526話

第526話:弔い方


思った以上に魔法の絨毯のスピードは速い。
飛行速度の何倍ものスピードで平地を飛び抜けていける。
今はブオーンが通った跡をたどっているが、わずらわしい倒木もスイスイ飛び越えていける。
目立ちすぎるかと思ったが、よくよく考えたら夜中に絨毯が目立つも何もないだろう。
あのギンパツのせいで大怪我を負ったんだから、今はできるだけ身を休めるべきだ。
そんなわけで、移動しながら休むことができ、食事することだって可能なこの絨毯はとても役立つ。
もっとも、ブオーンのザックに入っていたパンは濡れて不味くなっているが、これはこの際仕方がない。体力の回復のほうが重要だ。
ブオーンは途中でウルの方向へ向かったようだ。今ごろウル方面は大惨事になっていることだろう。
もうほとんど森を抜けられそうな場所だったので、このままカズスへと向かうことにした。

リュカやエドガーはどうなったのか、カズスに来たとして、カインはうまく仕留められたのか。
エッジをぶつける気だったんだろうけど、名簿にバツが付いてるし、今どうやって相手してるのか?
僕らがカズスに招待したやつで、今生きてるのはエドガーにリュカにユフィに、あの6人組…は誘ってなかったか。
カズスにいた剣士が死んでないってことは仲間に引き込んだのか。
それならフリオニールとあの剣士とカインで共闘という形になる。
帰る頃には決着が付いてるかも知れない。

途中、なにかの魔法で森の一部が焼け焦げたような場所が何箇所もある。
この一日の間、森でどれほど激しい戦闘が起こったのかは手に取るように分かる。
戦いに巻き込まれ、広大な森の地形は変わり、絨毯が使える場所も多い。
カズスには思った以上に早く着きそうだ。大幅に遅刻したのは否定できないが…。



パパスを追うよりは、ユフィに会って話を聞くほうが確実だ。
パパスに話を聞いたとしても、ユフィの伝え聞きにすぎないし、フリオニールが移動してしまっていては意味がない。
キャンプの連中は情報を持っていない可能性すらあるのだから、これはもう論外だ。
もっとも、ユフィがどこでフリオニールに襲われたか、というのも分からんのだが、他よりはずっと有益な情報を得られると信じる。
それに、フリオニールがいなくても、カインがいる。仇を取りたいという思考はやつも同じはずなのだ。
そう考え、カズスに向かうことにした。
今は岩山に沿って走っているのだが、意外と砂地というものは走りにくい。
カズスに到達するにはいましばらく時間がかかるだろう。



「いいのか? 仲間を探すんだろう?」
ザックスはピエールによって仲間を何人も殺害され、生き残った仲間であるエドガーをひどく気にかけていたという。
今もそれは変わっておらず、今すぐにでも探しに行きたい筈だ。
だが、彼は気にするなとでも言うかのように手を振って問いに答え、犠牲者の弔いを続ける。
だから、僕は彼に言う。ありがとう、と。



申し訳ないという気持ちがあった。
確かにフリオニールを倒すためとはいえ、オルテガを殺害したのは自分だ。
アルスにとっての実の親を、そして自分にとっての命の恩人を殺害したというのに、何もせずにここを離れていいはずがないのだ。
死者への追悼だけではない。自分へのけじめも含まれる。
無意味だという人もいるかもしれない。が、自分にとってはとても大切なことなのだ。
ここに来る途中で見た、竜のことが思い出される。
自分は今まで出会った仲間を弔うことができなかった。だが、今は弔う時間がある。だから、やるのだ。



