FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 508話


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第508話:幸福論(忠臣篇)


南側にはいくらか距離を置いて立つ城壁、北側には傾斜と高さを増していく急峻な山。
安全には望ましく、混乱には望まざる位置。
誰かとの不意の出会いなどほとんど心配がない、期待できない、森が北西に果てた先。
横では二度の失敗にもめげず、タバサがホイミのための大仰な集中に入っている。
主君のため、他全員の命を捧げる決意がある忠臣はなんらの感情を浮かべることなくその施しを受けていた。
向こうから届く暖かな視線は、ピエールが微かに彼女の隙だらけの首筋へ向けた冷たい意識に気が付いているか。


忠臣は自問する。
(主は、己の命を投げてでも愛娘を守り抜くおつもり。私はどうだ?)
感情の揺れのない頭脳が少しの間沈黙し、答えを出す。
(私は非情の臣よ。主のそのお気持ちに沿えない。……いまさら悔いることでもない)
自問する。
(再確認せよ。我が目的は何か? リュカ様の生存において他無し。
 リュカ様がゲーム最後の生存者となることでそれは完遂される)
自問する。
(目的のため、最大の障害は誰か? 答えはタバサ様、愛すべき主の残る愛児に他なし)
救うべき命、葬るべき命、引いてある線を確かめる。
自問する。
(危うきなり。タバサ様が死した場合、主はどうなる?)
あまりに残酷な問いをただ冷徹に計算する。
(絶望が過ぎれば自ら命を御断ちになるやもしれぬ。危険は否定できない。
 だが、だが主はお優しいお方。自らを頼みとする者が生きている限りは命をお捨てにはならぬはず。
 その場合、今以上に御自身のことをお考えにならなくなる……だろうが)
自問する。
(タバサ様殺害実行のために必要なものを述べよ。……深い闇。好機。策。
 だが今ここには深い闇なく、好機なく。策なく――)


さらに二度の失敗を重ねてタバサは父に「回復呪文の気持ち」について尋ねている。
恐らくは天性で呪文を扱ってきた娘の成長を喜び、リュカは久方ぶりに心から和やかであるように見えた。
もっとも教唆を受けたタバサがチャレンジを再開すべく父の側を離れた後、その明るさが消える様は感情なきピエールの心さえ突いた。

(ああ、早くこの苦しみのゲームより主をお救いせねばならぬ。
 そのためにはどのような行為であろうと。どのような行為であろうと肯定される。
 私は既に一線を越えてしまっていたのだから)
策を、と願いピエールは今まで目を向けていなかった部分へと思考を開いた。
そうして彼は一つの閃きを得、それを改めて冷静に吟味することで彼はこうした感想に至った。
たった一人を生き残らせるために他のすべてを殺すことは自分の中では間違いなく忠義だった。
では、主のお気持ちに背くことはどうか?
たとえ悲しませようとも、憎悪されようとも、私の忠義は揺るがない。決意したことだ。
ならば。
ならば、主に背くことはどうなのだ。
主の前でタバサ様の殺害を強行することを考えた時点で私は線を越えていた。
いやもっと前かも知れぬ。けして命じられるはずのない行為を実行した時には既にか。
私は薄汚くも監視の目が無いことをいい事に主に背き続けてきたのだ。
けれどそれは全て主のため、我が忠義のため。最後に主が生き残ることに私の忠義の勝利がある。
主の心を傷つけてしまうのは憚られる。
けれど傷つけぬよう巧みに偽り、欺き、我が策にて導くこと程度ならば
今現在の心中に殺意を秘めながら随行する態度と何の差があろう。いや。
(ただ主に従い、主を守ることだけを考えるのが忠臣であろうか。
 否……主の危機に応じて全てを投げ打つ覚悟を持つものこそ忠臣である。
 それが我が身命であろうとも、寵愛であろうとも、信頼であろうとも!)


