536話

第536話:山中での戦い


カインとウネ。双方動かない。相手が動くのを待っているのだ。
「………仕掛けてこないのか?」
「先攻を譲ってあげてるんじゃないか。年寄りの厚意は素直に受けるもんだよ」

本来、魔術師相手ならば魔法を唱えさせる間を作らず連続攻撃で畳み掛けるのが定石。だが、それを阻むのがこの地形。
階段状に切り立った崖に、ところどころ突き出したような足場。移動に気を取られ、相手の魔法の餌食になってしまう可能性がある。
相手は見たこともない風の魔法を使ってきた。
すでにウネは魔力を高めている。無策に飛び込んで、いきなり魔法に巻き込まれるなどは避けたい。
ちらと下界を見る。カナーンに見える炎の勢いは衰えない。
(この分なら、向こうが先に動くだろう。お手並み拝見といこうか)

どういう理由でゲームに乗ったのかは分からないが、カインは仲間のうちに入り込み、頃合を見計らって裏切る危険な人物。
説得は通じない、いや、説得を理由に仲間に入り込み、裏切りを実行する可能性がある。だから説得など考えず、ここで倒すべき。
普通の戦士なら、遠くから魔法を連発して倒してしまえばいい。
だが、相手は竜騎士。前後左右に加え、上下の動きもある。どう動くかを見定めるのは容易ではない。
それに相手の装備。出来のよいミスリル武具は対魔防御があるという。
エアロ程度では話にならないが、かといって最上級の魔法では詠唱中に近付かれてあとは接近戦だ。
派手すぎるので、距離によっては相手を見失ってしまう可能性が高い。
「面倒な相手に当たったもんだ。どうしたもんか」
ちらと下界を見る。カナーンに見える炎の勢いは衰えない。
(まあ町のほうも後始末が大変だろうし、なら先に動かせてもらおうかね)
速攻で勝負を付けられるように、そのための魔法を紡ぐ。

「まずはそちらのお手並み拝見といこう」
「先手必勝とはよく聞く言葉だけどねえ、なら先に行かせてもらうよ」

ウネがなにやら呟いた後、こちらに指を向けてくると、自分の周りに青く薄い光が集まり、透明な直方体が為される。
行動封じの魔法か。もしくはライブラ。どちらにしろ、くらえばロクなことがない。
ミスリルの盾と篭手で保護、そのままガラスのような直方体を打ち破って外へ出る。
魔法を使った直後だ、大した攻撃は来ないと思っていたが、それは間違い。ブリザド系統とはまた違う、吹雪の魔法での追撃。
「詠唱が速いな…。何か特殊なアクセサリでも着けているのか?」
盾で吹雪を防ぎ、近くの足場へ華麗に着地。もう一度地を蹴り直し、今度は一気に本体を狙うが、先ほどまでいたはずの老人の姿がない。
ここは不規則に岩の飛び出た崖の中腹。ほぼ空中と言い替えてよい。
前後左右に加え、上下からも攻撃を受ける可能性がある。敵は…どこだ?

相手は動かない、今上位魔法を使ってもおそらくかわされるだけ。ならばまずは自分を強化すればいい。
そして相手の戦闘力が分かれば対策も打ちやすい。
カインに指を向け、ライブラの魔法を使うが、これはかわされてしまった。
カインがジャンプし、こちらへ向かってくるが、想定済み。
吹雪……魔法を覚える前から使えた、種族特有の技で迎撃する。
激しい吹雪が辺りを白く染める。こちらからは姿が確認できないが、それは向こうも同じ。
ならば今のうちに有利な場所を陣取っておくのがよいだろう。
テレポで頭上の足場へと移動。相手は自分が先ほどまでいた場所で、キョロキョロしている。
(さっさと終わらせることにしようか)

