかもしれないけどさ……
「そ、そうなんですか。じゃあ今日はこれで終わりですか?」
「そうだねー、さっきも言ったけど、月曜日よろしくねー。じゃ、またねー」
ゆるい、ゆるすぎる。目の前の人(?)は本当にあの銀行を襲撃した凶悪怪人なのか?

ああ、これ、夢なんじゃないだろうか。というか、むしろ夢であって欲しい。
ほほを軽くつねってみる。……どうやら人生は望んだようには行かないみたいだ。
まさかこんな形で僕の快適ニート生活が終わりを告げるだなんて。
僕が、悪の組織の構成員ねえ……実感沸かないなあ……

こうして、僕の社会人生活は暗黒に包まれたまま始まるのだった……