473話

第473話:人を殺したりするのはいけないことです


焼けるようなのどの奥の痛みに苦しみながら、何とかぎりぎりでそれを胃の腑へと送り返すことに成功する。
この程度の光景など戦場では当たり前のことじゃねえか? 畜生!
割と凄惨なものが残されているとはいえ新兵のような反応を見せる自分に心中で悪態もとい活を入れる。

命のやり取りの事実を雄弁に語る血の香りが鼻を刺激する。
どうしてそうなったのか考えるまでもない回復の光とそれに包まれた女が見える。
傍目にももう生きていないことが明白な身体が見える。
ライアンがそれに近づいたため光が当たり、形の歪んだ頭の無残な姿が目に入った。


分かった。知りたくもない事であったが、いま分かった。
オレはあの時、灯台で死んでいたらしい。
さんざアマちゃんを馬鹿にしていたが歩く死人予備軍だったのは自分も同じだったってワケだ。


湧き上がる気持ちに任せてアリーナを罵り、切りかかる事をしなかったのは
嫌悪感と強がり、そして弱気の異なる要素が一様にブレーキの役割を果たしたからに違いはない。
だがその負の加速度に引っ張られて今度もたらされるものは劣等感と自己嫌悪。


分かった。分かっていたさ。
自分の実力なんかたかが知れてるって。
だが、この程度でビクつくほどに心の奥まで病んでるなんざ考え…いや、目をそらしていただけだ。
生存のために必要なものさえ傷ついた現実、正直自分に腹も立つし気に入らない。
しかし、だからといってオレには生き残る価値が無いなんてことがあるか?


ライアンとウネの婆さん、眼に包帯を巻いた見たことのない奴の三人が何事か話しているのが見える。
交わされているであろう反吐が出るような会話内容を想像し、けれどアルガスに出来る事など地面を蹴りつけることぐらい。
口中に溜まった唾を吐き捨てる。


分かっている。よーく分かっているさ。
この世にゃ正義とか正当防衛とか宗教とか殺しを正当化しちまうクソがいくらでもある。
そいつが目の前で現在進行形、分かっているから苛立たしい。
人殺しは平気な顔で仕方なくだとか仲間のためだとかいうのだろう。
でなくとも言い訳すれば慰めの言葉をもらい、悲劇のヒロインぶれば同情をもらって回るのだろう。
ああ、信頼される奴はいいねえ。言われなくても分かってるさ、英雄ってのはそんなもんだ。
貴族たるオレが懸命にやって手に入れられないものを簡単に手にしてやがる。
ラムザもそうだったな。自分の正しさを信じ、俺が抱える正しさを一顧だにしやがらねえ。
だから、オレは嫌い憎むわけだ。ラムザも、こいつもな。


アリーナの回復に当たっているウネ、その紹介を受けたクリムト、二人から受けた説明、得た情報はライアンを少なからず動揺させる。
ボロボロの白いコートの男=ロザリーたちが待っているサイファーという男、ということ。
「そいつは、ちょいと面倒なことになったねえ」
苦々しく顔をゆがめて二人を見回す。
「この子が起きりゃもう少し詳しく分かるかもしれないが、今はわかってる事を正直に話すしかないだろう」
「私も説明に赴くべきであるとは思うのだが、今は手を離すことも出来ぬ」
「いえ、ウネ殿、クリムト殿、説明のほうは拙者に任せてくだされ。
 それよりもどうかアリーナ殿のことを頼みますぞ」
「……ああ、任せとき!」


説明の任を負い、再び治療に向かう二人から離れたライアンは
さっきはそこに立っていたはずなのに姿が見えないアルガスに驚き、すぐに見つけられたその姿に安堵する。
「アルガス殿、アルガス殿」
当然のように声をかけたライアンに反応し、じっと見ていたものからこちらへと視線を移すアルガス。
「なんだよ、ライアン。うるせーな」
「おや、名簿…何か取り込み中でしたか、これは失礼」
「ふん……それで。何がどうなったっていうんだ? それにあの流しの回復屋は誰なんだ」
「回復屋? 包帯の方ですか、あれはクリムト殿という賢者殿だそうですぞ。
 ああ、あの死亡した方はテリー殿と言ってクリムト殿と同行していたそうなのですが……」
テリー、な。銀髪が気になって名簿を見直したからわかっているさ。
「もともと精神が不安定な状態があったそうですが、突然暴れ出して。
 核心の部分はクリムト殿も気絶して知らぬそうで、詳細はアリーナ殿が目覚めないことには。
 加えてロザリー殿とイザ殿が待つといっておられたサイファー殿がどうやら間に割って入ったらしく」
チンピラがねぇ、と声に出さずに言う。
「緊急避難としてクリムト殿がバシルーラで吹き飛ばしてしまったと……
 それでですな、もう一度ロザリー殿とイザ殿のところへ説明に行くのですが、アルガス殿も来ませぬか」
「あいつらのところにか」
色を被せられたテリーの文字と、写真に一瞬だけ視線を戻し、ぱたりと名簿を閉じる。
小さく鼻で笑った次の仕草にはライアンは無反応、
気づかれなかったようだ。どう反応したものかわからなかっただけかもしれないが。
「まあいい。それじゃさっさと行くとするか」


殺しに足が竦んじまおうとオレはオレ、自分の命こそが最優先に守るべき価値だ。
中には自己犠牲バカもいるだろうが、ほとんどの人間いや生命にとってこいつは正しく縋るべき価値だろう?
それはいいさ。いつ考えても究極的にはこれ以外の答えは見つからないだろうから。
大事なことは汚れた人殺しなんぞに英雄面されたくないってことだな。
イザのアマちゃんはアリアハンでの情報交換のときテリーを仲間だと言っていた。
ぶちまけてやったらアイツはどう思うだろうか?
「アリーナがお前の仲間のテリーを殺しちまいました」ってな。

【アリーナ (左肩・右腕・右足怪我、腹部重傷、昏睡) 
 所持品:プロテクトリング、インパスの指輪
 第一行動方針:不明
 基本二行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【ウネ(HP 3/4程度、MP消費) 所持品:癒しの杖(破損)
 第一行動方針:アリーナの回復
 基本行動方針:ザンデを探し、ゲームを脱出する
【クリムト(失明、HP2/3、MP消費) 所持品:なし
 第一行動方針:アリーナの回復
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーンの町・中央部】

【アルガス
 所持品:カヌー(縮小中)、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク
 妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、
 マシンガン用予備弾倉×5、タークスのスーツ(女性用)、エクスカリパー
 第一行動方針:ライアンについていく
 第二行動方針:人殺しのアリーナさんの事について讒言する
 最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る
【ライアン 所持品:兵士の剣、折れたレイピア、命のリング
 第一行動方針:イザとロザリーにサイファーのことについて説明する
 第二行動方針:アルガスに借りを返す】
【現在位置:カナーンの町 移動中】

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最終更新:2008年02月15日 01:43
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