545話

第545話:取り残された一人の人間は


気付いた時には東の空がうっすらと明るくなり始めていた。
寝ているだけで風邪が治れば苦労はしない。体中がだるいし、痛いし、寒い。
というより、昨日よりひどくなってきている気がする。

咳やくしゃみが出て、我ながら騒がしいが、聞こえる音はこれだけだ。
城の中はやけに静か。確か何人もいたはずなのに。
ジタンとおじさんと女の人と金髪の男の人と、……覚えていない。
寝ている間に誰かが口論していたような気がするが、やっぱり覚えていない。
まあ、ここにたどり着いたときには頭がくらくらしてぼんやりしてたから仕方がない。今もそうだが。
机には、『戻る』と刻まれた文字。戻るというならきっと戻ってくるのだろう。朝までお休みなさい。

……ちょっと待って。そもそも、みんなはどこに行ったのか?
…眠る前に話していたのは、リュカのことだっけ。
確か、誰かが死んでて、魔物がリュカのいる塔に行っているとか言っていたような。
だったらみんな塔に向かったのだろう。近いからすぐに戻ってこれるだろう。

……そんなバカな。
そんなに近いのならどうして今になっても誰も戻っていないのか?
自分が眠ってからどれだけの時間が経っている? 塔のほうで何かあったのではないのか?
リュカやタバサは魔物を操って人を殺している。それで、この城に配下の魔物が来た。
『戻る』と刻まれたテーブル。あれだけの人数がいて、誰一人として戻っていない現状。
でも、もしかしたらということもある。塔のほうで何がどうなったのかを確認しないと。

この城は複雑すぎる。途中、何かで胸を貫かれたような女性の死体を見つけた。嫌な予感を抑えきれない。
ますます気分が悪くなってきた。

塔の最上階、そこにあったのは血で彩られた寝室。
気分が悪いうえに、こんな惨状を見せ付けられて、思いきり吐いてしまった。
吐いたからといって気分が晴れるということもなく。今の状態で再び立ち入りたくはない。
何時間経ったのか知らないが、あの部屋の血は完全に乾いておらず、まだベトついていた。
動くものは何も無く、ただ二つの死体があっただけ。女の人と、金髪の男の人。
自分が会ったのはどんな人だったっけ? ここで死んでいる人ではなかったよね?
多分別人だろうけれど、覚えていないから、そうとは言い切れないのがまた不安だ。

ところで、こんなところにずっとリュカたちはいたのだろうか? 
いや、まさか。子供連れでこんな空間に留まるなんて考えられない。
なら、この部屋の惨状は一体なんなのか?
きっとリュカたちがこれを作り上げたのだ。塔に誘い込んで殺せばそれで完了。
でも、二人しか死んでないし、みんな上手く逃げているのかもしれない。
城に誰もいないのは、きっと外へ逃げたから。逃げ場のない城内より城外のほうがいいに決まっている。
自分を見捨てた? いや、隠し扉の中でまだ眠っている人間がいるなんて思わないだろう。
ジタンたちは囮になって、リュカたちを誘い出してくれたんだ。
もうすぐ夜明けの放送だ、そこで名が呼ばれないことを祈る。

【フィン(風邪、病状少々悪化)
 所持品:陸奥守、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:ジタン/放送を待つ
 第二行動方針:風邪を治す
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:サスーン城東塔、サラの寝室】

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最終更新:2008年02月05日 05:13
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