543話

第543話:舞台外の世界


真っ黒な、だが闇とも光とも形容しがたい空間。そのところどころにきらめく星々。
まるで水晶のように神秘的で、青く透き通った地面。
太陽も月もないのに周りは明るく、寒さも感じられない。
「ここは一体…。拙者は死んだのでござるか……?」

とりあえず立ち上がろうとして、激痛に顔が歪む。右肘から先はなく、代わりに血が滴り落ちている。
衣服の一部を噛み切り、急いで止血処置を行うが、血を流しすぎたらしい。意識は薄れ、視界も狭まっている。
死んではいないようだが、死ぬのも近いようだ。
だが、今一体何がどうなっているのか。確かめずにはいられなかった。

上を見上げれば幾多もの星が、周りを見ても、下を見ても同じように星々がきらめく。
あちこちに浮かんでいる星は、よく見れば自分が乗っている足場と同じ、水晶のかたまり。
だがやはり、これらは星と呼ぶべきなのだろう。
まるで夢のような空間、いや、それ以前にあの殺し合いもまた悪夢のようなものだったが、まだここに比べれば現実味があった。
この場所は一体なんだと言うのだろう? この世の始まりと終わりを同時に具現化したような空間。
世界の創成期、もしくは終末後に飛んできてしまったのではないかと思えた。
だが、これは夢や幻などではない。現実だ。
腕の痛みもそうだし、何よりいつまで経っても慣れないあの感触。首には尚もあの金属の輪っかが嵌っているのである。

「案外、死後の世界なのかもしれぬな…」
死んだわけではないのだろうが、ここでまだ生きているという事実こそが間違っているように思えてしまう。
生き物の気配が何一つしない。一人ぼっちだ。
星の縁から、周りの星を見渡す。やはり、何の姿も見えない。
自分はもう一生ここで過ごすのだろうか?
といっても、傷の手当も食料も当てがない以上、このままではすぐに死んでしまうだろうけれど。
最初こそ、興味深かったものの、考えれば考えるだけ、今の状況は絶望的なのではないかと思ってしまう。
星の縁から下を見つめる。まるで底なしだ。
飛び降りても底に付くまでに何百年、何千年とかかってしまいそうな気がした。

下のほうに、ぼんやりとではあるが、明らかにこの空間とは不釣合いな城が浮かんでいるのが見える。
このような場所に誰か住んでいるのか?
階段や旅の扉はもちろんない。ここから飛び降りても、着地した瞬間に潰れてしまうだけだろう。
魔法が使えれば、まだなんとかなったかもしれないとまで考えて、疑問に思う。
何故こんなところに城があるのか。いや、こんな場所に城を構えられるのはそれこそ魔女なのではないのか?
……あの城こそ魔女の本拠地ではないか?
そもそも、何故首輪が爆発しないのか? まだ、殺し合いの会場内にいるのではないか?
そう考えた瞬間、この空間が、とても禍々しいものに思えた。

空気が振動する。それに呼応し、大地が鳴動する。
「放送…?」
五体満足ならば耐えられるこの地鳴りも、今の状態ではやりすごすのがやっと。
地面に叩きつけられ、倒れ伏す。大地震は容赦なく体力を奪っていく。
だが妙なことに、魔女の姿が現れる気配がない。魔女の声も一向に聞こえない。この揺れが収まる気配も全く無い。
怪我をした腕を庇うようにして凌いでいると、目の前を小動物が通り過ぎていった。
この空間に、先ほどまで生物は存在しなかったはずなのに。

周りの地面をよく見ると、透き通っていたはずの地面が濁ってきている。
仰向けになり、空を見上げる。黒が割れ、暗い空が現れてきている。
「何が起こるのでござる…?」
遠くを見れば、粉塵が集まり、渦巻き、くっついている。生き物のようにうねり、隆起沈降して地形を形造る。
星々の空間はいつのまにか、いくらか見慣れた世界へと変わっていた。立ち上がる。歩く。だが、一歩、二歩、三歩。
それだけ歩いたところで躓き、倒れてしまう。血を失いすぎたのだ。体が徐々に冷えていくのが分かる。
なんとかして、起きたことを誰かに伝えたいと思っているのに、体はもう言う事を聞かない。
朦朧とする意識の中、程なくして一人の老婆が現れる。
今度は夢なのだと確信する。見た事、起こった事を余さずその老婆に伝えることが出来た。
すべてを伝え、世界はまた黒に塗りつぶされた。
先ほどと大きく違っていることは、今度は寒いということであろうか。

【ライアン 死亡】
【残り 41名】

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最終更新:2008年02月15日 01:46
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