171話

第171話:裏切り者


ピサロは、険しい目で足元の血溜まりを凝視していた。
外から突然けたたましい音が聞こえ、宿屋から一歩出るとそこには惨劇の跡のようなものがあった。
傍らではソロが泣き崩れ、ビビが小刻みに震えている。
血溜まりと一緒に残されていたのは、大きく切られた帽子とコート…のみ。
血痕は紅の円を形成した後、数メートルにわたってひきずられたような跡を残している。
恐らく、ジュウなる武器を欲しがっていた若者――アーヴァインというそうだが――を殺した犯人は、
その後死体をどこかへ持ち去ったのだろう。
しかし、そんな事をして何の得がある?
見せしめのつもりなら死体も宿屋の前に放置しておけばいいし、持っていた武器を盗むにも死体ごと持って行く必要はない。
おかしい。
あまりにも不可解過ぎる。アーヴァインを殺した者の行動が。
そこまで考え、彼はある仮説が浮かんだ。
…そもそも、奴は本当に死んだのか?
自らが死したように思わせるために、アーヴァイン自身がこんな事をしたのかもしれない。
宿屋の前まで誰かを誘い出して殺し、自分の衣服を適当に傷つけて死体を目の届かぬ所へ運び去る――
しかし、なんのために?なぜそうまでして姿をくらませた?
…我々の不意を突くため…
考えられる理由はそれしかない。自分が死んだと思わせれば、後に不意打ちをしやすい事この上ない。
しかも襲われた側から見れば死んだ人間が突然襲いかかってくるのだから、動揺するに決まっている。
だが理由はそれでいいと言う事にしても、誰が代わりに死んだのかという疑問は残る。
アーヴァインは本当に死んだのか?死んでいないとするなら、誰が死んだのか?
少し、調べてみなければなるまい。

「ソロ、ビビ」
ピサロが口を開くと、二人はハッと気がついたように彼を見上げた。
…やはり浮き足だっている。目には戸惑いの色が強く写っている。
彼は今しがた考えた自分の憶測を伝えると。
「この状況、どうも不自然だ。少し村の様子を調べたい。」と言う。
「うん、わかった。」
ビビも言うと、キョロキョロと周囲の様子をうかがい、ソロも剣を構えて警戒の態勢をとった。
「待て。」
ピサロが二人を交互に見ながら続ける。
「お前たちは宿屋に残って眠っている二人を守れ。」
ソロが疑問の目でピサロを見つめる。ビビも反射的に「え、なんで?」と問う。
「…戦う事の出来ない者を放って行くわけにはいかないだろう。
それに何人も固まって動くと、かえって目立ちやすく、危険だ。」
冷静な眼で答える。二人は釈然としないような表情だったが、やがて宿屋の入り口に戻った。
「ピサロ」
不意にふりむきながら、ソロ。
「もし…もしだよ?お前が死んでも、こっちがそれを知る事はできない。そうなってしまったら…」
「そうだな…」
黒いローブを身にまとった彼は、刀を抜きながら、
「半刻経っても戻らなかったら、私はすでに亡き者と思え。」
答えた。

二人が扉を閉めるとほぼ同時に、ピサロは妙な”影”を眼の端で捉えた。
建物の屋根から屋根へ、足音もたてずに飛び移って行く影――
「メラ」
最低級の呪文を用いて”影”を牽制し、動きを止めさせると、それはどうやら人のようだった。
ピサロも刀を構え、一直線にそれを見据える。一瞬、刀身が月光に反射し、影の顔を照らし出した。
こちらを鋭い眼で睨む、兜を被った屈強な男――
男も持っていた槍の切っ先をピサロに向け、暫くの間二人とも微動だにしない。

月光に輝く槍と刀。

睨み合う二対の眼。

遠くで未だに響く悲鳴と銃声。

両者の緊張の糸が千切れんばかりに張り詰め、殺気が限界まで高まったその時、村の外れの方から奇声が聞こえた。
「いない!いないぞ!小娘、いったい何処へ!何処へ!」
槍を構えた男はその声を聞くと、なにやら混乱したような表情を浮かべたが、チッと舌打ちし、声が聞こえた方へと飛び去ってしまう。
あとには刀を手にしたピサロのみが残された。

アーヴァインが殺されたとするなら、犯人はあの男で間違いないだろう。
そう考えながら、なおも村を探索して回る。
数分後、どこからともなくすすり泣くような声が聞こえた。

声の正体は、二人の少女だった。
ピサロが近づくと、二人ともヒッと小さく悲鳴を上げ、逃げるように後ずさる。
構わず、大股に二人がすがりついていた死体の所まで歩き、その周辺を詳しく調べる。
一見眠っているようにも見える。しかし目に生気はないし、体はすでに冷たい。
そしてなにより、この死体のそばにも引きずったような血跡が認められた。
まるで、どこかから運んできて、そのままここに放置したような――
「小娘」
ピサロが少女の方を振り向くと、二人は恐怖に目を見開き、体を寄せ合って震えた。
彼は握られたままの抜き身の刀を見やり、「安心しろ」と鞘に収める。
「ここで何があった。正直に教えろ。」
刀を収めた鞘を壁に立てかけ、静かに訊いた。
すると片割れが泣きながら
「ギルバート…ウッ、そこに…そこに倒れてる人が、ヒック、突然外に出たの…
そ、そ、そしたら、あの大きな音が…あ、あなたにも、聞こえた、で、しょう?あの音…
それで慌てて、外に、出たら、ギルバートが、彼が…」
と答えて、また泣き出す。
どうもおかしい。どんな危険が潜んでいるかも知れない外に、立った一人で?
まさか…
「そのギルバートという男は、誰かに呼ばれているような素振りを見せなかったか?」
「え?い、言われてみれば、確かにそんな感じも…」
だとしたら話は早い。
アーヴァインはやはり死んでおらず、代わりに殺されたのは――こいつだ。
ピサロはアーヴァインの事を話して適当に説得すると刀を拾い、宿屋へと急いだ。



ピサロさんが帰ってきたのは、あれから20分ぐらい後のことだった。
ソロお兄さんと一緒に心配しながら待ってたら、人を二人抱えて戻ってきた。
ちょっとビックリしたけど、どうしたの?って聞くと、ピサロさんはこう言った。
「アーヴァインは裏切り者だ。誰かと手を組んで私達を皆殺しにする気だぞ」

【ビビ 所持品:スパス
 第一行動方針:ピサロについていく 第二行動方針:仲間達と合流】
【ピサロ(HP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
 第一行動方針:宿屋に立て篭もる 第二行動方針:ロザリーを捜す】
【ソロ(MP消費) 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:同上】
【レナ 所持品:不明
 第一行動方針:宿屋にいる。とにかく泣く。 第二行動方針:バッツとファリスを探す】
【現在位置:レーベの宿屋前】

【カイン 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手
 第一行動方針:デールとバーバラの様子を確認する 第二行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:レーベ村を跳びながらデールのところへ移動中】

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最終更新:2008年02月15日 00:54
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