「くそ、上か!」
「ようやく気付いたかい。ちょっと実力を買いかぶりすぎたのかねえ」

相手の行動は思った以上に速い。が、なんとか対応は出来る。
目にすら見えるほど圧縮された濃い空気が向かってくる。エアロガとかいう魔法だろう。
バックステップで避けるも、その空気の塊が自分のいた足場を砕いた。
衝撃で炸裂する石片が、凄まじい勢いで飛び散り、体に傷を作っていく。
たまらずにその場から跳び出し、ちょうど真上にいたウネを攻撃するが、ウネはまたも跡形もなくなってしまう。
「テレポの魔法か!」
相手は自分より斜め上空の足場に出現、常に自分より高いところに陣取ろうとしているようだ。
魔力が高まり、荒れ狂う白波が振動と共に押し寄せてくる。
「くそ、同じ魔法を何度も……」
足場は先ほどより丈夫。今度はミスリルシールドで受けるが、なにやら手ごたえが違う。
押されるような感覚ではなく、鋭い突きを盾で受けるような感覚。
頬を何かが高速で掠め、血がたらりと流れた。
「風の力で何か飛ばしているのか? チッ、厄介な真似を……」
弾かれて落ちた投擲物を見る。上手く表現できないが、金属の塊という印象を受けた。

エアロガの魔法。詠唱速度、消費魔力、威力共にこれが一番使いやすい。
本来は鳥よけに開発されたエアロを強化したもので、空中にいる敵にも強い。
予想通りの攻撃をしてくるカインを、テレポの魔法で避ける。
デジョンならばどこにでも出られるのだが、テレポは縦方向、移動できるのは45度~135度の位置が限界。相手は斜め前下方。
「これでも使ってみようかね」
袋から鉛玉を取り出す。カナーンでカインが回収しなかった道具だ。圧縮した空気を掌に作り出し、そこに乗せて解放。
上手く操作は出来ない上に、さすがにミスリルを貫通することはないが、殺傷力は十分あることは確認した。

「いい加減積極的に攻めてきたらどうなんだい? 臆病が過ぎるんじゃないか?」
「臆病ではなく、慎重だと言ってもらいたいな」

実際、特殊な攻撃ばかりで今は守勢に回らざるを得ない。
飛ばされてくる金属塊は普通に投げられたものよりはずっと速く、攻撃範囲もその量も桁違い。
盾で受け続けるのは厳しい。弾かれたり、割れたりしかねない。
攻撃の合間を見つけ、ジャンプで脱出、別の足場に着地。だが着地の瞬間、転倒してしまう。
まずいと思う間もなく、ウネが上から金属塊を放つ。
「!!!」
塊が左肩を抉った。さらに風の追撃。痛みをこらえ、咄嗟に転がり、下の段に落下。
空中で態勢を整え、着地しようとするが、そこにはテレポで移動していたウネの姿。
明らかに人のものではない、長く鋭い爪で串刺しにしようとしてきた。
槍の穂先を下に向ける。爪VS槍では、リーチの関係上槍のほうが先に当たる。
ウネは攻撃を引っ込め、回避行動。無事、着地できたが、その瞬間に殴りつけられた。
盾で受けるも、不思議な衝撃。数十メートル吹っ飛ばされてしまう。
だが、プロテスの魔法のおかげで衝撃は大幅に緩和され、なんとか持ちこたえられた。
(ただの魔術師なら、接近戦ではこちらが有利だと思っていたが……正体はモンスターか。直接攻撃も危険だな…)

カインは発射間隔の隙を縫い、ジャンプして場所移動。だが、そこは先ほどの吹雪で凍ってしまった足場。
いくら竜騎士でも、凍った足場に着地すればバランスが取れなくなる。今ぞとばかりに弾撃を叩き込む。
しかし、プロテクトリングに守られているためだろう、思ったほどの効果はないようだ。
カインは下へと転がっていく。ならば、落下場所で待ち構えていればいい。
テレポで下方に移動、落ちてきたカインを串刺しにしようとするが、相手は逆に槍で突き刺そうとしてきた。
これでは相手を串刺しにするより、こちらの腕のほうが先に破壊される。仕方なく回避。
相手が態勢を立て直す前にエアロを混ぜて殴りつけ、遠くまで飛ばしてしまう。
(なかなか決めさせてくれないねえ。さてさて、困ったもんだ)
カインは実力を見せていないというより、回避に全力を注いでいるよう。さっさと終わらせてくれそうにはない。

