414話

第414話:夢世界より、悲愴とともに


山の上の平和な村、ライフコッド。
今日は一年に一度の村のお祭り。
今年は私が神の使いの役をやるの。
精霊のかんむりをかぶって、きれいな衣装で着飾って……
そばにはお兄ちゃんがいて、向こうにランドがいて。
お兄ちゃんの仲間のハッサンさんやミレーユさん、バーバラさんにテリーさん、
みんなお祭りを見に来てくれてる。
もうすぐ私の出番、神の使いの行進が始まる―――

夢を、平和な日々の夢を、見ていた。


「ねぇ、アルガス」
「あっおい、ちょっと待て、来るな!」
「?…ああ、アイテムの整理やってたの?随分たくさんあるのね」
こういうことはよくトルネコがやっていたっけ。既に名前を呼ばれた仲間のことを思い出すが、
気を取り直して広げられたアイテムの一つに手をのばした。
「おいおまえ、人のアイテムに勝手に触るんじゃねぇ!」
「別に盗るつもりはないんだしいいじゃない。きれいな宝石のついた指輪ね」
聞こえるように舌打ちをし、アルガスが不機嫌そうにアリーナの手から指輪をひったくる。
「触るなといったろうが。欲しけりゃ相応のものと取引だ」
「何よ、愛想悪いわね。…でもさ、アルガス。
 こんなたくさんのアイテムどうしたの?ザックも、えーと、6つあるし…」
ウネの言葉を思い出したのは言い終わった後だった。


「エリア」
前を行く見知った女性の後ろ姿に声をかける。だが、反応はない。
「ねえ、エリア」
追いかけて肩に手をかけた。だが、触れた手の感触がおかしい。
改めて見直せばエリアはその姿を石に変えていた。
「え?」
確認するかのようにもう伸ばしたもう一方の手の先で、その像は砕け散る。絶句する。
はっとあたりを見回せば荒涼たる砂漠、そこにぽつりぽつりと人が立っていた。
―あれはバッツ?向こうはギルバート?それに…ファリス姉さん?
バッツと、目が合う。その瞬間、人だと思ったものは石像へ姿を変じていた。
そして、バッツの姿をした像もまた何もしていないのに目の前で砕ける。
―何が…?どうして…
踏み出そうとした足は意思に反して動かなかった。
恐る恐る足元を見れば、石に変わり行く自分の身体が―――

夢を、悪い夢を、見ていた。


「拾ったんだよ。言っとくが俺は断じて人は殺しちゃいないからな」
疑惑の気配を感じ取ったアルガスが先手を取る。
しかし、一度浮かんだ疑惑はそう簡単に拭えそうにない。
「上手いこと行く訳ないとかおもってんだろ?だが俺は嘘なんか言ってない。
 まあ無理に信じることなんかないぜ。おまえの信用なんか希う物でも無いしな」
「何よその態度!疑ったのはこっちだけどそういう態度良くないって思わないの?
 そんなのじゃ誰も信じてくれなくなるわよ!
「おー怖い、すげえ剣幕。怖い怖い。
 案外残酷な分身の方がおまえの本性かもな。隠された願望って奴?
 殺しすぎて戦場でしか生きられなくなった奴を俺は何人も見てきたぜ。
 ははっ、そうだ。おまえもその同類じゃねえの?」
「なっ…そんなわけないでしょう!!そんなわけ………」


街角へ消えてゆく女性をひたすらに追いかける。
必死に走って角を曲がると、またその女性は先の角を曲がってゆく。
「待て、待ってくれ!レナ!」
息が切れる。足が痛い。疲労はもう限界に近い。
「待ってくれよ!話を、話を聞いてくれ!!」
必死に走る。しかし、追いつくことはできない。
街は次第に夕闇を深め、夜の帳が辺りを覆ってゆく。
止まったら二度と走れなさそうな足を引きずるように、
ただ、ひたすらに追いつけない影を追いつづける―――