呪文の感覚と感触を探るように再度タバサはピエールの傍で試行錯誤している。
動くならば彼女が眠ってしまう前がいいとピエールは望み、
その身にかけられたマホトーンの効力が尽きるのをじっと待った。
良く知っているそれはもとより長時間効力を保つことができる魔法ではない。
数度目かの失敗を超えてようやくホイミを成功させたタバサが明るさをふりまいて雰囲気を和らげている。
ピエールが動いたのはそんな時であった。

「リュカ様、お暇を頂きたく存じます」
「ピエール。…………どうして――」
微笑みあっていた二人の目が同時にこちらを向く。
問い質そうとしたリュカに対して滅多に見せない強い口調で遮るように、圧するように言葉を続ける。
「リュカ様! まだこのゲームには無数の悪逆の徒が生きながらえております。
 アリーナと呼ばれる酷薄な女、ウィーグラフと名乗る騎士然とした男。テリーという銀髪の狂人。
 不肖ピエール、リュカ様の剣となってこれら無道の輩を絶たねばなりませぬ」
策動の入り口に立っていたとはいえこれは本心からの言葉であった。
リュカの表情が曇ったのは彼らのことをどこからか耳に入れられたからであろうか、と判断する。
その危険認識が共有できるなら話は早い。そして、もう一押し。
「命にかえて、リュカ様・タバサ様の危険を取り除くこそ我が役目です。
 ……ビアンカ様、レックス様、デール様の痛みを思えば私は足を止めることはできませぬ。
 どうか我が忠義、忠心を想い……」
目を閉じて一拍、呼吸を置く。
「お許しいただきたい!」
言い終わりと同時に片腕をタバサへと、いや正確には護身用に彼女の手にあった鞭へ伸ばし身体を躍動させる。
小さな悲鳴が上がる。
ピエールは二拍分だけ反応して腕を伸ばし出発を阻もうとした主の手にわずかに触れてすり抜けた。
タバサは事態を飲み込めていないのか、竦んでいるのか。動きは無い。

大事なのはこの後だ。
リュカが次の判断を決めかねて足を止めている間にピエールは一度だけ体勢を大きく崩して見せた。
実際はモンスターの肉体はかなり無理が利く。これは無理をしている――と見せる演技。
それから再び起き上がり、東へ、森のほうへ向けて距離を空けていく。
月明かり、人間の視力を計算に入れた上でさらにもう一度ぐらついて見せる。
今度は身体を引きずるようにして、ゆっくりと前進する。
少しずつ広がる距離と後背の気配を冷静に測りながら。


産み出された謀臣としての面はピエールに少し広い視点を与えることにも一役を買っていた。
リュカがピエールを追おうと追うまいと、ピエールは次の行動を予定できている。
追ってくるならば誘導するように森へと引き込み、しかる後に機を見て分断の策を講じればいい。
追って来ないならばそれもまたよい。
このまま距離が開くならどうせ打つつもりの一手であるが、
「私は必ず朝までに戻ります。お二方はそこで身体をお休めください!」
という大意を叫べばリュカを留め置くため約束の楔を打ち込むことができるはず。
城の北という位置の安全性は理解できる。
先程は嘆いたとおりわざわざここに来る者は考えられず襲撃の危険性は皆無と見てよい。
自分は回りこんで城内に篭る者達、城を目指していたはずのアリーナとウィーグラフを殺す。
それから約束通りに戻ればよい。問題は無い。


封印した感情はどこにも後ろめたさや弱みを浮かび上がらせることはない。
真に全てを投げ打たんとする忠臣は策動を抱いて緩やかに主との距離を広げていった。

【リュカ(MP1/4 左腕不随)
 所持品:お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ビアンカのリボン、ブラッドソード、
 スネークソード、王者のマント、魔石ミドガルズオルム(召還不可)
 第一行動方針:ピエールを追う?
 基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
 所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、悟りの書、服数着
 第一行動方針:リュカについていく
 基本行動方針:呪文を覚える努力をする】

【ピエール(HP1/3、MP1/4)(感情封印)
 所持品:毛布、魔封じの杖、死者の指輪、ひきよせの杖[1]、ようじゅつしの杖[0]、レッドキャップ、ファイアビュート
 第一行動方針:策に従って次の展開に備える
 第二行動方針:リュカに気づかれない様にタバサを抹殺する
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
(*ピエールはタバサの抹殺の機会を失った場合、リュカの目の前ででもタバサを抹殺するかもしれません)

【現在位置:サスーン城の北】