「さすがに逃げに関しては一流だね?」
「フッ、まともに正面から戦うのはバカのやることなのだ。
 それに、ここで無理に決着をつける必要はないからな」

距離はある。今のうちに戦力を分析。
敵は主に白魔法と風系魔法の使い手らしい。直接攻撃力もかなりのものと見た。
だが、本当に厄介なのは速さ。行動そのものが段違いに速い。
後で動くのにこちらの行動に間に合い、高速で詠唱し、こちらの攻撃も当たらない。
(いくらなんでも速過ぎる、反則だろう。……いや、相手は白魔道士。もしや?)
ウネを凝視する。周りの景色と比べて、そこだけ違和感がある。
(フッ、そういうことか)

相手の守備の堅さは予想以上。思った以上に時間を食う。再び膠着状態。呼吸を整える。
何故ダメージがあまり与えられないか?
ミスリル装備が魔法攻撃の威力を大幅に削ぎ、プロテクトリングが物理攻撃の威力を大幅に削ぐ。
一度は追い詰めたと思ったものの、まだまだ相手には余裕があった。
一向に攻撃に回ってこないのは、実力を隠しているか、何か企んでいるか。
(ここで無理に決着をつける必要はない、ねえ……)
下界に目をやる。カナーンの焔は今なおこうこうと燃え盛っていた。

「で、どうだい、あたしを正面以外から倒す方法とやらは見つかったかい?」
「さあな。色々考えてはみたが、無傷で勝つのは難しいだろうな。だが、要は負けなければいいのだ」
「おやおや、逃げるのかい?」
「逃がしたくないと思うなら、付いてくるのだな」

ジャンプしながら移動、それをウネが追ってくる。後ろ目にその様子を確認。
逃げるとはもちろん口実。ウネの状態を確認するのが目的。
あるまじき速さ、それなのにジャンプ幅や歩幅が移動速度に釣り合っていない。
まるでそこだけ切り取って早回しにしているかのような不自然さ。
(やはり、ヘイストか)
ヘイストの魔法。時の流れから己を切り離すことで倍速の動きを可能とする。
対象者本人からしてみれば周りの動きが倍速になるわけではなく、半分になるだけ。
時を操る魔法がどれくらい続くかということに関しては熟知している。
ジャンプのタイミングを見誤って一人だけ回復が間に合わないということは何度もあったからだ。
ジャンプの着地と同時に仕込んでいた機械を作動。
そして脚力を生かし強引に反転、ウネに向かって攻撃を仕掛ける。

「まったく、何を考えているのかねえ…。まさかこのまま本当に逃げるつもりじゃないだろうね?」
カインは突然逃亡、罠が仕掛けているのかと思ったが、仕掛けられるような間はなかった。
本当に逃亡し、作戦を練って不意打ってくるつもりなのかもしれない。それならば逃がすのはなお得策ではない。
一応プロテスをかけ、意図を掴みかねながらも追っていたところで、カインが不意に反転、攻撃を仕掛けてくる。
その速さはヘイストの効力を持ってしても捉えきれるかどうかといったほど。
先ほどまで防御一方だった相手のあまりに突飛で大胆な行動、そしてその行動速度に身体が付いていかず、初めて後手を踏む。
突き出してきた武器をかろうじてかろうじて回避。その柄を掴んで動きを封じる。
「!?」
エアロを詠唱しようとしたところで、武器を掴んでいた手から紫の血が垂れた。
槍での攻撃が来たのだと思っていたが、掴んだのは槍の柄ではなく、剣の刃。それも聖剣の一つである光の剣。
痛みに思わず手を離す。