この体になってからは、この程度の暗さなんか障害にならない。闇に気配を紛れ込ませることも容易。
セフィロスのときのアレは、転身した直後で上手く体を使いこなせなかったということと、
相手が気配を感じるのに長けていたという不幸な要因が重なったことによる不幸な出来事。例外中の例外なんだ。
今なら目の前の二人が何をしているかってのもちゃんと見ることが出来る。
カズスの地面に空いた浅いすり鉢状の穴。そこにいるのは全部で7人、そのうち5人は死んでいる。
死体の中にはあのフリオニールやユフィ、レオンハルトの姿もある。
多分、今生き残っている二人はレオンハルトに連れられ、カズスへの誘引策を聞きつけてやってきたやつなんだろう。
もっとも、カインの仲間ということもあるが、その可能性は期待しないでおく。
ユフィと半裸の男が、策に引っかかって死んだのか、それともレオンハルトと一緒に来たのかも不明だが、それはどうでもいい。
フリオニールは彼らのどちらかに殺されたんだろう。剣士が持っている大剣も、覆面が持っている剣、ラグナロクも血に濡れている。
カインとサックスとかいう剣士はうまく逃げたか。

覆面マントをつけた怪しい男と、黒髪の剣士。二人は死体を移動させているようだ。墓にでも入れるつもりなんだろう。
覆面マントの男は顔でも隠しているのだろうか。黒髪の剣士もどことなく様子がおかしい。
なんでそう感じるのかと思えば、黒髪の剣士、さきほどから喋っていない。たまに地面にしゃがみ込むのは、筆談を行っているから?

レオンハルトと接触し、カインやフリオニールと交戦しているとなれば、このまま自分が接触しても面倒が起こるだけ。
戦闘するにしても、実力者二人を相手にする自信はさすがにない。
相手に見つかる前に離れてしまうのが最良だろう。



時間があまりあるわけではない。碌な道具もなく五人も埋葬していては、朝どころか昼になってしまうかもしれない。
埋葬は最も一般的な弔いだが、それしか方法がないというわけではない。

五人の死者の身なりを整え、目を閉じさせて水で顔に付いた血と泥を洗い流す。
レオンハルトは硬直してきており、あまり強引に行うのもよくないので、身を整えるだけにする。
レーベの民家で食用にと入手していた塩を撒き、彼らの、特にフリオニールの身を清める。
ジパングでの葬儀の儀式の一環にあるものらしい。
ただ、フリオニールの恨みとも憎しみとも取れる形相は、どうしても消えなかったが。
オルテガとレオンハルト、彼らが生前に使っていた武器、ロングソードとミスリルアクスを墓標として冷たい腕に抱かせる。
死後の世界でも、弱きを守り続ける戦士であるように。
ユフィはプリンセスリングで着飾らせ、風魔手裏剣を一枚握らせ、手を胸の上に置く。
昨日出会った魔法使いであろう少女には、波動の杖を握らせる。
そして二人の少女を番傘で被い、汚れにくく整えてやる。
最後に、崩壊した宿屋から、完全に焼け焦げてはいない布を見つけ、全員の顔を覆う。
簡易なものだが、これでも十分に弔うことは出来ているといえるだろう。

「ユフィ、レオンハルト、そして父さん。あなたたちの意思は僕が必ず継ぐ」
十数秒の黙祷。
そうして、二人はカズスに背を向け、歩き出した。


憎悪を生み出し、様々な人々の命を飲み込んでいったカズスの村には、こうして誰もいなくなった。



「ギルガメッシュじゃないか!」
村のほうに見覚えのない影。浮いてる絨毯に乗った真っ黒な竜。だが、自分の名前を知っている。誰だ?
「ほら、ぼくだよ、スミスだよ!!」
スミスと言っても、記憶にあるスミスとは全く似つかない。
もっと青かったはず。もっと短かったはず。共通点は竜ということだけ。
だが、俺の勘からすると、やっぱりこいつはスミスな気がする。なんとなく雰囲気が似ている。
スミスは今朝の出来事を体験し、仲間を失っている。俺と近い境遇にある。他のやつよりはずっと信用できる。

「お前…、随分見た目が変わっちまってるな。そいつが正体なのかよ?」
「え? ええ、まあそんなものだよ。色々あったからさ」
自分だって変身すれば今の姿とは大分かけ離れてるんだから人のことは言えないが。
それより、スミスは今朝の裏切りの真っ只中にいた人物。こいつなら何が起こったか知っているんじゃないか?

