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〔1〕


  庄家栄一がミラクルフォックスを足止めすると出て行ってすぐ、アポロガイス子は走り出していた。
  決戦用兵器のある部屋へ向かって、掃除の行き届いていない長い廊下をひた走る。
  この基地は元々現在のV.I.Pの前身である、かつてのV.I.Pの頃の第二基地だった。
  第二ですら現在のV.I.Pではスペースが有り余っているというのに、かつてのV.I.Pには同じ規模の基地は無数にあり、これよりも巨大な本部基地があったのだ。
  今のV.I.Pは昔に比べて余りにも脆弱だった。規模も、人材の質も無い。ドクの技術力でなんとか誤魔化してはいるが、それが昔のままであったならV.I.Pは悪の組織として機能することすら出来なかっただろう。
  ―――なのに、どうして。
  アポロガイス子は強く下唇を噛む。
  ―――私は諦められなかったのだろう。
  この組織を建て直したのは、彼女だ。前首領の娘を首領に仕立て上げ、裏で全てを牛耳り、目的のために悪逆非道の限りを尽くした。
  強盗、詐欺、誘拐、窃盗、偽造、密輸、密造、殺人、殺戮。人を殺し、人を壊し、子を殺し、自らの手を血で汚すことを厭わなかった。
  V.I.P……「Violence for International Peace」、その目的のために。
「ふざけるな」
  アポロガイス子は吐き捨てるように呟いていた。
  確かに彼女は組織のために働いてきた。V.I.Pを再建し、戦闘員や怪人たちに様々指令を出し、自ら戦場にも赴いた。だが、その根底にあるのは組織への忠誠ではない。
  彼女、アポロガイス子を突き動かしてきた感情は……恐怖と、恋しさだ。
  かつてのV.I.Pを率いていたのは前首領である。だが、最終的な決定を下していた存在が別に居た。それが、今は亡き彼女の父親だった。
  首領は組織のブレインであり崇拝の対象であったが、その立場ゆえ部下の前に姿を現すことは稀だった。
  アポロガイス子の父は、そんな彼と組織を繋ぐ立場であった。組織の秩序を守る立場ゆえ、時には部下の処罰を行う等で、部下の反感を買うことも多かった。
  それでも彼は組織のため働いた。目指す理想があるからと、自らを犠牲にすることを厭わなかった。アポロガイス子はそんな父の姿が好きだった。
  力強い父が好きだった。優しい父が好きだった。夢のために努力出来る、強い意思を持った父が好きだった。
  だから、その父がV.I.Pの本部に攻め込んできた戦隊の人間と戦い、殉職したと聞いた時の彼女の悲しみは計り知れないものであった。
  夜を三晩泣いて過ごし、更に三度呆けた頭で朝を迎えた。
  最後にもう三日を無為に過ごした後、アポロガイス子の中に一つの思いが去来する。
  父が命を賭して守ったV.I.P。
  それは、父の命が宿っていると言っていいのではないか――――?
  その幻想に取り付かれてから、彼女の行動は早かった。
  首領と総括がいなくなり、組織としてほぼ崩れていたV.I.Pから力のある人間を引き抜いた。離れかけていたパトロンを自分の味方につけた。
  そして、首領について来ていた人間達を集めるために、自らと境遇を同じくする、年端もいかない首領の娘を首領の座に祭り上げた。
  アポロガイス子はその事を間違っているとは思ってなかった。思ってなかったというよりは、そんなことを考えられる程の余裕はその時の彼女にはなかったのだ。
  ただ盲目的に前へ、前へと進んで行き、ただただV.I.Pを潰さない為に尽力した。
  そしてふと気がつけば、彼女の守りたかったV.I.Pでは無く、彼女の父が居なくても回る、新しいV.I.Pが出来上がっていた。
  ――私は何をしているんだ。
  そこでやっとアポロガイス子は、冷静に自身を振り返る余裕を得ることが出来た。
  自分の守りたかった物はなんだったか。父の守ったV.I.Pでは無かったのか。ならば、自分は何をしているのか……。
  しかし、そう思う半面で彼女は、こうも思っていた。
  ――これでいい。
  と。
  父が守った物を、その強い思いを自分は知っている。
  だから、自分だけしかそれを覚えていないとしても、それならば自分だけでその理想を再現させればいい。
  そうすれば……父は死んだことにならないと。
  まだ、自分の中で父は行き続けているのだと――――
「ふざけるな!!」
  アポロガイス子は憎々しげに叫んだ。
  自らへの憎悪で舌を噛み千切りたくなる衝動を必死に押さえ込んで、走る足を更に加速させる。
  ――私は、なんと愚かなのだろう。
  アポロガイス子は思う。自分はただ、父の死を受け入れられなかっただけであったのだと。
  父の死を信じたくなくて、組織を立て直すことでそれを誤魔化していただけであったのだと。自分はただ、父が死してなお父に甘えていただけなのだ――と。
  そして、自分独りではそれに気づくことは出来なかった。
  彼女にそれを気づかせてくれた彼が居たからこそ……自分は今ここまで来れたのだ、と。
「栄一……」
  庄家栄一。
  ただの戦闘員としてスカウトされたはずの彼は今、アポロガイス子のためにミラクルフォックス達に戦いを挑みに行った。
  彼ではミラクルフォックスには勝てない。それがわかっていたはずなのに、アポロガイス子は彼を止めることが出来なかった。
  それは――また、彼に甘えてしまったという事なのだろうか。
「違う」
  アポロガイス子がはっきりと呟いたのは、否定の言葉。
  自分にそんなつもりは無いと、栄一を見殺しにするようなことは絶対にしないという、否定と決断の一言。
  だが口ではどんなことでも言える。大切なのはそれを態度で、行動で示すことだ。
  ……アポロガイス子の足が止まる。
  それは疲れたからでも諦めたからでもなく、目的の場所にたどり着いたからこその停止。
  決戦用兵器のある部屋にたどり着いたのだ。
  ――――口では何とでも言える。だから、私は――――
「命に代えてもお前を守り、お前に報いてみせる」
  IDカードを差込み、扉を潜る。
  1対の決戦用兵器が、アポロガイス子が最後に見たときから変わらずそこに佇んでいた。