夢を、押し潰されそうな夢を、見ていた。


口喧嘩の相手は急に勢いが無くなり、小さくなってしまった。
どうも随分と気にしているらしい。
小さな勝利に気分を良くしながら黙々とアイテムの整理を続ける。
ふと青い、箱状の機械が目についた。そうだ。
「ま、さっきは言い過ぎた。ところでおまえの凶悪な妹さんは寸分違わずそっくりなのか?」
「あ、ええ。鏡を見てるみたいだったわ」
「そうか。この箱は、光景を写し取って保存できるんだと。おまえの姿を保存していいか」
「…いいわよ。でも変わってるわね。魔法のアイテムなの?」
首尾よく殺人者の情報ゲット。映像つきなら価値も上がるってもんだ。
「そんなこと俺に聞くな。俺はアイテム士じゃねぇんだ、わかるかよ。
 じゃあその辺に立ってくれ」
説明書を見ながら被写体を確認し、ボタンを押す。
小さな音。広がる光――


―ここは…?
「ハッさん」
―なんだぁ、どこかから声…いまのは確かに。
「ミネアさんか?じゃあオレはやっぱり…ぐあっ」
良く見れば体中に傷だらけ。そして腹には致命傷だろう、ひときわ大きな傷が。
「ミネアさん、すまねぇ。約束守れなかったぜ…」
「うふふ、ハッさん」
暖かな光がハッサンの身体を取り巻く。これは、回復の光。
傷がふさがってゆく。痛みが振り払われていく。
「オレに、もう一度チャンスをくれるのか。ありがとう、ミネアさん」
「いいえ、どういたしまして。…頑張ってくださいね、ハッさん」
「おう!!…む、人の声?向こうが出口か。じゃあ、見ててくれ、ミネアさん。
 うおおぉぉ!いくぜぇっ!」

夢を、ちょっと都合のいい夢を、見ていた。


風に頬をなでられ、目を醒ます。久しぶりに開いた目に日光が眩しい。
どれくらい眠っていたのだろう。大体ここはどこなのか。
ゆっくりと記憶を手繰る。
旅の扉の前で大きなパーティに会って、裏切りに遭って、叩きつけられて…
それからどうなったのだろうか。記憶は途切れている。時間はそろそろ夕方か。
誰が自分を助けてくれたのか。
引き寄せられるように声のする方へ向かう。聞き覚えのある声、アリーナ殿、か?
瞬間、異変。岩の向こうから閃光が広がる。
反射的にレイピアを手に取り飛び出した。
アリーナと、何かを手にした見知らぬ男が同時に視界に入る。
「おぬし!拙者の仲間に何を!」


近づく気配を感じ、即座に草むらへと身を隠す。
現れたのは数人。モヒカンの大男。自分に向けて説教したあの男だ。
目に包帯を巻いた男。目を抉ってやったのに厚かましく生き延びている奴。
カッコつけた黒服の男。わけわかんない格好した赤い奴。大剣を構えた金髪の女。
口数の多い生意気な男。片腕もない足手まといの癖に反抗した剣士。
もう考えることもなく、身体が動いていた。
不意打ちで一気に背後へ回り込み、モヒカンの胴を貫手で鎧ごと貫き通す。
声を上げる間もなく崩れ落ちるモヒカンから手を抜き去り、すばやく反転。
脚を一閃させて盲目の首を飛ばす。踵を振り下ろし黒服の頭を潰す。
正面から赤い奴の胸を貫く。巻き込まれて倒れた女の顔を踏み潰す。
触れざまに口数の多い男の首を捩り折る。剣士の片腕をもぎ、頭から地面へたたきつける。
累々たる死体。だが、私の背後でゆらりとそれらが起き上がる。
―上等じゃない、そんなに何度も死にたいなんてね?

夢を、血腥い修羅道の夢を、見ていた。


ヤバイ、と思った。
デジカメが放った予想外の閃光に竦み、はっとした時には気絶していた男が出現。
何を勘違いしたのか、手にしたレイピアの鋭い先端が一切無駄なく自分へ迫る。
素早い動きを感覚だけがスローでそれを捉える。かわせない。対応すらできない。
死ぬかと思った一瞬はさらに信じられない光景を網膜に焼き付け、穏やかに過ぎ去っていった。
「ちょっとライアン、落ち着いて」
閃光の一撃を繰り出す戦士の腕を横からアリーナが掴み、アルガスは危機を逃れた。
「アリーナ殿!?しかし、こやつは…」
なんだ、こいつ等。
見るのがやっとの攻撃を繰り出す戦士。それを反応して止めた女。



少女の哀しいくらい平和な夢を。
乾き行く世界の悪い夢を。
けして追いつけない不条理に挑みつづける男の夢を。
目が覚めたのだろう、消えていったちょっとご都合な夢を。
新たに現れた、どこまでも残虐で血腥い夢を。