「俺は今、ユフィ…いや、フリオニールを追ってるんだ。サリィとわるぼう、それからフライヤの仇を取るためにな。
 だがよ、フリオニール一人で残ったやつを全員相手にして、それでわるぼうやフライヤを殺せるはずがねえ。
 協力者がいるとにらんでるんだが……。教えてくれ。俺が転送された後、一体何が起こったんだ?」
サリィを殺したのはフリオニール。こいつは当然許せねえ。
だが、フリオニールと組んでわるぼうを殺したやつも同罪だ。
こいつらを全員殺してはじめて二人の仇が取れるってもんだ。
あいつらが喜ぶのかどうかは分からねえが、これが今の俺に唯一できる弔いだ。



元々はカズスに行かせないつもりだった。
あの覆面マントや剣士と接触すれば、僕やカインがゲームに乗ってるとバレてしまうからだ。
だが、ギルガメッシュはフリオニールの仇を取るために動いているそうだ。
そして、フリオニールには協力者がいると思っているが、その中にどうやら僕とカインが入っていないらしい。

「ごめん、僕も知らないんだ。あの後フリオニールはすぐに逃げて、僕とカインは急いであいつを追っていった。
 だから、残った4人が一体どうなったかは分からない。
 ただ、君の言うようにフリオニールが誰かと組んでいたとすれば、
 フリオニールと同じ世界から来て、しばらくあいつと一緒にいたレオンハルトしかありえないと思う。
 もっとも、彼と扉の前で話し込んでいたライアンもグルだっていう可能性はあるけどね」
「やっぱりそうか……。くそっ、あのヤロウ……!」

ギルガメッシュの心に、ふつふつと怒りが湧いているのが分かる。
レオンハルトへの怒りもあるが、それ以上にレオンハルトを助けてしまった自分への怒りが大きいか。
エッジのときと同じだ。仲間の仇を取ろうとしているような純心な男。
もし何の罪もない人間を殺してしまえば、自身がフリオニールと同じことをしてしまったと知れば。
きっと後悔することだろう。壊れる寸前まで追い詰めて責めたてて、それからフリオニールの時のように一言囁いてやればいい。
『優勝することができれば、死んだ人を生き返らせてもらえるよ』……とね。
でも、こういうのは焦りすぎても良いことは無い。自分で勝手に疑って、勝手に罪を犯すからこそ効果がある。
僕が『レオンハルトに襲われました』なんて言った場合、裏切りの真相を知っている人間と出会った際の処置が面倒でもある。
だから僕のやることは、個人の正義のベクトルの方向を少しばかり変えてやるだけ。

「ところで、ユフィを追っているってことは、僕らを探すのも兼ねてたってこと?」
「いや、それもあるがよ、フリオニールに仲間を殺されたって聞いたからな。それで追いかけていた。
 カズスでカインと待ち合わせしているらしいしな。そうだ、カインはどうした?」

ユフィがフリオニールに仲間を殺された?
だが、カズスでカインと一緒にエッジを殺したのなら、フリオニールの名前だけが出るのはおかしい。
ということは、カズスに来る前に休んでた二人を襲ったってことになるのだろうか?
まあカインのことだから、今も上手くやってるし、これからも上手くやってくれるだろう。
ヘタに嘘を付いて見破られても面倒だ。嘘ではないことを話すのが一番いいだろう。

「それが色々ややこしいんだよ。とりあえず順番通りに話すから、落ち着いて聞いてね。
 まず、ユフィと出会ったのは正午過ぎ、北の森で、だったかな。そのときには仲間と二人で行動してた。
 それで、カズスで落ち合う約束をしたんだけど、カズスで殺人者が罠を張るってことを知ってね、一旦偵察することにしたんだ。
 そのときにはカズスには一人しか人間はいなかったから、カインに任せて、僕は周辺の偵察をしてたわけさ。
 でも、途中で緑髪の男とブオーンってやつにやられて大怪我を負って、帰りにまた銀髪の男に……」
「銀髪だと? もしかして、フリオニールか!?」
「違う、違うって! 話は最後まで聞いてよ。セフィロスとかいう、フリオニールとは別の銀髪の男にやられてこの通りさ。
 それでカズスに戻ってきて、今まで様子見してたんだ。仲間もいないのに一人で突っ込むのも無謀だしね」
「そうか、フリオニールじゃないのか……」