「少し反応が遅いようだな、老人」
「……ああ、あんたの本職がペテン師だってことを忘れてたよ」
「フッ、その減らず口もいつまで叩けるかな?」

加速装置。スイッチを入れることで、何倍ものスピードで走ることが出来るようになる。当然、その突進力も数倍。
だが、地上での戦いの際、この装置を使って攻撃を仕掛けたのにもかかわらず、ウネに槍の柄を掴まれ、動きを封じられた。
ならばそれを逆手に取ればよい。剣は専門ではないが、並の戦士程度には使える。
ひそかに持ち替えておき、ウネに突進、突き出すだけ。
地上での戦いと同じ動き。同じようにウネが武器を掴む。痛みで怯む。
ウネに掴まれた時点で剣に用はない。槍に持ち替え、そのまま中距離戦に持ち込む。
ここからはもう、こちらのペース。

カインの攻撃は途切れることがない。壊れかけた癒しの杖で受けるが、ヘイストの魔法が切れてしまっている。
攻撃の体感速度が先ほどよりもずっと速い。もう一度ヘイストを使おうにも、これはレベル6のかなり高度な魔法。
とても戦いながら使えるようなものではない。大体、そのレベルの魔法が使えるのならそれより先にテレポで脱出している。
対策を考えようにも、相手は攻撃の手を休めてくれない、肩を怪我している気配も感じさせない。
いつのまにか追い詰められている。もはや後ろは崖っぷち。槍が空を切った一瞬の隙に相手の懐に飛び入る。相手が盾を構える。
ここで詠唱。次の相手の攻撃が来る前になんとか無力化。
カインの口元が歪んだ。カチリという音。体の真正面から来る衝撃。響く金属音。吹っ飛ばされる感覚。地面がない。
だが、詠唱は完成した。吹き飛ばされながらもカインの姿を正面に捉え、呪文を放つ。
「トード!!」



慎重に下界の様子を伺う。普通の人間ならこの高さから落ちれば助からないだろう。普通の人間ならば。
自分が普通の状態ならば、仮に生きていたとしてもすぐにとどめを刺しに向かえる。普通の状態ならば。
肌は両生類のぬるぬるしたそれへと変わっている。
白魔法の使い手がまさかトードを使うとは思いもせず、まともに受けてしまった。
カエルにされたことなど、旅の途中で何度もあった。今更狼狽することもない。
が、問題なのが下界にいくつかの人影が見えること。月明かりだけで遠目にも分かる銀髪に、屈強な男、そしてケフカ。
銀髪はおそらくレーベの村で出会った、危険な男:ピサロ。
また、今の状態でアルガスに見つかればどうなるだろう?
アルガスの言っていた四人は瀕死または死亡、となると用済みとばかりに始末されるかもしれない。
(仕方がない、一旦離れるか。追ってくることもあるまい。今日のところは休むとしよう)

「……………」
カインに盾で突き飛ばされ、ジェノラ山から下まで落下してしまった。
生きながらえているのは、さほど高い位置にいなかったのもあるのかもしれないが、
やはり自身の魔物としての生命力と、プロテスが切れていなかったおかげだろう。
だが、悪いことに、強大な気を持つ人物……カナーンで確認していた複数の人物がすぐ近くにまで来ているようだ。
体をほとんど動かせないため、誰なのか確認できない。
カナーンは心配だが、動けないのでは話にならない。
残り魔力は少ないが、回復にまわすしかない。

【ウネ(HP 1/10程度、MP残り僅か) 所持品:癒しの杖 マシンガン用予備弾倉×3
 第一行動方針:自分の回復
 基本行動方針:ザンデを探し、ゲームを脱出する
【カイン(HP1/4程度、左肩負傷、疲労、カエル)
 所持品:ランスオブカイン、光の剣、ミスリルの篭手 プロテクトリング 加速装置 レオの顔写真の紙切れ ミスリルシールド
     ドラゴンオーブ
 第一行動方針:警戒しつつ、休む
 最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:ジェノラ山の北部中腹】

カエルは旅の扉を越えた時点で確実に治ります。時間経過でも治るかも。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月15日 01:45
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。