夢を、観ていた。

「うん、大丈夫、慣れ親しんだ夢の世界だね。しかし……」
荒んでいる。夢の荒みは心の荒み、傷跡。
一体どれほどの心がこの世界で苦しんでいるのだろうか。
何とかしなければ。
決意を新たにしてウネは現実へと夢の世界から抜け出る。


「アルガスは性格と口は悪いけど敵じゃないわ。別に攻撃されてたんじゃないの。勘違いしないで」
どういうレベルなんだ?
「しかし、ぬう…。そうですな、アリーナ殿を信じましょう。
 ならば拙者は非礼を詫びねばなりますまい」
いることはわかっていたがこんな連中が殺しあっているのか?
「アルガス殿。拙者の勘違いでありました。どうか、どうかこの非礼、お許しくだされ」
ちっ、勝手な事を言いやがる。
だが、こいつらは、まだ話のわかる連中、そして単純で扱いやすい連中だ。
そういう奴等は利用できる。下手に対立するのは得策じゃない。


「ちっ、わかった、もういいよ。但しこの貸しは絶対に返してもらうぜ」
「分かり申した。拙者にできることがあれば」
「ああ、忘れるなよ。それと…アリーナ、ほらよ」
「わぁっ……と、え、さっきの指輪?」
「一応命を助けられたからな。借りはさっさと返しておきたい。やるよ」
どうせ詳細の分からない道具だしな。
「ありがと、アルガス」
礼を言いながらすぐに利き腕でない方の指へとそれをはめるアリーナ。
「どうだ?何か変わったか」
「?んー…特に何も無いけど?何かあるの?」
―とちったか?だがただの指輪なら別に惜しくないか。
「別に。とにかくこれで貸し借りなしだ。わかったな」
「おや、ライアンも起きてたのかい?全員集合だね」
とりあえずの収拾がついたところに、三人に呼びかける声。
「ウネさん!起きたの?どうだった?」


「そう、やっぱりあいつ…」
自分にそっくりな姿が殺戮を行っている夢を見たという話にアリーナの顔が曇る。
「とにかく夢の世界自体は問題なく存在する。
 人の精神までは縛れないのだから当然ちゃあ当然だね。となれば…
 あたしは時間を決めて出来る限りその時間眠ることにするよ。
 その時間に合わせてあたしを呼びながら眠れば夢の中であたしに連絡できるよ。
 無理しなくていいけどね。さて…アリーナ」
「……あ、ごめんなさい。なに、ウネさん」
「付き合ってくれてありがとうよ。今度はあたしが付き合う番さ。分身を止めるんだろう?」
「でも、ウネさんだって探してる人がいるんでしょ」
「なに、探すってのは変わりないんだから構わないよ。ライアンと…アルガス、
 あんたらはどうする?一緒に来るかい?」
「ウネ殿には助けて頂きましたし、アルガス殿には借りがござる。アルガス殿は…」
「そうだな…」


アルガスは考える。
これは僻地から移動する好機だろう。
今なら戦士と武闘家と老獪なばあさんが護衛についてくるわけだ。
それに、ライアンには貸しを返してもらわないとな。
「そうだ、うん。俺も一緒に行ってやろう。但し!勘違いするなよ。
 俺はお前等の仲間になったつもりはない。やばくなったら一人で逃げさせてもらうぜ」
「まあいいじゃろう。それじゃ全員で移動だね。
 ならまずは…カナーンの町へ向かうかねぇ。
 …ま、今からじゃ到着は日が暮れた後になっちまうがね」


【アルガス
 所持品:カヌー(縮小中)、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
 妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、
 マシンガン用予備弾倉×5、猫耳&しっぽアクセ、タークスのスーツ(女性用)
 デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、変化の杖
 第一行動方針:アリーナ達の移動に便乗する
 最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る
【ウネ(HP 3/4程度、MP消費) 所持品:癒しの杖(破損)
 第一行動方針:アリーナについていく
 基本行動方針:ドーガとザンデを探し、ゲームを脱出する
【ライアン 所持品:レイピア 命のリング
 第一行動方針:アリーナ達についていく
 第二行動方針:アルガスに借りを返す】
【アリーナ 所持品:プロテクトリング、インパスの指輪
 第一行動方針:アリーナ2を探して下山、カナーンへ
 第二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在位置:ジェノラ山山頂】

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最終更新:2008年02月15日 01:41
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