そっちが勝手に勘違いしたんじゃないかと思いながら、ギルガメッシュがかなりギリギリの状態にあることを再確認。
あとはここで見た状況をどう説明するか。
覆面マントの男と黒髪の剣士。ユフィやフリオニール、レオンハルトの死体。
フリオニールもレオンハルトも死んでしまっていることを伝えては、ギルガメッシュが腑抜けてしまう可能性もある。
そうなればまあ、一人楽に殺せるやつが増えるのだが、せっかくこんなに復讐心を抱いてくれているんだ、利用しないと勿体無い。
幸い、あの男たちは死体の埋葬をしているはず。上手く立ち回れば、ギルガメッシュに死体を発見されることはないだろう。
もちろん、埋葬の途中に出くわしたら上手く戦わせられないかもしれないので、この点でも上手く立ち回る必要がある。

「カズスには生き残りはほとんどいなかったよ。見なかっただけかもしれないけどね。
 いたのは覆面マントの男と、大剣を背負った無口な男だけさ。
 いくつかの死体が散らばってて、ユフィとその仲間らしい男の死体があった。他にもあったかもしれないけど、暗くて見えなかったよ。
 それで、生きてる二人だけど、どうもレオンハルトを仲間だと言ってたんだよね。
 そして、経緯は知らないけれど、覆面の男がラグナロクを持っていた」
「レオンハルトの仲間がラグナロクを持っていただと? どういうことだ!? もしかして、フリオニールのやつも近くに?」
「それは分かんないけど、あの剣が血で濡れていたように見えた。
 もしかしたら、あれで何人も殺したのは間違いないと思う」
「!!」

サリィの形見の剣ってのはやっぱり効果が絶大だ。
この復讐に燃え、かつ自分の正義を信じて疑わない目。カズスにいたやつらにぶつけてやればあとは勝手に殺しあってくれるだろう。

「その二人の元に行くのは危険かもよ? 二人ともかなりの実力者だと思うし、サリィの形見の剣を持ってるんでしょ?」
「おいおい、何をビビッてるんだよ。そいつらのところに行くに決まってらあ!
 サリィの剣を人殺しになんか使わせてたまるかよ!」
「そこまで言うなら、分かったよ。でも正面から突っ込むのは勘弁だからね。
 それから、くれぐれもあいつらの話に惑わされないようにしてよ。
 あいつらは、レオンハルトの仲間なんだからさ……」

【ギルガメッシュ(HP3/5程度・人間不信気味)
 所持品:厚底サンダル、種子島銃、銅の剣、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3 
 変化の杖、りゅうのうろこ
 第一行動方針:レオンハルトの仲間らしき男の元へ行く
 第二行動方針:ラグナロクを取り戻す
 基本行動方針:レオンハルト、フリオニールを倒す】
【スミス(HP1/6 左翼負傷、全身打撲、洗脳状態、闇のドラゴン)
 所持品:魔法の絨毯 ブオーンのザック
 第一行動方針:ギルガメッシュをアルスたちにぶつける
 第ニ行動方針:カインと合流する
 行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【現在位置:カズス西の砂漠】

【アルス(MP少量、左腕軽症)
 所持品:ドラゴンテイル ラグナロク 官能小説一冊 三脚付大型マシンガン(残弾4/10) E:覆面&マント
 基本行動方針:自分の思った道を行き、未来を正す
 第二行動方針:倒すべき悪(アーヴァイン、スコール、マッシュ、カイン、サックス、スミス)を…?
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ザックス(HP2/5程度、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、左肩に矢傷)
 所持品:バスタードソード 風魔手裏剣(17) ドリル 波動の杖 フランベルジェ
 基本行動方針:エドガーを探す
 最終行動方針:ゲームを潰す】
【現在位置:カズス→北の峡谷方向へ移動中】

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最終更新:2008年01月30日 13:52
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